§E13.11確率的手法

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条件を満たす有限離散構造の存在を示すには、その構造を一つ書き下せばよい。しかし、条件によっては、そのような構造を書き下す手続きが知られていない。確率的手法は、対象の有限集合の上に確率を定め、ランダムに選んだ対象が条件を満たす確率が正であることを示して、条件を満たす対象の存在を結論する論法である。確率が正である事象は空でないから、この論法は存在についての完全な証明を与える。

本記事では、標本空間が有限集合である確率空間だけを扱う。まず、有限確率空間における期待値の和表示と単調性を先行記事の定義から導き、各座標が独立に定まる有限確率空間を構成する。次に、和事象の評価、第一モーメント法、平均以上および平均以下の結果の存在、および Chebyshev の不等式を用いる第二モーメント法を証明する。最後にこれらを二つの問題へ適用する。一つは、ランダムな二彩色によって対角 Ramsey 数の指数的な下界を得ることであり、もう一つは、ランダムに選んだ頂点集合から辺を取り除く改変法によって独立集合の大きさの下界を得ることである。

記号について。本記事では期待値をE[⋅]\mathbb E[\cdot]、確率をP(⋅)\mathbb P(\cdot)と書く。グラフの辺集合をEE、半順序集合をPPと書く本単元の他の記事と記号が衝突することを避けるためである。参照する先行記事は同じ量をE[⋅]E[\cdot]とP(⋅)P(\cdot)と書いている。

「独立」という語について。本記事には二つの異なる「独立」が現れる。一つは確率変数および事象の独立性であり、もう一つはグラフの独立集合、すなわちどの二頂点も隣接しない頂点集合である。以下では、混同のおそれがある箇所で「確率的に独立」「グラフの独立集合」と修飾語を付ける。

1 有限確率空間における期待値

確率空間、確率変数、期待値、分散および共分散の定義は先行記事が与える。すなわち、確率空間の定義は§E11.1 定義 1.1、期待値の定義は§E11.4 定義 1.1、分散と共分散の定義は§E11.4 定義 2.1である。本記事はこれらを再定義せず、次の特別な場合だけを扱う。

定義 1.1. 三つ組(Ω,F,P)(\Omega,\mathcal F,\mathbb P)が有限確率空間 (finite probability space) であるとは、それが§E11.1 定義 1.1の意味の確率空間であり、さらに次の二条件を満たすことをいう。

  1. 標本空間Ω\Omegaは空でない有限集合である。
  2. 事象の全体F\mathcal Fは、Ω\Omegaのすべての部分集合の族2Ω2^{\Omega}に等しい。

条件 (b)の2Ω2^{\Omega}は§E9.1 定義 1.2の意味のシグマ加法族である。実際、Ω∈2Ω\Omega\in2^{\Omega}であり、Ω\Omegaの部分集合の補集合と可算個の部分集合の合併はいずれもΩ\Omegaの部分集合であるから、三つの条件がすべて満たされる(§E9.1 例 1.3も参照)。以下では有限確率空間を(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)と書く。

命題 1.2.(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)を有限確率空間とする。

  1. 任意のA⊆ΩA\subseteq\OmegaについてP(A)=∑ω∈AP({ω})\mathbb P(A)=\sum_{\omega\in A}\mathbb P(\{\omega\})が成り立つ。とくにP\mathbb Pは一点集合の値の族(P({ω}))ω∈Ω(\mathbb P(\{\omega\}))_{\omega\in\Omega}によって定まる。
  2. 任意の写像X:Ω→RX:\Omega\to\mathbb Rは、2Ω2^{\Omega}とR\mathbb Rの Borel シグマ加法族について§E9.5 定義 1.1の意味で可測である。したがってXXは確率変数である。

証明.(1)を示す。A=∅A=\emptysetのときは§E11.1 命題 2.1の 1 より両辺が00である。A≠∅A\ne\emptysetとし、AAの相異なる元をω1,…,ωr\omega_1,\dots,\omega_rと並べる。1≤i≤r1\le i\le rに対しAi={ωi}A_i=\{\omega_i\}、i>ri>rに対しAi=∅A_i=\emptysetと置くと、(Ai)i≥1(A_i)_{i\ge1}は二つずつ交わらない事象の列であり、その合併はAAである。§E9.2 定義 1.1の可算加法性を適用するとP(A)=∑i≥1P(Ai)\mathbb P(A)=\sum_{i\ge1}\mathbb P(A_i)であり、§E11.1 命題 2.1の 1 よりi>ri>rの項は00であるから、右辺は∑i=1rP({ωi})=∑ω∈AP({ω})\sum_{i=1}^{r}\mathbb P(\{\omega_i\})=\sum_{\omega\in A}\mathbb P(\{\omega\})に等しい。

(2)を示す。 Borel 集合B⊆RB\subseteq\mathbb Rに対し、X−1(B)X^{-1}(B)はΩ\Omegaの部分集合であるからX−1(B)∈2ΩX^{-1}(B)\in2^{\Omega}である。ゆえにXXは可測である。▨

期待値の定義は測度に関する積分によって与えられているので、有限確率空間では和による表示へ書き直すことができる。この書き直しは先行記事にないので、本記事で示す。

命題 1.3.(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)を定義 1.1の有限確率空間とし、X:Ω→RX:\Omega\to\mathbb Rを確率変数とする。このときXXは可積分であり、さらにX2X^{2}も可積分である。またE[X]=∑ω∈ΩX(ω) P({ω})\mathbb E[X]=\sum_{\omega\in\Omega}X(\omega)\,\mathbb P(\{\omega\})が成り立つ。とくに事象A⊆ΩA\subseteq\Omegaの指示変数1A\mathbf 1_AについてE[1A]=P(A)\mathbb E[\mathbf 1_A]=\mathbb P(A)である。

証明.X+=max⁡(X,0)X^{+}=\max(X,0)とX−=max⁡(−X,0)X^{-}=\max(-X,0)と置く。Ω\Omegaは有限であるからX+X^{+}は有限個の値しか取らず、各値の逆像は2Ω2^{\Omega}に属する。ゆえにX+X^{+}は非負単関数であり、その積分は§E9.6 定義 1.1によって定まる。Ω\Omegaの一点集合の族({ω})ω∈Ω(\{\omega\})_{\omega\in\Omega}はΩ\Omegaの互いに交わらない有限分割であり、X+=∑ω∈ΩX+(ω)1{ω}X^{+}=\sum_{\omega\in\Omega}X^{+}(\omega)\mathbf 1_{\{\omega\}}と書くことができるから、§E9.6 命題 1.2を分割({ω})ω∈Ω(\{\omega\})_{\omega\in\Omega}と係数(X+(ω))ω∈Ω(X^{+}(\omega))_{\omega\in\Omega}へ適用して∫ΩX+ dP=∑ω∈ΩX+(ω) P({ω})\int_{\Omega}X^{+}\,d\mathbb P=\sum_{\omega\in\Omega}X^{+}(\omega)\,\mathbb P(\{\omega\})を得る。この右辺は有限個の実数の和であるから有限である。X−X^{-}についても同じ議論を行うと∫ΩX− dP\int_{\Omega}X^{-}\,d\mathbb Pが有限であることが分かる。∣X∣=X++X−\lvert X\rvert=X^{+}+X^{-}であるからE[∣X∣]<∞\mathbb E[\lvert X\rvert]<\inftyであり、§E11.4 定義 1.1の意味でXXは可積分である。さらに同じ定義によりE[X]=E[X+]−E[X−]=∑ω∈Ω(X+(ω)−X−(ω))P({ω})=∑ω∈ΩX(ω) P({ω})\mathbb E[X]=\mathbb E[X^{+}]-\mathbb E[X^{-}]=\sum_{\omega\in\Omega}\bigl(X^{+}(\omega)-X^{-}(\omega)\bigr)\mathbb P(\{\omega\})=\sum_{\omega\in\Omega}X(\omega)\,\mathbb P(\{\omega\})である。X2X^{2}は確率変数であるから、いま示したことをX2X^{2}へ適用するとX2X^{2}も可積分である。

指示変数については1A(ω)\mathbf 1_A(\omega)がω∈A\omega\in Aで11、そうでないとき00であるからE[1A]=∑ω∈Ω1A(ω)P({ω})=∑ω∈AP({ω})=P(A)\mathbb E[\mathbf 1_A]=\sum_{\omega\in\Omega}\mathbf 1_A(\omega)\mathbb P(\{\omega\})=\sum_{\omega\in A}\mathbb P(\{\omega\})=\mathbb P(A)である。▨

有限確率空間上のすべての確率変数が二次可積分であることは、以後、分散と共分散を仮定の確認なしに用いてよいことを意味する。次の二つの性質も和表示から直ちに従う。単調性は先行記事に対応する主張の形が無いので、本記事で示す。

命題 1.4.(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)を有限確率空間とする。

  1. 確率変数X,YX,Yがすべてのω∈Ω\omega\in\OmegaについてX(ω)≤Y(ω)X(\omega)\le Y(\omega)を満たすならばE[X]≤E[Y]\mathbb E[X]\le\mathbb E[Y]である。
  2. nnを正の整数とし、X1,…,XnX_1,\dots,X_nを確率変数、a1,…,ana_1,\dots,a_nを実数とするとE ⁣[∑i=1naiXi]=∑i=1nai E[Xi]\mathbb E\!\left[\sum_{i=1}^{n}a_iX_i\right]=\sum_{i=1}^{n}a_i\,\mathbb E[X_i]が成り立つ。

