1 分裂と反復行列
定義 1.1.K∈{R,C}、n∈N≥1とし、A=(aij)∈Kn×n、b∈Knとする。
- Aが正則であり、M,N∈Kn×nがA=M−Nを満たし、Mが正則であるとき、組(M,N)をAの 分裂 (splitting) といい、T:=M−1Nを分裂(M,N)の 反復行列 (iteration matrix) という。x0∈Knから始めてk≥0についてxk+1:=Txk+M−1bと置き、列(xk)k≥0を定める計算式を、分裂(M,N)によるAx=bの 定常反復法 (stationary iterative method) という。xk+1はMxk+1=Nxk+bのただ一つの解である。
- Dを対角成分がa11,…,annの対角行列、Eをi>jの(i,j)成分が−aijでその他の成分が0の行列、Fをi<jの(i,j)成分が−aijでその他の成分が0の行列とし、A=D−E−Fと書く。Aが正則で対角成分がすべて0でないとし、ω∈R∖{0}とする。分裂(D,E+F)による定常反復法を Jacobi 法 (Jacobi method) といい、その反復行列をTJと書く。分裂(D−E,F)による定常反復法を Gauss–Seidel 法 (Gauss–Seidel method) といい、その反復行列をTGSと書く。分裂(ω−1D−E, ω−1(1−ω)D+F)による定常反復法を緩和係数ωの SOR 法 (successive over-relaxation method) といい、その反復行列をTωと書く。三つの組の第一成分は対角成分が0でない三角行列であるから正則であり、三つの組はいずれも差がAに等しいので、いずれもAの分裂である。T1=TGSである。
- 任意のiについて∣aii∣>∑j=i∣aij∣が成り立つとき、Aは 狭義行対角優位 (strictly row diagonally dominant) であるという。
証明.(1)を示す。Mxk+1=Nxk+b=(M−A)xk+bであるからM(xk+1−xk)=b−Axkであり、両辺に左からM−1を掛けて主張を得る。
(2)を示す。δ:=xk+1−xkと置く。(1)により(ω−1D−E)δ=b−Axkであり、この等式の第i成分は
ω−1aiiδi+j<i∑aijδj=bi−j=1∑naijxk,jである。δj=xk+1,j−xk,jを左辺の和に代入して移項するとω−1aiiδi=bi−∑j<iaijxk+1,j−∑j≥iaijxk,jであり、両辺にω/aiiを掛けて主張の式を得る。
(3)を示す。(1)を分裂(D,E+F)に適用するとD(xk+1−xk)=b−Axkであり、その第i成分をaiiで割って主張の式を得る。▨
2 スペクトル半径と行列の冪
補題 2.1.n∈N≥1、T∈Cn×nとし、ρ(T)をTのスペクトル半径とする。
- Cnの任意のノルム∥⋅∥について、Tの作用素ノルム(§E20.5 定義 4.2)はρ(T)≤∥T∥を満たす。
- 任意のε>0に対して正則行列S∈Cn×nが存在して、Cnのノルム∥h∥S:=max1≤i≤n∣(Sh)i∣に関する作用素ノルムが∥T∥S≤ρ(T)+εを満たす。
さらに、次の三条件は同値である。
- k→∞のときTkの各成分が0に収束する。
- 任意のx∈Cnについて、k→∞のときTkxの各成分が0に収束する。
- ρ(T)<1が成り立つ。
証明.(1)を示す。λ∈Cがdet(λI−T)=0を満たすとし、z∈Cn∖{0}をTz=λzを満たすベクトルとする。作用素ノルムの定義により∥T(z/∥z∥)∥≤∥T∥であるから、∣λ∣=∥Tz∥/∥z∥≤∥T∥である。λはTの任意の固有値であるから、ρ(T)≤∥T∥である。
(2)を示す。§E3.36 系 2.2により、ユニタリ行列Qと上三角行列R=(rij)が存在してT=QRQ∗である。det(λI−T)=det(λI−R)=∏i(λ−rii)であるから、ρ(T)=maxi∣rii∣である。c:=maxi∑j>i∣rij∣、δ:=min{1, ε/(c+1)}、Δ:=diag(1,δ,…,δn−1)、S:=Δ−1Q∗と置く。Sは正則であるから、∥⋅∥SはCnのノルムである。R:=Δ−1RΔの(i,j)成分は、i≤jならばrijδj−i、i>jならば0である。0<δ≤1であるから、各iについて
