§E13.23Birkhoff–von Neumann の定理

最終更新

各成分が非負であり、各行の和と各列の和がいずれも11である正方行列を二重確率行列という。置換行列は、各行と各列にちょうど一つだけ11をもち、他の成分が00である行列であり、二重確率行列の最も単純な例である。本記事は、逆に任意の二重確率行列が置換行列の凸結合として表されることを証明する。

証明の要は、二重確率行列から置換行列を一つ取り出す段にある。行iiと列jjを二部グラフの左右の頂点とし、成分aija_{ij}が正であるときに辺を張る。行和がすべて11であることと列和がすべて11であることを数え上げると、この二部グラフが Hall の条件を満たすことが分かる。Hall の定理により行の全体を被覆するマッチングが存在し、それが置換を与える。取り出した置換行列に、対応する成分の最小値を係数として掛けて引くと、正の成分が少なくとも一つ消え、残りを正規化したものが再び二重確率行列になる。正成分の個数は有限であり真に減るので、この操作は有限回で終わる。

最後に、費用行列に対して置換を選び総費用を最小にする線形割当問題について、二重確率行列まで範囲を広げても最適値が変わらないことを導く。用いるのは凸結合表示と目的関数の線形性だけであり、線形計画の一般論は用いない。

本記事では、成分が実数であるnn次正方行列を扱う。行・列・成分の呼び方、成分の記法、正方行列という語、および二つの行列が等しいということの意味は、単元「線形代数 I」の§D3.1 定義 1.1に従う。すなわち、行列AAの第ii行第jj列の成分をaija_{ij}と書き、A=(aij)A=(a_{ij})と表す。行列の和と実数倍は同単元の§D3.1 定義 2.1による。{1,…,n}\{1,\dots,n\}から{1,…,n}\{1,\dots,n\}への全単射を置換という。二部グラフとマッチングの語彙は§D2.12 定義 1.1に従い、X⊔YX\sqcup Yという書き方で左右の頂点集合を表す。

1 二重確率行列と置換行列

定義 1.1.nn次実正方行列A=(aij)A=(a_{ij})が二重確率行列 (doubly stochastic matrix) であるとは、次の三条件を満たすことをいう。

  1. すべてのi,ji,jについてaij≥0a_{ij}\ge0である。
  2. すべてのiiについて∑j=1naij=1\sum_{j=1}^{n}a_{ij}=1である。
  3. すべてのjjについて∑i=1naij=1\sum_{i=1}^{n}a_{ij}=1である。

定義 1.2. 置換σ\sigmaに対し、nn次実正方行列Pσ=(pij)P_\sigma=(p_{ij})を

pij={1(j=σ(i)),0(j≠σ(i))p_{ij}=\begin{cases}1 & (j=\sigma(i)),\\ 0 & (j\ne\sigma(i))\end{cases}

で定め、置換行列 (permutation matrix) という。

命題 1.3. 任意の置換σ\sigmaに対しPσP_\sigmaは二重確率行列である。

証明. 成分は00または11であるから非負である。第ii行ではj=σ(i)j=\sigma(i)のときだけ成分が11であり、他は00であるから行の和は11である。第jj列では、pij=1p_{ij}=1となるiiはσ(i)=j\sigma(i)=jを満たすもの、すなわちi=σ−1(j)i=\sigma^{-1}(j)ただ一つであるから列の和も11である。▨

2 正成分の定める二部グラフと Hall の条件

定義 2.1.nn次二重確率行列A=(aij)A=(a_{ij})に対し、二部グラフGA=(X⊔Y,EA)G_A=(X\sqcup Y,E_A)を次で定める。X={x1,…,xn}X=\{x_1,\dots,x_n\}を行に対応する頂点集合、Y={y1,…,yn}Y=\{y_1,\dots,y_n\}を列に対応する頂点集合とし、

EA={ xiyj: aij>0 }E_A=\{\,x_iy_j:\ a_{ij}>0\,\}

とする。GAG_AをAAの正成分の二部グラフ (positive-entry bipartite graph) という。

補題 2.2.nn次二重確率行列AAに対し、任意のS⊆XS\subseteq Xについて∣N(S)∣≥∣S∣\lvert N(S)\rvert\ge\lvert S\rvertが成り立つ。ここでN(S)N(S)はSSの頂点に隣接するYYの頂点の全体である。

