§C4.9和と積分の比較

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log⁡(n!)=log⁡1+log⁡2+⋯+log⁡n\log(n!) = \log 1 + \log 2 + \cdots + \log nや、調和級数の部分和Hn=1+12+⋯+1nH_n = 1 + \dfrac12 + \cdots + \dfrac1nのように、項の個数がnnに応じて増える和は、nnを大きくしたときの大きさをそのままでは読み取ることができません。一方、∫1nlog⁡x dx\displaystyle\int_1^n \log x\,dxや∫1ndxx\displaystyle\int_1^n \dfrac{dx}{x}は、原始関数によって値が閉じた形で出ます。

この二つを結ぶのが、関数が広義単調であることです。関数が広義単調であれば、幅11の区間の上での積分と、その区間の端における関数の値との大小が定まります。区間ごとの大小を足し合わせると、和を積分で上下から挟む不等式が得られます。本記事は、その不等式を作り、階乗の対数と調和級数の大きさを対数によって評価し、最後に、調和級数と対数の差が一つの値へ収束することを示します。

定積分の計算と対数関数の積分そのものは「微積分」が、級数の和を部分和の極限として定める枠組みは「数列と極限」が扱い、本記事はそれらを用います。

1 広義単調な関数について和を積分で挟む

不等号の向きは、関数が広義単調増加であるか広義単調減少であるかで入れ替わります。二つの場合を分けて述べます。以下では、f(x)≥f(y)f(x) \ge f(y)がx≤yx \le yから従うことを広義単調減少、f(x)≤f(y)f(x)\le f(y)がx≤yx \le yから従うことを広義単調増加といいます。いずれも等号を許す言い方です。

定理 1.1 (広義単調減少な関数についての評価).nnを正の整数とし、ffは閉区間[1,n+1][1,n+1]で連続、かつ広義単調減少であるとする。このとき

∫1n+1f(x) dx ≤ ∑k=1nf(k) ≤ f(1)+∫1nf(x) dx\int_1^{n+1} f(x)\,dx \ \le\ \sum_{k=1}^{n} f(k) \ \le\ f(1) + \int_1^{n} f(x)\,dx

が成り立つ。

証明. 左側を示します。kkを11以上nn以下の整数とします。k≤x≤k+1k \le x \le k+1ではffが広義単調減少なのでf(x)≤f(k)f(x) \le f(k)です。この区間の長さは11なので

∫kk+1f(x) dx ≤ f(k)\int_k^{k+1} f(x)\,dx \ \le\ f(k)

です。k=1k=1からk=nk=nまで足し合わせると、左辺の和は∫1n+1f(x) dx\displaystyle\int_1^{n+1}f(x)\,dxになるので、左側の不等式を得ます。

右側を示します。kkを22以上nn以下の整数とします。k−1≤x≤kk-1 \le x \le kではf(x)≥f(k)f(x) \ge f(k)なので

∫k−1kf(x) dx ≥ f(k)\int_{k-1}^{k} f(x)\,dx \ \ge\ f(k)

です。k=2k=2からk=nk=nまで足し合わせると∫1nf(x) dx≥∑k=2nf(k)\displaystyle\int_1^{n} f(x)\,dx \ge \sum_{k=2}^{n} f(k)となります。両辺にf(1)f(1)を足すと、右側の不等式を得ます。n=1n=1のときは足し合わせる項が無く、∫11f(x) dx=0\displaystyle\int_1^1 f(x)\,dx = 0、右辺の和も00なので、この不等式は成り立ちます。▨

広義単調増加の場合は、区間の上での大小がすべて逆になるので、結論の不等号もすべて逆になります。

定理 1.2 (広義単調増加な関数についての評価).nnを正の整数とし、ffは閉区間[1,n+1][1,n+1]で連続、かつ広義単調増加であるとする。このとき

f(1)+∫1nf(x) dx ≤ ∑k=1nf(k) ≤ ∫1n+1f(x) dxf(1) + \int_1^{n} f(x)\,dx \ \le\ \sum_{k=1}^{n} f(k) \ \le\ \int_1^{n+1} f(x)\,dx

