§E10.11相平面と安定性

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線形系

x′=(1221)x\boldsymbol x'= \begin{pmatrix}1&2\\2&1\end{pmatrix} \boldsymbol x

では、ある直線上の解は原点へ近づくが、その直線からわずかに外れた解は原点から離れる。したがって、一つの特別な解が平衡点へ収束することだけでは、その平衡点の安定性を判断することができない。近くのすべての初期状態がどのように振る舞うかを調べる必要がある。

状態を平面上の点として表し、各点での変化の向きと解の軌道を同時に見る相平面は、この違いを可視化する。平衡点の近くに始まる解が近くに留まるか、さらに平衡点へ収束するかという安定性の概念を用いると、軌道の長時間挙動を明確に区別することができる。線形系の固有値と Jordan 構造による分類は、非線形系を平衡点の近くで理解するための基準にもなる。

本記事では、相平面上の軌道と平衡点の安定性を結び付け、線形系とその非線形系への局所的な応用を考察する。

1 相線と相平面

定義 1.1. 一階自律方程式

x′=f(x)x'=f(x)

に対して、実直線の各点xxに速度f(x)f(x)の符号を記したものを相線 (phase line) という。f(x)>0f(x)>0の区間では解は時間とともに増加し、f(x)<0f(x)<0の区間では減少する。f(x)=0f(x)=0を満たす点は平衡点 (equilibrium point) である。

定義 1.2. 開集合U⊆R2U\subseteq\mathbb R^2上の自律系

x′=F(x)\boldsymbol x'=\boldsymbol F(\boldsymbol x)

を考える。状態x=(x1,x2)\boldsymbol x=(x_1,x_2)を点として表す平面を相平面 (phase plane) という。各点x∈U\boldsymbol x\in Uに速度ベクトルF(x)\boldsymbol F(\boldsymbol x)を対応させたものをベクトル場 (vector field) という。解x(t)\boldsymbol x(t)の像を、その解の軌道 (orbit) という。軌道には時間が増加する向きを付ける。

定義 1.3.x∗∈U\boldsymbol x_*\in Uが

F(x∗)=0\boldsymbol F(\boldsymbol x_*)=\boldsymbol0

を満たすとき、x∗\boldsymbol x_*を平衡点 (equilibrium point) という。このときx(t)=x∗\boldsymbol x(t)=\boldsymbol x_*は定数解である。

2 Lyapunov 安定性

定義 2.1.x∗\boldsymbol x_*を自律系の平衡点とする。

x∗\boldsymbol x_*が Lyapunov 安定 (Lyapunov stable) であるとは、任意のε>0\varepsilon>0に対してδ>0\delta>0が存在し、

∥x(0)−x∗∥<δ\lVert\boldsymbol x(0)-\boldsymbol x_*\rVert<\delta

を満たす任意の解がすべてのt≥0t\ge0で存在して

∥x(t)−x∗∥<ε(t≥0)\lVert\boldsymbol x(t)-\boldsymbol x_*\rVert<\varepsilon \qquad(t\ge0)

を満たすことをいう。

平衡点が Lyapunov 安定であり、さらにρ>0\rho>0が存在して

∥x(0)−x∗∥<ρ⟹lim⁡t→∞x(t)=x∗\lVert\boldsymbol x(0)-\boldsymbol x_*\rVert<\rho \quad\Longrightarrow\quad \lim_{t\to\infty}\boldsymbol x(t)=\boldsymbol x_*

が成り立つとき、x∗\boldsymbol x_*を漸近安定 (asymptotically stable) という。Lyapunov 安定でない平衡点を不安定 (unstable) という。

例 2.2 (相線による平衡点の判定).

x′=x(1−x)x'=x(1-x)

では、x=0,1x=0,1が平衡点である。x<0x<0とx>1x>1ではx′<0x'<0、0<x<10<x<1ではx′>0x'>0である。

x(0)=x0>0x(0)=x_0>0に対する一意な最大解x:(α,β)→Rx:(\alpha,\beta)\to\Rを§E10.5 定理 5.3により取る。x0=1x_0=1ならばx(t)=1x(t)=1である。x0≠1x_0\ne1の場合、解が平衡点11に達すると、§E10.5 補題 5.2により定数解x(t)=1x(t)=1と一致するため、解は11を横切らない。上の符号と合わせると

min⁡{x0,1}≤x(t)≤max⁡{x0,1}(0≤t<β)\min\{x_0,1\}\le x(t)\le\max\{x_0,1\} \qquad(0\le t<\beta)

