§E13.13二部マッチングと Kőnig の定理

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マッチングは、どの二辺も端点を共有しない辺集合である。辺数が最大のマッチングを求める問題に対して、二つの問いがある。第一に、手元のマッチングが最大であるかどうかを、他のすべてのマッチングと比べることなく判定する方法があるか。第二に、最大であるという主張を、それ以上大きいマッチングが無いことの証拠とともに述べる方法があるか。本記事は、有限二部グラフについてこの二つに答える。

第一の問いには交互道と増加道が答える。マッチングに属する辺と属さない辺が交互に現れ、両端点がいずれもマッチングに被覆されていない道を増加道という。増加道に沿って辺の所属を入れ替えるとマッチングの辺数が一つ増えるので、最大であれば増加道は存在しない。逆も成り立ち、増加道の非存在が最大性の判定条件になる。第二の問いには頂点被覆が答える。すべての辺の少なくとも一方の端点を含む頂点集合を頂点被覆といい、頂点被覆の頂点数はつねにマッチングの辺数以上である。したがって、辺数と頂点数が一致するマッチングと頂点被覆の対が見つかれば、両方の最適性が同時に確定する。二部グラフではこの対がつねに存在するというのが Kőnig の定理である。

本記事を通じて、G=(X⊔Y,E)G=(X\sqcup Y,E)は有限単純二部グラフとする。すなわち頂点集合は互いに交わらない二つの集合XXとYYの合併であり、各辺はXXの頂点とYYの頂点をちょうど一つずつ端点にもつ。多重辺とループは考えない。グラフの基本的な語彙は§D2.7 定義 1.1に、道は§D2.7 定義 2.1に従う。マッチングの定義は§D2.12 定義 1.1による。ここで再掲すると、辺集合M⊆EM\subseteq Eがマッチングであるとは、MMの相異なる二辺が端点を共有しないことをいう。MMのいずれかの辺の端点である頂点を、MMに被覆されるという。辺数∣M∣\lvert M\rvertが最大であるマッチングを最大マッチングといい、その辺数をν(G)\nu(G)と書く。ここでの最大は辺数についての最大であり、包含に関する極大とは異なる。辺{x,y}\{x,y\}をxyxyとも書く。

1 交互道と増加道

定義 1.1. 有限二部グラフG=(X⊔Y,E)G=(X\sqcup Y,E)とマッチングM⊆EM\subseteq Eをとる。MMに被覆されない頂点を MM-非飽和頂点 (M-unsaturated vertex) という。

GGの道v0,v1,…,vkv_0,v_1,\dots,v_kが MM-交互道 (M-alternating path) であるとは、辺vi−1viv_{i-1}v_i(1≤i≤k1\le i\le k)がMMに属するか属さないかがiiとともに交互に入れ替わることをいう。長さ00の道もMM-交互道とみなす。

MM-交互道v0,v1,…,vkv_0,v_1,\dots,v_kが MM-増加道 (M-augmenting path) であるとは、k≥1k\ge1であり、両方の端点v0v_0とvkv_kがいずれもMM-非飽和頂点であることをいう。

注意 1.2 (交互道の定義の違いについて).§D2.12 定義 1.1はMM-交互道を、MMに被覆されない頂点から始まる交互な道として定義しており、始点に条件を課している。本記事の定義 1.1は始点に条件を課さないので、本記事のMM-交互道の方が広い。被覆されない頂点をよぶ語は、両記事ともMM-非飽和である。

MM-増加道については、長さが11以上である道に関して両者は一致する。実際、両端点が被覆されない交互な道は、始点が被覆されないので前者の意味でもMM-交互道であり、逆に前者の意味のMM-交互道は後者の意味でもMM-交互道だからである。本記事は長さ00の道をMM-増加道から明示的に除く。長さ00の道は辺をもたず、辺の所属を入れ替えてもマッチングの辺数が変わらないからである。

MM-増加道の定義から両端点が非飽和であるという条件を落とすと、後の特徴づけは成り立たない。飽和した端点をもつ交互道に沿って辺の所属を入れ替えると、その端点がMMの二本の辺に接する場合が生じ、得られる辺集合がマッチングにならないからである。

