1 回路
定義 1.1. マトロイドM=(E,I)において、包含に関して極小な従属集合を回路 (circuit) という。すなわちC⊆Eが回路であるとは、C∈/Iであり、かつC′⊊Cを満たす任意のC′についてC′∈Iが成り立つことをいう。回路の全体をCと書く。
極小と最小は別の条件である。回路は包含に関して極小な従属集合であって、濃度が最小の従属集合ではない。実際、例 6.2のとおり、M(K4)では三角形の辺集合(濃度3)と長さ4の閉路の辺集合(濃度4)がともに回路である。
命題 1.2.A⊆Eが従属集合ならば、C⊆Aを満たす回路Cが存在する。
証明.D={D⊆A: D∈/I}と置く。A∈DであるからD=∅であり、Eが有限集合であるからDも有限集合である。ゆえにDの元の濃度の集合は空でない有限な非負整数の集合であり、最小値をとる元C∈Dが存在する。
Cが回路であることを示す。Cは従属集合である。C′⊊CかつC′∈/Iを満たすC′が存在したとすると、C′⊆AよりC′∈Dであり∣C′∣<∣C∣となってCの最小性に反する。ゆえにCの真部分集合はすべて独立であり、Cは極小な従属集合、すなわち回路である。▨
命題 1.3.A⊆Eに対し、A∈Iであることと、C⊆Aを満たす回路Cが存在しないことは同値である。すなわちI={A⊆E: ∀C∈C, C⊆A}が成り立つ。
証明.A∈Iとし、C⊆Aを満たす回路Cが存在したとする。回路は従属集合であるが、§E13.15 定義 1.1 条件 (b)よりC⊆A∈IからC∈Iが従い、矛盾する。ゆえにAに含まれる回路は存在しない。
逆にA∈/Iとすると、命題 1.2よりC⊆Aを満たす回路Cが存在する。対偶を取ると、Aに含まれる回路が存在しないならばA∈Iである。▨
2 回路消去公理
定義 2.1. 有限集合EとC⊆2Eについて、Cが回路公理系 (circuit axiom system) を満たすとは、次の三条件を満たすことをいう。
- (C1)∅∈/C。
- (C2)C1,C2∈CかつC1⊆C2ならばC1=C2。
- (C3) 相異なるC1,C2∈Cとx∈C1∩C2に対し、(C1∪C2)∖{x}に含まれる回路、すなわちC3⊆(C1∪C2)∖{x}を満たすC3∈Cが存在する。
条件条件 (c)の集合は(C1∪C2)∖{x}であり、C1とC2の合併からxを取り除いたものである。括弧を落としてC1∪(C2∖{x})と読むと、その集合はC1を含むのでC3=C1が条件を満たしてしまい、主張が内容を失う。xはC1からもC2からも取り除かれる。
証明.定義 2.1 条件 (a)を示す。§E13.15 定義 1.1 条件 (a)より∅∈Iであるから∅は従属集合ではなく、回路ではない。
定義 2.1 条件 (b)を示す。C1,C2∈CかつC1⊆C2とする。C1⊊C2と仮定すると、C2が極小な従属集合であることからC1∈Iとなるが、C1は回路であり従属集合であるから矛盾する。ゆえにC1=C2である。
定義 2.1 条件 (c)を示す。 相異なるC1,C2∈Cとx∈C1∩C2を取り、X=C1∪C2と置く。命題 1.3により、X∖{x}に含まれる回路が存在しないこととX∖{x}∈Iは同値であるから、X∖{x}∈Iと仮定して矛盾を導けばよい。
まずC2∖C1=∅である。実際C2⊆C1とすると定義 2.1 条件 (b)よりC1=C2となって仮定に反する。y∈C2∖C1を一つ取る。C2は極小な従属集合であるからC2∖{y}∈Iであり、C2∖{y}⊆Xである。
{I∈I: C2∖{y}⊆I⊆X}はC2∖{y}を含む空でない有限族であるから、包含に関して極大な元Iを取ることができる。Iは{J∈I: J⊆X}においても極大である。実際、I⊊J⊆XかつJ∈IならばC2∖{y}⊆I⊆JであるからJは上の族に属し、Iの極大性に反する。