を得る。もしβ<∞\beta<\inftyならば、解のグラフはコンパクト集合

[0,β]×[min⁡{x0,1},max⁡{x0,1}]⊆R2[0,\beta]\times[\min\{x_0,1\},\max\{x_0,1\}]\subseteq\R^2

に含まれるので、§E10.5 定理 5.4によってβ\betaを越えて延長することができる。これは最大性に反するから、β=∞\beta=\inftyである。

解は単調かつ有界であるから、有限な極限ℓ=lim⁡t→∞x(t)\ell=\lim_{t\to\infty}x(t)をもつ。ℓ(1−ℓ)≠0\ell(1-\ell)\ne0ならば、十分大きいTTと定数c>0c>0が存在し、t≥Tt\ge Tでx(t)(1−x(t))x(t)(1-x(t))の符号は一定であり、その絶対値はcc以上である。したがって

∣x(t)−x(T)∣=∣∫Ttx(s)(1−x(s)) ds∣≥c(t−T)|x(t)-x(T)| =\left|\int_T^t x(s)(1-x(s))\,ds\right| \ge c(t-T)

となり、解が上の閉区間に含まれることに反する。ゆえにℓ(1−ℓ)=0\ell(1-\ell)=0であり、ℓ≥min⁡{x0,1}>0\ell\ge\min\{x_0,1\}>0であるからℓ=1\ell=1である。

x<0x<0では解は減少し、0<x<10<x<1では増加するため、00の両側で解は00から離れる。実際、ε=1/2\varepsilon=1/2と固定し、任意のδ>0\delta>0に対して0<x0<min⁡{δ,1/2}0<x_0<\min\{\delta,1/2\}と取ると、上で示した収束により、この解は00の半径1/21/2の近傍から出る。したがって00は不安定である。一方、すべてのt≥0t\ge0で

∣x(t)−1∣≤∣x0−1∣|x(t)-1|\le|x_0-1|

が成り立つ。任意のε>0\varepsilon>0に対してδ=min⁡{ε,1/2}\delta=\min\{\varepsilon,1/2\}と取れば、∣x0−1∣<δ|x_0-1|<\deltaを満たす解はすべての前向き時間で11の半径ε\varepsilonの近傍に留まり、11へ収束する。したがって11は局所的に漸近安定である。二つの平衡点の判定に解の明示式は必要ない。

3 二次元線形系の分類

実行列A∈R2×2A\in\mathbb R^{2\times2}に対する

x′=Ax(1)\boldsymbol x'=A\boldsymbol x \tag{1}

を考える。解はx(t)=etAx(0)\boldsymbol x(t)=e^{tA}\boldsymbol x(0)である(§E10.10 定理 3.1)。

定理 3.1.AAの固有値に応じて、原点の相図と安定性は次のように分類される。

  1. 相異なる二実固有値がともに負ならば、原点は漸近安定な結節点である。ともに正ならば、不安定な結節点である。
  2. 相異なる二実固有値の符号が異なるならば、原点は不安定な鞍点である。負の固有値の固有直線上では原点へ近づき、正の固有値の固有直線上では原点から離れる。
  3. 零でない実重根をもつ場合、対角化可能ならば星形結節点、対角化不能ならば非正則結節点である。重根が負ならば漸近安定であり、正ならば不安定である。
  4. 固有値がα±iβ\alpha\pm i\beta、β≠0\beta\ne0ならば、α<0\alpha<0のとき漸近安定な渦状点、α>0\alpha>0のとき不安定な渦状点である。α=0\alpha=0のとき原点は Lyapunov 安定な中心であるが、漸近安定ではない。
  5. 固有値00をもつ場合には、原点が孤立平衡点でない場合を含むため、上の分類だけでは安定性を決めない。

証明.AAが対角化可能で実固有値λ1,λ2\lambda_1,\lambda_2をもつ場合には、固有座標で

u(t)=u(0)eλ1t,v(t)=v(0)eλ2tu(t)=u(0)e^{\lambda_1t},\qquad v(t)=v(0)e^{\lambda_2t}

