1 区間の両端の和から引く置き換え
置換積分では、置き換えに用いる関数によって積分区間が別の区間へ移ります。ところが、xをa+b−xへ移す置き換えは、区間[a,b]をそれ自身へ移します。x=aがx=bへ、x=bがx=aへ移り、区間の内部の点は区間の内部へ移るからです。区間が変わらないので、置き換えの前後で積分区間が共通になり、二つの積分を足し合わせることができます。
定理 1.1 (積分区間の反転).fを閉区間[a,b]で連続な関数とする。このとき
∫abf(x)dx=∫abf(a+b−x)dxが成り立つ。
証明. 右辺でu=a+b−xと置く。uはxについて微分可能でdxdu=−1であり、x=aのときu=b、x=bのときu=aである。置換積分により
∫abf(a+b−x)dx=∫baf(u)⋅(−1)du=∫abf(u)duとなる。最後の等式では、積分区間の上端と下端を入れ替えると符号が変わることを用いた。積分変数の名前は積分の値に効かないので、右端は∫abf(x)dxに等しく、結論を得る。▨
2 もとの積分と足し合わせる
定理 1.1の二つの積分は値が等しいので、求める値をIと置くと
2I=∫ab{f(x)+f(a+b−x)}dx
が成り立ちます。この右辺の被積分関数が簡単な形になるとき、Iの値が定まります。どの区間をとるかは、この和が簡単になるように選びます。fがsinやcosを含む場合には、a+bが2π、π、2πのいずれかになるように区間を見るのが手がかりになります。これらの値では、sin(a+b−x)とcos(a+b−x)がsinxとcosxで書き直されるからです。
例 2.1 (べきの比の積分).nを正の整数とし、
I=∫0π/2sinnx+cosnxsinnxdxを求める。0≤x≤2πではsinx≥0かつcosx≥0であり、両方が同時に0になることはないので、分母は正である。したがって被積分関数はこの区間で連続である。
a=0、b=2πなのでa+b−x=2π−xであり、sin(2π−x)=cosx、cos(2π−x)=sinxである。定理 1.1により
I=∫0π/2cosnx+sinnxcosnxdxである。二つの表示を足すと、被積分関数の和は1になるので
2I=∫0π/21dx=2π,I=4πである。nが大きいとき、この被積分関数の原始関数を求めることは容易ではないが、積分の値はnによらず4πである。
3 積分変数が1次の重みとして掛かっている場合
被積分関数が「xの1次式」と「反転で変わらない関数」との積である場合には、反転によってxの部分だけが変わり、もとの積分がふたたび現れます。
定理 3.1 (反転で変わらない関数にxが掛かる場合).gを閉区間[a,b]で連続な関数とし、[a,b]のすべてのxについてg(a+b−x)=g(x)が成り立つとする。このとき
∫abxg(x)dx=2a+b∫abg(x)dxが成り立つ。
証明.I=∫abxg(x)dxと置く。定理 1.1を関数x↦xg(x)へ適用すると
I=∫ab(a+b−x)g(a+b−x)dx=∫ab(a+b−x)g(x)dxである。二つ目の等号では、仮定g(a+b−x)=g(x)を用いた。右端を二つに分けると
I=(a+b)∫abg(x)dx−∫abxg(x)dx=(a+b)∫abg(x)dx−Iなので、2I=(a+b)∫abg(x)dxとなり、結論を得る。▨
[a,b]=[0,π]とg(x)=f(sinx)の組は、この定理の仮定を満たす代表的な場合です。
証明.g(x)=f(sinx)と置く。0≤x≤πのとき0≤sinx≤1なので、gは[0,π]で連続である。a=0、b=πなのでa+b−x=π−xであり、sin(π−x)=sinxからg(π−x)=f(sin(π−x))=f(sinx)=g(x)が成り立つ。定理 3.1を2a+b=2πとして用いると結論を得る。▨
例 3.3 (∫0π1+cos2xxsinxdx).cos2x=1−sin2xにより
1+cos2xsinx=2−sin2xsinx=f(sinx),f(u)=2−u2uである。0≤u≤1では2−u2≥1>0なので、fは[0,1]で連続である。公式 3.2により
∫0π1+cos2xxsinxdx=2π∫0π1+cos2xsinxdxである。右辺の積分でu=cosxと置くとdu=−sinxdxであり、x=0のときu=1、x=πのときu=−1なので
∫0π1+cos2xsinxdx=∫−111+u2du=[arctanu]−11=4π−(−4π)=2πである。ここでarctanuは、−2π<θ<2πかつtanθ=uを満たす実数θを表す。したがって求める値は2π⋅2π=4π2である。
なお、公式 3.2の右辺は、区間をx=2πで分けて後半へx↦π−xの置き換えを行うと2∫0π/2f(sinx)dxに等しいことが分かります。∫0π/2sinnxdxの形の積分の値は、「ウォリス積分と積分の漸化式」が扱います。