y∈/Iである。実際y∈IとするとC2=(C2∖{y})∪{y}⊆Iとなり、§E13.15 定義 1.1 条件 (b)よりC2∈Iが従ってC2が従属であることに反する。
C1⊆Iである。実際C1⊆Iとすると同様にC1∈Iとなって矛盾する。ゆえにz∈C1∖Iが存在する。y∈C2∖C1よりy∈/C1であるからz=yである。y,z∈Xかつy,z∈/Iであるから∣I∣≤∣X∣−2が成り立つ。
一方、仮定よりX∖{x}∈Iであり、X∖{x}⊆Xかつ∣X∖{x}∣=∣X∣−1>∣I∣である。IとX∖{x}はともにXに含まれる独立集合であるから、§E13.15 定義 1.1 条件 (c)を対(I, X∖{x})へ適用すると、w∈(X∖{x})∖Iが存在してI∪{w}∈Iとなる。w∈XであるからI∪{w}⊆Xであり、Iが{J∈I: J⊆X}の極大元であることに反する。
ゆえにX∖{x}∈/Iであり、命題 1.2より(C1∪C2)∖{x}に含まれる回路が存在する。▨
3 基本回路
次の補題は、回路公理系だけを仮定した設定で述べる。マトロイドに対する形は系として得られる。
補題 3.1. 有限集合EとC⊆2Eが定義 2.1 条件 (a)、定義 2.1 条件 (b)、定義 2.1 条件 (c)を満たすとし、I={A⊆E: ∀C∈C, C⊆A}と置く。A∈I、x∈E∖Aとし、A∪{x}∈/Iとする。このときA∪{x}に含まれるCの元はただ一つであり、その元はxを含む。
証明.A∪{x}∈/Iであるから、Iの定義よりC⊆A∪{x}を満たすC∈Cが存在する。A∈IよりC⊆Aであるからx∈Cである。したがってA∪{x}に含まれるCの元はすべてxを含む。
一意性を示す。C1,C2⊆A∪{x}をCの相異なる元とすると、いずれもxを含むのでx∈C1∩C2である。定義 2.1 条件 (c)よりC3⊆(C1∪C2)∖{x}を満たすC3∈Cが存在する。C1∪C2⊆A∪{x}であるから(C1∪C2)∖{x}⊆Aであり、C3⊆Aとなる。これはA∈Iに反する。ゆえにA∪{x}に含まれるCの元はただ一つである。▨
系 3.2. マトロイドM=(E,I)、A∈I、x∈E∖Aとし、A∪{x}∈/Iとする。このときA∪{x}に含まれる回路はただ一つであり、その回路はxを含む。この回路をAとxの基本回路という。
4 階数
定義 4.1. マトロイドM=(E,I)とA⊆Eに対しr(A)=max{∣I∣: I⊆A, I∈I}をAの階数 (rank) という。§E13.15 定義 1.1 条件 (a)より∅はAに含まれる独立集合であり、Aの部分集合は有限個であるから、この最大値は定まる。r(E)をMの階数という。
命題 4.2.A⊆Eとし、IA={I∈I: I⊆A}と置く。IAの包含に関して極大な元はすべて濃度r(A)をもつ。またIAの任意の元はIAの極大な元に含まれる。
証明. 極大な元への延長.I∈IAとする。{J∈IA: I⊆J}は空でない有限族であるから、濃度が最大の元Jを取ることができる。J⊊J′かつJ′∈IAならばI⊆J′となってJの最大性に反するから、JはIAの極大な元である。
極大な元の等濃度性.I,JをIAの極大な元とし、∣I∣<∣J∣と仮定する。I,J∈Iであるから§E13.15 定義 1.1 条件 (c)よりx∈J∖Iが存在してI∪{x}∈Iとなる。x∈J⊆AであるからI∪{x}⊆Aであり、I∪{x}∈IAとなってIの極大性に反する。ゆえに∣I∣<∣J∣は成り立たず、役割を入れ替えて∣I∣=∣J∣を得る。
共通の濃度がr(A)であること.r(A)を与えるIAの元I0、すなわち∣I0∣=r(A)を満たすI0∈IAを取る。I0はIAの極大な元である。実際I0⊊JかつJ∈IAならば∣J∣>r(A)となって階数の定義に反する。ゆえに極大な元の共通の濃度はr(A)である。▨
グラフ的マトロイドについては、階数を連結成分の個数によって書き下すことができる。§E13.15 補題 6.2は閉路を含まない辺集合についての辺数の勘定であり、閉路を含む一般の辺集合に対する階数の式ではないから、両者を結ぶ段を明示して証明する。