である。したがって、実部の符号と固有直線上の挙動から(1)と(2)が従う。

実重根λ\lambdaをもつ場合、対角化可能ならばetA=eλtIe^{tA}=e^{\lambda t}Iである。対角化不能ならば、 Jordan 座標で

etA=eλt(1t01)e^{tA}=e^{\lambda t} \begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}

となる(§E10.10 定理 5.1)。λ<0\lambda<0ならばteλt→0te^{\lambda t}\to0であり、λ>0\lambda>0ならば固有ベクトル方向の解が指数的に増大する。

複素共役固有値の場合には、実座標の可逆な線形変換によって

A=(α−ββα)A= \begin{pmatrix}\alpha&-\beta\\ \beta&\alpha\end{pmatrix}

の形へ移すことができる。この標準形では

etA=eαt(cos⁡(βt)−sin⁡(βt)sin⁡(βt)cos⁡(βt)).e^{tA} =e^{\alpha t} \begin{pmatrix} \cos(\beta t)&-\sin(\beta t)\\ \sin(\beta t)&\cos(\beta t) \end{pmatrix}.

したがって半径はeαte^{\alpha t}倍され、α=0\alpha=0では一定に保たれる。可逆な線形座標変換はノルムの同値性により安定性を保つため、(4)が従う。固有値00をもつ場合の例としてA=0A=0ではすべての点が平衡点であり、原点は安定だが漸近安定ではない。一方、A=diag⁡(0,1)A=\operatorname{diag}(0,1)では原点は不安定である。このように、(5)では、固有値00をもつという情報だけから原点の安定性を決めることはできない。

▨

例 3.2 (鞍点).

A=(1221)A=\begin{pmatrix}1&2\\2&1\end{pmatrix}

の固有値は3,−13,-1であり、対応する固有ベクトルとしてvu=(1,1)T\boldsymbol v_u=(1,1)^{\mathsf T}とvs=(1,−1)T\boldsymbol v_s=(1,-1)^{\mathsf T}を取ることができる。固有座標x=uvu+vvs\boldsymbol x=u\boldsymbol v_u+v\boldsymbol v_sでは

u(t)=u(0)e3t,v(t)=v(0)e−t.u(t)=u(0)e^{3t},\qquad v(t)=v(0)e^{-t}.

u(0)≠0u(0)\ne0の解は正の固有値の方向へ離れるため、原点は不安定である。u(0)=0u(0)=0の固有直線上の解だけは原点へ収束する。

例 3.3 (安定な渦状点).

A=(−1−11−1)A=\begin{pmatrix}-1&-1\\1&-1\end{pmatrix}

の固有値は−1±i-1\pm iであり、

etA=e−t(cos⁡t−sin⁡tsin⁡tcos⁡t).e^{tA} =e^{-t} \begin{pmatrix} \cos t&-\sin t\\ \sin t&\cos t \end{pmatrix}.

したがって

∥x(t)∥2=e−t∥x(0)∥2\lVert\boldsymbol x(t)\rVert_2 =e^{-t}\lVert\boldsymbol x(0)\rVert_2

であり、原点は漸近安定である。軌道は回転しながら原点へ近づく。

4 非線形系の線形化

x∗\boldsymbol x_*を平衡点とする。座標をu=x−x∗\boldsymbol u=\boldsymbol x-\boldsymbol x_*へ移せば、平衡点を原点に置くことができる。F\boldsymbol Fがx∗\boldsymbol x_*の近くでC1C^1級ならば

u′=F(x∗+u)=Au+r(u),A=DF(x∗),∥r(u)∥∥u∥⟶0(u→0)(2)\boldsymbol u' =\boldsymbol F(\boldsymbol x_*+\boldsymbol u) =A\boldsymbol u+\boldsymbol r(\boldsymbol u), \qquad A=D\boldsymbol F(\boldsymbol x_*), \qquad \frac{\lVert\boldsymbol r(\boldsymbol u)\rVert} {\lVert\boldsymbol u\rVert}\longrightarrow0 \quad(\boldsymbol u\to\boldsymbol0) \tag{2}

と書くことができる。

定義 4.1. Jacobi 行列A=DF(x∗)A=D\boldsymbol F(\boldsymbol x_*)が実部00の固有値をもたないとき、x∗\boldsymbol x_*を双曲型平衡点 (hyperbolic equilibrium point) という。