証明.(1)を示す。命題 1.3よりE[Y]−E[X]=∑ω∈Ω(Y(ω)−X(ω))P({ω})\mathbb E[Y]-\mathbb E[X]=\sum_{\omega\in\Omega}\bigl(Y(\omega)-X(\omega)\bigr)\mathbb P(\{\omega\})である。右辺の各項は、Y(ω)−X(ω)≥0Y(\omega)-X(\omega)\ge0とP({ω})≥0\mathbb P(\{\omega\})\ge0の積であるから非負である。有限個の非負の実数の和は非負であるからE[Y]−E[X]≥0\mathbb E[Y]-\mathbb E[X]\ge0である。

(2)を示す。 項数nnについての数学的帰納法(§D2.1 命題 1.2)による。n=1n=1のときは§E11.4 命題 1.2をX=X1X=X_1、Y=0Y=0、a=a1a=a_1、b=0b=0に対して適用すればよい。n−1n-1で主張が成り立つとする。命題 1.3よりすべての確率変数が可積分であるから、§E11.4 命題 1.2をX=∑i=1n−1aiXiX=\sum_{i=1}^{n-1}a_iX_i、Y=XnY=X_n、a=1a=1、b=anb=a_nに対して適用することができE ⁣[∑i=1naiXi]=E ⁣[∑i=1n−1aiXi]+anE[Xn]\mathbb E\!\left[\sum_{i=1}^{n}a_iX_i\right]=\mathbb E\!\left[\sum_{i=1}^{n-1}a_iX_i\right]+a_n\mathbb E[X_n]を得る。帰納法の仮定を第一項へ適用すると主張の等式を得る。▨

2 座標が独立な有限確率空間

確率的手法の適用では、有限個の対象のそれぞれを独立に選ぶ試行を扱う。この試行の確率空間を具体的に構成し、必要な確率を計算しておく。まず、積の和への展開を有限個の因子について書き下す。

補題 2.1.KKを有限集合とし、各i∈Ki\in Kについて有限集合SiS_iと関数fi:Si→Rf_i:S_i\to\mathbb Rが与えられているとする。直積∏i∈KSi\prod_{i\in K}S_iの元をτ=(τi)i∈K\tau=(\tau_i)_{i\in K}と書くと∑τ∈∏i∈KSi ∏i∈Kfi(τi)=∏i∈K(∑s∈Sifi(s))\sum_{\tau\in\prod_{i\in K}S_i}\ \prod_{i\in K}f_i(\tau_i)=\prod_{i\in K}\left(\sum_{s\in S_i}f_i(s)\right)が成り立つ。K=∅K=\emptysetのとき、左辺の直積は一点集合であり、両辺はいずれも11である。

証明.∣K∣\lvert K\rvertについての数学的帰納法(§D2.1 命題 1.2)による。

∣K∣=0\lvert K\rvert=0のとき、∏i∈∅Si\prod_{i\in\emptyset}S_iは空写像だけからなる一点集合であり、空積の規約により左辺の被加数は11である。したがって左辺は11であり、右辺も空積として11である。

∣K∣=k≥1\lvert K\rvert=k\ge1とし、k−1k-1の場合に主張が成り立つとする。j∈Kj\in Kを一つ取り、K′=K∖{j}K'=K\setminus\{j\}と置く。写像∏i∈KSi⟶(∏i∈K′Si)×Sj,τ⟼(τ∣K′,τj)\prod_{i\in K}S_i\longrightarrow\Bigl(\prod_{i\in K'}S_i\Bigr)\times S_j,\qquad \tau\longmapsto(\tau|_{K'},\tau_j)は全単射である。この全単射で和を書き換え、各項の積をjjの因子と残りの因子へ分けると∑τ∈∏i∈KSi∏i∈Kfi(τi)=∑s∈Sj ∑σ∈∏i∈K′Sifj(s)∏i∈K′fi(σi)=∑s∈Sjfj(s)(∑σ∈∏i∈K′Si∏i∈K′fi(σi))\sum_{\tau\in\prod_{i\in K}S_i}\prod_{i\in K}f_i(\tau_i) =\sum_{s\in S_j}\ \sum_{\sigma\in\prod_{i\in K'}S_i}f_j(s)\prod_{i\in K'}f_i(\sigma_i) =\sum_{s\in S_j}f_j(s)\left(\sum_{\sigma\in\prod_{i\in K'}S_i}\prod_{i\in K'}f_i(\sigma_i)\right)となる。ここで有限和の入れ替えと分配法則だけを用いた。内側の和へ帰納法の仮定を適用すると、この式は(∑s∈Sjfj(s))∏i∈K′(∑s∈Sifi(s))=∏i∈K(∑s∈Sifi(s))\left(\sum_{s\in S_j}f_j(s)\right)\prod_{i\in K'}\left(\sum_{s\in S_i}f_i(s)\right)=\prod_{i\in K}\left(\sum_{s\in S_i}f_i(s)\right)に等しい。▨

定義 2.2.IIを有限集合とし、p∈[0,1]p\in[0,1]とする。q:{0,1}→[0,1]q:\{0,1\}\to[0,1]をq(1)=pq(1)=p、q(0)=1−pq(0)=1-pで定める。標本空間をΩI,p={0,1}I\Omega_{I,p}=\{0,1\}^{I}、すなわちIIから{0,1}\{0,1\}への写像の全体とし、事象の全体を2ΩI,p2^{\Omega_{I,p}}とする。各ω∈ΩI,p\omega\in\Omega_{I,p}に対してPI,p({ω})=∏i∈Iq(ωi)\mathbb P_{I,p}(\{\omega\})=\prod_{i\in I}q(\omega_i)と定め、事象AAに対してPI,p(A)=∑ω∈API,p({ω})\mathbb P_{I,p}(A)=\sum_{\omega\in A}\mathbb P_{I,p}(\{\omega\})と定める。各i∈Ii\in Iに対し、ω↦ωi\omega\mapsto\omega_iで定まる確率変数を第ii座標 (i-th coordinate) という。

命題 2.3.定義 2.2の記号のもとで、次が成り立つ。

  1. PI,p\mathbb P_{I,p}は(ΩI,p,2ΩI,p)(\Omega_{I,p},2^{\Omega_{I,p}})上の確率測度である。したがって(ΩI,p,2ΩI,p,PI,p)(\Omega_{I,p},2^{\Omega_{I,p}},\mathbb P_{I,p})は定義 1.1の有限確率空間である。
  2. J⊆IJ\subseteq Iとσ∈{0,1}J\sigma\in\{0,1\}^{J}に対し、事象Cσ={ω∈ΩI,p: ωi=σi (∀i∈J)}C_{\sigma}=\{\omega\in\Omega_{I,p}:\ \omega_i=\sigma_i\ (\forall i\in J)\}の確率はPI,p(Cσ)=∏i∈Jq(σi)\mathbb P_{I,p}(C_{\sigma})=\prod_{i\in J}q(\sigma_i)である。とくにPI,p({ω: ωi=1 (∀i∈J)})=p∣J∣\mathbb P_{I,p}(\{\omega:\ \omega_i=1\ (\forall i\in J)\})=p^{\lvert J\rvert}であり、PI,p({ω: ωi=0 (∀i∈J)})=(1−p)∣J∣\mathbb P_{I,p}(\{\omega:\ \omega_i=0\ (\forall i\in J)\})=(1-p)^{\lvert J\rvert}である。
  3. 座標の族(ω↦ωi)i∈I(\omega\mapsto\omega_i)_{i\in I}は§E11.7 定義 1.1の意味で相互独立である。

証明. (2)を先に示す。J⊆IJ\subseteq Iとσ∈{0,1}J\sigma\in\{0,1\}^{J}を取る。ω∈Cσ\omega\in C_{\sigma}であることと、ω\omegaがJJ上でσ\sigmaに一致しI∖JI\setminus J上で任意の値を取ることは同値である。したがって写像ω↦ω∣I∖J\omega\mapsto\omega|_{I\setminus J}はCσC_{\sigma}から{0,1}I∖J\{0,1\}^{I\setminus J}への全単射である。この全単射で和を書き換え、各項の積をJJの因子とI∖JI\setminus Jの因子へ分けるとPI,p(Cσ)=∑τ∈{0,1}I∖J ∏i∈Jq(σi)⋅∏i∈I∖Jq(τi)=(∏i∈Jq(σi))∑τ∈{0,1}I∖J ∏i∈I∖Jq(τi)\mathbb P_{I,p}(C_{\sigma})=\sum_{\tau\in\{0,1\}^{I\setminus J}}\ \prod_{i\in J}q(\sigma_i)\cdot\prod_{i\in I\setminus J}q(\tau_i) =\left(\prod_{i\in J}q(\sigma_i)\right)\sum_{\tau\in\{0,1\}^{I\setminus J}}\ \prod_{i\in I\setminus J}q(\tau_i)となる。最後の和へ補題 2.1をK=I∖JK=I\setminus J、Si={0,1}S_i=\{0,1\}、fi=qf_i=qに対して適用すると、その値は∏i∈I∖J(q(0)+q(1))=∏i∈I∖J1=1\prod_{i\in I\setminus J}(q(0)+q(1))=\prod_{i\in I\setminus J}1=1である。ゆえにPI,p(Cσ)=∏i∈Jq(σi)\mathbb P_{I,p}(C_{\sigma})=\prod_{i\in J}q(\sigma_i)である。σ\sigmaがすべて11のときこの値はp∣J∣p^{\lvert J\rvert}、すべて00のときは(1−p)∣J∣(1-p)^{\lvert J\rvert}である。

