1 差分商と打切り誤差
定義 1.1.S⊂Rを部分集合、g:S→Rを関数とし、x∈R、h>0とする。
- x,x+h∈Sのとき、Dh+g(x):=hg(x+h)−g(x)をgのxにおける刻みhの 前進差分 (forward difference quotient) という。
- x−h,x+h∈Sのとき、Dh0g(x):=2hg(x+h)−g(x−h)をgのxにおける刻みhの 中心差分 (central difference quotient) という。
- x−h,x,x+h∈Sのとき、Dh2g(x):=h2g(x+h)−2g(x)+g(x−h)をgのxにおける刻みhの 二階中心差分 (second central difference quotient) という。
- gがxで微分可能であるときDh+g(x)−g′(x)とDh0g(x)−g′(x)を、gがxで二回微分可能であるときDh2g(x)−g′′(x)を、それぞれの差分商の 打切り誤差 (truncation error) という。
定理 1.2.x∈R、h>0とし、閉区間上のCk級は端点で片側微分をとって定める。
- f:[x,x+h]→RがC2級ならば、ξ∈[x,x+h]が存在してDh+f(x)−f′(x)=2hf′′(ξ)が成り立つ。
- f:[x−h,x+h]→RがC3級ならば、ξ∈[x−h,x+h]が存在してDh0f(x)−f′(x)=6h2f′′′(ξ)が成り立つ。
- f:[x−h,x+h]→RがC4級ならば、ξ∈[x−h,x+h]が存在してDh2f(x)−f′′(x)=12h2f(4)(ξ)が成り立つ。
証明.(1)を示す。§D1.16 定理 2.1をa=x、点x+h、n=2として適用すると、ξ∈[x,x+h]が存在してf(x+h)=f(x)+f′(x)h+2h2f′′(ξ)が成り立つ。両辺からf(x)+f′(x)hを引いてhで割れば主張の等式を得る。
(2)を示す。§D1.16 定理 2.1をa=x、n=3として点x+hと点x−hに適用すると、ξ1∈[x,x+h]とξ2∈[x−h,x]が存在して
f(x±h)=f(x)±f′(x)h+2h2f′′(x)±6h3f′′′(ξ1,2)(複号同順、+にξ1、−にξ2が対応する)が成り立つ。二式の差を2hで割ると
Dh0f(x)−f′(x)=6h2⋅2f′′′(ξ1)+f′′′(ξ2)である。ξ1=ξ2ならばξ:=ξ1とする。ξ2<ξ1ならば、f′′′は[ξ2,ξ1]で連続であり、f′′′(ξ1)とf′′′(ξ2)の平均は二つの値の間にあるので、§D1.12 系 1.2によりf′′′(ξ)がその平均に等しいξ∈[ξ2,ξ1]が存在する。
(3)を示す。§D1.16 定理 2.1をa=x、n=4として点x±hに適用すると、ξ1∈[x,x+h]とξ2∈[x−h,x]が存在して
f(x±h)=f(x)±f′(x)h+2h2f′′(x)±6h3f′′′(x)+24h4f(4)(ξ1,2)(複号同順)が成り立つ。二式の和から2f(x)を引いてh2で割ると
Dh2f(x)−f′′(x)=12h2⋅2f(4)(ξ1)+f(4)(ξ2)である。(2)の証明と同じく§D1.12 系 1.2をf(4)に適用してξを得る。▨
例 1.3.x∈R、h>0とする。f(y)=y2についてDh+f(x)=2x+hであり、Dh+f(x)−f′(x)=hである。f(y)=y3についてDh0f(x)=3x2+h2であり、Dh0f(x)−f′(x)=h2である。f(y)=y4についてDh2f(x)=12x2+2h2であり、Dh2f(x)−f′′(x)=2h2である。いずれの誤差もhの冪の0でない定数倍に等しいので、q>1(前進差分)またはq>2(中心差分・二階中心差分)とK≥0をどのように選んでも、十分小さいh>0で誤差はKhqを超える。したがって定理 1.2の誤差のhに関する次数1、2、2は、各項の仮定の下で改善されない。
2 関数値の誤差の増幅と刻み幅
命題 2.1.x∈R、h>0、δ≥0とする。前進差分、中心差分、二階中心差分のそれぞれについて、それが値を用いる点の集合をPとする(順に{x,x+h}、{x−h,x+h}、{x−h,x,x+h})。fとf~をPを含む集合上の実数値関数とし、任意のy∈Pについて∣f~(y)−f(y)∣≤δが成り立つとする。
- 次の評価が成り立つ。
∣Dh+f~(x)−Dh+f(x)∣≤h2δ,∣Dh0f~(x)−Dh0f(x)∣≤hδ,∣Dh2f~(x)−Dh2f(x)∣≤h24δ.