j=1∑n∣rij∣≤∣rii∣+δj>i∑∣rij∣≤ρ(T)+δc≤ρ(T)+εである。h∈Cnに対してg:=Shと置くと、STh=Δ−1RQ∗h=Rgであるから
∥Th∥S=imaxj∑rijgj≤(imaxj∑∣rij∣)jmax∣gj∣≤(ρ(T)+ε)∥h∥Sである。したがって∥T∥S≤ρ(T)+εである。
(3)⇒(1)を示す。ρ(T)<1とし、(2)をε:=(1−ρ(T))/2に適用してSをとる。q:=(1+ρ(T))/2と置くとq<1かつ∥T∥S≤qであるから、kに関する帰納法により、任意のh∈Cnとk≥0について∥Tkh∥S≤qk∥h∥Sである。S−1=(sij′)、c′:=maxi∑j∣sij′∣と置くと、h=S−1(Sh)から、任意のhとiについて∣hi∣≤c′∥h∥Sである。ejを第j基本ベクトルとすると、Tkの(i,j)成分はTkejの第i成分であり、その絶対値はc′qk∥ej∥S以下であるから、k→∞のとき0に収束する。
(1)⇒(2)は、(Tkx)i=∑j(Tk)ijxjから従う。
(2)⇒(3)を示す。ρ(T)≥1とし、∣λ∣≥1を満たすTの固有値λと、Tz=λzを満たすz∈Cn∖{0}をとる。zi=0を満たすiについて∣(Tkz)i∣=∣λ∣k∣zi∣≥∣zi∣>0であるから、Tkzの第i成分は0に収束しない。したがってρ(T)≥1ならば(2)は成り立たない。▨
3 定常反復法の収束
定理 3.1.K∈{R,C}、n∈N≥1とし、A∈Kn×nを正則行列、b∈Kn、x∗:=A−1bとする。(M,N)をAの分裂、T:=M−1Nをその反復行列とし、x0∈Knから分裂(M,N)による定常反復法で定まる列を(xk)k≥0とする。
- 任意のk≥0についてxk−x∗=Tk(x0−x∗)が成り立つ。
- 任意のε>0に対してCnのノルム∥⋅∥が存在して、任意のx0∈Knとk≥0について∥xk−x∗∥≤(ρ(T)+ε)k∥x0−x∗∥が成り立つ。
さらに、Knの列の収束を成分ごとの収束として、次の三条件は同値である。
- ρ(T)<1が成り立つ。
- 任意のx0∈Knについて、k→∞のときxk→x∗が成り立つ。
- 任意のx0∈Knについて、列(xk)がKnで収束する。
証明.(1)を示す。Mx∗−Nx∗=Ax∗=bであるからx∗=Tx∗+M−1bである。xk+1=Txk+M−1bからこの等式を引くとxk+1−x∗=T(xk−x∗)であり、kに関する帰納法により主張が成り立つ。
(2)を示す。TをCn×nの元とみて補題 2.1 (2)を適用し、Sをとる。∥⋅∥:=∥⋅∥Sはx0とkによらず、任意のh∈Cnについて∥Th∥≤(ρ(T)+ε)∥h∥を満たす。この不等式をk回用いると∥Tkh∥≤(ρ(T)+ε)k∥h∥であり、h:=x0−x∗として(1)から主張を得る。
(1)⇒(2)を示す。ρ(T)<1とし、x0∈Knとする。補題 2.1 (3)⇒(2)をx:=x0−x∗に適用すると、Tk(x0−x∗)の各成分は0に収束する。(1)によりxk→x∗である。
(2)⇒(3)は、x∗が列の極限であることから従う。
(3)⇒(1)を示す。(3)を仮定する。x0∈Knとし、(xk)の極限をy∈Knとする。Txk+M−1bの各成分はxkの成分の一次式であるから、xk+1=Txk+M−1bでk→∞とするとy=Ty+M−1bである。両辺に左からMを掛けるとMy=Ny+bであり、Ay=(M−N)y=bである。Aは正則であるからy=x∗である。e∈Knとし、x0:=x∗+eとすると、(1)とxk→x∗によりTkeの各成分は0に収束する。K=Cならば、これは補題 2.1 (2)である。K=Rならば、M−1とNは実行列であるからTは実行列であり、w∈Cnをw=u+iv(u,v∈Rn)と書くとTkw=Tku+iTkvの各成分は0に収束するので、補題 2.1 (2)が成り立つ。いずれの場合も、補題 2.1 (2)⇒(3)によりρ(T)<1である。▨
