1 定義と積分の絶対連続性
定義 1.1 (絶対連続関数).a<bを実数、K∈{R,C}、d∈N≥1とする。関数F:[a,b]→Kdが絶対連続 (absolutely continuous) であるとは、任意のε>0に対して、あるδ>0が存在し、a≤sj<tj≤bを満たし、内部が互いに交わらない有限個の部分区間[sj,tj]が
j=1∑m(tj−sj)<δを満たすならば、
j=1∑m∥F(tj)−F(sj)∥<εが成り立つことをいう。ノルムは Euclid ノルムとする。絶対連続関数全体をAC([a,b];Kd)と書く。
I⊆Rを内部が空でない区間とする。関数F:I→Kdが局所絶対連続 (locally absolutely continuous) であるとは、任意の有限閉区間[a,b]⊆Iへの制限が絶対連続であることをいう。その全体をACloc(I;Kd)と書く。端点を含む区間Iに対しても、Lloc1(I;Kd)は任意の有限閉区間[a,b]⊆I上でノルムが可積分な可測関数を、ほとんど至る所の一致で同一視して定める。
補題 1.2.a<b、K∈{R,C}、d∈N≥1とする。次が成り立つ。
- F∈AC([a,b];Kd)は一様連続である。
- F,G∈AC([a,b];Kd)、α,β∈Kならば、αF+βGは絶対連続である。
- F:[a,b]→Kdが絶対連続であるための必要十分条件は、すべての実座標成分が絶対連続であることである。K=Cの場合は各成分の実部と虚部を実座標成分とする。
- F:[a,b]→Kdが Lipschitz 連続ならば、Fは絶対連続である。
証明. 絶対連続性の条件を一つの区間[s,t]に適用すると、∣t−s∣<δから∥F(t)−F(s)∥<εが従う。従って(1)が成り立つ。
任意の有限区間族に対して
j∑∥α(F(tj)−F(sj))+β(G(tj)−G(sj))∥≤∣α∣j∑∥F(tj)−F(sj)∥+∣β∣j∑∥G(tj)−G(sj)∥である。F,Gのそれぞれにε/(2(1+∣α∣+∣β∣))を用いて得る二つのδの小さい方を取ると、右辺はε未満となる。(2)を得る。
実座標の数をNとすると、任意のz∈Kdについて、各実座標の絶対値は∥z∥以下であり、∥z∥は実座標の絶対値の和以下である。前者からFの絶対連続性は各実座標成分の絶対連続性を含意する。逆に、各実座標成分の絶対連続性にε/Nを適用し、得られた有限個のδの最小値を取ると、後者の評価からFは絶対連続である。(3)が従う。
L≥0がFの Lipschitz 定数ならば、増分のノルムの和はL∑j(tj−sj)以下である。δ=ε/(1+L)とすれば(4)を得る。▨
補題 1.3.a<b、K∈{R,C}、d∈N≥1、g∈L1([a,b];Kd)とする。次が成り立つ。
- 任意のε>0に対して、あるδ>0が存在し、任意の Lebesgue 可測集合E⊆[a,b]について、λ1(E)<δならば∫E∥g(t)∥dt<εとなる。
- 任意の Lebesgue 可測集合E⊆[a,b]について、∥∫Eg(t)dt∥≤∫E∥g(t)∥dtである。
- c∈Kdとすると、F(t)=c+∫atg(s)dsは[a,b]上で絶対連続である。
証明. 有限値の代表元gを取り、q(t)=∥g(t)∥とおく。関数列q1{q>n}は零へ点ごとに収束し、可積分関数qに支配される。§E9.7 定理 3.2により、M∈N≥1を十分大きく取ると
∫{q>M}q(t)dt<2εとなる。δ=ε/(2M)とすれば、λ1(E)<δに対して
∫Eq≤Mλ1(E)+∫{q>M}q<εであり、(1)を得る。
z=∫Eg(t)dtとおく。z=0ならば(2)は成り立つ。z=0ならば、u=z/∥z∥とし、積分の線形性§E9.6 定理 3.2を使うと
∥z∥=Rek=1∑dukzk=∫ERek=1∑dukgk(t)dt≤∫E∥g(t)∥dtとなる。最後の不等式は Cauchy–Schwarz の不等式と∥u∥=1による。実数値の場合も共役をそのまま除いて同じ等式を得る。
内部が互いに交わらない[sj,tj]⊆[a,b]に対して、積分の加法性と(2)から
j∑∥F(tj)−F(sj)∥≤j∑∫sjtj∥g(t)∥dt=∫⋃j[sj,tj]∥g(t)∥dtである。共有する端点は零集合なので最後の等式を妨げない。和集合の測度は区間の長さの和に等しいため、(1)を適用して(3)を得る。▨
2 変動と積分表示