- 各差分商について、P上でf~(y)=f(y)+δσyと置く。ここでσy∈{1,−1}は、前進差分ではσx+h=1、σx=−1、中心差分ではσx+h=1、σx−h=−1、二階中心差分ではσx±h=1、σx=−1とする。このとき(1)の対応する評価は等号で成り立つ。
- M2,M3,M4≥0を実数とする。fが[x,x+h]でC2級であって[x,x+h]上で∣f′′∣≤M2ならば、∣Dh+f~(x)−f′(x)∣≤2M2h+h2δが成り立つ。fが[x−h,x+h]でC3級であって[x−h,x+h]上で∣f′′′∣≤M3ならば、∣Dh0f~(x)−f′(x)∣≤6M3h2+hδが成り立つ。fが[x−h,x+h]でC4級であって[x−h,x+h]上で∣f(4)∣≤M4ならば、∣Dh2f~(x)−f′′(x)∣≤12M4h2+h24δが成り立つ。
- Pの元をy1,…,ynと並べ、差分商の定義式を∑i=1nwig(yi)と書いたときの係数をw1,…,wnとする。Rnに最大値ノルム、Rに絶対値を入れ、線形写像Φ:Rn→RをΦ(v)=∑i=1nwiviで定める。任意のv∈Rnについてκabs(Φ,v)=∑i=1n∣wi∣であり、その値は前進差分で2/h、中心差分で1/h、二階中心差分で4/h2である。
証明.(1)と(2)を示す。各差分商は∑i=1nwig(yi)の形であり、係数は前進差分で(wx,wx+h)=(−1/h,1/h)、中心差分で(wx−h,wx+h)=(−1/(2h),1/(2h))、二階中心差分で(wx−h,wx,wx+h)=(1/h2,−2/h2,1/h2)である。ei:=f~(yi)−f(yi)と置くと、差分商の差は∑iwieiであり、∣ei∣≤δから
i∑wiei≤δi∑∣wi∣が成り立つ。∑i∣wi∣は順に2/h、1/h、4/h2であるから、(1)を得る。(2)のf~ではei=δσyiであり、σyiはwiの符号であるから、∑iwiei=δ∑i∣wi∣である。
(3)を示す。三角不等式により、例えば前進差分について∣Dh+f~(x)−f′(x)∣≤∣Dh+f~(x)−Dh+f(x)∣+∣Dh+f(x)−f′(x)∣である。第一項は(1)により2δ/h以下であり、第二項は定理 1.2 (1)により2h∣f′′(ξ)∣≤2M2hである。中心差分と二階中心差分についても、定理 1.2 (2)と定理 1.2 (3)を用いて同じ評価が成り立つ。
(4)を示す。Φは線形であるから、任意のv,e∈RnについてΦ(v+e)−Φ(v)−Φ(e)=0であり、Φはvで全微分可能でDΦ(v)=Φである。§E20.2 命題 3.2 (2)によりκabs(Φ,v)=∥Φ∥である。最大値ノルムが1のeについて∣Φ(e)∣≤∑i∣wi∣であり、eiをwiの符号にとると∣Φ(e)∣=∑i∣wi∣であるから、∥Φ∥=∑i∣wi∣である。▨
定理 2.2.δ>0を実数とする。
- M2>0とし、ϕ+(h):=2M2h+h2δ(h>0)と置く。ϕ+はh+∗:=2δ/M2で最小値ϕ+(h+∗)=2M2δをとり、(0,h+∗]で狭義単調減少、[h+∗,∞)で狭義単調増加である。
- M3>0とし、ϕ0(h):=6M3h2+hδ(h>0)と置く。ϕ0はh0∗:=(3δ/M3)1/3で最小値ϕ0(h0∗)=232/3M31/3δ2/3をとり、(0,h0∗]で狭義単調減少、[h0∗,∞)で狭義単調増加である。