例 3.3.A:=(1/20−21/2)∈R2×2、M:=I、N:=I−A=(1/2021/2)とする。detA=1/4=0であるからAは正則であり、Mは正則でM−N=Aであるから、(M,N)はAの分裂である。その反復行列はT=Nであり、det(λI−T)=(λ−1/2)2であるからρ(T)=1/2である。kに関する帰納法により、任意のk≥0について
Tk=(2−k04k2−k2−k)である。実際、k=0では両辺がIであり、Tk+1=TkTの(1,2)成分は2−k⋅2+4k2−k⋅2−1=4(k+1)2−(k+1)、その他の成分は2−(k+1)または0である。b∈R2、x∗:=A−1b、e2:=(0,1)Tとし、x0:=x∗+e2から分裂(M,N)による定常反復法で列(xk)k≥0を定める。定理 3.1 (1)によりxk−x∗=Tke2=(4k2−k, 2−k)Tである。h∈C2について∥h∥∞:=max{∣h1∣,∣h2∣}、∥h∥2:=(∣h1∣2+∣h2∣2)1/2と置くと、∥xk−x∗∥∞はk=0,1,2,3,4で1, 2, 2, 3/2, 1であり、k=1,2,3で∥x0−x∗∥∞=1より大きい。また∥x0−x∗∥2=1、∥x1−x∗∥2=17/2>2である。0<ε<3/2とする。∥⋅∥が∥⋅∥∞と∥⋅∥2のいずれであっても、上のx0について∥x1−x∗∥≥2>ρ(T)+ε=(ρ(T)+ε)∥x0−x∗∥であるから、定理 3.1 (2)の不等式はk=1で成り立たない。したがって∥⋅∥∞と∥⋅∥2は、このεに対して定理 3.1 (2)が存在を主張するノルムではない。一方、ρ(T)<1であるから、定理 3.1 (1)⇒(2)により、任意のx0∈R2についてxk→x∗である。
4 収束の判定条件
補題 4.1.n∈N≥1とし、A∈Rn×nを実対称かつ正定値な行列、(M,N)をM,N∈Rn×nによるAの分裂とする。実対称行列M+MT−Aが正定値ならば、ρ(M−1N)<1である。
証明. 実対称かつ正定値なB∈Rn×nとz=u+iv∈Cn∖{0}(u,v∈Rn)について、uTBv=vTBuであるからz∗Bz=uTBu+vTBv>0である。T:=M−1Nの固有値λと、Tz=λzを満たすz∈Cn∖{0}をとり、w:=M−1Azと置く。T=M−1(M−A)=I−M−1AであるからTz=z−wであり、w=(1−λ)zである。Aは正定値であるから正則であり、Az=0からw=0である。Az=Mwからw∗Az=w∗Mwである。Aは実対称であるからz∗Aw=w∗Az=w∗Mw=w∗MTwである。よって
z∗Az−(z−w)∗A(z−w)=w∗Az+z∗Aw−w∗Aw=w∗(M+MT−A)w>0である。z−w=λzであるから左辺は(1−∣λ∣2)z∗Azであり、z∗Az>0から∣λ∣<1である。λはTの任意の固有値であるから、ρ(T)<1である。▨
証明.(1)を示す。Aが狭義行対角優位であるとする。∣aii∣>∑j=i∣aij∣≥0からaii=0である。q:=maxi∣aii∣−1∑j=i∣aij∣と置くとq<1である。J:=D−1(E+F)の(i,j)成分は、i=jならば−aij/aii、i=jならば0である。Cnのノルム∥h∥∞:=maxi∣hi∣について∣(Jh)i∣≤∣aii∣−1∑j=i∣aij∣∣hj∣≤q∥h∥∞であるから、Jの作用素ノルムはq以下であり、補題 2.1 (1)によりρ(J)≤q<1である。特に1はJの固有値でなく、I−Jは正則であるから、A=D(I−J)は正則である。したがって(D,E+F)はAの分裂であり、TJ=Jである。λをTGSの固有値とし、∣λ∣≥1と仮定する。TGSz=λzを満たすz∈Cn∖{0}をとるとFz=λ(D−E)zであり、その第i成分は
λaiizi=−λj<i∑aijzj−j>i∑aijzjである。∣zi∣=maxj∣zj∣>0を満たすiをとると、∣λ∣≥1から
