§E9.6Lebesgue 積分

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Lebesgue 積分は、非負単関数の積分から出発し、非負拡張実数値可測関数、可積分な実数値関数、可積分な複素数値関数の順に定義される。本記事では、各段階の定義が直前の段階と整合することを証明し、積分の線形性と単調性を導く。

非負可測関数の積分を扱う際には、値として正の無限大を許す。一方、実数値関数と複素数値関数の積分では絶対可積分性を仮定する。この仮定により、積分の定義と証明に未定義な∞−∞\infty-\inftyが現れない。

本記事が前提として用いる結果は、測度の基本性質§E9.2 命題 2.1、測度の下からの連続性§E9.2 定理 4.1、可測写像の合成§E9.5 命題 1.2、非負単関数による増加近似§E9.5 定理 5.3、および複素数値写像の可測性§E9.5 定理 6.1である。

1 非負単関数の積分

非負単関数の積分は、関数がとる各値と、各値の逆像の測度によって定める。係数が00であり、対応する集合の測度が∞\inftyである場合を含めるため、以後は

0⋅∞=00\cdot\infty=0

と定める。この規約は、値が00である集合が積分値へ寄与しないことを表す。

定義 1.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、φ:X→[0,∞)\varphi:X\to[0,\infty)を非負単関数とする。φ\varphiの相異なる値をc1,…,ckc_1,\dots,c_kとし、

Ai={x∈X∣φ(x)=ci}A_i=\{x\in X\mid \varphi(x)=c_i\}

とおく。φ\varphiの Lebesgue 積分 (Lebesgue integral of a nonnegative simple function) を

∫Xφ dμ=∑i=1kciμ(Ai)∈[0,∞]\int_X\varphi\,d\mu =\sum_{i=1}^{k}c_i\mu(A_i)\in[0,\infty]

によって定める。各項の積では0⋅∞=00\cdot\infty=0とする。

定義では関数の相異なる値による標準表示を用いた。次の命題により、可測分割を用いた別の表示からも同じ積分値が得られる。

命題 1.2.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。D1,…,Dm∈FD_1,\dots,D_m\in\mathcal{F}がXXの互いに交わらない分割であり、a1,…,am∈[0,∞)a_1,\dots,a_m\in[0,\infty)とする。関数φ:X→[0,∞)\varphi:X\to[0,\infty)を

φ=∑j=1maj1Dj\varphi=\sum_{j=1}^{m}a_j\mathbf{1}_{D_j}

によって定める。このとき、φ\varphiは非負単関数であり、

∫Xφ dμ=∑j=1majμ(Dj)\int_X\varphi\,d\mu =\sum_{j=1}^{m}a_j\mu(D_j)

が成り立つ。したがって、右辺は表示の選び方に依存しない。

証明.φ\varphiの相異なる値をc1,…,ckc_1,\dots,c_kとし、Ai={φ=ci}A_i=\{\varphi=c_i\}とおく。§E9.5 命題 5.2により、φ\varphiは非負単関数である。Dj∩AiD_j\cap A_iが空でなければ、DjD_j上の値とAiA_i上の値が一致するのでaj=cia_j=c_iである。有限加法性から

μ(Dj)=∑i=1kμ(Dj∩Ai),μ(Ai)=∑j=1mμ(Dj∩Ai)\mu(D_j)=\sum_{i=1}^{k}\mu(D_j\cap A_i), \qquad \mu(A_i)=\sum_{j=1}^{m}\mu(D_j\cap A_i)

を得る。

aj>0a_j>0の場合には、拡張非負実数の有限和に対する分配法則から

ajμ(Dj)=∑i=1kajμ(Dj∩Ai)a_j\mu(D_j)=\sum_{i=1}^{k}a_j\mu(D_j\cap A_i)

が成り立つ。aj=0a_j=0の場合にも、0⋅∞=00\cdot\infty=0という規約により両辺は00である。したがって、

∑j=1majμ(Dj)=∑j=1m∑i=1kajμ(Dj∩Ai)=∑i=1k∑j=1mciμ(Dj∩Ai)=∑i=1kciμ(Ai)=∫Xφ dμ.\begin{aligned} \sum_{j=1}^{m}a_j\mu(D_j) &=\sum_{j=1}^{m}\sum_{i=1}^{k}a_j\mu(D_j\cap A_i)\\ &=\sum_{i=1}^{k}\sum_{j=1}^{m}c_i\mu(D_j\cap A_i)\\ &=\sum_{i=1}^{k}c_i\mu(A_i) =\int_X\varphi\,d\mu. \end{aligned}

第二の等号では、空でない共通部分上でaj=cia_j=c_iであることを用いた。空の共通部分の測度は00であるため、空の共通部分に対応する項は等式へ影響しない。以上により、積分値は表示に依存しない。▨

単関数に対する単調性と非負線形性は、二つの単関数の値による分割を共通細分して証明する。

命題 1.3.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、φ,ψ:X→[0,∞)\varphi,\psi:X\to[0,\infty)を非負単関数とする。すべてのx∈Xx\in Xに対してφ(x)≤ψ(x)\varphi(x)\leq\psi(x)が成り立つならば、

∫Xφ dμ≤∫Xψ dμ\int_X\varphi\,d\mu\leq\int_X\psi\,d\mu

が成り立つ。

証明.φ=∑i=1kci1Ai\varphi=\sum_{i=1}^{k}c_i\mathbf{1}_{A_i}とψ=∑j=1ℓdj1Bj\psi=\sum_{j=1}^{\ell}d_j\mathbf{1}_{B_j}を、それぞれ相異なる値による標準表示とする。集合族(Ai∩Bj)i,j(A_i\cap B_j)_{i,j}から空集合を除いた集合族はXXの有限可測分割である。Ai∩BjA_i\cap B_jが空でなければ、仮定からci≤djc_i\leq d_jである。したがって、

ciμ(Ai∩Bj)≤djμ(Ai∩Bj)c_i\mu(A_i\cap B_j)\leq d_j\mu(A_i\cap B_j)

が成り立つ。測度が∞\inftyの場合も、ci=0c_i=0なら左辺は00であり、ci>0c_i>0なら両辺は∞\inftyであるため、この不等式は成り立つ。命題 1.2を共通細分へ適用して有限和をとると、