証明.S⊆XS\subseteq Xをとり、I={i: xi∈S}I=\{i:\ x_i\in S\}、J={j: yj∈N(S)}J=\{j:\ y_j\in N(S)\}と置く。∣I∣=∣S∣\lvert I\rvert=\lvert S\rvertかつ∣J∣=∣N(S)∣\lvert J\rvert=\lvert N(S)\rvertである。

i∈Ii\in Iかつj∉Jj\notin Jならばaij=0a_{ij}=0である。実際、aij>0a_{ij}>0とするとxiyj∈EAx_iy_j\in E_Aでありyj∈N(S)y_j\in N(S)となってj∈Jj\in Jに反する。したがって、IIに属する行についての行和を足し合わせると

∣I∣=∑i∈I∑j=1naij=∑i∈I∑j∈Jaij\lvert I\rvert=\sum_{i\in I}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}=\sum_{i\in I}\sum_{j\in J}a_{ij}

となる。ここで最初の等号は行和がすべて11であることによる。次に、成分がすべて非負であることから、JJに属する列についてIIに属する行だけの和を全体の列和で上から評価することができ、

∑i∈I∑j∈Jaij=∑j∈J∑i∈Iaij≤∑j∈J∑i=1naij=∣J∣\sum_{i\in I}\sum_{j\in J}a_{ij}=\sum_{j\in J}\sum_{i\in I}a_{ij}\le\sum_{j\in J}\sum_{i=1}^{n}a_{ij}=\lvert J\rvert

となる。最後の等号は列和がすべて11であることによる。二つを合わせて∣S∣=∣I∣≤∣J∣=∣N(S)∣\lvert S\rvert=\lvert I\rvert\le\lvert J\rvert=\lvert N(S)\rvertを得る。▨

補題 2.3.nn次二重確率行列A=(aij)A=(a_{ij})に対し、すべてのiiについてaiσ(i)>0a_{i\sigma(i)}>0を満たす置換σ\sigmaが存在する。

証明.補題 2.2によりGAG_Aは Hall の条件を満たす。したがって§D2.12 定理 1.3により、XXのすべての頂点を被覆するマッチングMMが存在する。MMの各辺はちょうど一つのXXの頂点と一つのYYの頂点を端点にもち、MMはマッチングであるから、xix_iを被覆するMMの辺はただ一本である。その辺をxiyσ(i)x_iy_{\sigma(i)}と書いて、写像σ\sigmaを定める。

σ\sigmaが単射であることを示す。σ(i)=σ(i′)=j\sigma(i)=\sigma(i')=jかつi≠i′i\ne i'とすると、MMの二辺xiyjx_iy_jとxi′yjx_{i'}y_jがともにyjy_jを端点にもち、MMがマッチングであることに反する。{1,…,n}\{1,\dots,n\}から自分自身への単射は全単射であるから、σ\sigmaは置換である。xiyσ(i)∈EAx_iy_{\sigma(i)}\in E_Aであるからaiσ(i)>0a_{i\sigma(i)}>0が成り立つ。▨

3 置換行列の凸結合表示

定義 3.1.nn次実正方行列A=(aij)A=(a_{ij})に対し、aij>0a_{ij}>0を満たす添字の対(i,j)(i,j)の個数をp(A)p(A)と書き、AAの正の成分の個数 (number of positive entries) という。

命題 3.2.nn次二重確率行列AAに対しp(A)≥np(A)\ge nが成り立つ。さらにp(A)=np(A)=nであることと、AAが置換行列であることは同値である。

証明. 各iiについて、第ii行の成分はすべて非負でありその和は11であるから、aij>0a_{ij}>0を満たすjjが少なくとも一つ存在する。行ごとにそのような対を一つずつ選ぶと相異なるnn個の対が得られるのでp(A)≥np(A)\ge nである。

p(A)=np(A)=nとする。上の評価で等号が成り立つのは、各行に正の成分がちょうど一つある場合に限る。第ii行の正の成分をaiτ(i)a_{i\tau(i)}とすると、同じ行の他の成分は00であり行和が11であるからaiτ(i)=1a_{i\tau(i)}=1である。第jj列の和はτ(i)=j\tau(i)=jを満たすiiの個数に等しく、これが11であるから、各jjに対してτ(i)=j\tau(i)=jを満たすiiはちょうど一つである。よってτ\tauは置換であり、定義 1.2によりA=PτA=P_\tauである。