補題 4.2.d≥1d\ge1とし、A∈Rd×dA\in\R^{d\times d}のすべての固有値の実部が負であるとする。Rd\R^dのノルムを一つ固定し、行列には対応する作用素ノルムを用いる。このとき、あるM≥1M\ge1とγ>0\gamma>0が存在して

∥etA∥≤Me−γt(t≥0)(3)\lVert e^{tA}\rVert\le Me^{-\gamma t}\qquad(t\ge0) \tag{3}

が成り立つ。

証明.AAの固有値を重複度を込めてλ1,…,λd\lambda_1,\ldots,\lambda_dとし、a=−max⁡jℜλj>0a=-\max_j\Re\lambda_j>0と0<γ<a0<\gamma<aを取る。t≥0t\ge0と整数k≥0k\ge0に対して、指数級数の第kk項を用いると

tkk!e−at≤1(a−γ)ke−γt\frac{t^k}{k!}e^{-at} \le \frac{1}{(a-\gamma)^k}e^{-\gamma t}

である。

§E10.10 定理 5.1により、複素 Jordan 座標でのetAe^{tA}の各成分はeλjttk/k!e^{\lambda_jt}t^k/k!(0≤k≤d−10\le k\le d-1)または零である。相似変換と有限次元ノルムの同値性により、固定した実空間の作用素ノルムに対して、あるC>0C>0が存在して

∥etA∥≤C∑k=0d−1tkk!e−at≤C(∑k=0d−1(a−γ)−k)e−γt(t≥0)\lVert e^{tA}\rVert \le C\sum_{k=0}^{d-1}\frac{t^k}{k!}e^{-at} \le C\left(\sum_{k=0}^{d-1}(a-\gamma)^{-k}\right)e^{-\gamma t} \qquad(t\ge0)

となる。M=max⁡{1,C∑k=0d−1(a−γ)−k}M=\max\{1,C\sum_{k=0}^{d-1}(a-\gamma)^{-k}\}と置けば式 (3) を得る。▨

補題 4.3. 有限次元ノルム空間をE=Eu⊕EsE=E^u\oplus E^sと分解し、線形写像BBが各部分空間を不変にするとする。各部分空間のノルムを適切に選んだ結果、ある0<q<10<q<1に対して

∥Bs∥≤q,∥Bu−1∥≤q(4)\lVert B_s\rVert\le q,\qquad \lVert B_u^{-1}\rVert\le q \tag{4}

が成り立つとする。Eu≠{0}E^u\ne\{\boldsymbol0\}とする。

原点の近くで定義された写像

G(z)=Bz+g(z),G(0)=0,∥g(z)∥∥z∥→0G(\boldsymbol z)=B\boldsymbol z+\boldsymbol g(\boldsymbol z), \qquad G(\boldsymbol0)=\boldsymbol0, \qquad \frac{\lVert\boldsymbol g(\boldsymbol z)\rVert}{\lVert\boldsymbol z\rVert}\to0

について、原点は離散系zk+1=G(zk)\boldsymbol z_{k+1}=G(\boldsymbol z_k)の不安定な固定点である。

証明.z=u+s\boldsymbol z=\boldsymbol u+\boldsymbol s、u∈Eu\boldsymbol u\in E^u、s∈Es\boldsymbol s\in E^sとし、

∥z∥=max⁡{∥u∥,∥s∥}\lVert\boldsymbol z\rVert =\max\{\lVert\boldsymbol u\rVert,\lVert\boldsymbol s\rVert\}

という直和ノルムを用いる。錐

C={u+s:∥s∥≤∥u∥}\mathcal C=\{\boldsymbol u+\boldsymbol s: \lVert\boldsymbol s\rVert\le\lVert\boldsymbol u\rVert\}

を考える。

q+η<q−1−ηq+\eta<q^{-1}-\etaかつμ=q−1−η>1\mu=q^{-1}-\eta>1を満たすη>0\eta>0を選ぶ。原点の十分小さい近傍では、g\boldsymbol gの二つの成分について

∥gu(z)∥≤η∥z∥,∥gs(z)∥≤η∥z∥\lVert\boldsymbol g_u(\boldsymbol z)\rVert\le\eta\lVert\boldsymbol z\rVert, \qquad \lVert\boldsymbol g_s(\boldsymbol z)\rVert\le\eta\lVert\boldsymbol z\rVert