補題 1.3. 有限二部グラフGGのマッチングMMとMM-増加道P: v0,v1,…,vkP:\ v_0,v_1,\dots,v_kについて、kkは奇数である。さらにPPの辺のうちMMに属さないものは(k+1)/2(k+1)/2本、MMに属するものは(k−1)/2(k-1)/2本である。

証明. 両端点v0v_0とvkv_kはMM-非飽和であるから、v0v_0に接する辺v0v1v_0v_1とvkv_kに接する辺vk−1vkv_{k-1}v_kはいずれもMMに属さない。PPはMM-交互道であるから、辺vi−1viv_{i-1}v_iがMMに属するかどうかはiiとともに交互に入れ替わる。最初の辺v0v1v_0v_1がMMに属さないので、vi−1viv_{i-1}v_iがMMに属することとiiが偶数であることは同値である。最後の辺vk−1vkv_{k-1}v_kがMMに属さないのでkkは奇数である。

1≤i≤k1\le i\le kのうちiiが奇数であるものは(k+1)/2(k+1)/2個、偶数であるものは(k−1)/2(k-1)/2個であるから、MMに属さない辺は(k+1)/2(k+1)/2本、MMに属する辺は(k−1)/2(k-1)/2本である。▨

特徴づけの証明では、二つのマッチングの対称差がどのような形をしているかを用いる。対称差では各頂点が二本以下の辺に接するので、次の補題が形を決める。

補題 1.4. 有限グラフHHのすべての頂点の次数が22以下であるとする。このときHHの各連結成分KKについて、次のいずれかが成り立つ。

  1. KKの頂点をu0,u1,…,uru_0,u_1,\dots,u_r(r≥0r\ge0)と並べて、KKの辺全体が{ui−1ui: 1≤i≤r}\{u_{i-1}u_i:\ 1\le i\le r\}に一致するようにすることができる。このときKKは道である。
  2. KKの頂点をu0,u1,…,uru_0,u_1,\dots,u_r(r≥2r\ge2)と並べて、KKの辺全体が{ui−1ui: 1≤i≤r}∪{uru0}\{u_{i-1}u_i:\ 1\le i\le r\}\cup\{u_ru_0\}に一致するようにすることができる。このときKKは閉路である。

証明.KKをHHの連結成分とする。KKの頂点は有限個であるから、KKに含まれる道の長さは有界であり、長さが最大である道P: u0,u1,…,urP:\ u_0,u_1,\dots,u_rが存在する。

r=0r=0の場合を先に扱う。u0u_0に隣接する頂点wwが存在すればu0,wu_0,wが長さ11の道となって最大性に反するので、u0u_0の次数は00である。KKは連結であるからKKはu0u_0だけからなり、(1)が成り立つ。

以下r≥1r\ge1とする。u0u_0に隣接する頂点wwがPPに現れないと仮定すると、w,u0,u1,…,urw,u_0,u_1,\dots,u_rがPPより長い道となって最大性に反する。よってu0u_0に隣接する頂点はすべてPPに現れる。同じ理由で、uru_rに隣接する頂点もすべてPPに現れる。また、0<i<r0<i<rを満たすuiu_iはui−1u_{i-1}とui+1u_{i+1}に隣接し、次数が22以下であるから、これ以外の頂点には隣接しない。

u0u_0がu1u_1以外の頂点に隣接しない場合を考える。uru_rがur−1u_{r-1}以外の頂点に隣接すると仮定すると、その頂点はPPに現れるのでuju_j(0≤j≤r−20\le j\le r-2)と書くことができる。j=0j=0ならばu0u_0がu1u_1以外の頂点に隣接することになって仮定に反する。0<j0<jならばuju_jはuj−1u_{j-1}、uj+1u_{j+1}およびuru_rの三頂点に隣接し、次数が33になって仮定に反する。よってuru_rもur−1u_{r-1}以外の頂点に隣接しない。したがってPPのどの頂点もPPの辺以外の辺に接しない。KKは連結であるから、KKの頂点はすべてPPに現れ、KKの辺はPPの辺だけである。よって(1)が成り立つ。

u0u_0がu1u_1以外の頂点uiu_iに隣接する場合を考える。自己ループが無いのでi≠0i\ne0であり、i≠1i\ne1であるからi≥2i\ge2である。i<ri<rと仮定すると、uiu_iはui−1u_{i-1}、ui+1u_{i+1}およびu0u_0の三頂点に隣接して次数が33になり、仮定に反する。よってi=ri=rであり、r≥2r\ge2である。このときu0,u1,…,ur,u0u_0,u_1,\dots,u_r,u_0は閉路である。この閉路に現れる各頂点は既に二つの頂点に隣接しているので、次数が22以下であることからこれ以外の頂点には隣接しない。KKは連結であるから、KKの頂点はすべてこの閉路に現れ、KKの辺はこの閉路の辺だけである。よって(2)が成り立つ。▨

