1 分子の次数を下げる
部分分数分解は、分子の次数が分母の次数より低い場合についての操作です。そうでない場合は、先に多項式の割り算をして、この条件を満たす形へ直します。
定理 1.1 (多項式の割り算による分離).f、gを実数を係数とする多項式とし、gは零多項式でないとする。このとき、
f(x)=q(x)g(x)+r(x)を満たし、rが零多項式であるか、またはrの次数がgの次数より低いような多項式q、rがただ一組定まる。したがって、g(x)=0を満たすxについて
g(x)f(x)=q(x)+g(x)r(x)が成り立つ。
多項式の割り算とその一意性は「数と式の計算」が扱います。本記事はこの事実を認めて用います。分離したあとのq(x)は多項式なので、その積分は多項式の積分です。
例 1.2 (割り算による分離).x2+1x3では、分子の次数が3、分母の次数が2なので、先に割り算をします。x3=x(x2+1)−xなので
x2+1x3=x−x2+1xです。第2項の分子の次数は1であり、分母の次数2より低くなっています。
2 分母を実数の範囲で因数分解する
次に分母を因数分解します。ここで、どの範囲の係数で分解するのかを決めておく必要があります。本記事では、実数を係数とする範囲で分解します。
定義 2.1 (実数の範囲で既約な2次式). 実数p、qについて、2次式x2+px+qの判別式p2−4qが負であるとき、この2次式は実数を係数とする1次式の積に分解することができない。このような2次式を、本記事では既約な2次式という。判別式が負であることから、既約な2次式はすべての実数xについてx2+px+q>0を満たす。
定理 2.2 (実数を係数とする多項式の分解). 実数を係数とする1次以上の多項式は、0でない実数の定数と、実数を係数とする1次式および既約な2次式との積として書き表すことができる。1次式だけの積になる場合と、既約な2次式だけの積になる場合も含む。
この定理は「数と式の計算」が扱います。本記事は認めて用います。この定理により、分母は
c(x−a1)k1⋯(x−ar)kr(x2+p1x+q1)l1⋯(x2+psx+qs)ls
の形に書き表されます。ここでcは0でない実数、a1,…,arは相異なる実数、x2+pix+qiは相異なる既約な2次式、kiとliは正の整数です。
3 部分分数分解の形は因数の重なり方で決まる
分母の因数分解が得られたら、分数を項ごとに分けます。分けたあとの形は、分母の各因数が何乗で現れるかによって変わります。
定理 3.1 (部分分数分解).f、gを実数を係数とする多項式とし、fの次数はgの次数より低いとする。gが上の形に分解されているとき、g(x)=0を満たすすべてのxについて
g(x)f(x)=i=1∑rj=1∑ki(x−ai)jAij+i=1∑sj=1∑li(x2+pix+qi)jBijx+Cijを満たす実数Aij、Bij、Cijが、ただ一通りに定まる。
本記事は、この分解が存在することと、係数がただ一通りに定まることを認めて用います。係数は、両辺にg(x)を掛けて分母を払い、両辺の同じ次数の係数を比べるか、xへ具体的な値を代入して求めます。
例 3.3 (係数を求める).(x−1)(x+1)21を分解します。分母は1次式x−1が1乗、1次式x+1が2乗で現れるので、
(x−1)(x+1)21=x−1A+x+1B+(x+1)2Cと置きます。両辺に(x−1)(x+1)2を掛けると
1=A(x+1)2+B(x−1)(x+1)+C(x−1)です。この等式はx=1、x=−1を満たすすべてのxについて成り立ち、両辺は多項式なので、すべての実数xについて成り立ちます。x=1を代入して1=4A、すなわちA=41、x=−1を代入して1=−2C、すなわちC=−21を得ます。x2の係数を比べると0=A+BなのでB=−41です。
4 各項の積分は対数型と逆正接型に分かれる
部分分数分解によって現れる項は、分母が1次式のべきであるものと、分母が既約な2次式のべきであるものの2種類です。前者は対数関数と有理関数、後者は対数関数と逆正接関数へ帰着します。逆正接関数の記法を定めておきます。