∣λ∣∣aii∣∣zi∣≤∣λ∣j<i∑∣aij∣∣zi∣+j>i∑∣aij∣∣zi∣≤∣λ∣j=i∑∣aij∣∣zi∣であり、∣aii∣≤∑j=i∣aij∣を得る。これは∣aii∣>∑j=i∣aij∣と両立しない。したがってTGSの固有値の絶対値はすべて1未満であり、ρ(TGS)<1である。
(2)を示す。Aは正定値であるから正則であり、aii=eiTAei>0である。AT=AからF=ETである。M:=ω−1D−Eと置くと
M+MT−A=2ω−1D−E−ET−(D−E−ET)=(2ω−1−1)Dである。0<ω<2から2ω−1−1>0であり、(2ω−1−1)Dは対角成分が正の対角行列であるから正定値である。補題 4.1によりρ(Tω)<1である。ω=1としてρ(TGS)<1である。
(3)を示す。ω−1D−Eは対角成分がω−1aiiの下三角行列、ω−1(1−ω)D+Fは対角成分がω−1(1−ω)aiiの上三角行列であるから、
detTω=det(ω−1D−E)det(ω−1(1−ω)D+F)=ω−n∏iaiiω−n(1−ω)n∏iaii=(1−ω)nである。Tωの固有値を重複度を込めてλ1,…,λnとするとdetTω=∏iλiであるから、∣1−ω∣n≤ρ(Tω)nであり、ρ(Tω)≥∣1−ω∣である。ρ(Tω)<1ならば∣1−ω∣<1であり、ωは実数であるから0<ω<2である。
(4)を示す。L:=D−1E、U:=D−1Fと置くと、TJ=L+U、TGS=(D−E)−1F=(I−L)−1Uである。I−Lは対角成分が1の下三角行列でありdet(I−L)=1であるから、任意のλ∈Cについて
det(λI−TGS)=det(I−L)det(λI−(I−L)−1U)=det(λI−λL−U)である。Aの仮定により、Lの0でない成分は(i,i−1)成分だけであり、Uの0でない成分は(i,i+1)成分だけである。α∈C∖{0}に対してSα:=diag(α,α2,…,αn)と置くと、SαLSα−1の(i,i−1)成分はαiα−(i−1)li,i−1=αli,i−1であるからSαLSα−1=αLであり、同様にSαUSα−1=α−1Uである。μ=0とし、λ:=μ2、α:=μ−1とすると
det(μ2I−μ2L−U)=det(Sα(μ2I−μ2L−U)Sα−1)=det(μ2I−μL−μU)=μndet(μI−TJ)であり、主張の等式が成り立つ。μ=0では、左辺はdet(−U)であり、Uは対角成分が0の上三角行列であるから0に等しく、右辺も0である。λ=0をTGSの固有値とし、μ2=λを満たすμ∈Cをとると、主張の等式によりdet(μI−TJ)=0であり、∣λ∣=∣μ∣2≤ρ(TJ)2である。固有値0もこの不等式を満たすから、ρ(TGS)≤ρ(TJ)2である。逆にμを∣μ∣=ρ(TJ)を満たすTJの固有値とすると、主張の等式によりμ2はTGSの固有値であり、ρ(TGS)≥ρ(TJ)2である。▨
例 4.3.
A:=13/43/43/413/43/43/41とする。v∈R3についてvTAv=41∑ivi2+43(∑ivi)2であるから、Aは実対称かつ正定値である。D=Iであり、TJ=I−AはTJ(1,1,1)T=−23(1,1,1)Tを満たすから、ρ(TJ)≥3/2である。det(μI−TJ)=μ3−1627μ+3227=(μ+23)(μ−43)2であり、ρ(TJ)=3/2である。x0−x∗=(1,1,1)Tならば、定理 3.1 (1)によりxk−x∗=(−3/2)k(1,1,1)Tであり、Jacobi 法の列は収束しない。Jacobi 法の分裂(I,I−A)ではM+MT−A=2I−Aであり、(1,1,1)(2I−A)(1,1,1)T=3(2−25)=−23<0であるから、補題 4.1の仮定は成り立たない。同じAの Gauss–Seidel 法では
TGS=000−3/49/169/64−3/4−3/1645/64,det(λI−TGS)=λ(λ2−6481λ+6427)である。二次式の判別式は(81/64)2−4⋅27/64=−351/4096<0であるから、二次式の二根は互いに共役であり、その絶対値の二乗は二根の積27/64に等しい。したがってρ(TGS)=33/8≈0.650である。
例 4.4.