(1)を示す。 各PI,p({ω})\mathbb P_{I,p}(\{\omega\})は[0,1][0,1]の元の有限積であるから非負である。J=∅J=\emptysetとして(2)を適用するとCσ=ΩI,pC_{\sigma}=\Omega_{I,p}であり、その確率は空積として11である。すなわち∑ω∈ΩI,pPI,p({ω})=1\sum_{\omega\in\Omega_{I,p}}\mathbb P_{I,p}(\{\omega\})=1である。一点集合の確率が非負で総和が11であり、事象の確率をその元の一点集合の確率の和で定めたので、PI,p\mathbb P_{I,p}は有限加法的であり、全体の確率が11である。ΩI,p\Omega_{I,p}は有限であるから可算加法性は有限加法性に帰着し、PI,p\mathbb P_{I,p}は確率測度である。

(3)を示す。k≥1k\ge1とし、相異なる添字i1,…,ik∈Ii_1,\dots,i_k\in Iと Borel 集合B1,…,Bk⊆RB_1,\dots,B_k\subseteq\mathbb Rを取る。座標は{0,1}\{0,1\}の値だけを取るから、事象{ωir∈Br}\{\omega_{i_r}\in B_r\}は、βr=Br∩{0,1}\beta_r=B_r\cap\{0,1\}と置くと{ωir∈βr}\{\omega_{i_r}\in\beta_r\}に等しい。βr\beta_rが空集合であるrrが存在すれば、両辺はいずれも00である。βr={0,1}\beta_r=\{0,1\}であるrrについては、その添字に対する条件は制約を課さない。したがって、βr\beta_rが一元集合である添字だけを集めてJJと置き、σir\sigma_{i_r}をその一元集合の元と定めるとPI,p ⁣(⋂r=1k{ωir∈βr})=PI,p(Cσ)=∏i∈Jq(σi)\mathbb P_{I,p}\!\left(\bigcap_{r=1}^{k}\{\omega_{i_r}\in\beta_r\}\right)=\mathbb P_{I,p}(C_{\sigma})=\prod_{i\in J}q(\sigma_i)である。他方、各rrについて(2)をJ={ir}J=\{i_r\}に対して適用すると、βr\beta_rが一元集合のときPI,p(ωir∈βr)=q(σir)\mathbb P_{I,p}(\omega_{i_r}\in\beta_r)=q(\sigma_{i_r})、βr={0,1}\beta_r=\{0,1\}のときPI,p(ωir∈βr)=1\mathbb P_{I,p}(\omega_{i_r}\in\beta_r)=1である。ゆえに∏r=1kPI,p(ωir∈βr)=∏i∈Jq(σi)\prod_{r=1}^{k}\mathbb P_{I,p}(\omega_{i_r}\in\beta_r)=\prod_{i\in J}q(\sigma_i)であり、両者は一致する。§E11.7 命題 1.2より、座標の族は相互独立である。▨

p=1/2p=1/2のときPI,1/2({ω})=2−∣I∣\mathbb P_{I,1/2}(\{\omega\})=2^{-\lvert I\rvert}であり、PI,1/2\mathbb P_{I,1/2}はΩI,1/2\Omega_{I,1/2}上の一様分布である。この場合、確率の計算は場合の数の計算にほかならない。

3 和事象の評価

存在させたい対象は、しばしば「悪い事象A1,…,AnA_1,\dots,A_nのいずれも起こらない」対象である。もっとも素朴な評価が、和事象の確率を各事象の確率の和で抑える次の不等式である。

命題 3.1.(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)を有限確率空間とし、A1,…,AnA_1,\dots,A_nを事象とする。このときP ⁣(⋃i=1nAi)≤∑i=1nP(Ai)\mathbb P\!\left(\bigcup_{i=1}^{n}A_i\right)\le\sum_{i=1}^{n}\mathbb P(A_i)が成り立つ。とくに∑i=1nP(Ai)<1\sum_{i=1}^{n}\mathbb P(A_i)<1ならば⋂i=1n(Ω∖Ai)≠∅\bigcap_{i=1}^{n}(\Omega\setminus A_i)\ne\emptysetである。

証明. 各ω∈Ω\omega\in\Omegaについて1⋃i=1nAi(ω)≤∑i=1n1Ai(ω)\mathbf 1_{\bigcup_{i=1}^{n}A_i}(\omega)\le\sum_{i=1}^{n}\mathbf 1_{A_i}(\omega)が成り立つ。実際、左辺は00または11である。左辺が11であるのはω\omegaがいずれかのAiA_iに属する場合であり、そのとき右辺の対応する項が11であって他の項は非負であるから、右辺は11以上である。左辺が00の場合は、右辺が非負であるから不等式が成り立つ。

命題 1.4 (1)を両辺の確率変数へ適用し、続いて命題 1.4 (2)を右辺へ適用するとE ⁣[1⋃i=1nAi]≤∑i=1nE[1Ai]\mathbb E\!\left[\mathbf 1_{\bigcup_{i=1}^{n}A_i}\right]\le\sum_{i=1}^{n}\mathbb E[\mathbf 1_{A_i}]を得る。命題 1.3により両辺の指示変数の期待値を確率へ置き換えると、主張の不等式を得る。

後半を示す。∑i=1nP(Ai)<1\sum_{i=1}^{n}\mathbb P(A_i)<1と仮定すると、いま示した不等式よりP(⋃i=1nAi)<1\mathbb P(\bigcup_{i=1}^{n}A_i)<1である。P\mathbb Pは確率測度であるからP ⁣(⋂i=1n(Ω∖Ai))=1−P ⁣(⋃i=1nAi)>0\mathbb P\!\left(\bigcap_{i=1}^{n}(\Omega\setminus A_i)\right)=1-\mathbb P\!\left(\bigcup_{i=1}^{n}A_i\right)>0である。確率が正である事象は空でない。実際、空事象の確率は00だからである。ゆえに⋂i=1n(Ω∖Ai)≠∅\bigcap_{i=1}^{n}(\Omega\setminus A_i)\ne\emptysetである。▨

4 第一モーメント法

悪い部分構造の個数を数える確率変数を作り、その期待値が11より小さいことを示すと、悪い部分構造を一つももたない結果が存在する。

命題 4.1 (第一モーメント法).(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)を有限確率空間とし、X:Ω→Z≥0X:\Omega\to\mathbb Z_{\ge0}を非負整数値の確率変数とする。E[X]<1\mathbb E[X]<1ならばP(X=0)>0\mathbb P(X=0)>0であり、とくにX(ω)=0X(\omega)=0を満たすω∈Ω\omega\in\Omegaが存在する。

証明. すべてのω∈Ω\omega\in\Omegaについて1{X≥1}(ω)≤X(ω)\mathbf 1_{\{X\ge1\}}(\omega)\le X(\omega)が成り立つ。実際、X(ω)≥1X(\omega)\ge1のときは左辺が11で右辺が11以上であり、X(ω)<1X(\omega)<1のときは左辺が00で右辺が非負である。この各点の不等式はXXが非負であることだけから従い、整数値であることを用いていない。

命題 1.4 (1)と命題 1.3よりP(X≥1)=E ⁣[1{X≥1}]≤E[X]<1\mathbb P(X\ge1)=\mathbb E\!\left[\mathbf 1_{\{X\ge1\}}\right]\le\mathbb E[X]<1である。

ここでXXが非負整数値であることを用いる。X(ω)<1X(\omega)<1を満たすω\omegaはX(ω)=0X(\omega)=0を満たすから、事象{X=0}\{X=0\}は{X≥1}\{X\ge1\}の補事象である。ゆえにP(X=0)=1−P(X≥1)>0\mathbb P(X=0)=1-\mathbb P(X\ge1)>0である。確率が正である事象は空でないから、X(ω)=0X(\omega)=0を満たすω∈Ω\omega\in\Omegaが存在する。整数値であることを用いたのは、この補事象の同定の一か所だけである。▨

5 平均以上の結果と平均以下の結果

第一モーメント法は、期待値が11より小さいという条件のもとで特定の値を取る結果の存在を与えた。次の主張は、期待値と比べて大きい結果と小さい結果がいずれも存在することを、条件なしに述べる。

命題 5.1.(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)を有限確率空間とし、X:Ω→RX:\Omega\to\mathbb Rを確率変数とする。このときP(X≤E[X])>0かつP(X≥E[X])>0\mathbb P\bigl(X\le\mathbb E[X]\bigr)>0\qquad\text{かつ}\qquad\mathbb P\bigl(X\ge\mathbb E[X]\bigr)>0が成り立つ。とくにX(ω+)≥E[X]X(\omega_{+})\ge\mathbb E[X]を満たすω+∈Ω\omega_{+}\in\OmegaとX(ω−)≤E[X]X(\omega_{-})\le\mathbb E[X]を満たすω−∈Ω\omega_{-}\in\Omegaが存在する。