定義 2.1 (全変動).a<bとし、F:[a,b]→Rを関数とする。a≤s<t≤bに対して、[s,t]上のFの全変動 (total variation) を
Var(F;[s,t])=s=x0<x1<⋯<xn=tsupk=1∑n∣F(xk)−F(xk−1)∣によって定める。上限はすべての有限分割について取る。Var(F;[s,s])=0とする。Var(F;[a,b])<∞であるとき、Fは有界変動 (of bounded variation) であるという。
補題 2.2.a<b、F∈AC([a,b];R)とする。関数
V(t)=Var(F;[a,t])(a≤t≤b)は有限値で絶対連続であり、任意のa≤s≤t≤bに対して
V(t)−V(s)=Var(F;[s,t])≥∣F(t)−F(s)∣を満たす。さらに、
P(t)=2V(t)+F(t)−F(a),Q(t)=2V(t)−F(t)+F(a)は単調非減少な絶対連続関数であり、P(a)=Q(a)=0、F(t)=F(a)+P(t)−Q(t)が成り立つ。
証明.Fの絶対連続性にε=1を用いて得るδ>0を取り、[a,b]を長さがすべてδ未満のm個の閉区間に分割する。任意の有限分割へこのm個の区間の端点を加えると、三角不等式により増分の絶対値の和は減少しない。加えた分割の各小区間を、固定したm個の区間ごとに集める。各集合の区間の長さの和はδ未満なので、対応する増分の絶対値の和は1未満である。従って任意の有限分割の和はm以下であり、Var(F;[a,b])≤m<∞となる。
a≤u<v<w≤bとする。[u,w]の任意の分割へvを加えると、増分の和は[u,v]上の全変動と[v,w]上の全変動の和以下である。上限を取ると
Var(F;[u,w])≤Var(F;[u,v])+Var(F;[v,w])を得る。逆に、任意のη>0に対して、二つの区間の全変動をそれぞれ誤差η/2未満で近似する有限分割を取り、併合する。併合した分割の増分の和は、二つの全変動の和からηを引いた値より大きい。η↓0とすれば反対向きの不等式を得る。端点が一致する場合は全変動零の規約から同じ加法性が成り立つ。u=aとすれば、主張のV(t)−V(s)の等式を得る。分割{s,t}によって増分の絶対値の評価も従う。
ε>0に対して、Fの絶対連続性にε/2を用いて得るδ>0を取る。内部が互いに交わらない[sj,tj]の長さの和がδ未満であるとする。各[sj,tj]を任意に有限分割し、全小区間を合わせると、内部は互いに交わらず、長さの総和は変わらない。従って全増分の絶対値の和はε/2未満である。各有限分割について上限を取ると
j∑∣V(tj)−V(sj)∣=j∑Var(F;[sj,tj])≤2ε<εを得る。ここでVは単調非減少であり、区間数は有限なので、各区間の分割の上限を別々に取ることができる。従ってVは絶対連続である。
補題 1.2 (2)によりP,Qは絶対連続である。s≤tに対するV(t)−V(s)≥∣F(t)−F(s)∣から、P(t)−P(s)≥0とQ(t)−Q(s)≥0を得る。定義式からP(a)=Q(a)=0およびF(t)=F(a)+P(t)−Q(t)が成り立つ。▨
補題 2.3.a<bとし、H∈AC([a,b];R)を単調非減少な関数とする。Hを(−∞,a]上ではH(a)、[b,∞)上ではH(b)として実直線へ延長し、延長をHと書く。Hの Lebesgue–Stieltjes 測度νは有限であり、Lebesgue 測度に関して絶対連続である。また、非負可積分関数h:[a,b]→Rが存在して、任意のt∈[a,b]に対して
H(t)=H(a)+∫ath(s)dsが成り立つ。
証明.補題 1.2 (1)によりHは連続であるから、Hは実直線上で連続かつ単調非減少である。§E9.3 定理 7.1により、任意のs<tに対して
ν((s,t])=H(t)−H(s)を満たす Borel 測度νが存在する。十分大きいn∈N≥1に対して[−n,n]は[a,b]を含むので、測度の下からの連続性から
ν(R)=n→∞limν((−n,n])=H(b)−H(a)<∞である。任意のx∈Rについて、測度の上からの連続性とHの連続性から
ν({x})=n→∞limν((x−1/n,x])=n→∞lim(H(x)−H(x−1/n))=0を得る。従って、s<tならばν((s,t))=H(t)−H(s)である。