A:=410141014,b:=565とするとx∗=A−1b=(1,1,1)Tである。Aは狭義行対角優位な三重対角行列であり、vTAv=3v12+2v22+3v32+(v1+v2)2+(v2+v3)2であるから実対称かつ正定値でもある。TJ=−41010101010であり、det(μI−TJ)=μ3−μ/8であるから、TJの固有値は0, ±2/4、ρ(TJ)=1/(22)≈0.354である。命題 4.2 (1)の上界はmax{1/4, 2/4, 1/4}=1/2である。命題 4.2 (4)によりdet(μ2I−TGS)=μ3(μ3−μ/8)であるから、det(λI−TGS)=λ2(λ−1/8)であり、ρ(TGS)=1/8=ρ(TJ)2である。x0:=0とし、ek:=xk−x∗と置く。Jacobi 法では
e0=−1−1−1,e1=1/41/21/4,e2=−1/8−1/8−1/8=81e0であるから、ek+2=TJke2=ek/8=ρ(TJ)2ekである。∥ek∥∞はk=0,…,5で1, 1/2, 1/8, 1/16, 1/64, 1/128である。
Gauss–Seidel 法では
e1=1/43/16−3/64,e2=−3/643/128−3/512,e3=−3/5123/1024−3/4096=81e2である。Cayley–Hamilton の定理によりTGS2(TGS−I/8)=0であるから、任意のx0とk≥2についてek+1−ek/8=TGSk−2(TGS−I/8)TGS2e0=0であり、e2は固有値1/8の固有ベクトルである。∥ek∥∞はk=0,…,4で1, 1/4, 3/64, 3/512, 3/4096である。
5 二階差分の三重対角行列
命題 5.1.n∈N≥1とし、An∈Rn×nを、対角成分が2、(i,i+1)成分と(i+1,i)成分(1≤i≤n−1)が−1、その他の成分が0の行列とする。
- v∈Rnに対してv0:=vn+1:=0と置くと、vTAnv=∑j=0n(vj+1−vj)2が成り立つ。Anは実対称かつ正定値である。
- 1≤k≤nについてs(k):=(sin(jkπ/(n+1)))j=1n∈Rnと置くと、s(k)=0であり
Ans(k)=λks(k),λk:=2−2cosn+1kπ=4sin22(n+1)kπ
が成り立つ。0<λ1<λ2<⋯<λn<4であり、λ1,…,λnはAnの固有値のすべてである。
証明.(1)を示す。vTAnv=2∑j=1nvj2−2∑j=1n−1vjvj+1である。一方、v0=vn+1=0から
j=0∑n(vj+1−vj)2=j=0∑nvj+12+j=0∑nvj2−2j=0∑nvjvj+1=2j=1∑nvj2−2j=1∑n−1vjvj+1であり、等式が成り立つ。右辺が0ならばvj+1=vj(0≤j≤n)であり、v0=0からv=0である。したがってAnは正定値である。
(2)を示す。θ:=kπ/(n+1)、sj:=sin(jθ)(0≤j≤n+1)と置くと、s0=0、sn+1=sin(kπ)=0であるから、1≤j≤nについて(Ans(k))j=−sj−1+2sj−sj+1である。加法定理によりsj−1+sj+1=2sjcosθであるから、(Ans(k))j=(2−2cosθ)sjであり、2−2cosθ=4sin2(θ/2)である。0<θ<πからs1=sinθ>0であり、s(k)=0である。θはkについて狭義増加で(0,π)に属し、cosは(0,π)で狭義減少であるから、λkはkについて狭義増加で(0,4)に属する。Anは相異なるn個の固有値λ1,…,λnをもつから、これらがAnの固有値のすべてである。▨
命題 5.2.n∈N≥1とし、Anを命題 5.1の行列、TJとTGSをAnの Jacobi 法と Gauss–Seidel 法の反復行列とする。
- ρ(TJ)=cos(π/(n+1))、ρ(TGS)=cos2(π/(n+1))である。
- 1−ρ(TJ)≤π2/(2(n+1)2)、1−ρ(TGS)≤π2/(n+1)2であり、n→∞のとき
(n+1)2(−logρ(TJ))→2π2,(n+1)2(−logρ(TGS))→π2
である(左辺はn≥2で定まる)。
