§C4.17ライプニッツ級数と打ち切りの誤差

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奇数の逆数を符号を交互に変えて足し合わせた級数

1−13+15−17+19−⋯1 - \frac13 + \frac15 - \frac17 + \frac19 - \cdots

の値はπ4\dfrac{\pi}{4}です。この等式は、11+x2\dfrac{1}{1+x^2}を有限項の等比の和と剰余に分け、両辺を00から11まで積分することで得られます。等比の和を積分した部分が奇数の逆数の交代和になり、剰余を積分した部分が誤差になります。

本記事の主題は、等式そのものと同じだけ、有限項で打ち切ったときの誤差にあります。剰余を積分の形で残しておくと、誤差の大きさと符号の両方を読み取ることができます。誤差は、打ち切った直後の 1項の絶対値で上から押さえられ、その半分で下から押さえられます。この二つの評価から、誤差が項数にほぼ反比例して減ること、すなわち収束が遅いことが従います。

定積分の計算と置換積分そのものは「微積分」が、等比数列の和の公式は「数と式の計算」が、級数の和を部分和の極限として定める枠組みは「数列と極限」が扱い、本記事はそれらを用います。

1 有限項の等比の和と剰余に分ける

無限級数へ移る前に、有限項の和と剰余に分けます。剰余を捨てずに残すことが、後で誤差を押さえるための準備になります。

定理 1.1 (有限項の等比の和と剰余).NNを正の整数とする。すべての実数xxについて

11+x2=∑j=0N−1(−1)jx2j+(−1)Nx2N1+x2\frac{1}{1+x^2} = \sum_{j=0}^{N-1}(-1)^j x^{2j} + \frac{(-1)^N x^{2N}}{1+x^2}

が成り立つ。

証明.∑j=0N−1(−1)jx2j=∑j=0N−1(−x2)j\displaystyle\sum_{j=0}^{N-1}(-1)^j x^{2j} = \sum_{j=0}^{N-1}(-x^2)^jは、初項11、公比−x2-x^2、項数NNの等比数列の和です。すべての実数xxについて−x2≤0<1-x^2 \le 0 < 1なので公比は11と異なり、和の公式を用いることができて

∑j=0N−1(−x2)j=1−(−x2)N1−(−x2)=1−(−1)Nx2N1+x2\sum_{j=0}^{N-1}(-x^2)^j = \frac{1-(-x^2)^N}{1-(-x^2)} = \frac{1-(-1)^N x^{2N}}{1+x^2}

です。したがって

11+x2−∑j=0N−1(−1)jx2j=1−(1−(−1)Nx2N)1+x2=(−1)Nx2N1+x2\frac{1}{1+x^2} - \sum_{j=0}^{N-1}(-1)^j x^{2j} = \frac{1 - \bigl(1-(-1)^N x^{2N}\bigr)}{1+x^2} = \frac{(-1)^N x^{2N}}{1+x^2}

となり、移項して結論を得ます。▨

2 両辺を積分する

分けた等式を00から11まで積分します。左辺の積分がπ4\dfrac{\pi}{4}になります。

定理 2.1 (円周率を与える定積分).

∫01dx1+x2=π4\int_0^1 \frac{dx}{1+x^2} = \frac{\pi}{4}

が成り立つ。

証明.x=tan⁡θx=\tan\thetaと置きます。0≤θ≤π40 \le \theta \le \dfrac{\pi}{4}の範囲ではtan⁡θ\tan\thetaは単調増加でcos⁡θ≠0\cos\theta\ne0であり、θ=0\theta=0のときx=0x=0、θ=π4\theta=\dfrac{\pi}{4}のときx=1x=1です。dxdθ=1cos⁡2θ\dfrac{dx}{d\theta}=\dfrac{1}{\cos^2\theta}と1+x2=1cos⁡2θ1+x^2 = \dfrac{1}{\cos^2\theta}から