∫Xφ dμ=∑i,jciμ(Ai∩Bj)≤∑i,jdjμ(Ai∩Bj)=∫Xψ dμ\int_X\varphi\,d\mu =\sum_{i,j}c_i\mu(A_i\cap B_j) \leq\sum_{i,j}d_j\mu(A_i\cap B_j) =\int_X\psi\,d\mu

を得る。▨

命題 1.4.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、φ,ψ:X→[0,∞)\varphi,\psi:X\to[0,\infty)を非負単関数とする。任意のa,b∈[0,∞)a,b\in[0,\infty)に対して、

∫X(aφ+bψ) dμ=a∫Xφ dμ+b∫Xψ dμ\int_X(a\varphi+b\psi)\,d\mu =a\int_X\varphi\,d\mu+b\int_X\psi\,d\mu

が成り立つ。右辺でも0⋅∞=00\cdot\infty=0とする。

証明.φ=∑i=1kci1Ai\varphi=\sum_{i=1}^{k}c_i\mathbf{1}_{A_i}とψ=∑j=1ℓdj1Bj\psi=\sum_{j=1}^{\ell}d_j\mathbf{1}_{B_j}を、それぞれ標準表示とする。共通細分(Ai∩Bj)i,j(A_i\cap B_j)_{i,j}から空集合を除くと有限可測分割が得られ、各共通部分上ではaφ+bψa\varphi+b\psiの値はaci+bdjac_i+bd_jである。命題 1.2により、

∫X(aφ+bψ) dμ=∑i,j(aci+bdj)μ(Ai∩Bj)\int_X(a\varphi+b\psi)\,d\mu =\sum_{i,j}(ac_i+bd_j)\mu(A_i\cap B_j)

である。各共通部分の測度をr∈[0,∞]r\in[0,\infty]と書くと、

(aci+bdj)r=a(cir)+b(djr)(ac_i+bd_j)r=a(c_ir)+b(d_jr)

が成り立つ。r<∞r<\inftyの場合は通常の分配法則である。r=∞r=\inftyの場合は、aci+bdjac_i+bd_jが正であれば両辺が∞\inftyであり、aci+bdj=0ac_i+bd_j=0であればaci=bdj=0ac_i=bd_j=0なので両辺が00である。

有限和に分配法則を適用し、有限加法性を用いると、

∫X(aφ+bψ) dμ=a∑i,jciμ(Ai∩Bj)+b∑i,jdjμ(Ai∩Bj)=a∑iciμ(Ai)+b∑jdjμ(Bj)=a∫Xφ dμ+b∫Xψ dμ\begin{aligned} \int_X(a\varphi+b\psi)\,d\mu &=a\sum_{i,j}c_i\mu(A_i\cap B_j) +b\sum_{i,j}d_j\mu(A_i\cap B_j)\\ &=a\sum_i c_i\mu(A_i)+b\sum_j d_j\mu(B_j)\\ &=a\int_X\varphi\,d\mu+b\int_X\psi\,d\mu \end{aligned}

を得る。▨

2 非負可測関数の積分

非負可測関数の積分は、対象の関数を下から抑えるすべての非負単関数の積分値の上限として定める。

定義 2.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、f:X→[0,∞]f:X\to[0,\infty]を拡張実数値可測関数とする。ffの Lebesgue 積分 (Lebesgue integral of a nonnegative measurable function) を

∫Xf dμ=sup⁡{∫Xφ dμ | φ は非負単関数であり 0≤φ≤f}\int_X f\,d\mu =\sup\left\{\int_X\varphi\,d\mu\ \middle|\ \varphi\text{ は非負単関数であり }0\leq\varphi\leq f\right\}

によって定める。この上限は[0,∞][0,\infty]においてとる。

上限をとる集合の包含関係から、非負可測関数の単調性が得られる。

命題 2.2.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、f,g:X→[0,∞]f,g:X\to[0,\infty]を拡張実数値可測関数とする。すべてのx∈Xx\in Xに対してf(x)≤g(x)f(x)\leq g(x)が成り立つならば、

∫Xf dμ≤∫Xg dμ\int_X f\,d\mu\leq\int_X g\,d\mu

が成り立つ。

証明.0≤φ≤f0\leq\varphi\leq fを満たす任意の非負単関数φ\varphiは0≤φ≤g0\leq\varphi\leq gも満たす。したがって、定義 2.1でffに対して上限をとる集合は、ggに対して上限をとる集合に含まれる。ゆえに、

∫Xf dμ≤∫Xg dμ\int_X f\,d\mu\leq\int_X g\,d\mu

が成り立つ。▨

次の補題は、どの増加単関数近似を選んでも、積分値が近似列の積分の極限として得られることを示す。証明では関数列に対する積分の収束定理を用いず、測度の下からの連続性だけを用いる。

2.1 証明方針

上からの評価は積分の定義から得る。下からの評価では、任意の非負単関数ψ≤f\psi\leq fと0<c<10<c<1を固定する。ψ\psiが正の値aia_iをとる各集合のうち、φn≥cai\varphi_n\geq ca_iとなる部分を選ぶ。この部分はnnとともに増加して値aia_iの集合全体を覆う。各部分の測度に下からの連続性を適用する。

補題 2.3.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、f:X→[0,∞]f:X\to[0,\infty]を拡張実数値可測関数とする。非負単関数の列(φn)n≥1(\varphi_n)_{n\geq1}が、任意のx∈Xx\in Xに対して

φn(x)≤φn+1(x),lim⁡n→∞φn(x)=f(x)\varphi_n(x)\leq\varphi_{n+1}(x), \qquad \lim_{n\to\infty}\varphi_n(x)=f(x)

を満たすならば、

∫Xf dμ=lim⁡n→∞∫Xφn dμ\int_X f\,d\mu =\lim_{n\to\infty}\int_X\varphi_n\,d\mu

が[0,∞][0,\infty]において成り立つ。

証明.命題 1.3により、数列(∫Xφn dμ)n≥1(\int_X\varphi_n\,d\mu)_{n\geq1}は広義単調増加である。同数列の極限を

L=lim⁡n→∞∫Xφn dμ∈[0,∞]L=\lim_{n\to\infty}\int_X\varphi_n\,d\mu\in[0,\infty]