fとf~が命題 2.1 (3)の前進差分の仮定をh=h+∗で満たすならば∣Dh+∗+f~(x)−f′(x)∣≤2M2δであり、中心差分の仮定をh=h0∗で満たすならば∣Dh0∗0f~(x)−f′(x)∣≤232/3M31/3δ2/3である。h+∗とh0∗は命題 2.1 (3)の上界の最小点であり、同じ仮定を満たすf,f~に対する実際の誤差∣Dh+f~(x)−f′(x)∣、∣Dh0f~(x)−f′(x)∣の最小点と一致するとは限らない(例 2.3)。
証明.(1)を示す。ϕ+′(h)=2M2−h22δ=2h2M2(h2−(h+∗)2)は0<h<h+∗で負、h>h+∗で正である。§D1.14 定理 3.1によりϕ+は(0,h+∗]で狭義単調減少、[h+∗,∞)で狭義単調増加であり、h+∗で最小値をとる。2M2h+∗=M2δ、h+∗2δ=M2δであるからϕ+(h+∗)=2M2δである。
(2)を示す。ϕ0′(h)=3M3h−h2δ=3h2M3(h3−(h0∗)3)は0<h<h0∗で負、h>h0∗で正であり、§D1.14 定理 3.1により単調性と最小性が従う。M3(h0∗)3=3δから6M3(h0∗)2=2h0∗δであり、
ϕ0(h0∗)=2h0∗3δ=23δ(3δM3)1/3=232/3M31/3δ2/3である。
誤差の評価は命題 2.1 (3)をh=h+∗、h=h0∗に適用したものである。▨
例 2.3.δ>0とし、f(y)=y2/2、x=0とする。f′′=1であるからM2=1とし、定理 2.2 (1)によりh+∗=2δ、ϕ+(h+∗)=2δである。f′(0)=0である。
- f~(0):=0、y>0でf~(y):=f(y)−δと置く。任意のh>0で∣f~−f∣≤δが{0,h}上で成り立ち、
Dh+f~(0)−f′(0)=hh2/2−δ=2h−hδ
である。実際の誤差はh=2δで0になり、2δ=h+∗である。h=h+∗での実際の誤差はδ−δ/2=δ/2であり、上界ϕ+(h+∗)=2δの1/4である。
- f~:=f+δと置く。関数値の誤差は差分商の分子で打ち消し合い、Dh+f~(0)−f′(0)=h/2である。実際の誤差はhについて狭義単調増加で、h→+0で0に近づき、h>0の範囲に最小点を持たない。他方、上界ϕ+(h)はh→+0で+∞に発散する。
例 2.4.F=F(2,53,−1022,1023)、flを最近接偶数丸め、u=2−53とし、f(y)=1/y、x=3、h=2−k(kは1≤k≤51の整数)とする。f′(3)=−1/9であり、[3,3+h]上で∣f′′(y)∣=2/y3≤2/27=:M2である。3+h=(3⋅2k+1)2−kは252≤(3⋅2k+1)251−k≤253−1を満たすので、§E20.1 補題 1.2 (1)によりFに属する。関数値をf~(y):=fl(1/y)(y=3,3+h)で与える。1/y∈(1/4,1/3]は正規範囲にあるから、§E20.1 定理 2.2 (2)により∣f~(y)−f(y)∣≤u/y≤u/3=:δである。f~(3),f~(3+h)∈[1/4,1/2)であるから、§E20.1 補題 1.2 (1)により、整数jが存在してf~(3+h)−f~(3)=j2−54、∣j∣<252が成り立つ。§E20.1 補題 1.3 (1)によりこの差と、それをhで割ったj2k−54はFに属する。したがって§E20.1 系 3.2 (1)により、binary64 で計算したfl(fl(f~(3+h)−f~(3))/h)はDh+f~(3)に等しい。打切り誤差はDh+f(3)−f′(3)=h/(9(3+h))である。定理 2.2 (1)の上界はϕ+(h)=h/27+2−52/(3h)であり、h+∗=3⋅2−26≈4.47×10−8、ϕ+(h+∗)=2−25/9≈3.31×10−9である。各kについてf~(3+h)を有理数の演算で最近接偶数丸めとして求め、実際の誤差Dh+f~(3)−f′(3)を有理数として計算した値の上3桁は次のとおりである。