定義 4.1 (逆正接関数). 実数uに対し、−2π<θ<2πかつtanθ=uを満たす実数θがただ一つ定まる。このθをarctanuと書き、uにarctanuを対応させる関数を逆正接関数という。定義域はすべての実数であり、値域は−2π<θ<2πである。
証明. はじめの二つは、右辺を微分すると左辺の被積分関数に戻ることから従います。x−aが負になる区間ではlog∣x−a∣=log(a−x)であり、これを微分するとa−x−1=x−a1です。
三つ目は、x2+px+qの導関数が2x+pであることから、t=x2+px+qと置く置換積分で従います。定義 2.1によりx2+px+q>0なので、対数の中に絶対値は要りません。
四つ目を示します。既約な2次式について4q−p2>0なのでr>0であり、平方完成によって
x2+px+q=(x+2p)2+r2です。x+2p=rtanθ、ただし−2π<θ<2πと置くと、dx=cos2θrdθであり、分母はr2(tan2θ+1)=cos2θr2です。したがって
∫x2+px+qdx=∫r2cos2θ⋅cos2θrdθ=r1∫dθ=rθ+Cとなり、θ=arctanrx+2pを戻して結論を得ます。▨
分母が既約な2次式である項の分子は、一般には1次式です。この場合には、分子を分母の導関数の定数倍と定数との和に分けます。どちらの型の積分になるかは、この分け方で決まります。
注意 4.3 (対数型と逆正接型への分岐). 分子の1次式Bx+Cは
Bx+C=2B(2x+p)+(C−2Bp)と書き直すことができる。第1項は分母の導関数の定数倍なので対数型の積分を与え、第2項は定数なので逆正接型の積分を与える。すなわち、
∫x2+px+qBx+Cdx=2Blog(x2+px+q)+r1(C−2Bp)arctanrx+2p+(積分定数)である。B=0のときは逆正接型だけ、C=2Bpのときは対数型だけが残る。
5 通して計算する
四つの段を続けて実行します。
例 5.1 (分母が1次式と既約な2次式の積である場合).∫01(x+1)(x2+1)x2+x+1dxを求めます。
分子の次数は2、分母の次数は3なので、段1の割り算は要りません。分母はすでに1次式x+1と
2次式x2+1の積であり、x2+1の判別式は−4で負なので既約です。そこで
(x+1)(x2+1)x2+x+1=x+1A+x2+1Bx+Cと置きます。両辺に(x+1)(x2+1)を掛けると
x2+x+1=A(x2+1)+(Bx+C)(x+1)です。x=−1を代入して1=2A、すなわちA=21を得ます。x2の係数を比べて1=A+BからB=21、定数項を比べて1=A+CからC=21です。したがって
(x+1)(x2+1)x2+x+1=21(x+11+x2+1x+x2+11)です。積分区間0≤x≤1にはx+1=0となる点もx2+1=0となる点もありません。公式 4.2をp=0、q=1、r=1として用いると
∫01(x+1)(x2+1)x2+x+1dx=21[log(x+1)+21log(x2+1)+arctanx]01であり、x=1での値はlog2+21log2+4π、x=0での値は0なので、求める値は43log2+8πです。
注意 5.2 (積分区間が分母の零点を含んではならない). 有理関数は、分母が0になるxでは定義されない。したがって定積分を計算するときは、積分区間がそのような点を含まないことを先に確かめる。たとえば∫02x−1dxは、被積分関数がx=1で定義されないので、原始関数の両端での値の差として計算することができない。不定積分log∣x−1∣+Cも、x<1の区間とx>1の区間とで別々に定まる関数であり、二つの区間にまたがる一つの原始関数ではない。積分区間の端で分母が0になる場合の積分の値をどう定めるか、およびその積分が値をもつかどうかの判定は、本単元では扱わない。
注意 5.3 (本記事が扱う範囲). 本記事は、既約な2次式が分母に1乗で現れる場合を扱う。既約な2次式が2乗以上で現れる場合も定理 3.1の形の分解が得られるが、そこに現れる∫(x2+px+q)jdxの計算には、jを1つ下げる漸化式が要る。漸化式を作ってから初項を計算するという手順そのものは、「ウォリス積分と積分の漸化式」が扱う。