とおく。各φn\varphi_nはff以下であるから、定義 2.1により

L≤∫Xf dμL\leq\int_Xf\,d\mu

である。

逆向きの不等式を示す。ψ≤f\psi\leq fを満たす任意の非負単関数ψ\psiをとる。ψ\psiの正の相異なる値をa1,…,aka_1,\dots,a_kとし、Ai={ψ=ai}A_i=\{\psi=a_i\}とおく。ψ\psiが正の値をとらない場合には∫Xψ dμ=0≤L\int_X\psi\,d\mu=0\leq Lであるから、以下ではk≥1k\geq1とする。0<c<10<c<1を固定し、

En,i=Ai∩{x∈X∣φn(x)≥cai}E_{n,i}=A_i\cap\{x\in X\mid\varphi_n(x)\geq ca_i\}

とおく。各En,iE_{n,i}は可測であり、nnに関して増加する。x∈Aix\in A_iならばf(x)≥ψ(x)=ai>caif(x)\geq\psi(x)=a_i>ca_iであり、φn(x)→f(x)\varphi_n(x)\to f(x)である。したがって、ある正の整数nnが存在してφn(x)≥cai\varphi_n(x)\geq ca_iが成り立つ。ゆえに、

⋃n=1∞En,i=Ai\bigcup_{n=1}^{\infty}E_{n,i}=A_i

である。

非負単関数

ηn=c∑i=1kai1En,i\eta_n=c\sum_{i=1}^{k}a_i\mathbf{1}_{E_{n,i}}

を考える。En,1,…,En,kE_{n,1},\dots,E_{n,k}は互いに交わらず、各集合とX∖⋃i=1kEn,iX\setminus\bigcup_{i=1}^{k}E_{n,i}は可測であるから、ηn\eta_nは非負単関数である。各En,iE_{n,i}上ではηn=cai≤φn\eta_n=ca_i\leq\varphi_nであり、補集合上ではηn=0≤φn\eta_n=0\leq\varphi_nである。したがって、ηn≤φn\eta_n\leq\varphi_nが成り立つ。ゆえに、命題 1.3と命題 1.2により、

∫Xφn dμ≥c∑i=1kaiμ(En,i)\int_X\varphi_n\,d\mu \geq c\sum_{i=1}^{k}a_i\mu(E_{n,i})

である。各iiに§E9.2 定理 4.1の下からの連続性を適用すると、

μ(En,i)↑μ(Ai)\mu(E_{n,i})\uparrow\mu(A_i)

を得る。有限個の広義単調増加数列の和では、和の極限が各極限の和に等しい。この事実は、すべての極限が有限なら通常の有限和の極限から従い、いずれかの極限が∞\inftyなら対応する一つの項が任意の有限値を超えることから従う。したがって、n→∞n\to\inftyとすると、

L≥c∑i=1kaiμ(Ai)=c∫Xψ dμL\geq c\sum_{i=1}^{k}a_i\mu(A_i) =c\int_X\psi\,d\mu

を得る。∫Xψ dμ<∞\int_X\psi\,d\mu<\inftyの場合にはccを11へ増加させることによりL≥∫Xψ dμL\geq\int_X\psi\,d\muを得る。∫Xψ dμ=∞\int_X\psi\,d\mu=\inftyの場合には、任意のc>0c>0に対してc∫Xψ dμ=∞c\int_X\psi\,d\mu=\inftyであるからL=∞L=\inftyである。したがって、いずれの場合にも

L≥∫Xψ dμL\geq\int_X\psi\,d\mu

が成り立つ。

ψ≤f\psi\leq fを満たすすべての非負単関数について上限をとると、L≥∫Xf dμL\geq\int_Xf\,d\muを得る。先に得た逆向きの不等式と合わせて

L=∫Xf dμL=\int_Xf\,d\mu

が成り立つ。▨

増加近似から、拡張値をとる非負可測関数の和と非負スカラー倍も可測であることが従う。

命題 2.4.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、f,g:X→[0,∞]f,g:X\to[0,\infty]を拡張実数値可測関数とする。任意のa,b∈[0,∞)a,b\in[0,\infty)に対して、af+bg:X→[0,∞]af+bg:X\to[0,\infty]は拡張実数値可測関数である。関数の値の演算では0⋅∞=00\cdot\infty=0とする。

証明.§E9.5 定理 5.3により、φn↑f\varphi_n\uparrow fとψn↑g\psi_n\uparrow gを満たす非負単関数列(φn)n≥1(\varphi_n)_{n\geq1}と(ψn)n≥1(\psi_n)_{n\geq1}を選ぶ。各aφn+bψna\varphi_n+b\psi_nは有限実数値可測関数であり、列(aφn+bψn)n≥1(a\varphi_n+b\psi_n)_{n\geq1}は広義単調増加である。a=0a=0の場合にはaφn=0a\varphi_n=0であり、列(aφn)n≥1(a\varphi_n)_{n\geq1}の点ごとの極限も規約0⋅∞=00\cdot\infty=0によるaf=0af=0である。a>0a>0の場合にはaφn↑afa\varphi_n\uparrow afである。bψnb\psi_nについても同じ結論が成り立つ。したがって、

lim⁡n→∞(aφn+bψn)=af+bg\lim_{n\to\infty}(a\varphi_n+b\psi_n)=af+bg

が点ごとに成り立つ。実際、afafとbgbgがともに有限値なら通常の極限の和を用いることができ、一方が∞\inftyなら対応する増加列が任意の有限値を超える。§E9.5 定理 4.1により、af+bgaf+bgは拡張実数値可測関数である。▨

増加近似に沿う積分の補題により、一般の非負可測関数の加法性と非負スカラー倍を証明する。

定理 2.5.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、f,g:X→[0,∞]f,g:X\to[0,\infty]を拡張実数値可測関数とする。任意のa,b∈[0,∞)a,b\in[0,\infty)に対して、