| k |
h |
実際の誤差 |
打切り誤差 |
ϕ+(h) |
| 4 |
6.25×10−2 |
2.27×10−3 |
2.27×10−3 |
2.31×10−3 |
| 12 |
2.44×10−4 |
9.04×10−6 |
9.04×10−6 |
9.04×10−6 |
| 20 |
9.54×10−7 |
3.53×10−8 |
3.53×10−8 |
3.54×10−8 |
| 24 |
5.96×10−8 |
2.90×10−9 |
2.21×10−9 |
3.45×10−9 |
| 25 |
2.98×10−8 |
1.03×10−9 |
1.10×10−9 |
3.59×10−9 |
| 26 |
1.49×10−8 |
2.90×10−9 |
5.52×10−10 |
5.52×10−9 |
| 27 |
7.45×10−9 |
−8.28×10−10 |
2.76×10−10 |
1.02×10−8 |
| 28 |
3.73×10−9 |
6.62×10−9 |
1.38×10−10 |
2.00×10−8 |
| 32 |
2.33×10−10 |
1.85×10−7 |
8.62×10−12 |
3.18×10−7 |
| 40 |
9.09×10−13 |
2.71×10−5 |
3.37×10−14 |
8.14×10−5 |
| 48 |
3.55×10−15 |
1.74×10−3 |
1.32×10−16 |
2.08×10−2 |
1≤k≤18では実際の誤差と打切り誤差が上3桁で一致する。28≤k≤51では、関数値の誤差による項Dh+f~(3)−Dh+f(3)の実際の誤差に対する比が0.97以上である。1≤k≤51の範囲で実際の誤差の絶対値が最小になるのはk=27であり、h=2−27はh+∗と異なり、そこでの実際の誤差の絶対値8.28×10−10はϕ+(h+∗)より小さい。
3 差分商の計算の丸め
命題 3.1.F=F(β,p,emin,emax)を浮動小数点数系、uをその単位丸め誤差、flをFの最近接丸めとし、3u<1とする。y0,y1∈Fがy0<y1とy1−y0≤Nmaxを満たし、a,b∈Fが∣a−b∣≤Nmaxを満たすとする。S:=(a−b)/(y1−y0)、d:=fl(a−b)、e:=fl(y1−y0)と置く。このときe=0である。さらに実数d/eが0に等しいか正規範囲にあると仮定し、S^:=fl(d/e)と置く。
- ∣θ∣≤γ3=3u/(1−3u)を満たす実数θが存在してS^=S(1+θ)が成り立つ。
- さらにy1−y0∈Fならば、∣θ∣≤γ2=2u/(1−2u)を満たす実数θが存在してS^=S(1+θ)が成り立つ。
証明.F=−Fであるから−b,−y0∈Fであり、§E20.1 系 3.3をa+(−b)とy1+(−y0)に適用すると、∣δ1∣,∣δ3∣≤uを満たす実数δ1,δ3によりd=(a−b)(1+δ1)、e=(y1−y0)(1+δ3)が成り立つ。u<1であるから1+δ3>0であり、e=0である。d/e=0ならばd=0であり、1+δ1>0からa=b、S=0である。§E20.1 系 3.2 (1)によりS^=0であり、θ:=0とすればよい。d/eが正規範囲にあるならば、§E20.1 系 3.2 (2)により∣δ2∣≤uを満たす実数が存在してS^=(d/e)(1+δ2)であり、