証明. 後半の不等式を示す。μ=E[X]\mu=\mathbb E[X]と置き、背理法による。P(X≥μ)=0\mathbb P(X\ge\mu)=0と仮定する。Ω+={ω∈Ω: P({ω})>0}\Omega_{+}=\{\omega\in\Omega:\ \mathbb P(\{\omega\})>0\}と置く。∑ω∈ΩP({ω})=1\sum_{\omega\in\Omega}\mathbb P(\{\omega\})=1であるからΩ+≠∅\Omega_{+}\ne\emptysetである。仮定より、ω∈Ω+\omega\in\Omega_{+}ならばX(ω)<μX(\omega)<\muである。実際、X(ω)≥μX(\omega)\ge\muを満たすω∈Ω+\omega\in\Omega_{+}が存在すればP(X≥μ)≥P({ω})>0\mathbb P(X\ge\mu)\ge\mathbb P(\{\omega\})>0となって仮定に反する。

命題 1.3より、P({ω})=0\mathbb P(\{\omega\})=0である項は和へ寄与しないからμ=E[X]=∑ω∈Ω+X(ω)P({ω})<∑ω∈Ω+μ P({ω})=μ∑ω∈Ω+P({ω})=μ\mu=\mathbb E[X]=\sum_{\omega\in\Omega_{+}}X(\omega)\mathbb P(\{\omega\})<\sum_{\omega\in\Omega_{+}}\mu\,\mathbb P(\{\omega\})=\mu\sum_{\omega\in\Omega_{+}}\mathbb P(\{\omega\})=\muとなる。ここで、Ω+\Omega_{+}が空でなく各項の重みP({ω})\mathbb P(\{\omega\})が正であるから、狭義の不等号が保たれる。また∑ω∈Ω+P({ω})=1\sum_{\omega\in\Omega_{+}}\mathbb P(\{\omega\})=1を最後の等号で用いた。μ<μ\mu<\muは矛盾である。ゆえにP(X≥μ)>0\mathbb P(X\ge\mu)>0であり、確率が正である事象は空でないからX(ω+)≥μX(\omega_{+})\ge\muを満たすω+\omega_{+}が存在する。

前半の不等式は、いま示したことを確率変数−X-Xへ適用して得られる。実際命題 1.4 (2)よりE[−X]=−E[X]=−μ\mathbb E[-X]=-\mathbb E[X]=-\muであり、−X≥−μ-X\ge-\muとX≤μX\le\muは同じ事象を定めるからP(X≤μ)=P(−X≥−μ)>0\mathbb P(X\le\mu)=\mathbb P(-X\ge-\mu)>0である。▨

この命題の使い方を、頂点集合の二分割によって切り離される辺の本数を例として示す。以下では、有限単純無向グラフG=(V,E)G=(V,E)の頂点集合の分割V=A⊔BV=A\sqcup Bに対し、一方の端点がAAに属し他方の端点がBBに属する辺を横断辺とよぶ。

系 5.2.G=(V,E)G=(V,E)を有限単純無向グラフとし、m=∣E∣m=\lvert E\rvertと置く。このとき、横断辺の本数がm/2m/2以上である分割V=A⊔BV=A\sqcup Bが存在する。

証明.VVを添字集合、p=1/2p=1/2として定義 2.2の確率空間(ΩV,1/2,2ΩV,1/2,P)(\Omega_{V,1/2},2^{\Omega_{V,1/2}},\mathbb P)を取る。ω∈ΩV,1/2\omega\in\Omega_{V,1/2}に対しA(ω)={v∈V: ωv=1},B(ω)={v∈V: ωv=0}A(\omega)=\{v\in V:\ \omega_v=1\},\qquad B(\omega)=\{v\in V:\ \omega_v=0\}と定めると、V=A(ω)⊔B(ω)V=A(\omega)\sqcup B(\omega)はVVの分割である。辺e={u,v}∈Ee=\{u,v\}\in Eに対し、eeが横断辺であること、すなわちωu≠ωv\omega_u\ne\omega_vであることの指示変数をXeX_eと書く。

P(Xe=1)\mathbb P(X_e=1)を計算する。命題 2.3 (2)をJ={u,v}J=\{u,v\}に対して適用すると、(ωu,ωv)(\omega_u,\omega_v)が取る四つの値のそれぞれの確率はq(⋅)q(⋅)=1/4q(\cdot)q(\cdot)=1/4である。ωu≠ωv\omega_u\ne\omega_vとなる値は(1,0)(1,0)と(0,1)(0,1)の二つであり、これらは互いに交わらない事象を定めるからP(Xe=1)=14+14=12\mathbb P(X_e=1)=\frac14+\frac14=\frac12である。命題 1.3よりE[Xe]=1/2\mathbb E[X_e]=1/2である。

横断辺の本数はX=∑e∈EXeX=\sum_{e\in E}X_eである。命題 1.4 (2)よりE[X]=∑e∈EE[Xe]=m2\mathbb E[X]=\sum_{e\in E}\mathbb E[X_e]=\frac m2である。ここで各XeX_eは互いに確率的に独立ではないが、有限項の線形性はいかなる独立性も仮定しない。命題 5.1よりX(ω+)≥E[X]=m/2X(\omega_{+})\ge\mathbb E[X]=m/2を満たすω+\omega_{+}が存在する。このω+\omega_{+}が定める分割V=A(ω+)⊔B(ω+)V=A(\omega_{+})\sqcup B(\omega_{+})の横断辺の本数はm/2m/2以上である。▨

例 5.3 (四頂点完全グラフでの検算).G=K4G=K_4とする。辺数はm=(42)=6m=\binom42=6であるから、系 5.2は横断辺が6/2=36/2=3本以上である分割の存在を保証する。

実際の値を数える。V={1,2,3,4}V=\{1,2,3,4\}とし、A={1,2}A=\{1,2\}、B={3,4}B=\{3,4\}と分割すると、横断辺は{1,3}\{1,3\}、{1,4}\{1,4\}、{2,3}\{2,3\}、{2,4}\{2,4\}の44本である。4≥34\ge3であるから保証と整合する。

分割の型は二つしかない。∣A∣∈{0,4}\lvert A\rvert\in\{0,4\}のとき横断辺は00本、∣A∣∈{1,3}\lvert A\rvert\in\{1,3\}のとき横断辺は1⋅3=31\cdot3=3本、∣A∣=2\lvert A\rvert=2のとき横断辺は2⋅2=42\cdot2=4本である。したがって横断辺の本数の最大値は44であり、下界33はこの最大値を下から抑えている。三つの型の個数を重みつきで平均すると2⋅0+8⋅3+6⋅416=0+24+2416=4816=3=m2\frac{2\cdot0+8\cdot3+6\cdot4}{16}=\frac{0+24+24}{16}=\frac{48}{16}=3=\frac m2であり、系 5.2の証明で求めた期待値と一致する。ここで∣A∣=0,4\lvert A\rvert=0,4を与えるω\omegaは22個、∣A∣=1,3\lvert A\rvert=1,3を与えるω\omegaは4+4=84+4=8個、∣A∣=2\lvert A\rvert=2を与えるω\omegaは(42)=6\binom42=6個であり、合計2+8+6=16=242+8+6=16=2^4個である。

6 分散の展開と第二モーメント法

第一モーメント法は期待値が小さいときにX=0X=0となる結果の存在を与える。逆にXXが正の値を取る確率を下から抑えるには、期待値だけでは足りず、XXの散らばりを測る必要がある。そのために分散の展開式を用意する。先行記事§E11.4 命題 2.3は二つの確率変数に対する公式を与えるが、有限個の和の分散の展開は与えていないので、本記事で示す。

命題 6.1.(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)を有限確率空間とする。

  1. 共分散は各変数について線形である。すなわち、確率変数X1,…,XnX_1,\dots,X_n、YYと実数a1,…,ana_1,\dots,a_nに対しCov⁡ ⁣(∑i=1naiXi, Y)=∑i=1naiCov⁡(Xi,Y)\operatorname{Cov}\!\left(\sum_{i=1}^{n}a_iX_i,\ Y\right)=\sum_{i=1}^{n}a_i\operatorname{Cov}(X_i,Y)が成り立つ。またCov⁡(X,Y)=Cov⁡(Y,X)\operatorname{Cov}(X,Y)=\operatorname{Cov}(Y,X)であるから、第二変数についても同じ式が成り立つ。
  2. 確率変数X1,…,XnX_1,\dots,X_nに対しVar⁡ ⁣(∑i=1nXi)=∑i=1nVar⁡(Xi)+2∑1≤i<j≤nCov⁡(Xi,Xj)\operatorname{Var}\!\left(\sum_{i=1}^{n}X_i\right)=\sum_{i=1}^{n}\operatorname{Var}(X_i)+2\sum_{1\le i<j\le n}\operatorname{Cov}(X_i,X_j)が成り立つ。

証明.命題 1.3により、有限確率空間上の確率変数はすべて二次可積分であるから、§E11.4 定義 2.1の分散と共分散、および§E11.4 命題 2.3の公式を、以下に現れるすべての確率変数へ適用することができる。