∫X(af+bg) dμ=a∫Xf dμ+b∫Xg dμ\int_X(af+bg)\,d\mu =a\int_Xf\,d\mu+b\int_Xg\,d\mu

が成り立つ。関数の値と積分値の演算の双方で0⋅∞=00\cdot\infty=0とする。

証明.§E9.5 定理 5.3により、非負単関数列(φn)n≥1(\varphi_n)_{n\geq1}と(ψn)n≥1(\psi_n)_{n\geq1}を、それぞれφn↑f\varphi_n\uparrow fとψn↑g\psi_n\uparrow gを満たすように選ぶ。各線形結合の可測性は命題 2.4による。最初に加法性を示す。列(φn+ψn)n≥1(\varphi_n+\psi_n)_{n\geq1}は非負単関数の増加列であり、点ごとにf+gf+gへ収束する。したがって、補題 2.3と命題 1.4により、

∫X(f+g) dμ=lim⁡n→∞∫X(φn+ψn) dμ=lim⁡n→∞(∫Xφn dμ+∫Xψn dμ)=∫Xf dμ+∫Xg dμ.\begin{aligned} \int_X(f+g)\,d\mu &=\lim_{n\to\infty}\int_X(\varphi_n+\psi_n)\,d\mu\\ &=\lim_{n\to\infty} \left(\int_X\varphi_n\,d\mu+\int_X\psi_n\,d\mu\right)\\ &=\int_Xf\,d\mu+\int_Xg\,d\mu. \end{aligned}

最後の等号を確認する。広義単調増加数列rn↑rr_n\uparrow rとsn↑ss_n\uparrow sに対して、rn+sn≤r+sr_n+s_n\leq r+sである。r,s<∞r,s<\inftyならば、任意のε>0\varepsilon>0に対して十分大きいnnでrn>r−ε/2r_n>r-\varepsilon/2かつsn>s−ε/2s_n>s-\varepsilon/2となる。r=∞r=\inftyまたはs=∞s=\inftyならば、任意のM>0M>0に対して十分大きいnnでrn+sn>Mr_n+s_n>Mとなる。したがって、いずれの場合にもrn+sn↑r+sr_n+s_n\uparrow r+sである。

次に、任意のa≥0a\geq0に対して

∫Xaf dμ=a∫Xf dμ\int_Xaf\,d\mu=a\int_Xf\,d\mu

を示す。a=0a=0の場合には、右辺は0⋅∞=00\cdot\infty=0という規約により00である。afafは定数関数00であり、00以下の非負単関数は定数関数00だけであるため、定義 2.1から左辺も00である。a>0a>0の場合にはaφn↑afa\varphi_n\uparrow afであるから、

∫Xaf dμ=lim⁡n→∞∫Xaφn dμ=lim⁡n→∞a∫Xφn dμ=a∫Xf dμ.\int_Xaf\,d\mu =\lim_{n\to\infty}\int_Xa\varphi_n\,d\mu =\lim_{n\to\infty}a\int_X\varphi_n\,d\mu =a\int_Xf\,d\mu.

最後の等号は、有限なa>0a>0による乗法が[0,∞][0,\infty]の広義単調増加極限を保つことから従う。ggに対する同じ等式と加法性を組み合わせると、

∫X(af+bg) dμ=a∫Xf dμ+b∫Xg dμ\int_X(af+bg)\,d\mu =a\int_Xf\,d\mu+b\int_Xg\,d\mu

を得る。▨

3 可積分な実数値関数と複素数値関数

実数値関数では、正部分と負部分を

f+=max⁡{f,0},f−=max⁡{−f,0}f^+=\max\{f,0\}, \qquad f^-=\max\{-f,0\}

と書く。このとき、

f=f+−f−,∣f∣=f++f−,f+f−=0f=f^+-f^-, \qquad |f|=f^++f^-, \qquad f^+f^-=0

が点ごとに成り立つ。

定義 3.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。

有限実数値可測関数f:X→Rf:X\to\mathbb{R}が 可積分 (integrable real-valued function) であるとは、

∫X∣f∣ dμ<∞\int_X|f|\,d\mu<\infty

が成り立つことをいう。このとき、

∫Xf dμ=∫Xf+ dμ−∫Xf− dμ\int_Xf\,d\mu =\int_Xf^+\,d\mu-\int_Xf^-\,d\mu

と定める。

複素数値可測関数h:X→Ch:X\to\mathbb{C}が 可積分 (integrable complex-valued function) であるとは、

∫X∣h∣ dμ<∞\int_X|h|\,d\mu<\infty

が成り立つことをいう。このとき、

∫Xh dμ=∫XRe⁡h dμ+i∫XIm⁡h dμ\int_Xh\,d\mu =\int_X\operatorname{Re}h\,d\mu +i\int_X\operatorname{Im}h\,d\mu

と定める。

実数値可測関数ffについて、定理 2.5から

∫X∣f∣ dμ=∫Xf+ dμ+∫Xf− dμ\int_X|f|\,d\mu =\int_Xf^+\,d\mu+\int_Xf^-\,d\mu

が成り立つ。したがって、ffが可積分であることは、∫Xf+ dμ\int_Xf^+\,d\muと∫Xf− dμ\int_Xf^-\,d\muがともに有限であることと同値である。この有限性により、実関数の積分の定義に未定義な∞−∞\infty-\inftyは現れない。

複素数値可測関数hhについては、Re⁡h\operatorname{Re}hとIm⁡h\operatorname{Im}hが可測であり、絶対値も可測である。実際、絶対値写像C→R\mathbb{C}\to\mathbb{R}は連続であるから、§E9.5 命題 1.4と§E9.5 命題 1.2を順に適用する。さらに、

∣Re⁡h∣≤∣h∣,∣Im⁡h∣≤∣h∣|\operatorname{Re}h|\leq|h|, \qquad |\operatorname{Im}h|\leq|h|

であるから、hhが可積分ならば実部と虚部も可積分である。逆に、実部と虚部が可積分ならば∣h∣≤∣Re⁡h∣+∣Im⁡h∣|h|\leq|\operatorname{Re}h|+|\operatorname{Im}h|であるため、

∫X∣h∣ dμ≤∫X∣Re⁡h∣ dμ+∫X∣Im⁡h∣ dμ<∞\int_X|h|\,d\mu \leq\int_X|\operatorname{Re}h|\,d\mu+\int_X|\operatorname{Im}h|\,d\mu<\infty

となり、hhも可積分である。

実関数と複素関数の線形性では、絶対可積分性が、和とスカラー倍も可積分であることを保証する。

3.1 証明方針

実関数の加法性は、正部分と負部分の間の点ごとの等式を、非負関数の積分の等式へ移して証明する。実スカラー倍では、スカラーの符号に応じて正部分と負部分が保たれる場合と交換される場合とを分ける。複素線形性は、複素スカラー倍の実部と虚部を実線形性によって積分する。