S^=S(1+δ1)(1+δ2)(1+δ3)−1である。§E20.1 補題 4.1をk=3、ε=(1,1,−1)に適用して(1)を得る。y1−y0∈Fならば、§E20.1 系 3.2 (1)によりe=y1−y0でありδ3=0としてよいので、§E20.1 補題 4.1をk=2に適用して(2)を得る。▨
系 3.2.F、u、flを命題 3.1のとおりとし、δ≥0、M2,M3≥0を実数とする。
- y0,y1∈F、y0<y1とし、x:=y0、h:=y1−y0と置く。f:[x,x+h]→RがC2級であって[x,x+h]上で∣f′′∣≤M2を満たし、a,b∈Fが∣a−f(y1)∣≤δ、∣b−f(y0)∣≤δを満たすとする。y0,y1,a,bが命題 3.1の仮定を満たすならば、同命題のS^について
∣S^−f′(x)∣≤(1+γ3)(2M2h+h2δ)+γ3∣f′(x)∣
が成り立つ。
- y0,y1∈F、y0<y1とし、x:=(y0+y1)/2、h:=(y1−y0)/2と置く。f:[x−h,x+h]→RがC3級であって[x−h,x+h]上で∣f′′′∣≤M3を満たし、a,b∈Fが∣a−f(y1)∣≤δ、∣b−f(y0)∣≤δを満たすとする。y0,y1,a,bが命題 3.1の仮定を満たすならば、同命題のS^について
∣S^−f′(x)∣≤(1+γ3)(6M3h2+hδ)+γ3∣f′(x)∣
が成り立つ。
どちらの項でも、y1−y0∈Fならばγ3をγ2に替えた評価が成り立つ。
証明.f~(y1):=a、f~(y0):=bと置く。(1)ではS=Dh+f~(x)、(2)ではS=Dh0f~(x)であり、どちらの場合もϕを括弧内の量とすると命題 2.1 (3)により∣S−f′(x)∣≤ϕである。命題 3.1によりS^−f′(x)=(S−f′(x))+θS、∣θ∣≤γ3であり、∣S∣≤∣f′(x)∣+ϕであるから
∣S^−f′(x)∣≤ϕ+γ3(∣f′(x)∣+ϕ)が成り立つ。y1−y0∈Fの場合は命題 3.1 (2)を用いて同じ計算を行う。▨
例 3.3.F=F(2,53,−1022,1023)、flを最近接偶数丸めとし、f(y)=y、x=1とする。f′=1であり、差分商の打切り誤差は0である。刻みとしてh^:=fl(10−10)を選び、評価点をy0:=1、y1:=fl(1+h^)とすると、y1−1=450360⋅2−52≈1.0000000827×10−10であり、(y1−1)/h^−1≈8.27×10−8である。関数値をa:=y1、b:=1で与えるとδ=0である。a−b=y1−y0=450360⋅2−52∈Fであるから、§E20.1 系 3.2 (1)によりd=e=y1−y0であり、S^=fl(1)=1=f′(1)である。分母に評価点の差eではなくh^を用いると、計算値はfl((y1−1)/h^)≈1+8.27×10−8であり、その誤差は系 3.2 (1)の上界γ2≈2.22×10−16の108倍を超える。分母にh^を用いた計算値は命題 3.1のS^ではない。
4 Richardson 外挿
定義 4.1.h0>0とし、A:(0,h0]→Rを関数とする。
- L∈R、整数m≥0、実数0<p1<⋯<pm+1とする。実数c1,…,cmとC≥0が存在して、任意の0<h≤h0について
