§C4.2有理関数の積分と部分分数分解

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多項式を多項式で割った形の関数を有理関数といいます。有理関数の不定積分は、多項式、対数関数、逆正接関数、および有理関数の組み合わせとして必ず書き表されます。分母を実数の範囲で因数分解し、分数を細かい項へ分けてしまえば、残るのはこの四つの積分だけになるからです。本記事は、その分け方と、分け方が分母の因数の重なり方によってどう変わるのかを扱います。

手順は、次の四つの段からなります。積分の計算そのもの、すなわち置換積分と部分積分は「微積分」が扱い、本記事はそれらを用います。

  1. 分子の次数が分母の次数以上であれば、割り算をして分子の次数を下げます。
  2. 分母を、実数を係数とする1次式と、実数の範囲でこれ以上分解することができない2次式との積へ分解します。
  3. 分数を、分母の因数ごとの項の和へ分けます(部分分数分解)。
  4. 各項を積分します。

この四つの段には順序があります。段1を飛ばすと、段3の分解を満たす係数が存在しません。段2で得た因数の重なり方が、段3で置く項の個数と分子の形を決めます。そして段3で得た各項の分母の形が、段4の積分が対数型と逆正接型のどちらになるかを決めます。以下では、段ごとに何が根拠になっているのかを確かめます。

1 分子の次数を下げる

部分分数分解は、分子の次数が分母の次数より低い場合についての操作です。そうでない場合は、先に多項式の割り算をして、この条件を満たす形へ直します。

定理 1.1 (多項式の割り算による分離).ff、ggを実数を係数とする多項式とし、ggは零多項式でないとする。このとき、

f(x)=q(x)g(x)+r(x)f(x) = q(x)g(x) + r(x)

を満たし、rrが零多項式であるか、またはrrの次数がggの次数より低いような多項式qq、rrがただ一組定まる。したがって、g(x)≠0g(x) \ne 0を満たすxxについて

f(x)g(x)=q(x)+r(x)g(x)\frac{f(x)}{g(x)} = q(x) + \frac{r(x)}{g(x)}

が成り立つ。

多項式の割り算とその一意性は「数と式の計算」が扱います。本記事はこの事実を認めて用います。分離したあとのq(x)q(x)は多項式なので、その積分は多項式の積分です。

例 1.2 (割り算による分離).x3x2+1\dfrac{x^3}{x^2+1}では、分子の次数が33、分母の次数が22なので、先に割り算をします。x3=x(x2+1)−xx^3 = x(x^2+1) - xなので

x3x2+1=x−xx2+1\frac{x^3}{x^2+1} = x - \frac{x}{x^2+1}

です。第2項の分子の次数は11であり、分母の次数22より低くなっています。

2 分母を実数の範囲で因数分解する

次に分母を因数分解します。ここで、どの範囲の係数で分解するのかを決めておく必要があります。本記事では、実数を係数とする範囲で分解します。

定義 2.1 (実数の範囲で既約な2次式). 実数pp、qqについて、2次式x2+px+qx^2+px+qの判別式p2−4qp^2-4qが負であるとき、この2次式は実数を係数とする1次式の積に分解することができない。このような2次式を、本記事では既約な2次式という。判別式が負であることから、既約な2次式はすべての実数xxについてx2+px+q>0x^2+px+q > 0を満たす。

定理 2.2 (実数を係数とする多項式の分解). 実数を係数とする1次以上の多項式は、00でない実数の定数と、実数を係数とする1次式および既約な2次式との積として書き表すことができる。1次式だけの積になる場合と、既約な2次式だけの積になる場合も含む。

この定理は「数と式の計算」が扱います。本記事は認めて用います。この定理により、分母は

c(x−a1)k1⋯(x−ar)kr(x2+p1x+q1)l1⋯(x2+psx+qs)lsc(x-a_1)^{k_1}\cdots(x-a_r)^{k_r}(x^2+p_1x+q_1)^{l_1}\cdots(x^2+p_sx+q_s)^{l_s}