∫01dx1+x2=∫0π/4cos⁡2θ⋅1cos⁡2θ dθ=∫0π/41 dθ=π4\int_0^1\frac{dx}{1+x^2} = \int_0^{\pi/4}\cos^2\theta\cdot\frac{1}{\cos^2\theta}\,d\theta = \int_0^{\pi/4}1\,d\theta = \frac{\pi}{4}

です。▨

右辺の等比の和の部分は、1項ずつ積分することができます。残る剰余の積分に記号を与えます。

定義 2.2 (部分和と剰余の積分).NNを正の整数とし

SN=∑j=0N−1(−1)j2j+1=1−13+15−⋯+(−1)N−12N−1,RN=∫01x2N1+x2 dxS_N = \sum_{j=0}^{N-1}\frac{(-1)^j}{2j+1} = 1 - \frac13 + \frac15 - \cdots + \frac{(-1)^{N-1}}{2N-1}, \qquad R_N = \int_0^1 \frac{x^{2N}}{1+x^2}\,dx

と置く。SNS_Nを第NN項までの部分和、RNR_Nを剰余の積分という。SNS_Nの項数はNNであり、最後の項の分母は2N−12N-1である。

定理 2.3 (部分和と剰余による表示).NNを正の整数とする。このとき

π4=SN+(−1)NRN\frac{\pi}{4} = S_N + (-1)^N R_N

が成り立つ。

証明.定理 1.1の両辺は[0,1][0,1]で連続なので、00から11まで積分することができます。左辺の積分は定理 2.1によりπ4\dfrac{\pi}{4}です。右辺の第1項は有限個の項の和なので、項ごとに積分することができて

∫01∑j=0N−1(−1)jx2j dx=∑j=0N−1(−1)j⋅12j+1=SN\int_0^1\sum_{j=0}^{N-1}(-1)^j x^{2j}\,dx = \sum_{j=0}^{N-1}(-1)^j\cdot\frac{1}{2j+1} = S_N

です。右辺の第2項の積分は(−1)NRN(-1)^N R_Nです。▨

3 打ち切りの誤差

定理 2.3は、π4\dfrac{\pi}{4}と部分和SNS_Nの差が(−1)NRN(-1)^N R_Nであることを述べています。誤差の大きさはRNR_N、符号は(−1)N(-1)^Nです。RNR_Nの被積分関数は分母が11以上22以下なので、分子だけの積分と、その半分とで挟まれます。

定理 3.1 (剰余の積分の評価).NNを正の整数とする。このとき

12(2N+1) < RN < 12N+1\frac{1}{2(2N+1)} \ <\ R_N \ <\ \frac{1}{2N+1}

が成り立つ。

証明.0<x<10<x<1では0<x2<10 < x^2 < 1なので1<1+x2<21 < 1+x^2 < 2であり、x2N>0x^{2N}>0から

x2N2 < x2N1+x2 < x2N\frac{x^{2N}}{2} \ <\ \frac{x^{2N}}{1+x^2} \ <\ x^{2N}

です。三つはいずれも[0,1][0,1]で連続であり、区間の内部にあたる0<x<10<x<1の全体で真の大小があるので、00から11まで積分した値にも真の大小があります。∫01x2N dx=12N+1\displaystyle\int_0^1 x^{2N}\,dx = \frac{1}{2N+1}なので、結論を得ます。▨

公式 3.2 (打ち切りの誤差).NNを正の整数とする。第NN項までで打ち切ったときの誤差について

12(2N+1) < ∣π4−SN∣ < 12N+1\frac{1}{2(2N+1)} \ <\ \left|\frac{\pi}{4}-S_N\right| \ <\ \frac{1}{2N+1}

が成り立つ。上からの評価12N+1\dfrac{1}{2N+1}は、打ち切った直後の項(−1)N2N+1\dfrac{(-1)^{N}}{2N+1}の絶対値である。さらに、π4−SN\dfrac{\pi}{4}-S_Nの符号は(−1)N(-1)^Nと同じであり、NNが偶数ならばSN<π4S_N < \dfrac{\pi}{4}、NNが奇数ならばSN>π4S_N > \dfrac{\pi}{4}である。

証明.定理 2.3によりπ4−SN=(−1)NRN\dfrac{\pi}{4}-S_N = (-1)^N R_Nです。RNR_Nは正の関数の定積分なのでRN>0R_N>0であり、∣π4−SN∣=RN\left|\dfrac{\pi}{4}-S_N\right| = R_Nです。大きさの評価は定理 3.1そのものです。符号については、RN>0R_N>0なので(−1)NRN(-1)^N R_Nの符号は(−1)N(-1)^Nと同じです。▨

公式 3.3 (ライプニッツ級数).