定理 3.2.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。

  1. f,g:X→Rf,g:X\to\mathbb{R}が可積分であり、a,b∈Ra,b\in\mathbb{R}であるならば、af+bgaf+bgは可積分であり、 ∫X(af+bg) dμ=a∫Xf dμ+b∫Xg dμ\int_X(af+bg)\,d\mu =a\int_Xf\,d\mu+b\int_Xg\,d\mu が成り立つ。
  2. h,k:X→Ch,k:X\to\mathbb{C}が可積分であり、α,β∈C\alpha,\beta\in\mathbb{C}であるならば、αh+βk\alpha h+\beta kは可積分であり、 ∫X(αh+βk) dμ=α∫Xh dμ+β∫Xk dμ\int_X(\alpha h+\beta k)\,d\mu =\alpha\int_Xh\,d\mu+\beta\int_Xk\,d\mu が成り立つ。

証明.(1)を示す。最初に実数値関数について示す。§E9.5 命題 3.1により、af+bgaf+bgは有限実数値可測関数である。三角不等式、命題 2.2、および定理 2.5から

∫X∣af+bg∣ dμ≤∣a∣∫X∣f∣ dμ+∣b∣∫X∣g∣ dμ<∞\int_X|af+bg|\,d\mu \leq |a|\int_X|f|\,d\mu+|b|\int_X|g|\,d\mu<\infty

である。したがって、af+bgaf+bgは可積分である。

加法性を示すため、u=f+gu=f+gとおく。点ごとに

u++f−+g−=u−+f++g+u^++f^-+g^-=u^-+f^++g^+

が成り立つ。実際、u=u+−u−=f+−f−+g+−g−u=u^+-u^-=f^+-f^-+g^+-g^-の両辺で項を移せば、この等式を得る。各項の積分は有限であるから、定理 2.5を適用して有限な実数の等式

∫Xu+ dμ+∫Xf− dμ+∫Xg− dμ=∫Xu− dμ+∫Xf+ dμ+∫Xg+ dμ\int_Xu^+\,d\mu+\int_Xf^-\,d\mu+\int_Xg^-\,d\mu =\int_Xu^-\,d\mu+\int_Xf^+\,d\mu+\int_Xg^+\,d\mu

を得る。有限な項を移項すると、

∫X(f+g) dμ=∫Xf dμ+∫Xg dμ\int_X(f+g)\,d\mu=\int_Xf\,d\mu+\int_Xg\,d\mu

が成り立つ。

a≥0a\geq0ならば(af)+=af+(af)^+=af^+かつ(af)−=af−(af)^-=af^-である。a<0a<0ならば(af)+=(−a)f−(af)^+=(-a)f^-かつ(af)−=(−a)f+(af)^-=(-a)f^+である。定理 2.5と実関数の積分の定義により、いずれの場合にも

∫Xaf dμ=a∫Xf dμ\int_Xaf\,d\mu=a\int_Xf\,d\mu

が成り立つ。a=0a=0の場合にも両辺は00である。加法性とスカラー倍の等式をafafとbgbgに適用すると、(1)を得る。

(2)を示す。次に複素数値関数について示す。αh+βk\alpha h+\beta kの実部と虚部は、Re⁡h\operatorname{Re}h、Im⁡h\operatorname{Im}h、Re⁡k\operatorname{Re}k、Im⁡k\operatorname{Im}kの実線形結合である。§E9.5 命題 3.1と§E9.5 定理 6.1により、αh+βk\alpha h+\beta kは複素数値可測関数である。三角不等式から

∣αh+βk∣≤∣α∣∣h∣+∣β∣∣k∣|\alpha h+\beta k|\leq|\alpha||h|+|\beta||k|

である。非負可測関数の単調性と線形性を適用すると、

∫X∣αh+βk∣ dμ≤∣α∣∫X∣h∣ dμ+∣β∣∫X∣k∣ dμ<∞\int_X|\alpha h+\beta k|\,d\mu \leq|\alpha|\int_X|h|\,d\mu+|\beta|\int_X|k|\,d\mu<\infty

となるため、αh+βk\alpha h+\beta kは可積分である。

複素関数の加法性は

Re⁡(h+k)=Re⁡h+Re⁡k,Im⁡(h+k)=Im⁡h+Im⁡k\operatorname{Re}(h+k)=\operatorname{Re}h+\operatorname{Re}k, \qquad \operatorname{Im}(h+k)=\operatorname{Im}h+\operatorname{Im}k

と、すでに証明した実関数の加法性から従う。複素数α=p+iq\alpha=p+iqと複素関数h=u+ivh=u+ivに対して、

Re⁡(αh)=pu−qv,Im⁡(αh)=qu+pv\operatorname{Re}(\alpha h)=pu-qv, \qquad \operatorname{Im}(\alpha h)=qu+pv

である。実関数の線形性により、

∫Xαh dμ=∫X(pu−qv) dμ+i∫X(qu+pv) dμ=(p+iq)(∫Xu dμ+i∫Xv dμ)=α∫Xh dμ.\begin{aligned} \int_X\alpha h\,d\mu &=\int_X(pu-qv)\,d\mu+i\int_X(qu+pv)\,d\mu\\ &=(p+iq)\left(\int_Xu\,d\mu+i\int_Xv\,d\mu\right)\\ &=\alpha\int_Xh\,d\mu. \end{aligned}

複素関数の加法性と複素スカラー倍の等式をαh\alpha hとβk\beta kに適用すると、(2)を得る。▨

複素数には実数の大小関係と両立する順序を入れないため、単調性は実数値関数について述べる。

命題 3.3.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、f,g:X→Rf,g:X\to\mathbb{R}を可積分な実数値関数とする。すべてのx∈Xx\in Xに対してf(x)≤g(x)f(x)\leq g(x)が成り立つならば、

∫Xf dμ≤∫Xg dμ\int_Xf\,d\mu\leq\int_Xg\,d\mu

が成り立つ。

証明.0≤g−f≤∣f∣+∣g∣0\leq g-f\leq|f|+|g|である。したがって、

∫X∣g−f∣ dμ=∫X(g−f) dμ≤∫X∣f∣ dμ+∫X∣g∣ dμ<∞.\int_X|g-f|\,d\mu =\int_X(g-f)\,d\mu \leq\int_X|f|\,d\mu+\int_X|g|\,d\mu<\infty.