が成り立つ。z∈C\boldsymbol z\in\mathcal Cならば∥z∥=∥u∥\lVert\boldsymbol z\rVert=\lVert\boldsymbol u\rVertであり、式 (4) から

∥Gu(z)∥≥∥Buu∥−η∥u∥≥(q−1−η)∥u∥,∥Gs(z)∥≤q∥s∥+η∥u∥≤(q+η)∥u∥.\begin{aligned} \lVert G_u(\boldsymbol z)\rVert &\ge\lVert B_u\boldsymbol u\rVert-\eta\lVert\boldsymbol u\rVert \ge(q^{-1}-\eta)\lVert\boldsymbol u\rVert,\\ \lVert G_s(\boldsymbol z)\rVert &\le q\lVert\boldsymbol s\rVert+\eta\lVert\boldsymbol u\rVert \le(q+\eta)\lVert\boldsymbol u\rVert. \end{aligned}

したがって、軌道がこの近傍にある限りC\mathcal Cは前向きに保たれ、不安定成分は各反復で少なくともμ>1\mu>1倍になる。

任意に小さい非零のu0∈Eu\boldsymbol u_0\in E^uを初期点に取るとz0=u0∈C\boldsymbol z_0=\boldsymbol u_0\in\mathcal Cである。この軌道が小さい固定近傍に留まり続けるならば、∥uk∥≥μk∥u0∥\lVert\boldsymbol u_k\rVert\ge\mu^k\lVert\boldsymbol u_0\rVertとなり、有界性に反する。したがって、原点に任意に近い初期点から出る軌道が固定した近傍の外へ出るため、原点は不安定である。

▨

定理 4.4 (Lyapunov の間接法).F\boldsymbol Fを平衡点x∗\boldsymbol x_*の近くでC1C^1級とし、A=DF(x∗)A=D\boldsymbol F(\boldsymbol x_*)とする。

  1. AAのすべての固有値の実部が負ならば、x∗\boldsymbol x_*は局所的に漸近安定である。
  2. AAが正の実部をもつ固有値を少なくとも一つもち、実部00の固有値をもたないならば、x∗\boldsymbol x_*は不安定である。

とくに双曲型平衡点では、すべての固有値の実部が負である場合だけが漸近安定であり、それ以外は不安定である。

証明.u=x−x∗\boldsymbol u=\boldsymbol x-\boldsymbol x_*と置き、式 (2) を用いる。F\boldsymbol Fはx∗\boldsymbol x_*の近くでC1C^1級であるから、u↦F(x∗+u)\boldsymbol u\mapsto\boldsymbol F(\boldsymbol x_*+\boldsymbol u)は原点の十分小さい閉球上で微分が有界であり、§E4.3 定理 2.1により、その球内で Lipschitz 連続である。

すべての固有値の実部が負であるとする。補題 4.2のM,γM,\gammaを取る。ε>0\varepsilon>0をMε<γ/2M\varepsilon<\gamma/2となるように選ぶ。r(u)=o(∥u∥)\boldsymbol r(\boldsymbol u)=o(\lVert\boldsymbol u\rVert)であるから、あるδ>0\delta>0に対して半径δ\deltaの閉球がベクトル場の定義域に含まれ、かつ

∥u∥<δ⟹∥r(u)∥≤ε∥u∥(5)\lVert\boldsymbol u\rVert<\delta \quad\Longrightarrow\quad \lVert\boldsymbol r(\boldsymbol u)\rVert \le\varepsilon\lVert\boldsymbol u\rVert \tag{5}

が成り立つ。

解が半径δ\deltaの球内にある間、定数変化公式§E10.9 系 3.2から

∥u(t)∥≤Me−γt∥u(0)∥+Mε∫0te−γ(t−s)∥u(s)∥ ds\lVert\boldsymbol u(t)\rVert \le Me^{-\gamma t}\lVert\boldsymbol u(0)\rVert +M\varepsilon\int_0^t e^{-\gamma(t-s)}\lVert\boldsymbol u(s)\rVert\,ds

である。両辺にeγte^{\gamma t}を掛けて Grönwall の不等式§E10.6 系 1.2を適用すると

∥u(t)∥≤M∥u(0)∥e−(γ−Mε)t≤M∥u(0)∥e−γt/2.(6)\lVert\boldsymbol u(t)\rVert \le M\lVert\boldsymbol u(0)\rVert e^{-(\gamma-M\varepsilon)t} \le M\lVert\boldsymbol u(0)\rVert e^{-\gamma t/2}. \tag{6}