1.1 証明方針

増加道が存在すれば最大でないことは、増加道に沿って辺の所属を入れ替えた辺集合を作り、それがマッチングであって辺数が一つ多いことを確かめれば従う。確かめる点は、入れ替えた後も各頂点が高々一本の辺に接することである。

逆向き、すなわち最大でなければ増加道が存在することが本質的である。辺数の大きいマッチングM′M'をとり、MMとM′M'の対称差を辺集合とする部分グラフHHを考える。各頂点はMMの辺に高々一本、M′M'の辺に高々一本しか接しないので、HHにおける次数は22以下であり、補題 1.4によりHHの各連結成分は道か閉路である。HHの辺はMMとM′M'に交互に属するから、閉路成分は両者を同数含む。M′M'の辺の総数がMMの辺の総数より多いことから、M′M'の辺をMMの辺より多く含む成分が存在し、それは閉路ではなく、両端の辺がM′M'に属する道である。最後に、その道の両端点がMM-非飽和であることを確かめる。ここで、端点がMMとM′M'の共通の辺で被覆されている可能性を排除する必要がある。

定理 1.5. 有限二部グラフGGのマッチングMMについて、MMが最大マッチングであることと、MM-増加道が存在しないことは同値である。

証明. 増加道が存在すれば最大でないこと。MM-増加道P: v0,v1,…,vkP:\ v_0,v_1,\dots,v_kをとる。補題 1.3によりkkは奇数であり、PPの辺のうちMMに属さないものが(k+1)/2(k+1)/2本、属するものが(k−1)/2(k-1)/2本である。PPの辺集合をE(P)E(P)と書き、

M′=(M∖E(P))∪(E(P)∖M)M'=(M\setminus E(P))\cup(E(P)\setminus M)

と置く。M′M'がマッチングであることを示す。頂点wwをとる。wwがPPに現れないならば、wwに接するM′M'の辺はwwに接するMMの辺と同じであるから高々一本である。wwがPPの内部の頂点viv_i(0<i<k0<i<k)であるならば、wwに接するPPの辺はちょうど二本vi−1viv_{i-1}v_iとvivi+1v_iv_{i+1}であり、交互性によりそのうち一本がMMに属し他方が属さない。したがってM′M'では、MMに属していた方が外れ、属していなかった方が入るので、wwに接するPPの辺のうちM′M'に属するものはちょうど一本である。さらに、PPに現れない辺でwwに接しMMに属するものは存在しない。もし存在すれば、wwはPP上のMMの辺と合わせてMMの二本の辺に接することになり、MMがマッチングであることに反する。wwが端点v0v_0またはvkv_kであるならば、wwはMM-非飽和であるからMMの辺に接しておらず、M′M'ではPP上のMMに属さない辺一本だけに接する。以上よりM′M'はマッチングである。辺数は

∣M′∣=∣M∣−k−12+k+12=∣M∣+1\lvert M'\rvert=\lvert M\rvert-\frac{k-1}{2}+\frac{k+1}{2}=\lvert M\rvert+1

であるから、MMは最大マッチングではない。

最大でなければ増加道が存在すること。MMが最大でないとし、∣M′∣>∣M∣\lvert M'\rvert>\lvert M\rvertを満たすマッチングM′M'をとる。辺集合

D=(M∖M′)∪(M′∖M)D=(M\setminus M')\cup(M'\setminus M)

と、DDの辺の端点全体を頂点集合とする部分グラフHHを考える。HHの各頂点は、MMの辺に高々一本、M′M'の辺に高々一本しか接しないので、HHにおける次数は11または22である。したがって補題 1.4により、HHの各連結成分は道または閉路である。また、HHにおいて同じ頂点に接する二本の辺が同時にMMに属することはなく、同時にM′M'に属することもないから、道または閉路に沿って辺はM∖M′M\setminus M'とM′∖MM'\setminus Mに交互に属する。とくに各成分はMM-交互道またはMM-交互な閉路である。