証明.(V,F)の連結成分をH1,…,Hc(F)とし、Hiの頂点集合をVi、辺集合をFiと書く。Fの各辺は両端点が同一の連結成分に属するから、F=F1⊔⋯⊔Fc(F)であり、V=V1⊔⋯⊔Vc(F)である。
第一段(極大な独立集合の構成). 各Hiは連結であるから、§D2.7 命題 3.9よりViを頂点集合とするHiの全域木が存在する。その辺集合をTi⊆Fiと書き、T=T1∪⋯∪Tc(F)と置く。
TがFに含まれるM(G)の独立集合であることを示す。(V,T)が閉路をもつとする。T⊆Fであるから、閉路の頂点は(V,F)において互いに到達可能であり、§D2.7 定義 2.3より同一の連結成分に属する。その頂点集合をViとすると、閉路の各辺は両端点がViに属するTの辺である。Tj⊆Fjの辺は両端点がVjに属し、相異なる添字のVjは互いに素であるから、閉路の各辺はTiに属する。(Vi,Ti)はHiの全域木であって§D2.7 定義 3.1の意味で木であるから閉路をもたず、矛盾する。ゆえに(V,T)は閉路をもたずT∈Iである。
Tが{I∈I: I⊆F}の包含に関して極大な元であることを示す。e∈F∖Tを取り、e={u,v}と書く。e∈Fiを満たす添字iを取ると、uとvはともにViに属する。TiはHiの全域木の辺集合であるから、§D2.7 定理 3.6の定義 2.1 条件 (a)から (4) への含意によりuとvを結ぶ(Vi,Ti)の道Pが存在する。e∈/TiであるからPはeを用いず、Pにeを加えると閉路が得られる。ゆえにT∪{e}∈/Iであり、Tは極大である。
第二段(極大性から階数へ).命題 4.2をA=Fに対して適用すると、{I∈I: I⊆F}の極大な元の濃度はすべてr(F)に等しい。第一段よりTはその極大な元であるから∣T∣=r(F)である。
第三段(辺数の勘定).(V,T)は閉路をもたないから、§E13.15 補題 6.2をTへ適用することができる。(V,T)の連結成分はHiの全域木(Vi,Ti)そのものであり、その個数はc(F)である。実際、TiはViを頂点集合とする木の辺集合であるから(Vi,Ti)は連結であり、相異なる添字のViの間にはTの辺が存在しない。ゆえにr(F)=∣T∣=∣V∣−c(T)=∣V∣−c(F)である。▨
定義 4.4. 有限集合Eと関数r:2E→Z≥0について、rが階数公理系 (rank axiom system) を満たすとは、次の三条件を満たすことをいう。
- (R1) 任意のA⊆Eに対し0≤r(A)≤∣A∣。
- (R2)A⊆B⊆Eならばr(A)≤r(B)。
- (R3) 任意のA,B⊆Eに対しr(A∪B)+r(A∩B)≤r(A)+r(B)。
条件条件 (b)を単調性、条件条件 (c)を劣モジュラ性という。
補題 4.5.r:2E→Z≥0が定義 4.4 条件 (a)、定義 4.4 条件 (b)、定義 4.4 条件 (c)を満たすならば、任意のA⊆Eとx∈Eに対しr(A)≤r(A∪{x})≤r(A)+1が成り立つ。さらに、A⊆EとAと交わらない有限集合T⊆Eに対しr(A∪T)≤r(A)+∣T∣が成り立つ。
証明. 左側の不等式はA⊆A∪{x}と定義 4.4 条件 (b)による。
右側の不等式を示す。x∈AならばA∪{x}=Aであるから明らかである。x∈/Aとする。定義 4.4 条件 (c)をAと{x}へ適用するとA∪{x}とA∩{x}=∅についてr(A∪{x})+r(∅)≤r(A)+r({x})となる。定義 4.4 条件 (a)よりr(∅)≥0かつr({x})≤∣{x}∣=1であるからr(A∪{x})≤r(A)+1である。
最後の主張を示す。t=∣T∣と置き、T={x1,…,xt}と書き、A0=A、Aj=Aj−1∪{xj}(1≤j≤t)と置く。非負整数jについての述語P(j)を、0≤j≤tのときは「r(Aj)≤r(A)+jが成り立つ」、j>tのときは恒に真であると定める。