ゆえに、g−fg-fは非負かつ可積分である。非負可積分関数では正部分が関数自身であり、負部分が00であるため、定義 3.1による積分は定義 2.1による積分と一致する。したがって、

0≤∫X(g−f) dμ.0\leq\int_X(g-f)\,d\mu.

定理 3.2により、

∫X(g−f) dμ=∫Xg dμ−∫Xf dμ\int_X(g-f)\,d\mu=\int_Xg\,d\mu-\int_Xf\,d\mu

である。ゆえに、∫Xf dμ≤∫Xg dμ\int_Xf\,d\mu\leq\int_Xg\,d\muが成り立つ。▨

4 零集合とほとんど至る所での一致

零集合上だけで正の値をとる非負可測関数は、正の値をもつ各単関数近似の台も零集合に含まれるため、積分が00になる。

補題 4.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、Z∈FZ\in\mathcal{F}がμ(Z)=0\mu(Z)=0を満たすとする。u:X→[0,∞]u:X\to[0,\infty]が拡張実数値可測関数であり、すべてのx∈X∖Zx\in X\setminus Zに対してu(x)=0u(x)=0が成り立つならば、

∫Xu dμ=0\int_Xu\,d\mu=0

が成り立つ。

証明.0≤φ≤u0\leq\varphi\leq uを満たす任意の非負単関数φ\varphiをとる。φ\varphiの正の相異なる値をc1,…,ckc_1,\dots,c_kとし、Ai={φ=ci}A_i=\{\varphi=c_i\}とおく。x∈X∖Zx\in X\setminus Zでは0≤φ(x)≤u(x)=00\leq\varphi(x)\leq u(x)=0であるから、Ai⊆ZA_i\subseteq Zである。各AiA_iは可測であり、測度の単調性から0≤μ(Ai)≤μ(Z)=00\leq\mu(A_i)\leq\mu(Z)=0である。したがって、

∫Xφ dμ=∑i=1kciμ(Ai)=0.\int_X\varphi\,d\mu=\sum_{i=1}^{k}c_i\mu(A_i)=0.

φ\varphiが値00をとる集合の測度が∞\inftyであっても、値00に対応する項は0⋅∞=00\cdot\infty=0である。定義 2.1で、uu以下のすべての非負単関数について上限をとると、∫Xu dμ=0\int_Xu\,d\mu=0を得る。▨

定理 4.2.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、Z∈FZ\in\mathcal{F}がμ(Z)=0\mu(Z)=0を満たすとする。

  1. f,g:X→[0,∞]f,g:X\to[0,\infty]が拡張実数値可測関数であり、すべてのx∈X∖Zx\in X\setminus Zに対してf(x)=g(x)f(x)=g(x)が成り立つならば、 ∫Xf dμ=∫Xg dμ\int_Xf\,d\mu=\int_Xg\,d\mu が成り立つ。
  2. f,g:X→Rf,g:X\to\mathbb{R}が可積分な実数値関数であり、すべてのx∈X∖Zx\in X\setminus Zに対してf(x)=g(x)f(x)=g(x)が成り立つならば、 ∫Xf dμ=∫Xg dμ\int_Xf\,d\mu=\int_Xg\,d\mu が成り立つ。
  3. h,k:X→Ch,k:X\to\mathbb{C}が可積分な複素数値関数であり、すべてのx∈X∖Zx\in X\setminus Zに対してh(x)=k(x)h(x)=k(x)が成り立つならば、 ∫Xh dμ=∫Xk dμ\int_Xh\,d\mu=\int_Xk\,d\mu が成り立つ。

証明.(1)を示す。非負可測関数ffに対して、

fZ(x)={f(x),x∈Z,0,x∈X∖Z,fX∖Z(x)={0,x∈Z,f(x),x∈X∖Zf_Z(x)= \begin{cases} f(x),&x\in Z,\\ 0,&x\in X\setminus Z, \end{cases} \qquad f_{X\setminus Z}(x)= \begin{cases} 0,&x\in Z,\\ f(x),&x\in X\setminus Z \end{cases}

と定める。任意のa≥0a\geq0に対して

{fZ>a}=Z∩{f>a},{fX∖Z>a}=(X∖Z)∩{f>a}\{f_Z>a\}=Z\cap\{f>a\}, \qquad \{f_{X\setminus Z}>a\}=(X\setminus Z)\cap\{f>a\}

であり、a<0a<0に対して両方の上側集合はXXである。半直線による可測性の判定§E9.5 命題 2.3から、fZf_ZとfX∖Zf_{X\setminus Z}は可測である。点ごとに

f=fZ+fX∖Zf=f_Z+f_{X\setminus Z}

が成り立つ。補題 4.1と定理 2.5により、

∫Xf dμ=∫XfZ dμ+∫XfX∖Z dμ=∫XfX∖Z dμ.\int_Xf\,d\mu =\int_Xf_Z\,d\mu+\int_Xf_{X\setminus Z}\,d\mu =\int_Xf_{X\setminus Z}\,d\mu.

ggについても同じ等式が成り立つ。仮定からfX∖Z=gX∖Zf_{X\setminus Z}=g_{X\setminus Z}であるため、(1)を得る。

(2)を示す。実数値関数の場合、f=gf=gがX∖ZX\setminus Z上で成り立つならば、f+=g+f^+=g^+とf−=g−f^-=g^-もX∖ZX\setminus Z上で成り立つ。(1)を各正負部分へ適用すると、

∫Xf+ dμ=∫Xg+ dμ,∫Xf− dμ=∫Xg− dμ\int_Xf^+\,d\mu=\int_Xg^+\,d\mu, \qquad \int_Xf^-\,d\mu=\int_Xg^-\,d\mu

を得る。すべての積分値は有限であるから、差をとることにより(2)を得る。

(3)を示す。複素数値関数の場合、h=kh=kがX∖ZX\setminus Z上で成り立つならば、実部どうしと虚部どうしもX∖ZX\setminus Z上で一致する。(2)を実部と虚部へ適用し、定義 3.1の複素積分の定義を用いると、(3)を得る。▨