閉路成分の長さが偶数であることを示す。閉路を一周すると辺の属する側が一本ごとに入れ替わる。長さが奇数であるとすると、一周して戻ったところで同じ側の二本の辺が一つの頂点に接することになり、その頂点がMMの二本の辺に接するかM′M'の二本の辺に接することになって、マッチングであることに反する。よって閉路成分の長さは偶数であり、MMの辺とM′M'の辺を同数含む。∣M′∖M∣=∣M′∣−∣M∩M′∣>∣M∣−∣M∩M′∣=∣M∖M′∣\lvert M'\setminus M\rvert=\lvert M'\rvert-\lvert M\cap M'\rvert>\lvert M\rvert-\lvert M\cap M'\rvert=\lvert M\setminus M'\rvertであるから、HH全体ではM′M'の辺がMMの辺より多い。ゆえにM′M'の辺をMMの辺より多く含む成分が存在し、それは閉路ではなく道である。その道をQQとする。QQの辺はM∖M′M\setminus M'とM′∖MM'\setminus Mに交互に属するので、両者の本数の差は11以下である。QQはM′M'の辺をMMの辺より多く含むから、差はちょうど11であり、QQの長さは奇数で、QQの両端の辺はいずれもM′∖MM'\setminus Mに属する。

QQの端点wwがMM-非飽和であることを示す。wwに接するHHの辺はQQの端の辺ただ一本であり、それはM′∖MM'\setminus Mに属する。wwがMMに被覆されていると仮定し、その辺をe∈Me\in Mとする。eeはHHの辺ではないのでe∈M∩M′e\in M\cap M'である。するとwwはM′M'の二本の辺、すなわちeeとQQの端の辺に接することになり、M′M'がマッチングであることに反する。よってwwはMM-非飽和である。もう一方の端点についても同じ議論が成り立つ。

したがってQQは両端点がMM-非飽和であるMM-交互道であり、長さは11以上であるからMM-増加道である。▨

増加道による特徴づけは、最大性の判定を有限の探索へ置き換える。次の命題は、この探索を繰り返す手続きが最大マッチングを与えることを述べる。

命題 1.6. 有限二部グラフG=(X⊔Y,E)G=(X\sqcup Y,E)について、M=∅M=\emptysetから出発し、MM-増加道が存在するかぎり一つ選んで定理 1.5の証明にある入れ替えを行い、その結果を新しいMMとする手続きを考える。この手続きは高々min⁡{∣X∣,∣Y∣}\min\{\lvert X\rvert,\lvert Y\rvert\}回の反復で停止し、停止時のMMは最大マッチングである。

証明. ループ不変条件(§D2.8 定義 1.1)として「MMはマッチングである」をとる。初期化ではM=∅M=\emptysetがマッチングであるから成り立つ。維持は定理 1.5の証明の前半が与える。すなわちMM-増加道に沿う入れ替えの結果はマッチングであり、辺数はちょうど11増える。

停止性を示す。マッチングの各辺はXXの相異なる頂点とYYの相異なる頂点を用いるから、任意のマッチングの辺数はmin⁡{∣X∣,∣Y∣}\min\{\lvert X\rvert,\lvert Y\rvert\}以下である。m=min⁡{∣X∣,∣Y∣}m=\min\{\lvert X\rvert,\lvert Y\rvert\}と置き、ループの状態に対して変量V=m−∣M∣V=m-\lvert M\rvertを定めると、VVは非負整数であり、本体を一度実行するたびに∣M∣\lvert M\rvertが11増えるので狭義に減少する。§D2.8 命題 1.4により手続きは有限回で停止し、VVの初期値がmmであるから反復回数はmm以下である。

停止時にはループの継続条件が偽であり、MM-増加道が存在しない。不変条件によりMMはマッチングであるから、定理 1.5によりMMは最大マッチングである。この形の議論が正当性を与えることは§D2.8 定理 1.2による。▨