P(0)はA0=Aより等号として成り立つ。0≤j<tを満たすjについてP(j)を仮定すると、上で示した不等式よりr(Aj+1)≤r(Aj)+1≤r(A)+j+1であるからP(j+1)が成り立つ。j≥tのときはP(j+1)が定義により真である。ゆえに§D2.1 命題 1.2の単純帰納法によりすべての非負整数jについてP(j)が成り立つ。とくにj=tとしてr(A∪T)=r(At)≤r(A)+t=r(A)+∣T∣を得る。▨
証明.定義 4.4 条件 (a)を示す。∅⊆Aかつ∅∈Iであるからr(A)≥0である。Aに含まれる独立集合IはI⊆Aを満たすから∣I∣≤∣A∣であり、r(A)≤∣A∣である。
定義 4.4 条件 (b)を示す。A⊆Bとする。Aに含まれる独立集合はBに含まれる独立集合でもあるから、最大値をとる範囲が広がりr(A)≤r(B)である。
定義 4.4 条件 (c)を示す。A,B⊆Eとする。命題 4.2より、A∩Bに含まれる独立集合のうち極大なものIを取ることができ、∣I∣=r(A∩B)である。I⊆A∪BかつI∈Iであるから、同じ命題によりI⊆Jを満たす{J′∈I: J′⊆A∪B}の極大な元Jが存在し、∣J∣=r(A∪B)である。
J∩(A∩B)=Iを示す。I⊆JかつI⊆A∩BよりI⊆J∩(A∩B)である。逆にJ∩(A∩B)はA∩Bに含まれる独立集合でありIを含むから、IがA∩Bに含まれる独立集合の中で極大であることよりJ∩(A∩B)=Iである。
J∩AはAに含まれる独立集合であるから∣J∩A∣≤r(A)であり、同様に∣J∩B∣≤r(B)である。J⊆A∪Bであるから包除原理(§D2.3 定理 1.2)により∣J∣=∣J∩(A∪B)∣=∣J∩A∣+∣J∩B∣−∣J∩A∩B∣≤r(A)+r(B)−r(A∩B)となる。左辺はr(A∪B)であるから定義 4.4 条件 (c)を得る。
一元追加についての性質. いま示した定義 4.4 条件 (a)、定義 4.4 条件 (b)、定義 4.4 条件 (c)へ補題 4.5を適用すればよい。▨
5 各公理系からの独立集合族の復元
5.1 証明方針
回路の族からの復元と階数関数からの復元を、それぞれ独立に示す。
回路からの復元では、I={A: ∀C∈C, C⊆A}と定めたときに§E13.15 定義 1.1 条件 (a)と§E13.15 定義 1.1 条件 (b)が定義から直ちに従う一方、増大公理§E13.15 定義 1.1 条件 (c)だけが手間を要する。そこで§E13.15 定義 1.1 条件 (c)を、各X⊆Eについて「Xに含まれるIの極大な元がすべて同じ濃度をもつ」という形へ言い換える。言い換えたうえで、濃度の異なる二つの極大元I,Jの対のうち∣I∖J∣が最小のものを取り、e∈I∖Jに対する基本回路補題 3.1を用いてJの元をeで置き換えた集合を作る。置き換えによって∣I∖J∣が真に減るので最小性に反する。回路の一意性が、置き換えた集合がふたたびIに属することを保証する一手である。
階数関数からの復元では、I={A: r(A)=∣A∣}と定める。§E13.15 定義 1.1 条件 (b)は劣モジュラ性から導いた一元追加の評価補題 4.5を繰り返して示す。§E13.15 定義 1.1 条件 (c)は、増やす候補がすべて階数を上げないと仮定したうえで、劣モジュラ性を二つの集合A∪{x1,…,xj}とA∪{xj+1}へ適用して、候補を一つずつ付け加えても階数が変わらないことを帰納的に示す。最後にr(A∪B)≥r(B)=∣B∣>∣A∣=r(A∪B)という矛盾を作る。
証明.(1)⇒(2)を示す。命題 4.2の証明のうち「極大な元の等濃度性」の段は§E13.15 定義 1.1 条件 (a)、§E13.15 定義 1.1 条件 (b)、§E13.15 定義 1.1 条件 (c)だけを用いているから、そのまま適用することができる。