(1)を示す。Z=∑i=1naiXiZ=\sum_{i=1}^{n}a_iX_iと置く。§E11.4 命題 2.3よりCov⁡(Z,Y)=E[ZY]−E[Z]E[Y]\operatorname{Cov}(Z,Y)=\mathbb E[ZY]-\mathbb E[Z]\mathbb E[Y]である。ZY=∑i=1nai(XiY)ZY=\sum_{i=1}^{n}a_i(X_iY)であるから、命題 1.4 (2)をZYZYとZZの双方へ適用するとCov⁡(Z,Y)=∑i=1naiE[XiY]−(∑i=1naiE[Xi])E[Y]=∑i=1nai(E[XiY]−E[Xi]E[Y])\operatorname{Cov}(Z,Y)=\sum_{i=1}^{n}a_i\mathbb E[X_iY]-\left(\sum_{i=1}^{n}a_i\mathbb E[X_i]\right)\mathbb E[Y] =\sum_{i=1}^{n}a_i\bigl(\mathbb E[X_iY]-\mathbb E[X_i]\mathbb E[Y]\bigr)となる。再び§E11.4 命題 2.3により、括弧の中はCov⁡(Xi,Y)\operatorname{Cov}(X_i,Y)である。対称性Cov⁡(X,Y)=Cov⁡(Y,X)\operatorname{Cov}(X,Y)=\operatorname{Cov}(Y,X)は、同じ公式の右辺E[XY]−E[X]E[Y]\mathbb E[XY]-\mathbb E[X]\mathbb E[Y]がXXとYYの入れ替えで変わらないことから従う。

(2)を示す。§E11.4 定義 2.1の定義を見比べると、任意の確率変数ZZについてVar⁡(Z)=Cov⁡(Z,Z)\operatorname{Var}(Z)=\operatorname{Cov}(Z,Z)である。Z=∑i=1nXiZ=\sum_{i=1}^{n}X_iに対して(1)を第一変数へ、続いて第二変数へ適用するとVar⁡(Z)=Cov⁡ ⁣(∑i=1nXi, ∑j=1nXj)=∑i=1n∑j=1nCov⁡(Xi,Xj)\operatorname{Var}(Z)=\operatorname{Cov}\!\left(\sum_{i=1}^{n}X_i,\ \sum_{j=1}^{n}X_j\right)=\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}\operatorname{Cov}(X_i,X_j)を得る。この二重和をi=ji=jの項とi≠ji\ne jの項へ分ける。i=ji=jの項の和は∑i=1nVar⁡(Xi)\sum_{i=1}^{n}\operatorname{Var}(X_i)である。i≠ji\ne jの項は、対{i,j}\{i,j\}ごとにCov⁡(Xi,Xj)\operatorname{Cov}(X_i,X_j)とCov⁡(Xj,Xi)\operatorname{Cov}(X_j,X_i)の二つが現れ、対称性よりこの二つは等しい。ゆえにi≠ji\ne jの項の和は2∑i<jCov⁡(Xi,Xj)2\sum_{i<j}\operatorname{Cov}(X_i,X_j)である。▨

Markov の不等式(§E11.4 定理 3.1)と、その偏差の二乗への適用として得られる Chebyshev の不等式(§E11.4 系 3.2)は、先行記事が完全に証明している。本記事はこれらを再証明せず、次の帰結だけを示す。

命題 6.2 (第二モーメント法).(Ω,2Ω,P)(\Omega,2^{\Omega},\mathbb P)を有限確率空間とし、X:Ω→Z≥0X:\Omega\to\mathbb Z_{\ge0}を非負整数値の確率変数とする。E[X]>0\mathbb E[X]>0ならばP(X=0)≤Var⁡(X)E[X]2\mathbb P(X=0)\le\frac{\operatorname{Var}(X)}{\mathbb E[X]^{2}}が成り立つ。

証明.μ=E[X]>0\mu=\mathbb E[X]>0と置く。命題 1.3よりXXは二次可積分であるから、§E11.4 系 3.2を確率変数XXと閾値t=μ>0t=\mu>0に対して適用することができP(∣X−μ∣≥μ)≤Var⁡(X)μ2\mathbb P\bigl(\lvert X-\mu\rvert\ge\mu\bigr)\le\frac{\operatorname{Var}(X)}{\mu^{2}}を得る。

事象の包含{X=0}⊆{∣X−μ∣≥μ}\{X=0\}\subseteq\{\lvert X-\mu\rvert\ge\mu\}を確かめる。X(ω)=0X(\omega)=0ならば∣X(ω)−μ∣=∣−μ∣=μ\lvert X(\omega)-\mu\rvert=\lvert-\mu\rvert=\muであり、μ≥μ\mu\ge\muが成り立つからである。確率測度は包含について単調であるからP(X=0)≤P(∣X−μ∣≥μ)≤Var⁡(X)μ2\mathbb P(X=0)\le\mathbb P\bigl(\lvert X-\mu\rvert\ge\mu\bigr)\le\frac{\operatorname{Var}(X)}{\mu^{2}}である。

この議論は、XXが整数値であることも非負であることも用いていない。事象の包含に用いたのは、X(ω)=0X(\omega)=0から∣X(ω)−μ∣=μ\lvert X(\omega)-\mu\rvert=\muが従うことだけであり、この含意はXXが任意の実数値を取る場合にも成り立つからである。したがって同じ不等式は、E[X]>0\mathbb E[X]>0を満たす確率変数X:Ω→RX:\Omega\to\mathbb Rについても成り立つ。有限確率空間上の確率変数はすべて二次可積分であるから(命題 1.3)、§E11.4 系 3.2の適用条件もこの場合に満たされている。▨

例 6.3 (選ばれた頂点数への第二モーメント法の適用).VVをnn元集合、p∈(0,1)p\in(0,1)とし、定義 2.2の確率空間ΩV,p\Omega_{V,p}を取る。S(ω)={v∈V: ωv=1}S(\omega)=\{v\in V:\ \omega_v=1\}と置き、X=∣S∣=∑v∈V1{ωv=1}X=\lvert S\rvert=\sum_{v\in V}\mathbf 1_{\{\omega_v=1\}}とする。

期待値は命題 1.4 (2)と命題 2.3 (2)よりE[X]=np\mathbb E[X]=npである。分散を命題 6.1で計算する。各項について、1{ωv=1}2=1{ωv=1}\mathbf 1_{\{\omega_v=1\}}^{2}=\mathbf 1_{\{\omega_v=1\}}であるから§E11.4 命題 2.3よりVar⁡(1{ωv=1})=p−p2\operatorname{Var}(\mathbf 1_{\{\omega_v=1\}})=p-p^{2}である。相異なるu,vu,vについては1{ωu=1}1{ωv=1}=1{ωu=1}∩{ωv=1}\mathbf 1_{\{\omega_u=1\}}\mathbf 1_{\{\omega_v=1\}}=\mathbf 1_{\{\omega_u=1\}\cap\{\omega_v=1\}}であり、命題 2.3 (2)をJ={u,v}J=\{u,v\}、σ≡1\sigma\equiv1に対して適用するとP({ωu=1}∩{ωv=1})=p2\mathbb P(\{\omega_u=1\}\cap\{\omega_v=1\})=p^{2}であるから、命題 1.3よりE[1{ωu=1}1{ωv=1}]=p2\mathbb E[\mathbf 1_{\{\omega_u=1\}}\mathbf 1_{\{\omega_v=1\}}]=p^{2}である。したがって共分散はp2−p⋅p=0p^{2}-p\cdot p=0である。ゆえにVar⁡(X)=n(p−p2)=np(1−p)\operatorname{Var}(X)=n(p-p^{2})=np(1-p)である。命題 6.2を適用するとP(X=0)≤np(1−p)(np)2=1−pnp\mathbb P(X=0)\le\frac{np(1-p)}{(np)^{2}}=\frac{1-p}{np}を得る。

n=10n=10、p=1/2p=1/2で数値を確かめる。上界は(1−1/2)/(10⋅1/2)=(1/2)/5=1/10=0.1(1-1/2)/(10\cdot 1/2)=(1/2)/5=1/10=0.1である。他方X=0X=0となるのはω\omegaがすべての座標で00を取る場合だけであるから、命題 2.3 (2)をJ=VJ=Vに対して適用してP(X=0)=(1/2)10=1/1024=0.000976…\mathbb P(X=0)=(1/2)^{10}=1/1024=0.000976\ldotsである。0.000976…≤0.10.000976\ldots\le0.1が成り立ち、上界は正しく成立している。この例では上界が真の値より百倍ほど大きく、第二モーメント法が与える評価は一般には最良ではない。

7 対角 Ramsey 数の下界

二色 Ramsey 数R(s,t)R(s,t)の定義は§E13.10 定義 1.1が与える。すなわちR(s,t)R(s,t)は、nn頂点完全グラフKnK_nの辺集合を赤と青へ塗り分けるどの写像に対しても、内部のすべての辺が赤であるss元頂点部分集合または内部のすべての辺が青であるtt元頂点部分集合が存在する、という性質Qs,t(n)Q_{s,t}(n)を満たす最小の正の整数nnである。この最小値が定まることは§E13.10 定理 3.1が保証し、s≥2s\ge2に対する対角の場合の上界R(s,s)<4s−1R(s,s)<4^{s-1}は§E13.10 系 3.2が与える。

下界を得るには、単色のss元集合をもたない塗り分けを一つ示せばよい。個々の小さなssについては、そのような塗り分けを書き下すことができる。実際§E13.10 例 4.1は、s=3s=3についてK5K_5の塗り分けを一つ与えている。しかし、一般のssについて、そのような塗り分けを与える明示的な手続きは知られていない。以下では確率的手法によって、構成せずに存在だけを示す。