2 頂点被覆と弱い向きの不等式

定義 2.1. 有限二部グラフG=(X⊔Y,E)G=(X\sqcup Y,E)について、頂点集合C⊆X⊔YC\subseteq X\sqcup Yが頂点被覆 (vertex cover) であるとは、EEのすべての辺が少なくとも一方の端点をCCにもつことをいう。頂点数∣C∣\lvert C\rvertが最小である頂点被覆の頂点数をτ(G)\tau(G)と書く。ここでの最小は頂点数についての最小であり、包含に関する極小とは異なる。

命題 2.2. 有限二部グラフGGについてν(G)≤τ(G)\nu(G)\le\tau(G)が成り立つ。

証明.MMをマッチング、CCを頂点被覆とする。MMの各辺eeは少なくとも一方の端点をCCにもつので、その端点の一つを選んでψ(e)∈C\psi(e)\in Cと定める。MMの相異なる二辺は端点を共有しないから、ψ\psiは単射である。よって∣M∣≤∣C∣\lvert M\rvert\le\lvert C\rvertが成り立つ。MMを最大マッチング、CCを頂点数が最小の頂点被覆にとるとν(G)≤τ(G)\nu(G)\le\tau(G)を得る。▨

3 Kőnig の定理

命題 2.2により、頂点数がν(G)\nu(G)に等しい頂点被覆を一つ構成すれば、マッチングと頂点被覆の最適性が同時に確定して等式が従う。構成は最大マッチングMMから出発する。XXのMM-非飽和頂点全体をUUとし、UUの頂点から出発して最初の辺がMMに属さないMM-交互道でたどり着くことのできる頂点全体をZZとする。二部グラフでは、このような交互道はXXの頂点からMMに属さない辺でYYへ移り、MMの辺でXXへ戻る、という往復を繰り返す。したがってZ∩YZ\cap Yの頂点はMMに属さない辺で到達され、UUに属さないZ∩XZ\cap Xの頂点はMMの辺で到達される。この構造を三つの主張として取り出したものが次の補題である。

補題 3.1. 有限二部グラフG=(X⊔Y,E)G=(X\sqcup Y,E)の最大マッチングをMMとし、XXのMM-非飽和頂点全体をUUとする。頂点vvが UUから交互に到達可能であるとは、あるu∈Uu\in UからvvへのMM-交互道であって、長さが00であるか最初の辺がMMに属さないものが存在することをいう。UUから交互に到達可能な頂点全体をZZと書く。このとき次の三つが成り立つ。

  1. x∈Z∩Xx\in Z\cap Xかつx∉Ux\notin Uならば、xxはMMに被覆され、xxを被覆するMMの辺の他方の端点はZ∩YZ\cap Yに属する。
  2. y∈Z∩Yy\in Z\cap Yならば、yyはMMに被覆され、yyを被覆するMMの辺の他方の端点はZ∩XZ\cap Xに属する。
  3. x∈Z∩Xx\in Z\cap Xかつxy∈E∖Mxy\in E\setminus Mならばy∈Zy\in Zである。

証明. まずZZの定義に現れる道の形を確かめる。u∈Uu\in Uから出発し最初の辺がMMに属さないMM-交互道u=v0,v1,…,vku=v_0,v_1,\dots,v_kをとる。交互性により、辺vi−1viv_{i-1}v_iはiiが偶数のときMMに属し、iiが奇数のときMMに属さない。u∈Xu\in Xであり各辺がXXとYYをまたぐので、viv_iはiiが偶数のときXXに、奇数のときYYに属する。したがって、終点がYYに属するときはkkが奇数で最後の辺はMMに属さず、終点がXXに属するときはkkが偶数で、k≥2k\ge2ならば最後の辺はMMに属する。また、この道の始点側の部分列v0,…,vjv_0,\dots,v_jは再び同じ条件を満たすMM-交互道であるから、道に現れるすべての頂点はZZに属する。

(1)を示す。x∈Z∩Xx\in Z\cap Xかつx∉Ux\notin Uとする。xxへ至る上の形の道v0,…,vkv_0,\dots,v_kをとると、kkは偶数である。k=0k=0ならばx=u∈Ux=u\in Uとなって仮定に反するのでk≥2k\ge2であり、最後の辺vk−1vk=vk−1xv_{k-1}v_k=v_{k-1}xはMMに属する。よってxxはMMに被覆され、その辺の他方の端点vk−1v_{k-1}は道上の頂点であるからZZに属し、k−1k-1が奇数であるからYYに属する。