M∥u(0)∥<δM\lVert\boldsymbol u(0)\rVert<\deltaならば式 (6) は解が球の境界へ初めて到達することを排除する。したがって解はすべてのt≥0t\ge0でこの球内に留まり、最大延長定理§E10.5 定理 5.4により前向きに存在する。式 (6) は収束u(t)→0\boldsymbol u(t)\to\boldsymbol0を与える。さらに、任意の0<r≤δ0<r\le\deltaに対して∥u(0)∥<r/M\lVert\boldsymbol u(0)\rVert<r/Mと選べば式 (6) から∥u(t)∥<r\lVert\boldsymbol u(t)\rVert<rがすべてのt≥0t\ge0で成り立つ。r>δr>\deltaの場合はδ\deltaに対する結論を用いればよい。したがって Lyapunov 安定性も従う。

次に、AAが正の実部をもつ固有値をもち、実部00の固有値をもたないとする。複素一般固有空間を実数上でまとめることにより

Rd=Eu⊕Es\mathbb R^d=E^u\oplus E^s

と分解することができる。EuE^uは正の実部をもつ固有値に対応し、零でない。Au=A∣EuA_u=A|_{E^u}、As=A∣EsA_s=A|_{E^s}とし、各部分空間のノルムを固定する。−Au-A_uのすべての固有値の実部は負であるから、補題 4.2により∥e−tAu∥→0\lVert e^{-tA_u}\rVert\to0である。Es≠{0}E^s\ne\{\boldsymbol0\}ならば、同じ補題をAsA_sへ適用して∥etAs∥→0\lVert e^{tA_s}\rVert\to0を得る。Es={0}E^s=\{\boldsymbol0\}ならば、EsE^s上の作用素のノルムは零である。したがって、0<q<10<q<1を一つ固定し、十分大きいT>0T>0を選べば

∥eTA∣Es∥≤q,∥(eTA∣Eu)−1∥≤q\lVert e^{TA}|_{E^s}\rVert\le q,\qquad \lVert(e^{TA}|_{E^u})^{-1}\rVert\le q

が成り立つ。ここで(eTAu)−1=e−TAu(e^{TA_u})^{-1}=e^{-TA_u}を用いた。

原点を中心とする開球DDを、その閉包がu↦F(x∗+u)\boldsymbol u\mapsto \boldsymbol F(\boldsymbol x_*+\boldsymbol u)の定義域に含まれるように取り、DD上の Lipschitz 定数LLを取る。B‾ρ(0)⊂D\overline B_\rho(\boldsymbol0)\subset Dを満たすρ>0\rho>0を取る。式 (2) と零解に§E10.6 系 4.2をJ=[0,T]J=[0,T]、右辺の摂動を零として適用すると、

eLT∥ξ∥<ρe^{LT}\lVert\boldsymbol\xi\rVert<\rho

を満たす初期値から出る解は[0,T][0,T]上に存在し、

sup⁡0≤t≤T∥u(t;ξ)∥≤eLT∥ξ∥<ρ\sup_{0\le t\le T}\lVert\boldsymbol u(t;\boldsymbol\xi)\rVert \le e^{LT}\lVert\boldsymbol\xi\rVert<\rho

を満たす。この初期値の近傍でG(ξ)=u(T;ξ)G(\boldsymbol\xi)=\boldsymbol u(T;\boldsymbol\xi)と置く。原点から出る解は定数解であるから、G(0)=0G(\boldsymbol0)=\boldsymbol0である。

定数変化公式により

G(ξ)=eTAξ+∫0Te(T−s)Ar(u(s;ξ)) ds.G(\boldsymbol\xi) =e^{TA}\boldsymbol\xi +\int_0^T e^{(T-s)A}\boldsymbol r(\boldsymbol u(s;\boldsymbol\xi))\,ds.