7.1 証明方針

KnK_nの各辺を独立に確率1/21/2で赤または青へ塗る試行を、定義 2.2の確率空間として書き下す。添字集合はKnK_nの辺集合であり、値11を赤、値00を青と読む。頂点のss元部分集合SSに対し、SSの内部のすべての辺が同色であるという事象ASA_Sを考える。ASA_Sは、SSの内部の(s2)\binom s2本の辺に対応する座標の値をすべて11に指定する事象と、すべて00に指定する事象の合併であるから、その確率は命題 2.3によって21−(s2)2^{1-\binom s2}と計算される。

単色のss元集合の個数をX=∑S1ASX=\sum_S\mathbf 1_{A_S}と置く。ss元集合は(ns)\binom ns個あるので、有限項の線形性からE[X]=(ns)21−(s2)\mathbb E[X]=\binom ns2^{1-\binom s2}である。この値が11より小さければ、命題 4.1によりX=0X=0となる塗り分けが存在する。その塗り分けはQs,s(n)Q_{s,s}(n)の要求する単色のss元集合をもたないから、Qs,s(n)Q_{s,s}(n)は成り立たない。性質Qs,sQ_{s,s}の上方閉性(§E13.10 命題 1.2)の対偶により、nn以下のどの正の整数についてもQs,sQ_{s,s}は成り立たず、R(s,s)>nR(s,s)>nを得る。

最後に、n=⌊2s/2⌋n=\lfloor2^{s/2}\rfloorという選び方でこの条件が満たされることを、(ns)≤ns/s!\binom ns\le n^{s}/s!による評価と、f(s)=21+s/2/s!f(s)=2^{1+s/2}/s!がs≥3s\ge3で11より小さいことから確かめる。

定理 7.1.s≥3s\ge3とする。正の整数nnが(ns) 21−(s2)<1\binom ns\,2^{1-\binom s2}<1を満たすならばR(s,s)>nR(s,s)>nである。とくにR(s,s)>2s/2R(s,s)>2^{s/2}が成り立つ。

証明. 前半。nnを主張の条件を満たす正の整数とする。V={1,…,n}V=\{1,\dots,n\}をKnK_nの頂点集合、IIをその辺集合、すなわちVVの二元部分集合の全体とする。∣I∣=(n2)\lvert I\rvert=\binom n2である。p=1/2p=1/2として定義 2.2の有限確率空間(ΩI,1/2,2ΩI,1/2,P)(\Omega_{I,1/2},2^{\Omega_{I,1/2}},\mathbb P)を取る。ω∈ΩI,1/2\omega\in\Omega_{I,1/2}はKnK_nの辺集合の塗り分けを表すものとし、ωe=1\omega_e=1を「辺eeが赤である」、ωe=0\omega_e=0を「辺eeが青である」と読む。ΩI,1/2\Omega_{I,1/2}の元とKnK_nの辺集合の赤と青への塗り分けは一対一に対応する。

S⊆VS\subseteq Vをss元部分集合とし、E(S)={e∈I: e⊆S}E(S)=\{e\in I:\ e\subseteq S\}と置く。∣E(S)∣=(s2)\lvert E(S)\rvert=\binom s2である。事象AS={ω∈ΩI,1/2: ω は E(S) 上で定数である}A_S=\{\omega\in\Omega_{I,1/2}:\ \omega\ \text{は}\ E(S)\ \text{上で定数である}\}を考える。ASA_Sは、E(S)E(S)上で恒等的に11である事象と、E(S)E(S)上で恒等的に00である事象の合併である。s≥3s\ge3より(s2)≥3≥1\binom s2\ge3\ge1であるから、この二つの事象は互いに交わらない。命題 2.3 (2)をJ=E(S)J=E(S)に対して適用すると、それぞれの確率は(1/2)(s2)(1/2)^{\binom s2}である。ゆえにP(AS)=2⋅(12)(s2)=21−(s2)\mathbb P(A_S)=2\cdot\left(\frac12\right)^{\binom s2}=2^{1-\binom s2}である。

X=∑S1ASX=\sum_{S}\mathbf 1_{A_S}と置く。ここで和はVVのss元部分集合すべてにわたる。XXは非負整数値の確率変数であり、X(ω)X(\omega)は塗り分けω\omegaにおける単色のss元集合の個数である。VVのss元部分集合は(ns)\binom ns個あるから、命題 1.4 (2)と命題 1.3よりE[X]=∑SP(AS)=(ns) 21−(s2)\mathbb E[X]=\sum_{S}\mathbb P(A_S)=\binom ns\,2^{1-\binom s2}である。ここで各1AS\mathbf 1_{A_S}は互いに確率的に独立ではないが、有限項の線形性は独立性を仮定しない。

仮定よりE[X]<1\mathbb E[X]<1であるから、命題 4.1によりX(ω∗)=0X(\omega^{*})=0を満たすω∗∈ΩI,1/2\omega^{*}\in\Omega_{I,1/2}が存在する。ω∗\omega^{*}に対応する塗り分けは、内部のすべての辺が赤であるss元集合も、内部のすべての辺が青であるss元集合ももたない。したがってQs,s(n)Q_{s,s}(n)は成り立たない。§E13.10 命題 1.2の対偶により、n′≤nn'\le nを満たすどの正の整数n′n'についてもQs,s(n′)Q_{s,s}(n')は成り立たない。R(s,s)R(s,s)はQs,sQ_{s,s}を満たす正の整数の最小値であるから、R(s,s)>nR(s,s)>nである。

後半。n=⌊2s/2⌋n=\lfloor2^{s/2}\rfloorと置く。s≥3s\ge3より2s/2≥23/2>22^{s/2}\ge2^{3/2}>2であるからn≥2n\ge2であり、nnは正の整数である。n≤2s/2n\le2^{s/2}であるからns≤2s2/2n^{s}\le2^{s^{2}/2}である。また(ns)=n(n−1)⋯(n−s+1)s!≤nss!\binom ns=\frac{n(n-1)\cdots(n-s+1)}{s!}\le\frac{n^{s}}{s!}である。実際、n<sn<sのときは左辺が00で右辺が正であり、n≥sn\ge sのときは分子のss個の因子がいずれもnn以下の正の数だからである。ゆえに(ns) 21−(s2)≤2s2/2s!⋅21−s(s−1)2=2 s22+1−s2−s2s!=2 1+s2s!\binom ns\,2^{1-\binom s2}\le\frac{2^{s^{2}/2}}{s!}\cdot2^{1-\frac{s(s-1)}2}=\frac{2^{\,\frac{s^{2}}2+1-\frac{s^{2}-s}2}}{s!}=\frac{2^{\,1+\frac s2}}{s!}である。右辺をf(s)=21+s/2/s!f(s)=2^{1+s/2}/s!と書く。

ffがs≥1s\ge1で狭義単調減少することを示す。s≥1s\ge1に対しf(s+1)f(s)=21+(s+1)/2(s+1)!⋅s!21+s/2=21/2s+1\frac{f(s+1)}{f(s)}=\frac{2^{1+(s+1)/2}}{(s+1)!}\cdot\frac{s!}{2^{1+s/2}}=\frac{2^{1/2}}{s+1}であり、s≥1s\ge1よりs+1≥2>21/2s+1\ge2>2^{1/2}であるから、この比は11より小さい。f(s)>0f(s)>0であるからf(s+1)<f(s)f(s+1)<f(s)である。

f(3)<1f(3)<1を示す。f(3)=25/2/3!=42/6=22/3f(3)=2^{5/2}/3!=4\sqrt2/6=2\sqrt2/3である。22<32\sqrt2<3は両辺を平方した8<98<9と同値であるから、f(3)<1f(3)<1である。単調減少性より、s≥3s\ge3のときf(s)≤f(3)<1f(s)\le f(3)<1である。

以上より、s≥3s\ge3かつn=⌊2s/2⌋n=\lfloor2^{s/2}\rfloorのとき(ns)21−(s2)≤f(s)<1\binom ns2^{1-\binom s2}\le f(s)<1であるから、前半によりR(s,s)>⌊2s/2⌋R(s,s)>\lfloor2^{s/2}\rfloorである。R(s,s)R(s,s)と⌊2s/2⌋\lfloor2^{s/2}\rfloorはいずれも整数であるからR(s,s)≥⌊2s/2⌋+1R(s,s)\ge\lfloor2^{s/2}\rfloor+1であり、床関数の定義より⌊2s/2⌋+1>2s/2\lfloor2^{s/2}\rfloor+1>2^{s/2}であるからR(s,s)>2s/2R(s,s)>2^{s/2}を得る。▨

例 7.2 (下界の数値と、条件を直接使う場合との比較). s=3s=3の場合。f(3)=22/3=0.942809…f(3)=2\sqrt2/3=0.942809\ldotsである。22=2.828427…2\sqrt2=2.828427\ldotsを33で割った値であり、確かに11より小さい。n=⌊23/2⌋=⌊2.828…⌋=2n=\lfloor2^{3/2}\rfloor=\lfloor2.828\ldots\rfloor=2であるから、定理 7.1はR(3,3)>2R(3,3)>2、すなわちR(3,3)≥3R(3,3)\ge3を与える。§E13.10 例 4.1が決定した真の値はR(3,3)=6R(3,3)=6であり、下界と整合する。

s=4s=4の場合。f(4)=23/4!=8/24=1/3f(4)=2^{3}/4!=8/24=1/3である。n=⌊22⌋=4n=\lfloor2^{2}\rfloor=4であるから、後半の主張はR(4,4)>4R(4,4)>4を与える。