(2)を示す。y∈Z∩Yy\in Z\cap Yとし、yyへ至る上の形の道P: v0,…,vkP:\ v_0,\dots,v_kをとる。kkは奇数であり、最後の辺はMMに属さない。

yyがMM-非飽和であると仮定する。PPの始点v0=uv_0=uはUUに属するのでMM-非飽和であり、k≥1k\ge1であるから、PPは両端点がいずれもMM-非飽和であるMM-交互道、すなわちMM-増加道である。これはMMが最大マッチングであることと定理 1.5に反する。よってyyはMMに被覆される。

yyを被覆するMMの辺をxyxyとする。x∈Xx\in Xである。xxがPPに現れるならば、上に述べたとおりx∈Zx\in Zである。xxがPPに現れないならば、PPの末尾に辺yxyxを付け加えた列v0,…,vk,xv_0,\dots,v_k,xは頂点がすべて相異なるので道であり、PPの最後の辺がMMに属さずyxyxがMMに属するので交互性も保たれる。よってこの道はZZの定義の条件を満たし、x∈Zx\in Zである。いずれの場合もx∈Z∩Xx\in Z\cap Xとなる。

(3)を示す。x∈Z∩Xx\in Z\cap Xかつxy∈E∖Mxy\in E\setminus Mとする。xxへ至る上の形の道P: v0,…,vkP:\ v_0,\dots,v_kをとるとkkは偶数である。yyがPPに現れるならばy∈Zy\in Zである。yyがPPに現れないならば、列v0,…,vk,yv_0,\dots,v_k,yは道である。k=0k=0のときこの道の最初の辺はxyxyでありMMに属さないので条件を満たし、k≥2k\ge2のときPPの最後の辺はMMに属しxyxyは属さないので交互性が保たれる。いずれの場合もy∈Zy\in Zである。▨

3.1 証明方針

構成する頂点被覆は

C=(X∖Z)∪(Y∩Z)C=(X\setminus Z)\cup(Y\cap Z)

である。示すべきことは二つあり、それぞれ別に証明する。

第一に、CCが頂点被覆であること、すなわちx∈Zx\in Zかつy∉Zy\notin Zを満たす辺xyxyが存在しないことである。ここでは辺がMMに属する場合と属さない場合に分け、前者に(1)を、後者に (3) を用いる。

第二に、∣C∣≤∣M∣\lvert C\rvert\le\lvert M\rvertであることである。そのために、CCの各頂点をそれを被覆するMMの辺へ写す対応が定まり、しかも単射であることを示す。対応が定まることには、X∖ZX\setminus Zの頂点が非飽和ならばUUに属してZZに入ってしまうことと、Y∩ZY\cap Zの頂点が飽和するという(2)を用いる。単射であることには、XX側の頂点とYY側の頂点が同じ辺へ写る場合を排除する必要があり、そこで再び(2)を用いる。

最後に、主張1 と主張2 から得られる不等式と命題 2.2の不等式を並べると、不等号の連鎖がすべて等号になり、ν(G)=τ(G)\nu(G)=\tau(G)が従う。

定理 3.2 (Kőnig の定理). 有限二部グラフGGについて、最大マッチングの辺数と最小頂点被覆の頂点数は等しい。すなわちν(G)=τ(G)\nu(G)=\tau(G)が成り立つ。

証明. 最大マッチングMMをとる。UUとZZを補題 3.1のとおりに定め、

C=(X∖Z)∪(Y∩Z)C=(X\setminus Z)\cup(Y\cap Z)

と置く。XXとYYは交わらないので、この合併は交わらない二つの集合の合併である。

主張1:CCは頂点被覆である。辺xy∈Exy\in E(x∈Xx\in X、y∈Yy\in Y)をとり、x∉Cx\notin Cかつy∉Cy\notin Cであると仮定する。x∉X∖Zx\notin X\setminus Zよりx∈Zx\in Zであり、y∉Y∩Zy\notin Y\cap Zよりy∉Zy\notin Zである。

xy∉Mxy\notin Mの場合、補題 3.1 (3)によりy∈Zy\in Zとなり、y∉Zy\notin Zに反する。

xy∈Mxy\in Mの場合、xxはMMに被覆されるのでx∉Ux\notin Uである。補題 3.1 (1)により、xxを被覆するMMの辺の他方の端点がZZに属する。MMはマッチングであるからxxを被覆するMMの辺はxyxyただ一本であり、その他方の端点はyyである。よってy∈Zy\in Zとなり、y∉Zy\notin Zに反する。