例 4.3 (零集合の指示関数).(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、Z∈FZ\in\mathcal{F}がμ(Z)=0\mu(Z)=0を満たすとする。任意のc∈[0,∞)c\in[0,\infty)に対してc1Zc\mathbf{1}_Zは非負単関数であり、

∫Xc1Z dμ=cμ(Z)=0\int_Xc\mathbf{1}_Z\,d\mu=c\mu(Z)=0

である。c=0c=0かつμ(X∖Z)=∞\mu(X\setminus Z)=\inftyの場合にも、値00の部分の項は0⋅∞=00\cdot\infty=0である。したがって、零集合上で関数の値を変更しても、変更前後の関数が可積分であるか、または両方が非負可測関数であるならば、積分値は変わらない。

5 像測度に関する積分公式

可測写像による逆像を通じて、定義域上の測度から終域上の測度を定める。

定義 5.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、(Y,G)(Y,\mathcal{G})を可測空間とする。T:(X,F)→(Y,G)T:(X,\mathcal{F})\to(Y,\mathcal{G})を可測写像とする。各B∈GB\in\mathcal{G}に対して

(T#μ)(B)=μ(T−1(B))(T_{\#}\mu)(B)=\mu\bigl(T^{-1}(B)\bigr)

と定める。集合関数T#μ:G→[0,∞]T_{\#}\mu:\mathcal{G}\to[0,\infty]を、μ\muのTTによる像測度 (pushforward measure) という。

命題 5.2.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、(Y,G)(Y,\mathcal{G})を可測空間とする。T:(X,F)→(Y,G)T:(X,\mathcal{F})\to(Y,\mathcal{G})が可測であるならば、T#μT_{\#}\muは(Y,G)(Y,\mathcal{G})上の測度である。

証明.TTの可測性により、任意のB∈GB\in\mathcal{G}に対してT−1(B)∈FT^{-1}(B)\in\mathcal{F}である。したがって、T#μT_{\#}\muはG\mathcal{G}上で定義されている。また、

(T#μ)(∅)=μ(T−1(∅))=μ(∅)=0(T_{\#}\mu)(\emptyset) =\mu(T^{-1}(\emptyset)) =\mu(\emptyset)=0

である。

B1,B2,⋯∈GB_1,B_2,\dots\in\mathcal{G}が二つずつ交わらないとする。逆像は和集合を保ち、T−1(Bn)T^{-1}(B_n)も二つずつ交わらない。μ\muの可算加法性から

(T#μ)(⋃n=1∞Bn)=μ(T−1(⋃n=1∞Bn))=μ(⋃n=1∞T−1(Bn))=∑n=1∞μ(T−1(Bn))=∑n=1∞(T#μ)(Bn)\begin{aligned} (T_{\#}\mu)\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}B_n\right) &=\mu\left(T^{-1}\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}B_n\right)\right)\\ &=\mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}T^{-1}(B_n)\right)\\ &=\sum_{n=1}^{\infty}\mu(T^{-1}(B_n))\\ &=\sum_{n=1}^{\infty}(T_{\#}\mu)(B_n) \end{aligned}

を得る。ゆえに、T#μT_{\#}\muは測度である。▨

像測度に関する積分公式は、指示関数、非負単関数、非負可測関数、可積分な実数値関数、可積分な複素数値関数の順に証明する。

5.1 証明方針

指示関数では、像測度の定義から積分公式が得られる。非負単関数では指示関数の公式を有限個足し合わせる。非負可測関数では、終域上の増加単関数近似を写像TTと合成し、増加単関数近似に沿う積分の補題を定義域と終域の双方へ適用する。実数値関数では正負部分を、複素数値関数では実部と虚部を用いる。

定理 5.3.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、(Y,G)(Y,\mathcal{G})を可測空間とする。T:(X,F)→(Y,G)T:(X,\mathcal{F})\to(Y,\mathcal{G})を可測写像とし、ν=T#μ\nu=T_{\#}\muとおく。

  1. h:Y→[0,∞]h:Y\to[0,\infty]が拡張実数値可測関数であるならば、h∘Th\circ Tは拡張実数値可測関数であり、 ∫Yh dν=∫Xh∘T dμ\int_Yh\,d\nu=\int_Xh\circ T\,d\mu が[0,∞][0,\infty]において成り立つ。
  2. h:Y→Rh:Y\to\mathbb{R}がν\nuに関して可積分な実数値関数であるならば、h∘Th\circ Tはμ\muに関して可積分であり、 ∫Yh dν=∫Xh∘T dμ\int_Yh\,d\nu=\int_Xh\circ T\,d\mu が成り立つ。
  3. h:Y→Ch:Y\to\mathbb{C}がν\nuに関して可積分な複素数値関数であるならば、h∘Th\circ Tはμ\muに関して可積分であり、 ∫Yh dν=∫Xh∘T dμ\int_Yh\,d\nu=\int_Xh\circ T\,d\mu が成り立つ。

証明.(1)を示す。最初に、B∈GB\in\mathcal{G}に対する指示関数h=1Bh=\mathbf{1}_Bを考える。定義 1.1と像測度の定義から

∫Y1B dν=ν(B)=μ(T−1(B))=∫X1T−1(B) dμ=∫X1B∘T dμ\int_Y\mathbf{1}_B\,d\nu =\nu(B) =\mu(T^{-1}(B)) =\int_X\mathbf{1}_{T^{-1}(B)}\,d\mu =\int_X\mathbf{1}_B\circ T\,d\mu

を得る。

次に、φ:Y→[0,∞)\varphi:Y\to[0,\infty)を非負単関数とする。可測分割B1,…,BkB_1,\dots,B_kと係数c1,…,ck≥0c_1,\dots,c_k\geq0を用いて