A(h)−L−r=1∑mcrhpr≤Chpm+1
が成り立つとき、Aは極限L、係数c1,…,cm、定数Cの、指数p1,…,pm+1の 誤差の漸近展開 (asymptotic error expansion) をもつという。
- 実数t>1、q>0に対して、関数Tt,qA:(0,h0]→Rを
(Tt,qA)(h):=tq−1tqA(h/t)−A(h)=A(h/t)+tq−1A(h/t)−A(h)
で定め、比t、指数qの という。0<h≤h0ならば0<h/t<h0であるから、右辺は定まる。
証明. 線形性は定義の式から従い、Tt,qL=(tqL−L)/(tq−1)=Lである。h↦hsに対してtq(h/t)s−hs=(tq−s−1)hsであるから(2)が成り立つ。∣tqR(h/t)−R(h)∣≤tqC(h/t)s+Chs=(tq−s+1)Chsをtq−1>0で割って(3)を得る。▨
定理 4.3.h0>0、t>1、0<p<p′とし、A:(0,h0]→Rが極限L、係数c、定数Cの、指数p,p′の誤差の漸近展開をもつとする。A1:=Tt,pA、E(h):=tp−1A(h/t)−A(h)、K:=tp−1tp−p′+1と置く。
- 任意の0<h≤h0について(L−A(h/t))−E(h)≤KChp′が成り立つ。
- c=0とし、C>0のときh1:=min{h0, (∣c∣tp′−p/(2C))1/(p′−p)}、C=0のときh1:=h0と置く。任意の0<h≤h1についてL−A(h/t)=0かつ
L−A(h/t)E(h)−1≤∣c∣2KCtphp′−p
が成り立ち、特にh→+0のときE(h)/(L−A(h/t))→1である。
証明.R(h):=A(h)−L−chpと置くと、仮定により0<h≤h0で∣R(h)∣≤Chp′である。補題 4.2 (1)と補題 4.2 (2)によりTt,pL=L、Tt,p(h↦chp)=0であるから、A1−L=Tt,pRである。補題 4.2 (3)をs=p′として適用すると(1)を得る。
定義 4.1の第二の表示によりA1(h)=A(h/t)+E(h)であるから、(L−A(h/t))−E(h)=L−A1(h)であり、(1)から(2)が従う。
(3)を示す。0<h≤h1とする。L−A(h/t)=−c(h/t)p−R(h/t)であり、∣R(h/t)∣≤Ct−p′hp′である。h1の定め方からCt−p′hp′≤21∣c∣t−phpであるから、
∣L−A(h/t)∣≥∣c∣t−php−Ct−p′hp′≥21∣c∣t−php>0である。(L−A(h/t))−E(h)=L−A1(h)の両辺をL−A(h/t)で割ると
L−A(h/t)E(h)−1=−L−A(h/t)L−A1(h)であり、(1)と上の下界から右辺の絶対値はKChp′/(21∣c∣t−php)=∣c∣2KCtphp′−p以下である。p′−p>0であるから、右辺はh→+0で0に収束する。▨
定理 4.4.h0>0、t>1、整数m≥1、実数0<p1<⋯<pm+1とし、A:(0,h0]→Rが極限L、係数c1,…,cm、定数Cの、指数p1,…,pm+1の誤差の漸近展開をもつとする。A0:=A、Aj:=Tt,pjAj−1(1≤j≤m)と置き、0≤j≤mとj<r≤mに対して
cr(j):=cri=1∏jtpi−1tpi−pr−1,Cj:=Ci=1∏jtpi−1tpi−pm+1+1と置く(j=0の積は1とする)。このとき各0≤j≤mについて、Ajは極限L、係数cj+1(j),…,cm(j)、定数Cjの、指数pj+1,…,pm+1の誤差の漸近展開をもつ。特に、任意の0<h≤h0について∣Am(h)−L∣≤Cmhpm+1である。