直前の一様評価とr(u)=o(∥u∥)\boldsymbol r(\boldsymbol u)=o(\lVert\boldsymbol u\rVert)から、積分項はo(∥ξ∥)o(\lVert\boldsymbol\xi\rVert)である。したがって補題 4.3をB=eTAB=e^{TA}へ適用すると、原点は時間TT写像の不安定な固定点である。連続時間の平衡点が Lyapunov 安定ならば、その時刻0,T,2T,…0,T,2T,\ldotsにおける離散軌道も同じ近傍に留まるはずである。これは拡大錐補題に反するため、原点は不安定である。

▨

固有値の実部が零である場合には、この定理を適用することができない。例えば線形中心は安定であるが、非線形項を加えると安定にも不安定にもなり得る。流れ、不変集合、Hartman–Grobman の定理、安定多様体、 Lyapunov 関数、分岐、およびカオスは、後続単元「力学系と制御」が扱う。

5 演習

問題 5.1 (零固有値と Jordan 構造). 二つの行列

A0=(0000),N=(0100)A_0=\begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix}, \qquad N=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}

について、線形系x′=A0x\boldsymbol x'=A_0\boldsymbol xとx′=Nx\boldsymbol x'=N\boldsymbol xの解を求めよ。両行列の固有値はともに0,00,0であるが、前者の原点は Lyapunov 安定であって漸近安定ではなく、後者の原点は不安定であることを証明せよ。

解答.

A0A_0とNNの特性多項式はともにz2z^2である。初期値を(u0,v0)T(u_0,v_0)^{\mathsf T}とすると、A0A_0に対する解はすべての実数ttに対して

u(t)=u0,v(t)=v0u(t)=u_0,\qquad v(t)=v_0

である。任意のε>0\varepsilon>0に対してδ=ε\delta=\varepsilonと取れば原点からの距離はε\varepsilon未満に保たれるため、原点は Lyapunov 安定である。非零の初期値から出る解は原点へ収束しないため、原点は漸近安定ではない。

N2=0N^2=0であるから、§E10.10 定理 5.1によりetN=I+tNe^{tN}=I+tNであり、解は

u(t)=u0+tv0,v(t)=v0(t∈R)u(t)=u_0+tv_0,\qquad v(t)=v_0 \qquad(t\in\R)

となる。Euclid ノルムを用いてε=1\varepsilon=1と固定する。任意のδ>0\delta>0に対して0<a<min⁡{δ,1}0<a<\min\{\delta,1\}を取り、(u0,v0)=(0,a)(u_0,v_0)=(0,a)と置くと、初期値のノルムはδ\delta未満であるが、t=2/at=2/aではu(t)=2u(t)=2となり、解のノルムは11より大きい。したがって、NNに対する原点は不安定である。▨

問題 5.2 (安定な結節点の軌道).λ<0\lambda<0とし、

J=(λ10λ)J=\begin{pmatrix}\lambda&1\\0&\lambda\end{pmatrix}

と置く。JJに対する線形系u′=λu+vu'=\lambda u+v、v′=λvv'=\lambda vを考える。初期値(u0,v0)(u_0,v_0)に対する解を求め、v0≠0v_0\ne0ならば十分大きいttでu(t)≠0u(t)\ne0となり、v(t)/u(t)→0v(t)/u(t)\to0が成り立つことを示せ。また、行列λI\lambda Iに対する系と比較し、両系の原点が漸近安定であることと、λI\lambda Iに対する非定数解の軌道が原点を通る直線上にあることを示せ。

解答.

§E10.10 定理 5.1から

u(t)=eλt(u0+tv0),v(t)=eλtv0(t∈R)u(t)=e^{\lambda t}(u_0+tv_0),\qquad v(t)=e^{\lambda t}v_0 \qquad(t\in\R)

を得る。v0≠0v_0\ne0のとき、t>∣u0/v0∣t>|u_0/v_0|ならばt+u0/v0>0t+u_0/v_0>0であるからu(t)≠0u(t)\ne0であり、

v(t)u(t)=1t+u0/v0⟶0(t→∞)\frac{v(t)}{u(t)}=\frac{1}{t+u_0/v_0}\longrightarrow0 \qquad(t\to\infty)

となる。v0=0v_0=0の場合はv(t)=0v(t)=0であり、解は固有直線v=0v=0上にある。

行列λI\lambda Iに対する解は

(u(t),v(t))=eλt(u0,v0)(t∈R)(u(t),v(t))=e^{\lambda t}(u_0,v_0) \qquad(t\in\R)