条件を直接使うと下界が改善される。定理 7.1の前半の条件(n4) 21−6=(n4)/32<1\binom n4\,2^{1-6}=\binom n4/32<1、すなわち(n4)<32\binom n4<32を満たす最大のnnを求める。(64)=15<32\binom64=15<32であり、(74)=35>32\binom74=35>32であるから、条件を満たす最大のnnは66である。ゆえにR(4,4)>6R(4,4)>6、すなわちR(4,4)≥7R(4,4)\ge7である。後半が与えるR(4,4)>4R(4,4)>4より強い。(64)=15\binom64=15と(74)=35\binom74=35はいずれも直接計算した値であり、(64)=6⋅5⋅4⋅324=36024=15\binom64=\frac{6\cdot5\cdot4\cdot3}{24}=\frac{360}{24}=15、(74)=7⋅6⋅5⋅424=84024=35\binom74=\frac{7\cdot6\cdot5\cdot4}{24}=\frac{840}{24}=35である。

s=5s=5の場合。f(5)=27/2/5!=82/120=2/15=0.094280…f(5)=2^{7/2}/5!=8\sqrt2/120=\sqrt2/15=0.094280\ldotsである。82=11.313708…8\sqrt2=11.313708\ldotsを120120で割った値であり、f(4)=0.333…f(4)=0.333\ldotsより小さく、単調減少性と整合する。

この下界は存在についての主張であって、構成を与えない。単色のss元集合をもたない塗り分けが存在することは完全に証明されているが、そのような塗り分けを一つ書き下す手続きは、上の証明のどこにも含まれていない。

8 改変法による独立集合の下界

ランダムに作った対象がそのままでは条件を満たさない場合でも、不都合な部分を少数だけ取り除くことで条件を満たす対象が得られることがある。この論法を改変法という。適用先として、グラフの独立集合の大きさの下界を扱う。

定義 8.1.G=(V,E)G=(V,E)を有限単純無向グラフとする。頂点部分集合S⊆VS\subseteq Vが GGの独立集合 (independent set of G) であるとは、SSの相異なるどの二頂点もGGで隣接しないこと、すなわちe⊆Se\subseteq Sを満たすe∈Ee\in Eが存在しないことをいう。GGの独立集合の濃度の最大値をGGの独立数 (independence number) といいα(G)\alpha(G)と書く。VVは有限であるから独立集合は有限個であり、空集合は独立集合であるから、この最大値は定まる。

この「独立」はグラフについての語であり、確率変数および事象の独立性とは別の概念である。

改変法の主張の前に、辺を取り除いて独立集合を作る手続きを補題として分けておく。

補題 8.2.G=(V,E)G=(V,E)を有限単純無向グラフとし、S⊆VS\subseteq Vとする。E(S)={e∈E: e⊆S}E(S)=\{e\in E:\ e\subseteq S\}と置く。このとき、GGの独立集合T⊆ST\subseteq Sであって∣T∣≥∣S∣−∣E(S)∣\lvert T\rvert\ge\lvert S\rvert-\lvert E(S)\rvertを満たすものが存在する。

証明.E(S)E(S)の各元eeについて、eeの二つの端点のうち一方を選びd(e)d(e)と書く。D={d(e): e∈E(S)}D=\{d(e):\ e\in E(S)\}と置くとD⊆SD\subseteq Sであり、∣D∣≤∣E(S)∣\lvert D\rvert\le\lvert E(S)\rvertである。T=S∖DT=S\setminus Dと置く。

TTがGGの独立集合であることを示す。e⊆Te\subseteq Tを満たすe∈Ee\in Eが存在したとする。T⊆ST\subseteq Sであるからe⊆Se\subseteq Sであり、e∈E(S)e\in E(S)である。するとd(e)∈Dd(e)\in Dであり、d(e)d(e)はeeの端点であるからd(e)∈e⊆T=S∖Dd(e)\in e\subseteq T=S\setminus Dとなる。これはd(e)∈Dd(e)\in Dに反する。ゆえにそのようなeeは存在せず、定義 8.1よりTTは独立集合である。

濃度については∣T∣=∣S∣−∣S∩D∣≥∣S∣−∣D∣≥∣S∣−∣E(S)∣\lvert T\rvert=\lvert S\rvert-\lvert S\cap D\rvert\ge\lvert S\rvert-\lvert D\rvert\ge\lvert S\rvert-\lvert E(S)\rvertである。▨

8.1 証明方針

各頂点を独立に確率ppで選ぶ試行を、定義 2.2の確率空間として書き下す。選ばれた頂点の集合をSSとし、SSの内部の辺の本数をe(S)e(S)と書く。∣S∣\lvert S\rvertは頂点ごとの指示変数の和、e(S)e(S)は辺ごとの指示変数の積の和として表され、有限項の線形性と座標の値を指定する事象の確率から、E[∣S∣]=np\mathbb E[\lvert S\rvert]=npとE[e(S)]=mp2\mathbb E[e(S)]=mp^{2}が得られる。

確率変数∣S∣−e(S)\lvert S\rvert-e(S)の期待値はnp−mp2np-mp^{2}である。命題 5.1により、この値以上の値を取る結果ω\omegaが存在する。そのω\omegaに対して補題 8.2を適用すると、大きさnp−mp2np-mp^{2}以上の独立集合を得る。

最後にppを選ぶ。g(p)=np−mp2g(p)=np-mp^{2}はppの二次関数であり、平方完成によってp=n/(2m)p=n/(2m)で最大値n2/(4m)n^{2}/(4m)を取る。このppが[0,1][0,1]に属するためにm≥n/2m\ge n/2という仮定を用いる。

命題 8.3.G=(V,E)G=(V,E)を有限単純無向グラフとし、n=∣V∣n=\lvert V\rvert、m=∣E∣m=\lvert E\rvertと置く。n≥1n\ge1かつm≥n/2m\ge n/2ならばα(G)≥n24m\alpha(G)\ge\frac{n^{2}}{4m}が成り立つ。

証明.m≥n/2m\ge n/2かつn≥1n\ge1よりm≥1/2m\ge1/2であり、mmは整数であるからm≥1m\ge1である。p=n/(2m)p=n/(2m)と置く。n≥1n\ge1よりp>0p>0であり、m≥n/2m\ge n/2より2m≥n2m\ge nすなわちp≤1p\le1である。ゆえにp∈(0,1]p\in(0,1]である。

VVを添字集合として定義 2.2の有限確率空間(ΩV,p,2ΩV,p,P)(\Omega_{V,p},2^{\Omega_{V,p}},\mathbb P)を取る。ω∈ΩV,p\omega\in\Omega_{V,p}に対しS(ω)={v∈V: ωv=1}S(\omega)=\{v\in V:\ \omega_v=1\}と置き、E(S(ω))={e∈E: e⊆S(ω)}E(S(\omega))=\{e\in E:\ e\subseteq S(\omega)\}、e(ω)=∣E(S(ω))∣e(\omega)=\lvert E(S(\omega))\rvertと置く。

期待値を計算する。各v∈Vv\in VについてYv=1{ωv=1}Y_v=\mathbf 1_{\{\omega_v=1\}}と置くと∣S(ω)∣=∑v∈VYv(ω)\lvert S(\omega)\rvert=\sum_{v\in V}Y_v(\omega)である。命題 2.3 (2)をJ={v}J=\{v\}に対して適用するとP(ωv=1)=p\mathbb P(\omega_v=1)=pであり、命題 1.3よりE[Yv]=p\mathbb E[Y_v]=pである。命題 1.4 (2)よりE[∣S∣]=∑v∈VE[Yv]=np\mathbb E\bigl[\lvert S\rvert\bigr]=\sum_{v\in V}\mathbb E[Y_v]=npである。

各e={u,v}∈Ee=\{u,v\}\in EについてZe=1{ωu=1 かつ ωv=1}Z_e=\mathbf 1_{\{\omega_u=1\ \text{かつ}\ \omega_v=1\}}と置くと、e∈E(S(ω))e\in E(S(\omega))であることとZe(ω)=1Z_e(\omega)=1であることは同値であるからe(ω)=∑e∈EZe(ω)e(\omega)=\sum_{e\in E}Z_e(\omega)である。命題 2.3 (2)をJ={u,v}J=\{u,v\}、σ≡1\sigma\equiv1に対して適用するとE[Ze]=p2\mathbb E[Z_e]=p^{2}である。ゆえにE[e]=∑e∈EE[Ze]=mp2\mathbb E[e]=\sum_{e\in E}\mathbb E[Z_e]=mp^{2}である。

平均以上の結果を取る。確率変数W=∣S∣−eW=\lvert S\rvert-eについて、命題 1.4 (2)よりE[W]=np−mp2\mathbb E[W]=np-mp^{2}である。命題 5.1によりW(ω∗)≥np−mp2W(\omega^{*})\ge np-mp^{2}を満たすω∗∈ΩV,p\omega^{*}\in\Omega_{V,p}が存在する。