ε>0に対して、Hの絶対連続性に対応するδ>0を取る。写像r(x)=min{b,max{a,x}}によってH=H∘rと書くことができる。内部が互いに交わらない有限区間族[sj,tj]⊂Rの長さの和がδ未満ならば、[r(sj),r(tj)]から一点区間を除いた族も内部が互いに交わらず、長さの和は増えない。従って
j∑(H(tj)−H(sj))<εとなる。
N⊆Rを Lebesgue 測度零の Borel 集合とする。§E9.4 定理 6.2により、N⊆O、λ1(O)<δを満たす開集合Oが存在する。Oは互いに素な開区間の高々可算な和である。実際、各点を含むO内の開区間をすべて合わせて得る最大開区間は、交わるならば一致し、各最大開区間は有理数を含む。異なる最大開区間に異なる有理数を対応させると、区間の族は高々可算となる。λ1(O)<∞なので、この分解に現れる区間はすべて有界である。分解をO=⋃j(αj,βj)と書くと、任意の有限部分族に対して
j∑ν((αj,βj))=j∑(H(βj)−H(αj))<εとなる。可算加法性からν(N)≤ν(O)≤εを得る。ε>0は任意なのでν(N)=0である。従ってνは Borel 集合上の Lebesgue 測度に関して絶対連続である。
[a,b]上の Borel 集合族に制限したνと Lebesgue 測度は、ともに有限正測度である。§E9.15 定理 2.3により、非負可測関数hが存在し、任意の Borel 集合E⊆[a,b]に対してν(E)=∫Eh(s)dsとなる。∫abh(s)ds=ν([a,b])<∞なのでhはほとんど至る所で有限である。無限値を取る零集合上でhを零に替えれば、§E9.6 定理 4.2により等式を保ったまま非負有限値の可積分関数を得る。a<t≤bに対してE=(a,t]とすると
H(t)−H(a)=ν((a,t])=∫ath(s)dsである。t=aでは両辺が零なので、積分表示は[a,b]のすべての点で成り立つ。▨
定理 2.4 (絶対連続関数の基本定理).a<b、K∈{R,C}、d∈N≥1とし、F:[a,b]→Kdを関数とする。次の条件は同値である。
- Fは絶対連続である。
- あるg∈L1([a,b];Kd)が存在し、すべてのt∈[a,b]に対してF(t)=F(a)+∫atg(s)dsが成り立つ。
- Fは連続であり、(a,b)上でほとんど至る所微分可能である。その導関数は可積分であり、すべてのt∈[a,b]に対してF(t)=F(a)+∫atF′(s)dsが成り立つ。導関数が定まらない零集合上では値を零とする。
これらの条件が成り立つとき、積分表示の密度gはほとんど至る所でF′に一致する。従って、密度はほとんど至る所の一致を除いて一意である。
証明.(1)⇒(2)を示す。実数値の絶対連続関数Fに補題 2.2を適用し、F−F(a)=P−Qと書く。補題 2.3により、非負可積分関数p,qが存在して
P(t)=∫atp(s)ds,Q(t)=∫atq(s)dsがすべてのtで成り立つ。g=p−qは可積分であり、積分の線形性からF(t)=F(a)+∫atg(s)dsを得る。一般のF:[a,b]→Kdについては、補題 1.2 (3)により各実座標成分が絶対連続である。各実座標成分に得られた密度を合わせてgとすると、∥g∥は有限個の実成分の絶対値の和以下なので可積分であり、全点のベクトル値積分表示が成り立つ。
(2)⇒(3)を示す。gを[a,b]の外で零に延長すると、実直線上の可積分関数となる。§E10.1 定理 4.1 (3)により、Fは(a,b)のほとんど至る所で微分可能であり、F′=gである。また、補題 1.3 (3)と補題 1.2 (1)によりFは連続である。導関数を例外零集合上で零とした関数はgとほとんど至る所で一致し、Lebesgue 測度の完備性により可測である。§E9.6 定理 4.2により、F′は可積分であり、gの積分表示をF′の積分表示へ替えることができる。
(3)⇒(1)は、可積分関数F′に補題 1.3 (3)を適用すれば従う。
任意の積分表示の密度gに対して、既に用いた§E10.1 定理 4.1 (3)がg=F′をほとんど至る所で与える。従って二つの密度はほとんど至る所で一致する。▨
系 2.5.I⊆Rを内部が空でない区間、t0∈I、K∈{R,C}、d∈N≥1とする。関数F:I→Kdが局所絶対連続であるための必要十分条件は、あるg∈Lloc1(I;Kd)が存在して