∑j=0∞(−1)j2j+1=1−13+15−17+⋯=π4\sum_{j=0}^{\infty}\frac{(-1)^j}{2j+1} = 1-\frac13+\frac15-\frac17+\cdots = \frac{\pi}{4}

が成り立つ。

証明.公式 3.2により∣π4−SN∣<12N+1\left|\dfrac{\pi}{4}-S_N\right| < \dfrac{1}{2N+1}です。NNを限りなく大きくすると12N+1\dfrac{1}{2N+1}は00へ近づくので、∣π4−SN∣\left|\dfrac{\pi}{4}-S_N\right|も00へ近づきます。したがって部分和の数列{SN}\{S_N\}はπ4\dfrac{\pi}{4}へ収束します。級数の和は部分和の数列の極限として定めるので、結論を得ます。▨

例 3.4 (項数を変えたときの誤差).π4=0.78539…\dfrac{\pi}{4} = 0.78539\dotsです。

N=1N=1のときS1=1S_1 = 1で、誤差は0.21460…0.21460\dotsです。公式 3.2の評価は16=0.1666…\dfrac16 = 0.1666\dotsと13=0.3333…\dfrac13=0.3333\dotsであり、その間に収まっています。N=1N=1は奇数なのでS1>π4S_1 > \dfrac{\pi}{4}です。

N=5N=5のときS5=1−13+15−17+19=0.83492…S_5 = 1-\dfrac13+\dfrac15-\dfrac17+\dfrac19 = 0.83492\dotsで、誤差は0.04952…0.04952\dotsです。評価は122=0.04545…\dfrac{1}{22}=0.04545\dotsと111=0.09090…\dfrac{1}{11}=0.09090\dotsです。

N=6N=6のときS6=S5−111=0.74401…S_6 = S_5 - \dfrac{1}{11} = 0.74401\dotsで、誤差は0.04138…0.04138\dotsです。N=6N=6は偶数なのでS6<π4S_6 < \dfrac{\pi}{4}であり、S6<π4<S5S_6 < \dfrac{\pi}{4} < S_5となって、連続する二つの部分和がπ4\dfrac{\pi}{4}を挟みます。

注意 3.5 (収束が遅いこと).公式 3.2の上下の評価は、いずれもNNにほぼ反比例する。したがって誤差も項数にほぼ反比例して減り、項数を1010倍にしても誤差はおよそ110\dfrac{1}{10}にしかならない。

上からの評価により、N=1000N=1000とすれば誤差は12001<5×10−4\dfrac{1}{2001} < 5\times10^{-4}である。一方、下からの評価により、誤差が5×10−45\times10^{-4}より小さいためには12(2N+1)<5×10−4\dfrac{1}{2(2N+1)} < 5\times10^{-4}すなわちN≥500N \ge 500が必要である。同じ計算により、誤差を10−610^{-6}より小さくするには、NNが少なくとも250000250000必要であり、N=500000N=500000ととれば足りる。

注意 3.6 (本記事が扱う範囲). 本記事は、公式 3.3の級数と、その部分和の誤差を扱う。同じ定理 2.1を出発点として、π\piの値が入る範囲を有理数によって定める側は「円周率の値の評価」が扱う。同記事は、収束の速い別の挟み方も比べる。

符号が交互に変わる級数について、項の絶対値が単調に00へ近づけば収束するという一般の判定法は、本記事では用いていない。本記事は剰余を積分の形で残し、その積分を直接評価した。一般の判定法とその証明は「ε-論法と基礎解析」が扱う。

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