(2)⇒(1)を示す。A,B∈Iかつ∣A∣<∣B∣とし、すべてのx∈B∖AについてA∪{x}∈/Iと仮定する。X=A∪Bと置き、IX={I∈I: I⊆X}と置く。
AはIXの極大な元である。実際、A⊊JかつJ∈IXとすると、x∈J∖A⊆X∖A=B∖Aを取ることができ、§E13.15 定義 1.1 条件 (b)よりA∪{x}⊆JからA∪{x}∈Iが従って仮定に反する。
一方B∈IXであるから、{J∈IX: B⊆J}の中で濃度が最大の元B′を取ると、B′はIXの極大な元であり∣B′∣≥∣B∣>∣A∣である。これは(2)に反する。ゆえに仮定は誤りであり、§E13.15 定義 1.1 条件 (c)が成り立つ。▨
定理 5.2. 有限集合Eについて次が成り立つ。
- C⊆2Eが (C1)、(C2)、(C3) を満たすとし、I={A⊆E: ∀C∈C, C⊆A}と置く。このとき(E,I)はマトロイドであり、その回路全体はCに一致する。
- r:2E→Z≥0が (R1)、(R2)、(R3) を満たすとし、I={A⊆E: r(A)=∣A∣}と置く。このとき(E,I)はマトロイドであり、その階数関数はrに一致する。
逆に、マトロイドM=(E,I)の回路全体Cと階数関数rについてI={A⊆E: ∀C∈C, C⊆A},I={A⊆E: r(A)=∣A∣}が成り立つ。したがって独立集合公理系、基底公理系、回路公理系、階数公理系はいずれも同じマトロイドを定める。
証明. (1)の§E13.15 定義 1.1 条件 (a).定義 2.1 条件 (a)より∅∈/Cである。C⊆∅を満たす集合は∅だけであるから、∅に含まれるCの元は存在せず∅∈Iである。
(1)の§E13.15 定義 1.1 条件 (b).A∈IかつA′⊆Aとする。C⊆A′を満たすC∈CがあればC⊆AとなってA∈Iに反する。ゆえにA′∈Iである。
(1)の§E13.15 定義 1.1 条件 (c).補題 5.1により、任意のX⊆EについてIX={I∈I: I⊆X}の極大な元がすべて同じ濃度をもつことを示せばよい。
X⊆Eを固定する。∣I∣<∣J∣を満たすIXの極大な元の対(I,J)が存在したとする。IXは有限族であるから、そのような対のうち∣I∖J∣が最小のものを一つ取り、あらためて(I,J)と書く。
I∖J=∅とするとI⊆Jであり、J∈IXとIの極大性からI=Jとなって∣I∣<∣J∣に反する。ゆえにe∈I∖Jを取ることができる。
e∈I⊆Xかつe∈/Jであり、JはIXの極大な元であるからJ∪{e}∈/Iである。補題 3.1より、J∪{e}に含まれるCの元はただ一つであり、それをCと書くとe∈Cである。
I∈IであるからC⊆Iであり、f∈C∖Iが存在する。e∈Iであるからf=eであり、C⊆J∪{e}よりf∈J∖Iである。
J′=(J∪{e})∖{f}と置く。J′∈Iを示す。D⊆J′を満たすD∈Cが存在したとする。D⊆J∪{e}であり、J∪{e}に含まれるCの元はCだけであるからD=Cである。しかしf∈Cかつf∈/J′であるからC⊆J′となって矛盾する。ゆえにJ′∈Iである。
e∈XかつJ⊆XよりJ′⊆XであるからJ′∈IXであり、f∈Jかつe∈/Jより∣J′∣=∣J∣である。J′を含むIXの極大な元J′′を取ると(命題 4.2の延長の議論は§E13.15 定義 1.1 条件 (a)と§E13.15 定義 1.1 条件 (b)と有限性だけを用いるので、ここで用いることができる)、∣J′′∣≥∣J′∣=∣J∣>∣I∣である。
f∈/IであるからI∖J′=I∖((J∪{e})∖{f})=I∖(J∪{e})=(I∖J)∖{e}であり、e∈I∖Jより∣I∖J′∣=∣I∖J∣−1である。J′⊆J′′よりI∖J′′⊆I∖J′であるから∣I∖J′′∣≤∣I∖J∣−1である。したがって対(I,J′′)は∣I∣<∣J′′∣を満たし、∣I∖J′′∣<∣I∖J∣となって最小性に反する。