いずれの場合も矛盾するので、EEのすべての辺は少なくとも一方の端点をCCにもつ。よってCCは頂点被覆である。

主張2:∣C∣≤∣M∣\lvert C\rvert\le\lvert M\rvertである。まずCCの各頂点がMMに被覆されることを示す。x∈X∖Zx\in X\setminus ZがMM-非飽和であるとするとx∈Ux\in Uであり、長さ00の道によりx∈Zx\in Zとなってx∉Zx\notin Zに反する。よってX∖ZX\setminus Zの頂点はMMに被覆される。Y∩ZY\cap Zの頂点がMMに被覆されることは補題 3.1 (2)による。

そこで、CCの各頂点vvに対し、vvを被覆するMMの辺φ(v)\varphi(v)を対応させる。MMはマッチングであるから、vvを被覆するMMの辺はただ一本であり、φ\varphiは矛盾なく定まる。φ\varphiが単射であることを示す。φ(v)=φ(v′)=e\varphi(v)=\varphi(v')=eかつv≠v′v\ne v'とすると、vvとv′v'はともにeeの端点であるから、一方がXXに、他方がYYに属する。XXに属する方をxx、YYに属する方をyyとすると、x∈X∖Zx\in X\setminus Zかつy∈Y∩Zy\in Y\cap Zかつxy=e∈Mxy=e\in Mである。ところが補題 3.1 (2)により、yyを被覆するMMの辺の他方の端点はZZに属するのでx∈Zx\in Zとなり、x∉Zx\notin Zに反する。よってφ\varphiは単射であり∣C∣≤∣M∣\lvert C\rvert\le\lvert M\rvertが成り立つ。

結論。MMは最大マッチングであるから∣M∣=ν(G)\lvert M\rvert=\nu(G)である。CCは頂点被覆であるからτ(G)≤∣C∣\tau(G)\le\lvert C\rvertである。主張2 と命題 2.2を合わせると

τ(G)≤∣C∣≤∣M∣=ν(G)≤τ(G)\tau(G)\le\lvert C\rvert\le\lvert M\rvert=\nu(G)\le\tau(G)

となり、すべてが等号で結ばれる。よってν(G)=τ(G)\nu(G)=\tau(G)であり、あわせて∣C∣=∣M∣=ν(G)\lvert C\rvert=\lvert M\rvert=\nu(G)が得られる。▨

4 検算例

例 4.1 (最大マッチングと最小頂点被覆の手計算).X={x1,x2,x3}X=\{x_1,x_2,x_3\}、Y={y1,y2,y3}Y=\{y_1,y_2,y_3\}とし、辺集合を

E={x1y1, x2y1, x3y1, x3y2, x3y3}E=\{x_1y_1,\ x_2y_1,\ x_3y_1,\ x_3y_2,\ x_3y_3\}

と定める。

最大マッチングの辺数。M={x1y1, x3y2}M=\{x_1y_1,\ x_3y_2\}はマッチングであるからν(G)≥2\nu(G)\ge2である。辺数33のマッチングが存在すると仮定すると、x1x_1、x2x_2、x3x_3のそれぞれが相異なるYYの頂点と組になる。ところがx1x_1に接する辺はx1y1x_1y_1だけ、x2x_2に接する辺はx2y1x_2y_1だけであるから、x1x_1とx2x_2はともにy1y_1と組になるほかなく、マッチングであることに反する。よってν(G)=2\nu(G)=2である。

構成による頂点被覆。上のM={x1y1, x3y2}M=\{x_1y_1,\ x_3y_2\}について、XXのMM-非飽和頂点はx2x_2だけであるからU={x2}U=\{x_2\}である。x2x_2から出発する交互道をたどる。x2x_2に接する辺はx2y1∉Mx_2y_1\notin Mだけであるからy1∈Zy_1\in Zである。y1y_1を被覆するMMの辺はx1y1x_1y_1であるからx1∈Zx_1\in Zである。x1x_1に接するMMに属さない辺は存在しない。よってZ={x2,y1,x1}Z=\{x_2,y_1,x_1\}である。したがって