F(t)=F(t0)+∫t0tg(s)ds(t∈I)が成り立つことである。t<t0では積分を−∫tt0g(s)dsとする。このときF′=gがIの内部のほとんど至る所で成り立つ。特に、F∈ACloc(I;Kd)がF′=0をほとんど至る所で満たすならば、Fは定数である。
証明.Fを局所絶対連続とする。Iの内部を、内部が全体を覆う可算個の有限閉区間によって覆い、各区間へ定理 2.4を適用する。例えば、端点が有理数でIの内部に含まれる閉区間全体を取ればよい。各区間の例外零集合の和も零集合であり、その外ではF′が定まる。g=F′とし、微分が定まらない点およびIに含まれる端点ではg=0とおく。
任意の[a,b]⊆Iに主定理を適用して得る可積分密度は、(a,b)のほとんど至る所でgに一致する。従ってgは各有限閉区間で可測かつ可積分であり、可算個の区間と高々二つの端点によってIを覆うと、I上でも可測である。t0,tを端点とする区間の全点積分表示から、主張の式を得る。
逆に主張の積分表示を仮定し、任意の[a,b]⊆Iを取る。積分の加法性から、t∈[a,b]に対してF(t)=F(a)+∫atg(s)dsとなる。補題 1.3 (3)によりF∣[a,b]は絶対連続である。微分の等式は定理 2.4から従い、g=0の場合には積分表示からF(t)=F(t0)を得る。▨
命題 2.6.a0<a1<⋯<amを実数、K∈{R,C}、d∈N≥1とする。各j∈{1,…,m}に対してFj∈AC([aj−1,aj];Kd)とし、j<mならばFj(aj)=Fj+1(aj)とする。各区間上でF=Fjと定めた関数F:[a0,am]→Kdは絶対連続である。
3 積・合成と部分積分
定理 3.1.I⊆Rを内部が空でない区間、d,e,q∈N≥1とする。次が成り立つ。
- U⊆Rdを開集合、Φ:U→RqをC1写像とし、F∈ACloc(I;Rd)がF(I)⊆Uを満たすとする。このときΦ∘F∈ACloc(I;Rq)であり、ほとんど至る所で
(Φ∘F)′(t)=DΦ(F(t))F′(t)
が成り立つ。複素座標をもつ場合も、実部と虚部によって実座標空間と同一視し、Φに実変数のC1性を仮定すれば同じ結論が成り立つ。
- K∈{R,C}とし、B:Kd×Ke→Kqを双線形写像とする。F∈ACloc(I;Kd)、G∈ACloc(I;Ke)ならばB(F,G)は局所絶対連続であり、ほとんど至る所で
dtdB(F(t),G(t))=B(F′(t),G(t))+B(F(t),G′(t))
が成り立つ。特に、実数値・複素数値の関数の積およびサイズの合う行列の積について積の微分公式が成り立つ。
I=[a,b]が有限閉区間である場合、各結論は[a,b]上の絶対連続性を与える。
証明.(1)を示す。[a,b]⊆Iを固定する。Fは連続なので、K=F([a,b])はUのコンパクト部分集合である。各点x∈Kの周りにB(x,2rx)⊆Uを満たす球を取り、B(x,rx)からKの有限部分被覆を選ぶ。選んだ半径の最小値より小さいρ>0を取ると、Kの閉ρ近傍はUに含まれる。この閉近傍は有界かつ閉であるからコンパクトである。従って、あるM≥0が存在し、この閉近傍上で∥DΦ∥≤Mとなる。
x,y∈Kが∥x−y∥<ρを満たすならば、線分[x,y]はこの近傍に含まれる。§E4.3 定理 2.1により
∥Φ(y)−Φ(x)∥≤M∥y−x∥である。ε>0に対し、Fの絶対連続性にmin{ρ,ε/(1+M)}を適用してδ>0を取る。長さの総和がδ未満の区間族について、各∥F(tj)−F(sj)∥<ρであり、
j∑∥Φ(F(tj))−Φ(F(sj))∥≤Mj∑∥F(tj)−F(sj)∥<εを得る。従ってΦ∘Fは[a,b]上で絶対連続である。Fはほとんど至る所で微分可能なので、その各点で§E4.3 定理 1.1を適用すれば微分公式を得る。任意の有限閉区間でこの結論が成り立ち、内部を可算個の区間で覆うとI上の結論を得る。
(2)を示す。有限次元の双線形写像Bは座標表示が有限個の積の和なので、あるC≥0が存在して∥B(x,y)∥≤C∥x∥∥y∥がすべてのx,yで成り立つ。恒等式
B(x+h,y+k)−B(x,y)=B(h,y)+B(x,k)+B(h,k)の最後の項はC∥h∥∥k∥以下であり、(h,k)のノルムについて二次の項である。従ってBはC1写像であり、DB(x,y)(h,k)=B(h,y)+B(x,k)である。補題 1.2 (3)により(F,G)は局所絶対連続なので、(1)をBと(F,G)に適用して結論を得る。▨