である。非零の初期値に対して、軌道は初期値と原点を結ぶ直線上にあり、方向は一定である。一方、JJに対するv0≠0v_0\ne0の解では比v(t)/u(t)v(t)/u(t)が変化し、原点へ近づくにつれて固有直線v=0v=0の方向へ近づく。両行列の重根は負であるから、定理 3.1 (3)により両系の原点は漸近安定である。▨

問題 5.3 (Jacobi 行列による局所安定性の判定). 非線形系

x′=−x+xy,y′=−2y+x2\begin{aligned} x'&=-x+xy,\\ y'&=-2y+x^2 \end{aligned}

について、原点が平衡点であることを確認し、Jacobi 行列の固有値から原点の局所安定性を判定せよ。また、この判定から大域的な安定性までを結論することができない理由を述べよ。

解答.

右辺をF(x,y)\boldsymbol F(x,y)と書くとF(0,0)=0\boldsymbol F(0,0)=\boldsymbol0であるから、原点は平衡点である。Jacobi 行列は

DF(x,y)=(−1+yx2x−2)D\boldsymbol F(x,y) = \begin{pmatrix} -1+y&x\\ 2x&-2 \end{pmatrix}

であり、

DF(0,0)=(−100−2)D\boldsymbol F(0,0) = \begin{pmatrix} -1&0\\ 0&-2 \end{pmatrix}

の固有値は−1,−2-1,-2である。右辺は原点の近くでC1C^1級であり、二つの固有値の実部がともに負である。したがって、Lyapunov の間接法により原点は局所的に漸近安定である。同定理は平衡点の十分小さい近傍で剰余項を評価して得る局所定理であるため、遠方から出る解の挙動や大域的な存在を結論しない。実際、(2,1)(\sqrt2,1)と(−2,1)(-\sqrt2,1)も平衡点であり、各平衡点の定数解は原点へ収束しないため、原点はすべての初期値から出る解を吸引するわけではない。▨

問題 5.4 (非双曲型平衡点で線形化だけでは安定性が定まらないことの証明). 次の二つの系を考える。

(I)x′=−y,y′=x,(II)x′=−y+x(x2+y2),y′=x+y(x2+y2).\begin{aligned} \text{(I)}\quad &x'=-y,\qquad y'=x,\\ \text{(II)}\quad &x'=-y+x(x^2+y^2),\qquad y'=x+y(x^2+y^2). \end{aligned}

二つの系が原点で同じ Jacobi 行列をもち、その固有値の実部が零であることを示せ。そのうえで、系 (I) の原点は Lyapunov 安定であるが漸近安定ではなく、系 (II) の原点は不安定であることを証明せよ。

解答.

いずれの系でも原点は平衡点であり、原点における Jacobi 行列は

A=(0−110)A=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}

である。固有値は±i\pm iであり、実部は零である。

系 (I) では

ddt(x2+y2)=2x(−y)+2yx=0\frac{d}{dt}(x^2+y^2) =2x(-y)+2yx=0

であるから、原点からの距離は一定である。したがって原点は Lyapunov 安定であるが、原点以外から出る解は原点へ収束しないため漸近安定ではない。

系 (II) でs=x2+y2s=x^2+y^2と置くと

s′=2x(−y+xs)+2y(x+ys)=2s2.s' =2x\bigl(-y+xs\bigr)+2y\bigl(x+ys\bigr) =2s^2.

s(0)=s0>0s(0)=s_0>0に対して

s(t)=s01−2s0ts(t)=\frac{s_0}{1-2s_0t}

である。任意に小さい正のs0s_0から出発しても、s(t)s(t)は有限時間後にあらかじめ固定した小さい正の値へ達する。したがって、原点に任意に近い初期点から出る解が固定した近傍の外へ出るため、原点は不安定である。同じ線形化から異なる安定性が生じるので、固有値の実部が零である場合には線形化だけで判定することができない。▨

参考文献

  1. Lawrence Perko, Differential Equations and Dynamical Systems, 3rd ed., Texts in Applied Mathematics 7, Springer, New York, 2001.平面線形系の分類と双曲型平衡点の線形化による安定性判定を参考にした。
  2. Gerald Teschl, Ordinary Differential Equations and Dynamical Systems, American Mathematical Society, Providence, Rhode Island, 2012.相線、相平面、Lyapunov 安定性、線形化された安定性を参考にした。

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