の形に書き表されます。ここでccは00でない実数、a1,…,ara_1, \dots, a_rは相異なる実数、x2+pix+qix^2+p_ix+q_iは相異なる既約な2次式、kik_iとlil_iは正の整数です。

3 部分分数分解の形は因数の重なり方で決まる

分母の因数分解が得られたら、分数を項ごとに分けます。分けたあとの形は、分母の各因数が何乗で現れるかによって変わります。

定理 3.1 (部分分数分解).ff、ggを実数を係数とする多項式とし、ffの次数はggの次数より低いとする。ggが上の形に分解されているとき、g(x)≠0g(x) \ne 0を満たすすべてのxxについて

f(x)g(x)=∑i=1r∑j=1kiAij(x−ai)j+∑i=1s∑j=1liBijx+Cij(x2+pix+qi)j\frac{f(x)}{g(x)} = \sum_{i=1}^{r}\sum_{j=1}^{k_i} \frac{A_{ij}}{(x-a_i)^j} + \sum_{i=1}^{s}\sum_{j=1}^{l_i} \frac{B_{ij}x+C_{ij}}{(x^2+p_ix+q_i)^j}

を満たす実数AijA_{ij}、BijB_{ij}、CijC_{ij}が、ただ一通りに定まる。

本記事は、この分解が存在することと、係数がただ一通りに定まることを認めて用います。係数は、両辺にg(x)g(x)を掛けて分母を払い、両辺の同じ次数の係数を比べるか、xxへ具体的な値を代入して求めます。

注意 3.2 (因数の重なり方によって項の個数と分子の形が変わる). 上の定理の右辺について、次の三つを取り違えない。

  1. 1次式x−ax-aがkk乗で現れるとき、対応する項はA1x−a\dfrac{A_1}{x-a}からAk(x−a)k\dfrac{A_k}{(x-a)^k}までのkk個である。Ak(x−a)k\dfrac{A_k}{(x-a)^k}の1個だけでは足りない。
  2. 既約な2次式に対応する項の分子は、定数ではなく1次式Bx+CBx+Cである。分子を定数と置くと、一般には等式を満たす係数が存在しない。
  3. 2次式が既約でない場合、すなわち判別式が00以上の場合には、その2次式を1次式の積へ分解してから項に分ける。既約でない2次式を分母に残したまま分子を1次式と置くと、分解が一通りに定まらない。

例 3.3 (係数を求める).1(x−1)(x+1)2\dfrac{1}{(x-1)(x+1)^2}を分解します。分母は1次式x−1x-1が1乗、1次式x+1x+1が2乗で現れるので、

1(x−1)(x+1)2=Ax−1+Bx+1+C(x+1)2\frac{1}{(x-1)(x+1)^2} = \frac{A}{x-1} + \frac{B}{x+1} + \frac{C}{(x+1)^2}

と置きます。両辺に(x−1)(x+1)2(x-1)(x+1)^2を掛けると

1=A(x+1)2+B(x−1)(x+1)+C(x−1)1 = A(x+1)^2 + B(x-1)(x+1) + C(x-1)

です。この等式はx≠1x \ne 1、x≠−1x \ne -1を満たすすべてのxxについて成り立ち、両辺は多項式なので、すべての実数xxについて成り立ちます。x=1x=1を代入して1=4A1 = 4A、すなわちA=14A = \dfrac{1}{4}、x=−1x=-1を代入して1=−2C1 = -2C、すなわちC=−12C = -\dfrac{1}{2}を得ます。x2x^2の係数を比べると0=A+B0 = A+BなのでB=−14B = -\dfrac{1}{4}です。

4 各項の積分は対数型と逆正接型に分かれる

部分分数分解によって現れる項は、分母が1次式のべきであるものと、分母が既約な2次式のべきであるものの2種類です。前者は対数関数と有理関数、後者は対数関数と逆正接関数へ帰着します。逆正接関数の記法を定めておきます。