が成り立つ。

証明.kkを11以上nn以下の整数とすると、k≤x≤k+1k \le x \le k+1ではf(x)≥f(k)f(x) \ge f(k)なので∫kk+1f(x) dx≥f(k)\displaystyle\int_k^{k+1} f(x)\,dx \ge f(k)です。k=1k=1からk=nk=nまで足し合わせると、右側の不等式を得ます。

kkを22以上nn以下の整数とすると、k−1≤x≤kk-1 \le x \le kではf(x)≤f(k)f(x) \le f(k)なので∫k−1kf(x) dx≤f(k)\displaystyle\int_{k-1}^{k} f(x)\,dx \le f(k)です。k=2k=2からk=nk=nまで足し合わせると∫1nf(x) dx≤∑k=2nf(k)\displaystyle\int_1^{n} f(x)\,dx \le \sum_{k=2}^{n}f(k)となり、両辺にf(1)f(1)を足すと左側の不等式を得ます。▨

注意 1.3 (不等号の向きは広義単調性の向きで決まる).定理 1.1と定理 1.2は、不等号の向きだけが違う。向きを確かめるには、区間[k,k+1][k,k+1]の上で、長方形の高さにとったf(k)f(k)が関数の値より上にあるか下にあるかを見る。広義単調減少ならばf(k)f(k)はその区間で最大の値なので、長方形の面積は積分より大きい。広義単調増加ならばf(k)f(k)はその区間で最小の値なので、長方形の面積は積分より小さい。向きを取り違えると、以下の評価はすべて逆向きの結論を与える。

2 階乗の対数

log⁡(n!)\log(n!)はlog⁡x\log xの整数における値の和です。log⁡x\log xはx>0x>0で狭義単調増加であり、とくに広義単調増加なので、定理 1.2を用います。

公式 2.1 (階乗の対数の評価).nnを正の整数とする。このとき

nlog⁡n−n+1 ≤ log⁡(n!) ≤ (n+1)log⁡(n+1)−nn\log n - n + 1 \ \le\ \log(n!) \ \le\ (n+1)\log(n+1) - n

が成り立つ。指数をとると

e(ne)n ≤ n! ≤ (n+1)(n+1e)ne\left(\frac{n}{e}\right)^{n} \ \le\ n! \ \le\ (n+1)\left(\frac{n+1}{e}\right)^{n}

である。

証明.f(x)=log⁡xf(x) = \log xと置きます。ffはx>0x>0で連続であり、f′(x)=1x>0f'(x)=\dfrac1x>0なので狭義単調増加であり、とくに広義単調増加です。∑k=1nlog⁡k=log⁡(n!)\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\log k = \log(n!)なので、定理 1.2を用いることができます。

log⁡x\log xの原始関数の一つはxlog⁡x−xx\log x - xなので

∫1nlog⁡x dx=[xlog⁡x−x]1n=nlog⁡n−n+1\int_1^{n}\log x\,dx = \Bigl[x\log x - x\Bigr]_1^{n} = n\log n - n + 1∫1n+1log⁡x dx=[xlog⁡x−x]1n+1=(n+1)log⁡(n+1)−(n+1)+1=(n+1)log⁡(n+1)−n\int_1^{n+1}\log x\,dx = \Bigl[x\log x - x\Bigr]_1^{n+1} = (n+1)\log(n+1) - (n+1) + 1 = (n+1)\log(n+1) - n

です。f(1)=log⁡1=0f(1)=\log 1 = 0なので、定理 1.2は

nlog⁡n−n+1 ≤ log⁡(n!) ≤ (n+1)log⁡(n+1)−nn\log n - n + 1 \ \le\ \log(n!) \ \le\ (n+1)\log(n+1) - n

を与えます。指数関数は狭義単調増加なので、三つの数へeeを底とする指数をとっても大小は変わりません。enlog⁡n−n+1=nne−ne=e(ne)ne^{n\log n - n + 1} = n^{n}e^{-n}e = e\left(\dfrac{n}{e}\right)^{n}、e(n+1)log⁡(n+1)−n=(n+1)n+1e−n=(n+1)(n+1e)ne^{(n+1)\log(n+1)-n} = (n+1)^{n+1}e^{-n} = (n+1)\left(\dfrac{n+1}{e}\right)^{n}です。▨