証明.j=0では主張は仮定そのものである。1≤j≤mとし、Aj−1について主張が成り立つと仮定して、Aj−1(h)=L+∑r=jmcr(j−1)hpr+Rj−1(h)、∣Rj−1(h)∣≤Cj−1hpm+1(0<h≤h0)と書く。補題 4.2 (1)と補題 4.2 (2)をq=pjとして適用すると、Tt,pjL=L、Tt,pj(h↦hpj)=0であり、j<r≤mについてh↦hprの像はtpj−1tpj−pr−1hprである。cr(j−1)⋅tpj−1tpj−pr−1=cr(j)であるから
Aj(h)=L+r=j+1∑mcr(j)hpr+(Tt,pjRj−1)(h)である。補題 4.2 (3)をs=pm+1として適用すると、∣(Tt,pjRj−1)(h)∣≤tpj−1tpj−pm+1+1Cj−1hpm+1=Cjhpm+1である。したがってAjについて主張が成り立つ。▨
例 4.6.L∈Rとし、E(h)を定理 4.3のとおりとする。
- t=2、h0=1/2とし、A(h):=L+h−h2は極限L、係数1、定数1の、指数1,2の誤差の漸近展開をもつ。L−A(h/2)=−(h/2−h2/4)、E(h)=A(h/2)−A(h)=−(h/2−3h2/4)であり、0<h≤1/2で∣E(h)∣=∣L−A(h/2)∣−h2/2<∣L−A(h/2)∣である。比E(h)/(L−A(h/2))は(2−3h)/(2−h)<1であり、h→+0で1に近づく。
- t>1、0<p<p′、h0>0とし、A(h):=L+hp′は係数c=0、定数1の、指数p,p′の誤差の漸近展開をもつ。L−A(h/t)=−t−p′hp′、E(h)=(t−p′−1)hp′/(tp−1)であり、任意のhで
L−A(h/t)E(h)=tp−1tp′−1
である。tp′−1>tp−1であるからこの値は1より大きく、t=2、p=2、p′=4では5である。
5 外挿の仮定が破れる例
例 5.1.L∈R、h0>0、t>1、p>0とし、0<h≤h0に対してn(h)をtn(h)≤h0/h<tn(h)+1を満たす整数とする。A(h):=L+(−1)n(h)hpと置くと、任意の0<h≤h0で∣A(h)−L∣=hpである。n(h/t)=n(h)+1であるから
(Tt,pA)(h)−L=tp−1tp(−1)n(h)+1(h/t)p−(−1)n(h)hp=tp−1−2(−1)n(h)hpであり、∣(Tt,pA)(h)−L∣=2hp/(tp−1)である。p′>pとK′≥0をどのように選んでも十分小さいhで2hp/(tp−1)>K′hp′であるから、定理 4.3 (1)により、Aは指数p,p′の誤差の漸近展開をもたない。上界∣A(h)−L∣≤hpだけからは、外挿値の誤差がhpより高い次数になることは従わない。
6 中心差分への外挿
命題 6.1.x∈R、h0>0、整数m≥0とし、f:[x−h0,x+h0]→RがC2m+3級であって、実数Mが[x−h0,x+h0]上で∣f(2m+3)∣≤Mを満たすとする。このときA(h):=Dh0f(x)(0<h≤h0)は極限f′(x)、係数cr=f(2r+1)(x)/(2r+1)!(1≤r≤m)、定数M/(2m+3)!の、指数2,4,…,2m+2の誤差の漸近展開をもつ。
証明.0<h≤h0とする。§D1.16 定理 2.1をa=x、n=2m+3として点x±hに適用すると、ξ±が存在して