定義 4.1 (逆正接関数). 実数uuに対し、−π2<θ<π2-\dfrac{\pi}{2} < \theta < \dfrac{\pi}{2}かつtan⁡θ=u\tan\theta = uを満たす実数θ\thetaがただ一つ定まる。このθ\thetaをarctan⁡u\arctan uと書き、uuにarctan⁡u\arctan uを対応させる関数を逆正接関数という。定義域はすべての実数であり、値域は−π2<θ<π2-\dfrac{\pi}{2} < \theta < \dfrac{\pi}{2}である。

公式 4.2 (部分分数分解に現れる項の原始関数).aaを実数、kkを22以上の整数とし、x2+px+qx^2+px+qを既約な2次式、r=4q−p22r = \dfrac{\sqrt{4q-p^2}}{2}とする。分母が00にならない区間の上で、次が成り立つ(CCは積分定数)。

∫dxx−a=log⁡∣x−a∣+C\int \frac{dx}{x-a} = \log|x-a| + C∫dx(x−a)k=−1(k−1)(x−a)k−1+C\int \frac{dx}{(x-a)^k} = -\frac{1}{(k-1)(x-a)^{k-1}} + C∫2x+px2+px+q dx=log⁡(x2+px+q)+C\int \frac{2x+p}{x^2+px+q}\,dx = \log(x^2+px+q) + C∫dxx2+px+q=1rarctan⁡x+p2r+C\int \frac{dx}{x^2+px+q} = \frac{1}{r}\arctan\frac{x+\frac{p}{2}}{r} + C

証明. はじめの二つは、右辺を微分すると左辺の被積分関数に戻ることから従います。x−ax-aが負になる区間ではlog⁡∣x−a∣=log⁡(a−x)\log|x-a| = \log(a-x)であり、これを微分すると−1a−x=1x−a\dfrac{-1}{a-x} = \dfrac{1}{x-a}です。

三つ目は、x2+px+qx^2+px+qの導関数が2x+p2x+pであることから、t=x2+px+qt = x^2+px+qと置く置換積分で従います。定義 2.1によりx2+px+q>0x^2+px+q > 0なので、対数の中に絶対値は要りません。

四つ目を示します。既約な2次式について4q−p2>04q-p^2 > 0なのでr>0r > 0であり、平方完成によって

x2+px+q=(x+p2)2+r2x^2+px+q = \left(x+\frac{p}{2}\right)^2 + r^2

です。x+p2=rtan⁡θx + \dfrac{p}{2} = r\tan\theta、ただし−π2<θ<π2-\dfrac{\pi}{2} < \theta < \dfrac{\pi}{2}と置くと、dx=rcos⁡2θ dθdx = \dfrac{r}{\cos^2\theta}\,d\thetaであり、分母はr2(tan⁡2θ+1)=r2cos⁡2θr^2\left(\tan^2\theta+1\right) = \dfrac{r^2}{\cos^2\theta}です。したがって

∫dxx2+px+q=∫cos⁡2θr2⋅rcos⁡2θ dθ=1r∫dθ=θr+C\int \frac{dx}{x^2+px+q} = \int \frac{\cos^2\theta}{r^2}\cdot\frac{r}{\cos^2\theta}\,d\theta = \frac{1}{r}\int d\theta = \frac{\theta}{r} + C

となり、θ=arctan⁡x+p2r\theta = \arctan\dfrac{x+\frac{p}{2}}{r}を戻して結論を得ます。▨

分母が既約な2次式である項の分子は、一般には1次式です。この場合には、分子を分母の導関数の定数倍と定数との和に分けます。どちらの型の積分になるかは、この分け方で決まります。

注意 4.3 (対数型と逆正接型への分岐). 分子の1次式Bx+CBx+Cは

Bx+C=B2(2x+p)+(C−Bp2)Bx+C = \frac{B}{2}(2x+p) + \left(C - \frac{Bp}{2}\right)

と書き直すことができる。第1項は分母の導関数の定数倍なので対数型の積分を与え、第2項は定数なので逆正接型の積分を与える。すなわち、

∫Bx+Cx2+px+q dx=B2log⁡(x2+px+q)+1r(C−Bp2)arctan⁡x+p2r+(積分定数)\int \frac{Bx+C}{x^2+px+q}\,dx = \frac{B}{2}\log(x^2+px+q) + \frac{1}{r}\left(C-\frac{Bp}{2}\right)\arctan\frac{x+\frac{p}{2}}{r} + \text{(積分定数)}

