1 正弦と正接による不等式
はじめに、角とその正弦・正接の大小を確かめます。
定理 1.1 (sinθ<θ<tanθ).0<θ<2πを満たすすべてのθについて
sinθ<θ<tanθが成り立つ。
証明. 原点Oを中心とする半径1の円をとり、A(1,0)、B(cosθ,sinθ)と置きます。さらに、点Aにおける円の接線と、半直線OBとの交点をTと置きます。0<θ<2πなので、この交点は定まり、T(1,tanθ)です。
三角形OABは扇形OABに含まれ、扇形OABは三角形OATに含まれます。0<θ<2πでは、扇形は三角形OABに含まれない部分を持ち、三角形OATは扇形に含まれない部分を持つので、面積の大小に等号は起こりません。三つの図形の面積は
△OAB=21sinθ,扇形 OAB=21θ,△OAT=21tanθなので、21sinθ<21θ<21tanθとなり、2を掛けて結論を得ます。▨
この不等式を逆数にして2乗すると、θ21がtan2θ1によって上下から押さえられます。上からの評価には、sin2θ1をtan2θ1で書き直す等式を用います。
定理 1.2 (θ21の上下からの評価).0<θ<2πを満たすすべてのθについて
tan2θ1 < θ21 < 1+tan2θ1が成り立つ。
証明.0<θ<2πではsinθ>0、θ>0、tanθ>0です。定理 1.1の三つの数はいずれも正なので、逆数をとると大小が逆になり
tanθ1<θ1<sinθ1です。三つとも正なので、2乗しても大小は変わらずtan2θ1<θ21<sin2θ1です。
sin2θ+cos2θ=1の両辺をsin2θで割ると
sin2θ1=1+sin2θcos2θ=1+tan2θ1なので、右側の不等式はθ21<1+tan2θ1となります。▨
2 正接の逆数の2乗の和を与える恒等式
次に、tan2θ1の値を、角を等分した有限個の点で足し合わせた和を求めます。和を直接計算するのではなく、これらの値がすべて一つのn次方程式の解になることを示し、解と係数の関係から和を読み取ります。
定理 2.1 (正接の逆数の2乗の和).nを正の整数とし、θk=2n+1kπ(k=1,2,…,n)と置く。このとき
k=1∑ntan2θk1=3n(2n−1)が成り立つ。
証明.m=2n+1と置きます。sinθ=0を満たす実数θをとります。ド・モアブルの定理により(cosθ+isinθ)m=cosmθ+isinmθであり、二項定理により
(cosθ+isinθ)m=r=0∑m(rm)cosm−rθ(isinθ)rです。irはrが偶数のとき実数、奇数のとき純虚数なので、両辺の虚部を比べると、rが奇数の項だけが残ります。r=2j+1と書くとi2j+1=(−1)jiであり、m=2n+1なのでjは0からnまでを動きます。したがって
sinmθ=j=0∑n(−1)j(2j+12n+1)cos2n−2jθsin2j+1θです。ここでm−r=(2n+1)−(2j+1)=2n−2jを用いました。
両辺をsin2n+1θで割ります。sinθ=0なので割ることができて、t=tan2θ1=sin2θcos2θと置くと
sin2n+1θsinmθ=j=0∑n(−1)j(2j+12n+1)tn−jとなります。右辺をP(t)と書きます。Pはtについてのn次多項式であり、tnの係数は(12n+1)=2n+1、tn−1の係数は−(32n+1)です。
kを1以上n以下の整数とします。θk=2n+1kπは0<θk≤2n+1nπ<2πを満たすのでsinθk=0であり、上の等式をθ=θkについて用いることができます。mθk=kπなのでsinmθk=0であり、tk=tan2θk1と置くとP(tk)=0です。
tanは0<θ<2πで正かつ単調増加なので、θ1<θ2<⋯<θnからt1>t2>⋯>tnとなり、t1,…,tnは相異なります。Pはn次なので零点は多くともn個であり、いま相異なる零点をn個見つけたので、これがPの零点のすべてです。
n次方程式P(t)=0の解と係数の関係により
k=1∑ntk=−(12n+1)−(32n+1)=2n+1(32n+1)です。(32n+1)=6(2n+1)(2n)(2n−1)なので、右辺は62n(2n−1)=3n(2n−1)となり、結論を得ます。▨
例 2.2 (n=2の場合).n=2のときθ1=5π、θ2=52πであり、定理 2.1の右辺は32⋅3=2です。左辺を小数で計算するとtan5π=0.7265…、tan52π=3.0776…から
0.7265…21+3.0776…21=1.8944⋯+0.1055⋯=2.0000…となり、一致します。n=1のときはθ1=3πでtan2(π/3)1=31であり、右辺の31⋅1に一致します。
3 部分和を挟んで極限を取る
定理 1.2をθ=θkについて用い、k=1からk=nまで足し合わせます。θk21=k2π2(2n+1)2なので、真ん中に平方数の逆数の部分和が現れます。
定理 3.1 (部分和の上下からの評価).nを正の整数とし、Sn=k=1∑nk21と置く。このとき
3(2n+1)2π2n(2n−1) < Sn < 3(2n+1)2π2⋅2n(n+1)が成り立つ。
証明.kを1以上n以下の整数とすると、定理 2.1の証明で確かめたとおり0<θk<2πです。定理 1.2により
tan2θk1 < θk21 < 1+tan2θk1です。k=1からk=nまで足し合わせ、定理 2.1を用いると
3n(2n−1) < k=1∑nθk21 < n+3n(2n−1)です。右端は33n+2n2−n=32n2+2n=32n(n+1)です。
θk=2n+1kπなのでθk21=π2k2(2n+1)2であり、k=1∑nθk21=π2(2n+1)2Snです。三つの辺に(2n+1)2π2 (>0)を掛けると、不等号の向きを変えずに結論を得ます。▨
証明.定理 3.1の左辺と右辺の極限を計算します。分子と分母をn2で割ると
(2n+1)2n(2n−1)=4+n4+n212−n1 ⟶ 42=21,(2n+1)22n(n+1)=4+n4+n212+n2 ⟶ 21です。したがって左辺は3π2⋅21=6π2へ、右辺も6π2へ収束します。はさみうちの原理により、数列{Sn}は収束し、その極限は6π2です。級数の和は部分和の数列の極限として定めるので、結論を得ます。▨
例 3.3 (n=2による評価).n=2のとき、定理 3.1は
252π2 < 1+41 < 254π2すなわち0.7895⋯<1.25<1.5791…を与えます。nを大きくすると上下の評価はいずれも6π2=1.6449…へ近づきます。この不等式は部分和Snを挟むものであり、nを固定したときの左右の値は6π2そのものの評価ではありません。