ゆえにIXの極大な元はすべて同じ濃度をもち、§E13.15 定義 1.1 条件 (c)が成り立つ。
(1)の回路の一致.(E,I)の回路全体をC′と書く。C∈CとするとC⊆CよりC∈/Iであり、Cは従属集合である。D⊊CかつD∈/Iとすると、C′⊆Dを満たすC′∈Cが存在し、C′⊆D⊊Cとなって定義 2.1 条件 (b)よりC′=Cが従い、C⊆D⊊Cという矛盾を得る。ゆえにCの真部分集合はすべて独立でありC∈C′である。
逆にC′∈C′とするとC′∈/Iであるから、C⊆C′を満たすC∈Cが存在する。いま示したとおりCは従属集合であり、C′が極小な従属集合であることからC=C′である。ゆえにC=C′である。
(2)の準備.rは定義 4.4 条件 (a)、定義 4.4 条件 (b)、定義 4.4 条件 (c)を満たすから補題 4.5を用いることができる。
(2)の§E13.15 定義 1.1 条件 (a).定義 4.4 条件 (a)より0≤r(∅)≤∣∅∣=0であるからr(∅)=0=∣∅∣であり∅∈Iである。
(2)の§E13.15 定義 1.1 条件 (b).A∈IかつB⊆Aとする。補題 4.5をBとT=A∖Bへ適用すると∣A∣=r(A)=r(B∪T)≤r(B)+∣A∣−∣B∣であり、r(B)≥∣B∣を得る。定義 4.4 条件 (a)よりr(B)≤∣B∣であるからr(B)=∣B∣、すなわちB∈Iである。
(2)の§E13.15 定義 1.1 条件 (c).A,B∈Iかつ∣A∣<∣B∣とし、すべてのx∈B∖AについてA∪{x}∈/Iと仮定する。x∈B∖Aに対しr(A∪{x})≤∣A∣+1が定義 4.4 条件 (a)から従い、r(A∪{x})=∣A∪{x}∣=∣A∣+1は仮定により成り立たないからr(A∪{x})≤∣A∣=r(A)である。定義 4.4 条件 (b)よりr(A∪{x})≥r(A)であるからr(A∪{x})=r(A)(x∈B∖A)が成り立つ。
m=∣B∖A∣と置き、B∖A={x1,…,xm}と書き、A0=A、Aj=Aj−1∪{xj}(1≤j≤m)と置く。非負整数jについての述語P(j)を、0≤j≤mのときは「r(Aj)=r(A)が成り立つ」、j>mのときは恒に真であると定める。
P(0)はA0=Aより成り立つ。0≤j<mを満たすjについてP(j)を仮定する。xj+1∈/AjであるからAj∩(A∪{xj+1})=AかつAj∪(A∪{xj+1})=Aj+1であり、定義 4.4 条件 (c)をAjとA∪{xj+1}へ適用してr(Aj+1)+r(A)≤r(Aj)+r(A∪{xj+1})=r(A)+r(A)すなわちr(Aj+1)≤r(A)を得る。定義 4.4 条件 (b)よりr(Aj+1)≥r(A)であるからr(Aj+1)=r(A)であり、P(j+1)が成り立つ。j≥mのときはP(j+1)が定義により真である。ゆえに§D2.1 命題 1.2の単純帰納法によりすべての非負整数jについてP(j)が成り立つ。
とくにj=mとしてr(A∪B)=r(Am)=r(A)=∣A∣を得る。一方B⊆A∪Bと定義 4.4 条件 (b)よりr(A∪B)≥r(B)=∣B∣>∣A∣であり、矛盾する。ゆえに§E13.15 定義 1.1 条件 (c)が成り立つ。
(2)の階数関数の一致.(E,I)の階数関数をrIと書く。A⊆Eとする。I⊆AかつI∈Iならば定義 4.4 条件 (b)より∣I∣=r(I)≤r(A)であるからrI(A)≤r(A)である。
逆向きを示す。命題 4.2より{I∈I: I⊆A}の極大な元Iを取ることができ、∣I∣=rI(A)である。x∈A∖Iに対しI∪{x}∈/Iであるから、上の§E13.15 定義 1.1 条件 (c)の証明と同じ計算によりr(I∪{x})=r(I)である。