である。B=0B=0のときは逆正接型だけ、C=Bp2C = \dfrac{Bp}{2}のときは対数型だけが残る。

5 通して計算する

四つの段を続けて実行します。

例 5.1 (分母が1次式と既約な2次式の積である場合).∫01x2+x+1(x+1)(x2+1) dx\displaystyle\int_0^1 \frac{x^2+x+1}{(x+1)(x^2+1)}\,dxを求めます。

分子の次数は22、分母の次数は33なので、段1の割り算は要りません。分母はすでに1次式x+1x+1と 2次式x2+1x^2+1の積であり、x2+1x^2+1の判別式は−4-4で負なので既約です。そこで

x2+x+1(x+1)(x2+1)=Ax+1+Bx+Cx2+1\frac{x^2+x+1}{(x+1)(x^2+1)} = \frac{A}{x+1} + \frac{Bx+C}{x^2+1}

と置きます。両辺に(x+1)(x2+1)(x+1)(x^2+1)を掛けると

x2+x+1=A(x2+1)+(Bx+C)(x+1)x^2+x+1 = A(x^2+1) + (Bx+C)(x+1)

です。x=−1x=-1を代入して1=2A1 = 2A、すなわちA=12A = \dfrac{1}{2}を得ます。x2x^2の係数を比べて1=A+B1 = A+BからB=12B = \dfrac{1}{2}、定数項を比べて1=A+C1 = A+CからC=12C = \dfrac{1}{2}です。したがって

x2+x+1(x+1)(x2+1)=12(1x+1+xx2+1+1x2+1)\frac{x^2+x+1}{(x+1)(x^2+1)} = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{x+1} + \frac{x}{x^2+1} + \frac{1}{x^2+1}\right)

です。積分区間0≤x≤10 \le x \le 1にはx+1=0x+1=0となる点もx2+1=0x^2+1=0となる点もありません。公式 4.2をp=0p=0、q=1q=1、r=1r=1として用いると

∫01x2+x+1(x+1)(x2+1) dx=12[log⁡(x+1)+12log⁡(x2+1)+arctan⁡x]01\int_0^1 \frac{x^2+x+1}{(x+1)(x^2+1)}\,dx = \frac{1}{2}\left[\log(x+1) + \frac{1}{2}\log(x^2+1) + \arctan x\right]_0^1

であり、x=1x=1での値はlog⁡2+12log⁡2+π4\log 2 + \dfrac{1}{2}\log 2 + \dfrac{\pi}{4}、x=0x=0での値は00なので、求める値は34log⁡2+π8\dfrac{3}{4}\log 2 + \dfrac{\pi}{8}です。

注意 5.2 (積分区間が分母の零点を含んではならない). 有理関数は、分母が00になるxxでは定義されない。したがって定積分を計算するときは、積分区間がそのような点を含まないことを先に確かめる。たとえば∫02dxx−1\displaystyle\int_0^2 \frac{dx}{x-1}は、被積分関数がx=1x=1で定義されないので、原始関数の両端での値の差として計算することができない。不定積分log⁡∣x−1∣+C\log|x-1| + Cも、x<1x<1の区間とx>1x>1の区間とで別々に定まる関数であり、二つの区間にまたがる一つの原始関数ではない。積分区間の端で分母が00になる場合の積分の値をどう定めるか、およびその積分が値をもつかどうかの判定は、本単元では扱わない。

注意 5.3 (本記事が扱う範囲). 本記事は、既約な2次式が分母に1乗で現れる場合を扱う。既約な2次式が2乗以上で現れる場合も定理 3.1の形の分解が得られるが、そこに現れる∫dx(x2+px+q)j\displaystyle\int \frac{dx}{(x^2+px+q)^j}の計算には、jjを1つ下げる漸化式が要る。漸化式を作ってから初項を計算するという手順そのものは、「ウォリス積分と積分の漸化式」が扱う。

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