- n≥2、0<θ<1とし、T∈{TJ,TGS}とする。0<ρ(T)<1であり、次が成り立つ。Rnの任意のノルム∥⋅∥について、整数k≥0が任意のe∈Rnに対して∥Tke∥≤θ∥e∥を満たすならば、k≥logθ/logρ(T)である。ρ(T)+ε<1を満たす任意のε>0に対してCnのノルム∥⋅∥が存在して、k≥logθ/log(ρ(T)+ε)を満たす任意の整数kと任意のe∈Cnについて∥Tke∥≤θ∥e∥である。さらにlogρ(TGS)=2logρ(TJ)である。
証明.(1)を示す。命題 5.1 (1)によりAnは正則であり、対角成分は2であるから、TJとTGSは定まる。D=2I、E+F=2I−AnであるからTJ=I−An/2であり、命題 5.1 (2)によりTJの固有値は1−λk/2=cos(kπ/(n+1))(1≤k≤n)のすべてである。1≤k≤nならばπ/(n+1)≤kπ/(n+1)≤π−π/(n+1)であるから∣cos(kπ/(n+1))∣≤cos(π/(n+1))であり、k=1で等号が成り立つ。したがってρ(TJ)=cos(π/(n+1))である。Anは三重対角であるから、命題 4.2 (4)によりρ(TGS)=cos2(π/(n+1))である。
(2)の証明は演習とする(問題 6.1)。
(3)を示す。n≥2から0<π/(n+1)<π/2であり、(1)により0<ρ(T)<1である。T=TJならば、s(1)はTJs(1)=ρ(TJ)s(1)を満たす。T=TGSならば、μ:=ρ(TJ)はTJの固有値であるから、命題 4.2 (4)の等式によりdet(ρ(TGS)I−TGS)=0であり、実行列ρ(TGS)I−TGSの核はRnの0でない元を含む。いずれの場合も、e∈Rn∖{0}が存在してTke=ρ(T)ke(k≥0)である。∥Tke∥≤θ∥e∥ならばρ(T)k≤θであり、logρ(T)<0からk≥logθ/logρ(T)である。ε>0がρ(T)+ε<1を満たすとし、補題 2.1 (2)によりSをとると、∥Tke∥S≤(ρ(T)+ε)k∥e∥Sである。k≥logθ/log(ρ(T)+ε)ならば(ρ(T)+ε)k≤θである。最後の等式は(1)による。▨
例 5.3.命題 5.2 (3)でθ=10−6とする。下表は、1−ρ(T)と、反復数の下界logθ/logρ(T)以上の最小の整数を、倍精度の浮動小数点計算で求めた値である(1−ρは有効数字4桁に丸めた)。
| n |
1−ρ(TJ) |
1−ρ(TGS) |
Jacobi 法の下界 |
Gauss–Seidel 法の下界 |
| 9 |
4.894×10−2 |
9.549×10−2 |
276 |
138 |
| 99 |
4.934×10−4 |
9.866×10−4 |
27992 |
13996 |
| 999 |
4.935×10−6 |
9.870×10−6 |
2799604 |
1399802 |
n+1を10倍にすると、1−ρはおよそ1/100倍になり、下界はおよそ100倍になる。表の各nで、Gauss–Seidel 法の下界は Jacobi 法の下界の半分である。π2/2≈4.935であり、(n+1)2(1−ρ(TJ))はn=9,99,999で4.894, 4.934, 4.935である。
6 演習
解答.
h:=π/(n+1)と置くと、命題 5.2 (1)により1−ρ(TJ)=1−cosh、1−ρ(TGS)=1−cos2h=sin2hである。t≥0についてsint=∫0tcossds≤tであるから、1−cosh=∫0hsintdt≤h2/2であり、sin2h≤h2である。これで二つの不等式が成り立つ。1−cosh=2sin2(h/2)であるから
(n+1)2(1−cosh)=2π2(h/2sin(h/2))2,(n+1)2sin2h=π2(hsinh)2であり、n→∞のときh→+0、sint/t→1(t→+0)であるから、二つの量はそれぞれπ2/2とπ2に収束する。n≥2では0<ρ(TJ)<1であり、x:=1−ρ(TJ)∈(0,1)と置くと
(n+1)2(−logρ(TJ))=x−log(1−x)⋅(n+1)2xである。n→∞のときx→+0であり、logの1における微分係数が1であることから−log(1−x)/x→1である。したがって左辺はπ2/2に収束する。命題 5.2 (1)により−logρ(TGS)=−2logρ(TJ)であるから、(n+1)2(−logρ(TGS))→π2である。▨