そこでA∖Iの元を一つずつ加える帰納法を、上の議論でAが果たした役割をIに、B∖Aが果たした役割をA∖Iに取り替えて実行する。p=∣A∖I∣と置き、A∖I={x1,…,xp}と書き、I0=I、Ij=Ij−1∪{xj}(1≤j≤p)と置く。0≤j<pのときxj+1∈/IjであるからIj∩(I∪{xj+1})=IかつIj∪(I∪{xj+1})=Ij+1であり、定義 4.4 条件 (c)をIjとI∪{xj+1}へ適用してr(Ij+1)+r(I)≤r(Ij)+r(I∪{xj+1})を得る。r(Ij)=r(I)とr(I∪{xj+1})=r(I)からr(Ij+1)≤r(I)が従い、定義 4.4 条件 (b)と合わせてr(Ij+1)=r(I)である。上と同じ形の帰納法(§D2.1 命題 1.2)により0≤j≤pを満たすすべてのjについてr(Ij)=r(I)が成り立つ。j=pとしてr(A)=r(I∪(A∖I))=r(Ip)=r(I)=∣I∣=rI(A)を得る。ゆえにr=rIである。
逆向きの二つの等式. 第一の等式は命題 1.3である。第二の等式を示す。A∈IならばA自身がAに含まれる独立集合であるからr(A)≥∣A∣であり、定義 4.4 条件 (a)と合わせてr(A)=∣A∣である。逆にr(A)=∣A∣ならば、I⊆A、I∈I、∣I∣=∣A∣を満たすIが存在し、有限集合であるからI=AとなってA∈Iである。▨
6 具体例
例 6.1 (一様マトロイドの回路と階数).Uk,nの台集合をEとする。A⊆Eが従属であることは∣A∣≥k+1と同値であるから、極小な従属集合は(k+1)元部分集合であり、k<nのとき回路は(k+1)元部分集合の全体、k=nのとき回路は存在しない。階数はr(A)=min{∣A∣, k}である。実際、Aに含まれる独立集合は濃度k以下の部分集合であり、その最大濃度は∣A∣とkの小さい方である。
U2,4について劣モジュラ性を検算する。A={1,2}、B={2,3}とするとA∪B={1,2,3}、A∩B={2}でありr(A∪B)+r(A∩B)=2+1=3,r(A)+r(B)=2+2=4であるから3≤4が成り立つ。A={1,2}、B={3,4}とするとA∪B=E、A∩B=∅であり2+0=2≤2+2=4である。
U2,4について定義 2.1 条件 (c)を検算する。C1={1,2,3}、C2={1,2,4}、x=1とすると(C1∪C2)∖{1}={2,3,4}であり、これは三元集合であるから回路そのものである。x=3はC1∩C2={1,2}に属さないので定義 2.1 条件 (c)の対象にならない。
例 6.2 (グラフ的マトロイドの回路と階数).G=(V,E)を有限単純無向グラフとし、M(G)を§E13.15 定義 6.1のグラフ的マトロイドとする。F⊆Eが従属であることは(V,F)が閉路をもつことであるから、極小な従属集合は閉路の辺集合にほかならない。ゆえにM(G)の回路はGの閉路の辺集合の全体である。階数は命題 4.3が与える。
K4で定義 2.1 条件 (c)を検算する。頂点を1,2,3,4とし、辺をa={1,2}、b={1,3}、c={1,4}、d={2,3}、e={2,4}、f={3,4}と書く。C1={a,b,d}は三角形1,2,3の辺集合、C2={a,c,e}は三角形1,2,4の辺集合であり、C1∩C2={a}である。x=aとすると(C1∪C2)∖{a}={b,c,d,e}であり、これは辺{1,3}、{1,4}、{2,3}、{2,4}からなる。頂点を1,3,2,4,1の順にたどると{1,3},{3,2},{2,4},{4,1}という長さ4の閉路が得られるから、{b,c,d,e}自身が回路である。同じM(K4)の中に、濃度3の回路{a,b,d}と濃度4の回路{b,c,d,e}がともに存在する。
C1∪C2={a,b,c,d,e}の階数は、(V,C1∪C2)が連結であるから命題 4.3より4−1=3であり、∣C1∪C2∣=5であるから確かに従属である。
7 演習
問題 7.1.