独立集合を作る。S∗=S(ω∗)S^{*}=S(\omega^{*})に補題 8.2を適用すると、GGの独立集合TTであって∣T∣≥∣S∗∣−∣E(S∗)∣=W(ω∗)≥np−mp2\lvert T\rvert\ge\lvert S^{*}\rvert-\lvert E(S^{*})\rvert=W(\omega^{*})\ge np-mp^{2}を満たすものが存在する。定義 8.1の独立数の定義よりα(G)≥∣T∣≥np−mp2\alpha(G)\ge\lvert T\rvert\ge np-mp^{2}である。

値を代入する。p=n/(2m)p=n/(2m)を代入するとnp−mp2=n⋅n2m−m⋅n24m2=n22m−n24m=n24mnp-mp^{2}=n\cdot\frac{n}{2m}-m\cdot\frac{n^{2}}{4m^{2}}=\frac{n^{2}}{2m}-\frac{n^{2}}{4m}=\frac{n^{2}}{4m}である。ゆえにα(G)≥n2/(4m)\alpha(G)\ge n^{2}/(4m)である。

なお、このppはg(p)=np−mp2g(p)=np-mp^{2}を最大にする値である。実際m>0m>0よりg(p)=−m(p−n2m)2+n24mg(p)=-m\left(p-\frac{n}{2m}\right)^{2}+\frac{n^{2}}{4m}と平方完成することができ、ggはp=n/(2m)p=n/(2m)でのみ最大値n2/(4m)n^{2}/(4m)を取る。▨

例 8.4 (六頂点閉路と四頂点完全グラフでの検算). 六頂点の閉路C6C_6。頂点を1,2,3,4,5,61,2,3,4,5,6とし、辺を{1,2},{2,3},{3,4},{4,5},{5,6},{6,1}\{1,2\},\{2,3\},\{3,4\},\{4,5\},\{5,6\},\{6,1\}とする。n=6n=6、m=6m=6でありm=6≥n/2=3m=6\ge n/2=3を満たす。命題 8.3の下界はn24m=3624=32=1.5\frac{n^{2}}{4m}=\frac{36}{24}=\frac32=1.5である。α(C6)\alpha(C_6)は整数であるから、この下界はα(C6)≥2\alpha(C_6)\ge2を意味する。

真の値を求める。{1,3,5}\{1,3,5\}は独立集合であるからα(C6)≥3\alpha(C_6)\ge3である。他方、C6C_6の頂点集合は三つの辺{1,2}\{1,2\}、{3,4}\{3,4\}、{5,6}\{5,6\}によって覆われ、独立集合は各辺から高々一頂点しか含むことができないからα(C6)≤3\alpha(C_6)\le3である。ゆえにα(C6)=3\alpha(C_6)=3であり、3≥1.53\ge1.5が成り立つ。

証明の中の期待値も確かめる。p=n/(2m)=6/12=1/2p=n/(2m)=6/12=1/2であり、E[∣S∣]=6⋅12=3\mathbb E[\lvert S\rvert]=6\cdot\frac12=3、E[e]=6⋅14=32\mathbb E[e]=6\cdot\frac14=\frac32、E[W]=3−32=32\mathbb E[W]=3-\frac32=\frac32である。これは下界n2/(4m)=3/2n^{2}/(4m)=3/2と一致する。

四頂点完全グラフK4K_4。n=4n=4、m=6m=6でありm=6≥n/2=2m=6\ge n/2=2を満たす。下界は16/24=2/316/24=2/3である。K4K_4ではどの二頂点も隣接するから独立集合は高々一元でありα(K4)=1\alpha(K_4)=1である。1≥2/31\ge2/3が成り立つ。この例ではp=n/(2m)=4/12=1/3p=n/(2m)=4/12=1/3であり、E[W]=4⋅13−6⋅19=43−23=23\mathbb E[W]=4\cdot\frac13-6\cdot\frac19=\frac43-\frac23=\frac23で、下界と一致する。

二つの例のいずれでも、下界は真の独立数を下から抑えており、しかも等号にはならない。改変法が与えるのは下界であって、独立数そのものではない。

9 演習

問題 9.1.

  1. 命題 1.3の証明では、確率変数XXをX+X^{+}とX−X^{-}へ分けたうえで§E9.6 命題 1.2を適用した。この分解を行わずにXXそのものへ非負単関数の積分の定義を適用することができない理由を述べよ。
  2. 命題 3.1の証明で用いた各点の不等式1A1∪⋯∪An≤∑i1Ai\mathbf 1_{A_1\cup\dots\cup A_n}\le\sum_i\mathbf 1_{A_i}について、等号が成立するω\omegaの条件を、事象A1,…,AnA_1,\dots,A_nの言葉で述べよ。この不等式が等式にならない場合があることは、命題 3.1の不等号が≤\leにとどまることとどのように対応するかを説明せよ。
  3. 命題 4.1の証明のうち、XXが非負整数値であることを用いているのは一か所だけである。その一か所を特定せよ。また、各点の不等式1{X≥1}≤X\mathbf 1_{\{X\ge1\}}\le Xと評価P(X≥1)≤E[X]\mathbb P(X\ge1)\le\mathbb E[X]が、非負実数値の確率変数についても成り立つことを確かめよ。そのうえで、Ω\Omegaが一点集合でXXがその点で値1/21/2を取る確率変数を考え、E[X]<1\mathbb E[X]<1でありながらP(X=0)=0\mathbb P(X=0)=0となることを確かめ、整数値の仮定を落とすと結論が成り立たないことを示せ。
  4. 命題 5.1の証明を、Ω+\Omega_{+}を用いずにΩ\Omega全体の和で行おうとすると、どこで議論が止まるかを指摘せよ。P({ω})=0\mathbb P(\{\omega\})=0である点が存在する場合に何が起こるかを述べよ。
  5. 命題 6.1 (2)の証明では、二重和をi=ji=jの項とi≠ji\ne jの項へ分けた。i≠ji\ne jの項の和が2∑i<jCov⁡(Xi,Xj)2\sum_{i<j}\operatorname{Cov}(X_i,X_j)になる根拠を、共分散の対称性を用いて書き下せ。
  6. 定理 7.1の証明で、P(AS)=21−(s2)\mathbb P(A_S)=2^{1-\binom s2}を導く箇所を再現せよ。とくに、E(S)E(S)上で恒等的に11である事象と恒等的に00である事象が互いに交わらないことにs≥3s\ge3という仮定がどのように用いられているかを述べ、s=1s=1のときにこの計算が成り立たないことを確かめよ。
  7. 定理 7.1の証明の後半では(ns)≤ns/s!\binom ns\le n^{s}/s!を用いた。この不等式をn<sn<sの場合とn≥sn\ge sの場合に分けて証明せよ。
  8. 命題 8.3の証明を、ppの選び方を保留したまま最後まで追い、m<n/2m<n/2の場合に議論のどこが破綻するかを指摘せよ。またその場合にp=1p=1と取ると何が得られるかを述べよ。
  9. 補題 8.2を用いずに、SSから頂点を一つずつ取り除く手続きを設計して同じ結論を導け。取り除く回数の上界が∣E(S)∣\lvert E(S)\rvertであることを、停止性の議論とともに示せ。
  10. 有限単純無向グラフG=(V,E)G=(V,E)の各頂点を独立に確率ppで選び、選ばれた頂点集合SSについて∣S∣\lvert S\rvertの分散を命題 6.1で求めよ。次に命題 6.2をX=∣S∣X=\lvert S\rvertへ適用してP(S=∅)\mathbb P(S=\emptyset)の上界を導き、命題 2.3から得られる真の値(1−p)n(1-p)^{n}と比較せよ。

11 扱った範囲と次の記事

本記事では、有限確率空間における期待値の和表示、単調性および有限項の線形性、座標が独立な有限確率空間の構成、和事象の評価、第一モーメント法、平均以上および平均以下の結果の存在、共分散の双線形性と分散の展開式、および第二モーメント法を証明した。適用としては、ランダムな二彩色による対角 Ramsey 数の指数的な下界と、改変法によるグラフの独立数の下界を証明した。

Markov の不等式と Chebyshev の不等式は先行記事の結果として用い、本記事では再証明していない。悪い事象が互いに疎に依存する場合に、和事象の評価より弱い条件で回避を保証する結果は、本記事では扱っていない。無限確率空間、連続分布、および三色以上の塗り分けに対する Ramsey 数も扱っていない。

次の記事では、本記事が用意した確率空間と二つのモーメント法を、辺を独立に選んで作るランダムグラフへ適用する。孤立点の個数について、第一モーメント法と第二モーメント法が互いに逆向きの結論を与えることを見る。

参考文献

  1. Noga Alon and Joel H. Spencer, The Probabilistic Method, 4th ed., Wiley, Hoboken, N.J., 2016.第一モーメント法による Ramsey 数の下界、改変法による独立集合の下界、および第二モーメント法の定式化を参考にした。
  2. Martin Aigner and Günter M. Ziegler, Proofs from THE BOOK, 6th ed., Springer, Berlin, 2018.ランダムな二彩色による Ramsey 数の下界の議論の組み立てを参考にした。
  3. Reinhard Diestel, Graph Theory, 6th ed., Graduate Texts in Mathematics 173, Springer, Berlin, 2025.有限グラフに対する確率的な構成の枠組みと、独立数の下界の位置づけを参考にした。

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