1 特性多項式
実定数a0,…,anがan=0を満たすとし、
any(n)+an−1y(n−1)+⋯+a1y′+a0y=0(1)
を考える。微分作用素をD=d/dtと書き、
P(λ)=anλn+an−1λn−1+⋯+a1λ+a0
を式 (1) の特性多項式という。式 (1) はP(D)y=0と書くことができる。
指数関数y=eλtに対して
P(D)eλt=P(λ)eλt
である。したがって、P(λ)=0ならばeλtは複素数値解である。重根の場合を扱うため、この計算を指数関数と多項式の積へ拡張する。
補題 1.1.P∈C[z]、λ∈C、q∈C[t]とする。このとき
P(D)(eλtq(t))=eλtP(D+λ)q(t)である。
証明. 積の微分公式により
D(eλtq(t))=eλt(D+λ)q(t)である。帰納法により
Dk(eλtq(t))=eλt(D+λ)kq(t)が任意のk∈N≥0について成り立つ。P(D)の各項へこの式を適用して加えると、主張の恒等式を得る。
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補題 1.2.d∈N≥0とし、Vdを次数がd以下の複素係数多項式全体がなすベクトル空間とする。P∈C[z]、λ∈Cに対して、線形作用素
P(D+λ):Vd⟶Vdが可逆であることとP(λ)=0であることは同値である。
証明.Vdの基底1,t,…,tdをこの順に取る。この基底に関するDの行列表現は対角成分がすべて0である三角行列なので、D+λの行列表現は対角成分がすべてλである三角行列である。したがってP(D+λ)の行列表現も三角行列であり、その対角成分はすべてP(λ)である。ゆえに、その行列式はP(λ)d+1である。したがってP(D+λ)が可逆であることとP(λ)=0であることは同値である。
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補題 1.3.qを複素係数多項式、λ∈Cとする。このとき
P(D)(eλtq(t))=eλtP(D+λ)q(t)である。
証明.補題 1.1を式 (1) の特性多項式Pに適用すると、この恒等式を得る。
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2 特性根と基本解系
定理 2.1. 特性多項式を複素数上で
P(λ)=anj=1∏r(λ−λj)mj,λj∈C,mj∈N≥1,λj=λℓ (j=ℓ),j=1∑rmj=nと因数分解する。このとき、
tkeλjt,1≤j≤r,0≤k<mj(2)は複素解空間の基本解系をなす。
証明. 根λjを一つ固定する。
P(z)=(z−λj)mjSj(z)と書くと、移動公式により
P(D)(eλjtq(t))=eλjtDmjSj(D+λj)q(t).q(t)=tkかつk<mjならば、定係数微分作用素は可換であるから
DmjSj(D+λj)q=Sj(D+λj)Dmjq=0である。したがって、式 (2) の各関数は解である。
次数がmj未満の多項式qjを用いて
j=1∑reλjtqj(t)=0(3)と仮定する。jを一つ固定し、空積を1と定めて
Rj(z)=ℓ=j∏(z−λℓ)mℓと置き、Rj(D)を式 (3) の両辺へ作用させる。ℓ=jに対して、補題 1.1により
Rj(D)(eλℓtqℓ(t))=eλℓtRj(D+λℓ)qℓ(t)である。Rj(D+λℓ)は因子Dmℓをもち、定数係数微分作用素は可換であり、degqℓ<mℓであるから、この式の右辺は零である。したがって、式 (3) から
eλjtRj(D+λj)qj(t)=0を得る。
根は相異なるため
Rj(λj)=ℓ=j∏(λj−λℓ)mℓ=0である。補題 1.2をd=mj−1、多項式Rj、λ=λjに適用すると、Rj(D+λj)は次数がmj未満の多項式空間上で可逆である。指数関数は零にならないためRj(D+λj)qj=0であり、可逆性からqj=0を得る。固定したjは任意であるから、すべてのqjは零であり、式 (2) の関数は線形独立である。
式 (2) に含まれる関数の総数は∑jmj=nである。初期値写像の複素数版は複素解空間をCnと同型にする。これは実部と虚部へ§E10.7 定理 5.2を適用すれば従う。したがって複素解空間の次元はnであり、式 (2) は基本解系である。
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実係数多項式の非実根は共役な組で現れ、重複度も一致する。
系 2.2. 実特性根ρの重複度がmならば、
eρt, teρt,…,tm−1eρtを実基本解系に含めることができる。非実根α+iβの重複度がmでβ>0ならば、共役根の組に対応して
tkeαtcos(βt),tkeαtsin(βt),0≤k<mを実基本解系に含めることができる。
証明. 実根に対応する関数は実数値である。非実根については
tke(α+iβ)t=tkeαt(cos(βt)+isin(βt))の実部と虚部を取る。係数が実数であるため、複素解の実部と虚部はともに実解である。
複素基本解系において、共役な二つの関数をその実部と虚部へ取り替える操作は、可逆な複素線形変換である。したがって線形独立性は保たれる。実解の個数はnであり、実解空間の次元もnであるから、これらは実基本解系をなす。
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3 二階方程式の三分類
正規化した二階方程式
y′′+ay′+by=0(4)
の特性多項式は
P(λ)=λ2+aλ+b
である。判別式をΔ=a2−4bとすると、実一般解は次のように分類される。
定理 3.1. 式 (4) の実数値解は、任意定数C1,C2∈Rを用いて次の形に表される。
- Δ>0のとき、相異なる実根λ1,2=(−a±Δ)/2に対して
y=C1eλ1t+C2eλ2t.