- 定理 2.2の定義 2.1 条件 (c)の証明では、X=C1∪C2に含まれる独立集合の極大元IをC2∖{y}を含むように取った。この要求を落としてIを任意の極大元に取ると、証明のどの段が成り立たなくなるかを指摘せよ。
- 定理 2.2の定義 2.1 条件 (c)の証明で得た∣I∣≤∣X∣−2という評価を、yとzの役割を明示して再現せよ。z=yを保証する一手を書き下せ。
- 補題 3.1の証明で定義 2.1 条件 (c)を適用する箇所を指摘し、(C1∪C2)∖{x}をC1∪(C2∖{x})と読み替えると証明が成立しなくなる理由を述べよ。
- 定理 4.6の定義 4.4 条件 (c)の証明で用いたJ∩(A∩B)=Iという等式を、参照せずに証明せよ。この等式を用いずに包除原理を適用すると、どの不等号が得られなくなるかを述べよ。
- 補題 4.5の証明を、定義 4.4 条件 (c)をAと{x}ではなくA∪{x}とAへ適用する形で試み、結論が得られるか否かを判定せよ。
- 定理 5.2 (1)の証明において、J′=(J∪{e})∖{f}がIに属することを示す段を、参照せずに再現せよ。回路の一意性をどこで用いたかを明示せよ。
- 定理 5.2 (2)の証明のうち、劣モジュラ性を繰り返し適用してr(A∪B)=r(A)を導く帰納法を、AjとA∪{xj+1}の共通部分がなぜAに等しいかを明示しながら書き直せ。
- 命題 4.3の証明の第一段では、各連結成分の全域木の合併Tが極大であることを示した。この極大性の議論を、参照せずに再現せよ。§E13.15 補題 6.2だけからはFの階数を求めることができない理由を、Fが閉路を含む場合に即して述べよ。
- 命題 4.3をK4の辺集合全体と、三角形1,2,3の辺集合に対して適用し、それぞれの階数を求めよ。得た値が定義 4.1の最大濃度としての定義と一致することを、独立集合を具体的に挙げて確かめよ。
- U2,4の階数関数r(A)=min{∣A∣,2}が定義 4.4 条件 (c)を満たすことを、∣A∣と∣B∣の場合分けによって直接証明せよ。
9 扱った範囲と次の記事
本記事は、極小な従属集合として回路を、部分集合に含まれる独立集合の最大濃度として階数を定義し、回路が消去公理定義 2.1 条件 (a)–定義 2.1 条件 (c)を満たすことと、階数関数が定義 4.4 条件 (a)–定義 4.4 条件 (c)およびr(A)≤r(A∪{x})≤r(A)+1を満たすことを証明した。逆に定義 2.1 条件 (a)–定義 2.1 条件 (c)を満たす族からも、定義 4.4 条件 (a)–定義 4.4 条件 (c)を満たす関数からも独立集合族を復元することができ、復元されたマトロイドの回路族と階数関数がもとのものに一致することを証明した。閉包作用素による公理化、超平面による公理化、および実数値の劣モジュラ関数の一般論は扱っていない。次の記事では、台集合に非負重みを与え、重みの降順に独立性を保って元を加えるアルゴリズムが最大重み基底を与えることを証明し、その正当性によってマトロイドを特徴づける。