系 3.2.I⊆Rを内部が空でない区間、K∈{R,C}とする。次が成り立つ。
- f∈ACloc(I;K)がすべてのt∈Iでf(t)=0を満たすならば、1/fは局所絶対連続であり、(1/f)′=−f′/f2がほとんど至る所で成り立つ。
- A:I→Kn×nの各成分が局所絶対連続であり、すべてのt∈IでA(t)が可逆であるとする。このときA−1の各成分も局所絶対連続であり、
(A−1)′=−A−1A′A−1
がほとんど至る所で成り立つ。
- A:I→Kn×nの各成分が局所絶対連続ならば、detAも局所絶対連続である。AjをAの第j列とすると、ほとんど至る所で
(detA)′=j=1∑ndet(A1,…,Aj−1,Aj′,Aj+1,…,An)
が成り立つ。さらに全点で可逆ならば、(detA)′=(detA)tr(A−1A′)がほとんど至る所で成り立つ。
行列のサイズnは正の整数とし、有限閉区間の場合には各結論の局所絶対連続性は絶対連続性を意味する。
証明. 逆数写像z↦1/zはK∖{0}上で実変数のC1写像である。逆行列の各成分は、余因子の多項式を行列式で割った関数なので、可逆行列の開集合上でC1である。行列式も成分の多項式でありC1である。従って定理 3.1 (1)から、逆数・逆行列・行列式の局所絶対連続性を得る。
f(1/f)=1とAA−1=idに定理 3.1 (2)を適用すると、ほとんど至る所で
f′f1+f(f1)′=0,A′A−1+A(A−1)′=0となる。それぞれfとAの逆を用いて整理すると、(1)と(2)の公式を得る。
行列式の列に関する多重線形性を用いると、Aj(t+h)=Aj(t)+hAj′(t)+o(h)の代入で、一次の項は一つの列だけをAj′(t)に替えた行列式の和となる。二つ以上の列の増分を含む項はo(h)である。従って(3)の最初の公式が成り立つ。A(t)が可逆である点では、C=A(t)−1A′(t)とおくとAj′(t)=∑kAk(t)Ckjである。第j列をAj′(t)に替えた行列式は、他の列と重複する項が消えるので(detA(t))Cjjに等しい。jについて足すと、トレースを用いた公式を得る。▨
定理 3.3.a<b、K∈{R,C}、d,e,q∈N≥1とし、B:Kd×Ke→Kqを双線形写像とする。F∈AC([a,b];Kd)、G∈AC([a,b];Ke)ならば、
∫abB(F′(t),G(t))dt=B(F(b),G(b))−B(F(a),G(a))−∫abB(F(t),G′(t))dtが成り立つ。特に、f,g∈AC([a,b];C)について
∫abf′(t)g(t)dt=f(b)g(b)−f(a)g(a)−∫abf(t)g′(t)dtが成り立つ。
証明.F,Gは有限閉区間上で連続なので有界であり、F′,G′は可積分である。有限次元の双線形写像の評価∥B(x,y)∥≤C∥x∥∥y∥により、二つの被積分関数は可積分である。定理 3.1 (2)によりB(F,G)は絶対連続であり、その導関数はほとんど至る所でB(F′,G)+B(F,G′)に一致する。定理 2.4の全点積分表示を両端点に適用して整理すると、最初の等式を得る。複素共役は実線形写像なので、定理 3.1 (1)によりgは絶対連続であり、(g)′=g′である。B(z,w)=zwと関数f,gに最初の等式を適用して、複素共役を含む等式を得る。▨
4 例と演習
例 4.1.F(t)=∣t∣を[−1,1]上で考える。不等式∣t∣−∣s∣≤∣t−s∣と補題 1.2 (4)によりFは絶対連続である。0における左微分係数は−1、右微分係数は1なので、Fは0で微分可能でない。任意のc∈Rに対して
gc(t)=⎩⎨⎧−1,c,1,t<0,t=0,t>0とおくと、すべてのt∈[−1,1]に対して
F(t)=1+∫−1tgc(s)dsが成り立つ。実際、t≤0ならば右辺は1−(t+1)=−t、t≥0ならば1−1+t=tである。一点の値cは積分を変えない。一方、Fの値をt=0だけ1に替えた関数Fは不連続である。従ってFは絶対連続でなく、上の全点積分表示もt=0で成立しない。密度の零集合上の変更と、絶対連続関数自身の値の変更は異なる。
例 4.2.[0,1]上の関数
F(t)={t4sin2(1/t2),0,t>0,t=0,Φ(s)=sは、ともに絶対連続であり、F([0,1])⊆[0,1]を満たす。しかしΦ∘Fは絶対連続でない。
問題 4.3.命題 2.6の証明を、各区間の積分表示を用いて完成させよ。
解答.