例 2.2 (n=10n=10の場合).10!=362880010! = 3628800です。公式 2.1の下からの評価はe(10e)10=1010e9e\left(\dfrac{10}{e}\right)^{10} = \dfrac{10^{10}}{e^{9}}、上からの評価は11(11e)10=1111e1011\left(\dfrac{11}{e}\right)^{10} = \dfrac{11^{11}}{e^{10}}です。e9=8103.0…e^{9} = 8103.0\dots、e10=22026.4…e^{10}=22026.4\dots、1111=28531167061111^{11} = 285311670611を用いると

1.23×106 ≤ 3.6288×106 ≤ 1.30×1071.23\times10^{6} \ \le\ 3.6288\times10^{6} \ \le\ 1.30\times10^{7}

となり、不等式が成り立っていることを確かめることができます。上下の比はおよそ1010倍であり、値の桁を定めるところまでは届きますが、有効数字を定めるには足りません。

注意 2.3 (階乗の精密な近似は本単元では扱わない).公式 2.1の上下の評価の比は、nnを大きくしても11に近づかない。n!n!を2πn(ne)n\sqrt{2\pi n}\left(\dfrac{n}{e}\right)^{n}と比べたときの比が11へ収束するという精密な近似は「ε-論法と基礎解析」が扱う。本記事は、和を積分で挟むという一つの手順から得られる範囲までを扱う。

3 調和級数の大きさ

Hn=∑k=1n1kH_n = \displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac1kは1x\dfrac1xの整数における値の和です。1x\dfrac1xはx>0x>0で狭義単調減少であり、とくに広義単調減少なので、こんどは定理 1.1を用います。

公式 3.1 (調和級数の部分和の評価).nnを正の整数とする。このとき

log⁡(n+1) ≤ Hn ≤ 1+log⁡n\log(n+1) \ \le\ H_n \ \le\ 1 + \log n

が成り立つ。

証明.f(x)=1xf(x)=\dfrac1xと置きます。ffはx>0x>0で連続であり、1≤x≤y1 \le x \le yならば1x≥1y\dfrac1x \ge \dfrac1yなので広義単調減少です。∫1mdxx=[log⁡x]1m=log⁡m\displaystyle\int_1^{m}\frac{dx}{x} = \Bigl[\log x\Bigr]_1^{m} = \log mなので、定理 1.1は

log⁡(n+1) ≤ ∑k=1n1k ≤ 1+log⁡n\log(n+1) \ \le\ \sum_{k=1}^{n}\frac1k \ \le\ 1 + \log n

を与えます。ここでf(1)=1f(1)=1を用いました。▨

注意 3.2 (部分和は対数と同じ速さで大きくなる).公式 3.1により、HnH_nはlog⁡(n+1)\log(n+1)以上である。log⁡(n+1)\log(n+1)はnnを大きくすると限りなく大きくなるので、HnH_nも限りなく大きくなる。調和級数が発散すること自体は「数列と極限」が扱う。本記事が示したのは、発散する速さが対数と同じ程度であること、すなわちHnH_nがlog⁡n\log nと1+log⁡n1+\log nの間に収まることである。HnH_nが100100を超えるには、1+log⁡n≥1001+\log n \ge 100すなわちn≥e99n \ge e^{99}が必要である。

4 調和級数と対数の差

公式 3.1は、Hn−log⁡nH_n - \log nが00と11の間にあることを述べています。この差がnnを大きくしたときに一つの値へ近づくかどうかは、この不等式だけでは分かりません。差の数列が広義単調であることを示すと、収束することが従います。

定理 4.1 (差が収束すること).an=Hn−log⁡na_n = H_n - \log n(nnは正の整数)と置く。数列{an}\{a_n\}は広義単調減少であり、すべてのnnについて0<an≤10 < a_n \le 1である。したがって{an}\{a_n\}は収束する。