C=(X∖Z)∪(Y∩Z)={x3}∪{y1}={x3,y1}C=(X\setminus Z)\cup(Y\cap Z)=\{x_3\}\cup\{y_1\}=\{x_3,y_1\}

となり∣C∣=2\lvert C\rvert=2である。CCが頂点被覆であることを辺ごとに確かめる。x1y1x_1y_1とx2y1x_2y_1とx3y1x_3y_1はy1y_1を含み、x3y2x_3y_2とx3y3x_3y_3はx3x_3を含む。よってすべての辺が覆われる。∣C∣=2=∣M∣\lvert C\rvert=2=\lvert M\rvertであり、定理 3.2のとおりν(G)=τ(G)=2\nu(G)=\tau(G)=2である。

Hall の条件との関係。S={x1,x2}S=\{x_1,x_2\}をとるとN(S)={y1}N(S)=\{y_1\}であり∣N(S)∣=1<2=∣S∣\lvert N(S)\rvert=1<2=\lvert S\rvertである。したがって§D2.12 定理 1.3の Hall の条件は成り立たず、XXのすべての頂点を被覆するマッチングは存在しない。これはν(G)=2<3=∣X∣\nu(G)=2<3=\lvert X\rvertと整合する。

5 演習

問題 5.1.

  1. 定理 1.5の証明の後半で、道QQの端点がMM-非飽和であることを示す段は、端点がM∩M′M\cap M'の辺で被覆されている可能性を排除している。この段を省くと証明のどこが成り立たなくなるかを述べ、排除の議論を自分で書き直せ。
  2. 定義 1.1において、MM-増加道の定義から「両方の端点が非飽和である」という条件を落とし、「一方の端点が非飽和である」に置き換えたとする。この条件のもとで定理 1.5が成り立たなくなることを、頂点数33の二部グラフとその最大マッチングを用いた反例で示せ。
  3. 定理 3.2の証明の主張1 において、辺xyxyがMMに属する場合の議論を、補題 3.1 (1)を用いずに、ZZの定義に戻って交互道を延長する形で書き直せ。
  4. 定理 3.2の証明で構成した頂点被覆CCが最小であること、および用いた最大マッチングMMが最大であることが、主張2 の不等式からどのように同時に従うかを、命題 2.2の不等式の向きに即して説明せよ。
  5. 長さ33の閉路をもつグラフではν(G)=1\nu(G)=1かつτ(G)=2\tau(G)=2であることを確かめ、定理 3.2の証明のどの段が二部性を用いているかを指摘せよ。

7 扱った範囲と次の記事

本記事は、有限二部グラフについて交互道と増加道を定義し、増加道が存在しないことと最大マッチングであることの同値性を証明した。非飽和頂点からの交互到達集合によって頂点被覆を構成し、それが頂点被覆であることと頂点数が最大マッチングの辺数に等しいことを別々に示して、Kőnig の定理を証明した。増加道を繰り返し探す手続きの停止性と正当性も示した。二部でないグラフの最大マッチング、重み付きマッチングおよび完全マッチングの存在条件は扱っていない。次の記事では、有限グラフの二頂点について、辺素な道の最大本数と辺切断の最小濃度が等しいこと、および内点素な道の最大本数と頂点切断の最小濃度が等しいことを、単位容量のフローへ帰着して証明する。

参考文献

  1. Reinhard Diestel, Graph Theory, 6th ed., Graduate Texts in Mathematics 173, Springer, Berlin, 2025.二部グラフのマッチングと Kőnig の定理の定式化を参考にした。
  2. J. A. Bondy and U. S. R. Murty, Graph Theory, Graduate Texts in Mathematics 244, Springer, London, 2008.交互道と増加道による最大マッチングの特徴づけ、および対称差による証明を参考にした。
  3. Alexander Schrijver, Combinatorial Optimization: Polyhedra and Efficiency, Algorithms and Combinatorics 24, vol. A, Springer, 2003.増加道を繰り返し探す手続きと、交互到達集合から頂点被覆を構成する議論を参考にした。

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