定理 2.4によって、各jについて可積分な密度gjを取り、
Fj(t)=Fj(aj−1)+∫aj−1tgj(s)ds(aj−1≤t≤aj)と書く。開区間(aj−1,aj)上でg=gjとし、分点上でg=0とすると、区間数が有限なのでgは[a0,am]上で可積分である。端点での一致条件を用いて積分表示を順に足すと、t∈[aj−1,aj]に対して
F(t)=F1(a0)+k<j∑∫ak−1akgk(s)ds+∫aj−1tgj(s)ds=F1(a0)+∫a0tg(s)dsとなる。補題 1.3 (3)によりFは絶対連続である。▨
問題 4.4.例 4.2を証明せよ。合成の全変動を調べる際には、n∈N≥1に対して
xn=(nπ)−1/2,yn=((n+1/2)π)−1/2を用いよ。
解答.
t>0において
F′(t)=4t3sin2(1/t2)−4tsin(1/t2)cos(1/t2)である。∣F(h)/h∣≤h3→0なのでF′(0)=0であり、表示したF′(t)もt↓0で零に収束する。従ってFは[0,1]上でC1であり、導関数が有界なので平均値の定理により Lipschitz 連続である。補題 1.2 (4)からFは絶対連続である。また0≤F(t)≤t4≤1である。
h(s)=1/(2s)(s>0)、h(0)=0とおく。任意のu∈(0,1]に対して
∫0uh(s)ds=η↓0lim∫ηu2sds=η↓0lim(u−η)=uである。最初の極限は非負関数に対する§E9.7 定理 1.1による。特にhは[0,1]上で可積分であり、補題 1.3 (3)からΦは絶対連続である。
G=Φ∘Fとおくと、G(t)=t2∣sin(1/t2)∣である。xn+1<yn<xnであり、
G(xn)=0,G(yn)=(n+1/2)π1となる。1≤n≤Nの各xn+1,yn,xnを含む[0,1]の有限分割を取ると、その増分の絶対値の和は
2n=1∑N(n+1/2)π1以上である。この和はN→∞で発散するのでGの全変動は無限である。補題 2.2により、Gは絶対連続でない。外側のΦはs=0で微分可能でなく、定理 3.1 (1)の仮定を満たさない。▨
問題 4.5.F(t)=logtをI=(0,1]上で考える。F∈ACloc(I;R)を示し、Fと(0,1]上で一致する絶対連続関数を[0,1]上へ定めることはできないことを示せ。
解答.
任意の[a,b]⊆(0,1]において、F′=1/tは1/a以下である。平均値の定理からF∣[a,b]は Lipschitz 連続であり、補題 1.2 (4)により絶対連続である。従ってFは局所絶対連続である。
絶対連続な延長F:[0,1]→Rが存在すると仮定する。n∈N≥1に対し、区間[1/(2n),1/n]の長さは1/(2n)であり零へ収束するが、
F(1/n)−F(1/(2n))=log2である。絶対連続性の条件をε=(log2)/2と一つの区間に適用すると、十分大きいnにおいて左辺はε未満でなければならない。log2>εであるから、そのような延長は存在しない。▨