証明. まず範囲を示します。公式 3.1によりan=Hn−log⁡n≥log⁡(n+1)−log⁡n=log⁡n+1n>0a_n = H_n - \log n \ge \log(n+1)-\log n = \log\dfrac{n+1}{n} > 0であり、an≤(1+log⁡n)−log⁡n=1a_n \le (1+\log n)-\log n = 1です。

次に広義単調減少を示します。

an+1−an=1n+1−(log⁡(n+1)−log⁡n)=1n+1−∫nn+1dxxa_{n+1}-a_n = \frac{1}{n+1} - \bigl(\log(n+1)-\log n\bigr) = \frac{1}{n+1} - \int_n^{n+1}\frac{dx}{x}

です。n≤x≤n+1n \le x \le n+1では1x≥1n+1\dfrac1x \ge \dfrac{1}{n+1}であり、この区間の長さは11なので∫nn+1dxx≥1n+1\displaystyle\int_n^{n+1}\frac{dx}{x} \ge \frac{1}{n+1}です。したがってan+1−an≤0a_{n+1}-a_n \le 0であり、{an}\{a_n\}は広義単調減少です。

広義単調減少で下に有界な数列が収束することを用いると、{an}\{a_n\}は収束します。▨

注意 4.2 (収束の根拠として用いたもの). 上の証明は、広義単調減少で下に有界な数列が収束することを認めて用いた。この事実は実数の連続性から従うものであり、その証明は「ε-論法と基礎解析」が扱う。本記事は、数列が広義単調であることと有界であることを示すところまでを担う。

極限の値をγ\gammaと書きます。広義単調減少であることから、各ana_nはγ\gammaの上からの評価になります。下からの評価は、差の減り方を足し合わせて得られます。

定理 4.3 (極限の値の範囲).γ=lim⁡n→∞an\gamma = \displaystyle\lim_{n\to\infty} a_nと置く。すべての正の整数nnについて

an−1n ≤ γ ≤ ana_n - \frac1n \ \le\ \gamma \ \le\ a_n

が成り立つ。

証明.{an}\{a_n\}は広義単調減少なので、m≥nm \ge nならばam≤ana_m \le a_nであり、極限をとるとγ≤an\gamma \le a_nです。

下からの評価を示します。mmを正の整数とすると、上の証明のとおりam−am+1=∫mm+1dxx−1m+1a_m - a_{m+1} = \displaystyle\int_m^{m+1}\frac{dx}{x} - \frac{1}{m+1}です。m≤x≤m+1m \le x \le m+1では1x≤1m\dfrac1x \le \dfrac1mなので∫mm+1dxx≤1m\displaystyle\int_m^{m+1}\frac{dx}{x} \le \frac1mであり、

am−am+1 ≤ 1m−1m+1a_m - a_{m+1} \ \le\ \frac1m - \frac{1}{m+1}

です。N>nN > nをとり、m=nm=nからm=N−1m=N-1まで足し合わせると、右辺は途中が打ち消し合って

an−aN ≤ 1n−1N ≤ 1na_n - a_N \ \le\ \frac1n - \frac1N \ \le\ \frac1n

となります。N→∞N \to \inftyとするとaN→γa_N \to \gammaなのでan−γ≤1na_n - \gamma \le \dfrac1n、すなわちan−1n≤γa_n - \dfrac1n \le \gammaです。▨

例 4.4 (n=10n=10による評価).H10=1+12+⋯+110=73812520=2.9289…H_{10} = 1+\dfrac12+\cdots+\dfrac1{10} = \dfrac{7381}{2520} = 2.9289\dotsであり、log⁡10=2.3025…\log 10 = 2.3025\dotsなのでa10=0.6263…a_{10} = 0.6263\dotsです。定理 4.3をn=10n=10について用いると

0.526 ≤ γ ≤ 0.6270.526 \ \le\ \gamma \ \le\ 0.627

です。幅は110\dfrac{1}{10}であり、小数第1位を定めるところまでしか届きません。この方法で小数第dd位まで定めるにはnnを10d10^{d}程度にとる必要があり、収束は速くありません。

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