- Δ=0のとき、重根λ=−a/2に対して
y=(C1+C2t)eλt.
- Δ<0のとき、α=−a/2、β=−Δ/2>0に対して
y=eαt(C1cos(βt)+C2sin(βt)).
証明. 三つの場合は、それぞれ相異なる二実根、重複度二の実根、共役な二つの非実根に対応する。系 2.2を適用すると、表示した二関数が実基本解系になる。解空間は二次元であるから、任意の実解はその一意な線形結合である。
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例 3.2 (相異なる二実根の場合). 初期値問題
y′′−3y′+2y=0,y(0)=1,y′(0)=0を考える。特性多項式は
λ2−3λ+2=(λ−1)(λ−2)であるから、一般解は
y=C1et+C2e2tである。初期条件から
C1+C2=1,C1+2C2=0となり、C1=2、C2=−1を得る。したがって
y(t)=2et−e2t.直接微分すると
y′′−3y′+2y=(2et−4e2t)−3(2et−2e2t)+2(2et−e2t)=0であり、二つの初期条件も満たす。
例 3.3 (高階方程式の重根). 方程式
(D−1)3(D2+4)y=0の特性根は、重複度三の1と、重複度一の2i,−2iである。したがって実一般解は
y(t)=et(C0+C1t+C2t2)+C3cos(2t)+C4sin(2t)である。五つの関数は五階方程式の基本解系をなす。
特性多項式は斉次方程式の基本解系を決める。非同次項が加わると、すべての解はこの斉次解空間を平行移動した集合になる。次の記事では、基本解系による定数変化法と、定数係数方程式に対する未定係数法を導く。
4 演習
問題 4.1 (重根と複素根からの基本解系). 四階方程式
(D−1)2(D2+4)y=0の実一般解を求めよ。重根に対応する関数へ因子tが現れる理由を特性根の重複度から説明し、各因子に対応する関数が元の微分作用素で消えることを確認せよ。
解答.
特性根は重複度二の1と、重複度一の2i,−2iである。したがって実一般解は
y(t)=et(C0+C1t)+C2cos(2t)+C3sin(2t)である。根1の重複度が二であるため、etに加えてtetが必要になる。移動公式から
(D−1)2(etq(t))=etD2q(t)である。q(t)=1,tでは右辺が零になるため、etとtetは(D−1)2で消える。また、
(D2+4)cos(2t)=0,(D2+4)sin(2t)=0であるから、余弦関数と正弦関数はD2+4で消える。これら四つの実解は特性根の重複度から得られる基本解系である。四階方程式の解空間は四次元であるため、上の線形結合がすべての実解を与える。▨
問題 4.2 (特性根の合流と重根).λ∈Rを固定し、ε∈R∖{0}に対して
uε(t)=εe(λ+ε)t−eλtと置く。任意の固定したt∈Rに対して
ε→0limuε(t)=teλtであることを示せ。uεが満たす二階方程式はεに依存することを確認したうえで、極限として得た関数teλtを重根の方程式
(D−λ)2y=0へ直接代入せよ。さらに、eλtとteλtの Wronskian を計算し、この二関数が基本解系をなすことを示せ。
解答.
固定したt∈Rに対して、関数s↦estのs=λにおける微分係数から
ε→0limεe(λ+ε)t−eλt=eλtε→0limεeεt−1=teλtである。
eλtとe(λ+ε)tは、それぞれ特性根λとλ+εに対応するため、uεは線形性により
(D−λ)(D−λ−ε)uε=0を満たす。この方程式はεに依存するので、上の点ごとの極限だけから極限関数が(D−λ)2y=0を満たすと結論することはできない。
y(t)=teλtと置くと
(D−λ)y=eλt,(D−λ)2y=(D−λ)eλt=0である。したがってteλtは重根の方程式の解である。また、
W(eλt,teλt)(t)=eλtλeλtteλt(1+λt)eλt=e2λt=0が任意のt∈Rで成り立つ。よってeλtとteλtは線形独立である。重根の方程式の実解空間は二次元であるから、この二関数は基本解系をなす。▨