φ=∑i=1kci1Bi\varphi=\sum_{i=1}^{k}c_i\mathbf{1}_{B_i}

と表示する。T−1(B1),…,T−1(Bk)T^{-1}(B_1),\dots,T^{-1}(B_k)から空集合を除いた集合族はXXの可測分割であり、

φ∘T=∑i=1kci1T−1(Bi)\varphi\circ T =\sum_{i=1}^{k}c_i\mathbf{1}_{T^{-1}(B_i)}

である。指示関数の場合の等式を有限個足し合わせるか、命題 1.2を両辺へ適用すると、

∫Yφ dν=∫Xφ∘T dμ\int_Y\varphi\,d\nu=\int_X\varphi\circ T\,d\mu

を得る。

h:Y→[0,∞]h:Y\to[0,\infty]を拡張実数値可測関数とする。§E9.5 命題 1.2によりh∘Th\circ Tは可測である。§E9.5 定理 5.3により、φn↑h\varphi_n\uparrow hを満たす非負単関数列(φn)n≥1(\varphi_n)_{n\geq1}を選ぶ。各φn∘T\varphi_n\circ Tは非負単関数であり、φn∘T↑h∘T\varphi_n\circ T\uparrow h\circ Tである。したがって、補題 2.3と非負単関数の場合の等式から

∫Yh dν=lim⁡n→∞∫Yφn dν=lim⁡n→∞∫Xφn∘T dμ=∫Xh∘T dμ\begin{aligned} \int_Yh\,d\nu &=\lim_{n\to\infty}\int_Y\varphi_n\,d\nu\\ &=\lim_{n\to\infty}\int_X\varphi_n\circ T\,d\mu\\ &=\int_Xh\circ T\,d\mu \end{aligned}

を得る。以上により、(1)が従う。

(2)を示す。h:Y→Rh:Y\to\mathbb{R}がν\nuに関して可積分であるとする。(1)を∣h∣|h|へ適用すると、

∫X∣h∘T∣ dμ=∫X(∣h∣∘T) dμ=∫Y∣h∣ dν<∞\int_X|h\circ T|\,d\mu =\int_X(|h|\circ T)\,d\mu =\int_Y|h|\,d\nu<\infty

である。§E9.5 命題 1.2によりh∘Th\circ Tは可測であるから、h∘Th\circ Tはμ\muに関して可積分である。また、

(h∘T)+=h+∘T,(h∘T)−=h−∘T(h\circ T)^+=h^+\circ T, \qquad (h\circ T)^-=h^-\circ T

が点ごとに成り立つ。(1)をh+h^+とh−h^-へ適用して差をとると、

∫Xh∘T dμ=∫Yh dν\int_Xh\circ T\,d\mu=\int_Yh\,d\nu

を得る。各積分は有限であるため、この差に未定義な無限量どうしの差は現れない。

(3)を示す。最後に、h:Y→Ch:Y\to\mathbb{C}がν\nuに関して可積分であるとする。§E9.5 命題 1.2によりh∘Th\circ Tは可測である。(1)を∣h∣|h|へ適用すると、実数値の場合と同じ計算によりh∘Th\circ Tはμ\muに関して可積分である。さらに、

Re⁡(h∘T)=(Re⁡h)∘T,Im⁡(h∘T)=(Im⁡h)∘T\operatorname{Re}(h\circ T)=(\operatorname{Re}h)\circ T, \qquad \operatorname{Im}(h\circ T)=(\operatorname{Im}h)\circ T

である。(2)をRe⁡h\operatorname{Re}hとIm⁡h\operatorname{Im}hへ適用し、複素積分の定義を用いると、

∫Xh∘T dμ=∫Yh dν\int_Xh\circ T\,d\mu=\int_Yh\,d\nu

を得る。▨

例 5.4 (有限集合上の像測度).X={1,2,3}X=\{1,2,3\}とY={a,b}Y=\{a,b\}にそれぞれ冪集合からなるシグマ加法族を入れる。XX上の測度を

μ(A)=∑x∈Awx,(w1,w2,w3)=(1,2,4)\mu(A)=\sum_{x\in A}w_x, \qquad (w_1,w_2,w_3)=(1,2,4)

と定める。互いに交わらない集合では、各点の重みが高々一つの集合の和に現れるため、μ\muはXX上の測度である。写像T:X→YT:X\to YをT(1)=T(2)=aT(1)=T(2)=a、T(3)=bT(3)=bによって定めると、

(T#μ)({a})=3,(T#μ)({b})=4(T_{\#}\mu)(\{a\})=3, \qquad (T_{\#}\mu)(\{b\})=4

である。実数値関数h:Y→Rh:Y\to\mathbb{R}をh(a)=−1h(a)=-1、h(b)=2h(b)=2と定めると、

∫Yh d(T#μ)=−1⋅3+2⋅4=5\int_Yh\,d(T_{\#}\mu)=-1\cdot3+2\cdot4=5

である。一方、

∫Xh∘T dμ=(−1)⋅1+(−1)⋅2+2⋅4=5\int_Xh\circ T\,d\mu =(-1)\cdot1+(-1)\cdot2+2\cdot4=5

であり、定理 5.3の両辺が一致する。

6 演習

問題 6.1.

  1. (X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間、A∈FA\in\mathcal{F}、c≥0c\geq0とする。命題 1.2を用いて∫Xc1A dμ=cμ(A)\int_Xc\mathbf{1}_A\,d\mu=c\mu(A)を証明せよ。c=0c=0かつμ(A)=∞\mu(A)=\inftyの場合に必要な規約も明記せよ。
  2. 補題 2.3の証明で、固定した非負単関数ψ≤f\psi\leq fに対して集合En,iE_{n,i}を導入する理由を説明し、測度の下からの連続性を適用する直前までの不等式を再構成せよ。
  3. 定理 5.3で、非負可測関数に対する公式から実数値可積分関数に対する公式を導く際に、h∘Th\circ Tの可積分性を先に証明する必要がある理由を説明せよ。

7 適用範囲

本記事の非負可測関数に対する積分値は正の無限大を許す。実数値関数と複素数値関数については、絶対値の積分が有限である場合だけを扱う。したがって、符号をもつ拡張実数値関数の積分に∞−∞\infty-\inftyを割り当てることはしない。

本記事は、任意の関数列について積分と極限を交換する条件を扱わない。また、関数空間のノルム、確率変数、期待値、分布、およびベクトル値積分を扱わない。

参考文献

  1. Donald L. Cohn, Measure Theory, 2nd ed., Birkhäuser Advanced Texts Basler Lehrbücher, Birkhäuser, 2013.
  2. Gerald B. Folland, Real Analysis, 2nd ed., Wiley, 1999.

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