f(x±h)=k=0∑2m+2k!f(k)(x)(±h)k+(2m+3)!f(2m+3)(ξ±)(±h)2m+3が成り立つ。差をとると偶数次の項は消え、
Dh0f(x)=r=0∑m(2r+1)!f(2r+1)(x)h2r+2(2m+3)!f(2m+3)(ξ+)+f(2m+3)(ξ−)h2m+2である。r=0の項はf′(x)であり、最後の項の絶対値はMh2m+2/(2m+3)!以下である。▨
証明.命題 6.1をm=jとして適用すると、A0は指数2,4,…,2j+2の誤差の漸近展開を定数M/(2j+3)!でもつ。j=0ならばこれが主張である。j≥1ならば、定理 4.4をm=j、pr=2rとして適用し、∣Aj(h)−f′(x)∣≤Cjh2j+2を得る。Cjの式にpi=2i、pj+1=2j+2を代入すると主張の定数になる。▨
証明.(1)を示す。R(s):=A~(s)−A(s)と置くと、定義の式から(T2,2A~)(h)−(T2,2A)(h)=(4R(h/2)−R(h))/3である。命題 2.1 (1)を刻みh/2とhの中心差分に適用すると∣R(h/2)∣≤2δ/h、∣R(h)∣≤δ/hであるから
34R(h/2)−R(h)≤31(h8δ+hδ)=h3δが成り立つ。主張のf~ではR(h/2)=(δ+δ)/h=2δ/h、R(h)=(−δ−δ)/(2h)=−δ/hであり、(4R(h/2)−R(h))/3=3δ/hである。
(2)を示す。系 6.2をh0=h、t=2、j=1として適用すると、その定数は5!M⋅22−12−2+1=288Mであり、∣(T2,2A)(h)−f′(x)∣≤Mh4/288である。三角不等式と(1)から主張の評価を得る。▨
7 演習
問題 7.1.δ>0、M4>0とし、ϕ2(h):=12M4h2+h24δ(h>0)と置く。ϕ2を最小にするh>0がただ一つ存在することを示し、その刻みh2∗と最小値を求めよ。
解答.
ϕ2′(h)=6M4h−h38δ=6h3M4(h4−48δ/M4)は0<h<(48δ/M4)1/4で負、h>(48δ/M4)1/4で正である。§D1.14 定理 3.1によりϕ2はこの点の左で狭義単調減少、右で狭義単調増加であり、最小点はh2∗:=(48δ/M4)1/4ただ一つである。(h2∗)2=43δ/M4であるから
ϕ2(h2∗)=12M4⋅4M43δ+43δ/M44δ=3M4δ+3M4δ=23M4δである。▨
解答.
§D1.16 定理 2.1をa=x、点x+h、n=3として適用すると、ξ∈[x,x+h]が存在してf(x+h)=f(x)+f′(x)h+2f′′(x)h2+6f′′′(ξ)h3であり、A(h)=f′(x)+2f′′(x)h+6f′′′(ξ)h2である。∣f′′′(ξ)∣≤M3から(1)が成り立つ。
(T2,1A)(h)=2A(h/2)−A(h)=h4(f(x+h/2)−f(x))−hf(x+h)−f(x)であり、整理すると(2)の表示を得る。定理 4.3をt=2、p=1、p′=2、C=M3/6として適用すると、K=(2−1+1)/(2−1)=3/2であり、定理 4.3 (1)により∣(T2,1A)(h)−f′(x)∣≤23⋅6M3h2=4M3h2である。
f(y)=y3、x=0ではf(0)=0、f(h/2)=h3/8、f(h)=h3であり、(T2,1A)(h)=(4h3/8−h3)/h=−h2/2、f′(0)=0である。このときM3=6であり、誤差の絶対値h2/2は(2)の上界3h2/2の1/3である。▨