逆にA=PτA=P_\tauとすると、正の成分は各行の(i,τ(i))(i,\tau(i))ただ一つずつであるからp(A)=np(A)=nである。▨

3.1 証明方針

p(A)p(A)についての累積帰納法で示す。

p(A)p(A)の最小値は命題 3.2によりnnであり、そのときAA自身が置換行列である。これが基底の場合である。

p(A)>np(A)>nのときは、補題 2.3が与える置換σ\sigmaをとり、係数を

λ=min⁡1≤i≤naiσ(i)\lambda=\min_{1\le i\le n}a_{i\sigma(i)}

と定める。λ>0\lambda>0である。まずλ<1\lambda<1を示す。λ=1\lambda=1とすると、各行でaiσ(i)=1a_{i\sigma(i)}=1となり、行和が11で成分が非負であることから同じ行の他の成分はすべて00となってp(A)=np(A)=nになり、仮定に反するからである。

次にB=(A−λPσ)/(1−λ)B=(A-\lambda P_\sigma)/(1-\lambda)が再び二重確率行列であることを、成分の非負性、行和、列和の順に確かめる。λ\lambdaを最小値にとったことが非負性を保証する。さらに、最小値を与える位置の成分がBBでは00になるのでp(B)≤p(A)−1p(B)\le p(A)-1であり、帰納法の仮定をBBへ適用することができる。最後に、BBの表示に(1−λ)(1-\lambda)を掛けてλPσ\lambda P_\sigmaを加えるとAAの表示が得られ、係数の総和がλ+(1−λ)=1\lambda+(1-\lambda)=1となることを確かめる。

定理 3.3 (Birkhoff–von Neumann の定理).AAをnn次二重確率行列とする。このとき、有限個の置換σ1,…,σm\sigma_1,\dots,\sigma_mと正の実数λ1,…,λm\lambda_1,\dots,\lambda_mが存在して

A=∑k=1mλkPσk,∑k=1mλk=1A=\sum_{k=1}^{m}\lambda_kP_{\sigma_k}, \qquad \sum_{k=1}^{m}\lambda_k=1

が成り立つ。

証明. 正の成分の個数p(A)p(A)についての累積帰納法で示す。命題 3.2によりp(A)≥np(A)\ge nである。

p(A)=np(A)=nの場合。命題 3.2によりAAは置換行列PτP_\tauである。m=1m=1、λ1=1\lambda_1=1ととれば主張が成り立つ。

p(A)>np(A)>nの場合。正の成分の個数がp(A)p(A)より少ないすべての二重確率行列について主張が成り立つと仮定する。

補題 2.3により、すべてのiiについてaiσ(i)>0a_{i\sigma(i)}>0を満たす置換σ\sigmaが存在する。λ=min⁡iaiσ(i)\lambda=\min_i a_{i\sigma(i)}と置くとλ>0\lambda>0である。また、行和が11で成分が非負であるから各成分は11以下でありλ≤1\lambda\le1である。λ=1\lambda=1と仮定すると、各iiについてaiσ(i)=1a_{i\sigma(i)}=1となり、第ii行の他の成分は非負で和が00であるからすべて00となる。すると各行の正の成分がちょうど一つとなりp(A)=np(A)=nが成り立つので、p(A)>np(A)>nという仮定に反する。よって0<λ<10<\lambda<1である。

B=(bij)B=(b_{ij})を

bij=aij−λ (Pσ)ij1−λb_{ij}=\frac{a_{ij}-\lambda\,(P_\sigma)_{ij}}{1-\lambda}

で定める。BBが二重確率行列であることを示す。j=σ(i)j=\sigma(i)のときbij=(aiσ(i)−λ)/(1−λ)b_{ij}=(a_{i\sigma(i)}-\lambda)/(1-\lambda)であり、λ\lambdaが最小値であるからaiσ(i)−λ≥0a_{i\sigma(i)}-\lambda\ge0となりbij≥0b_{ij}\ge0である。j≠σ(i)j\ne\sigma(i)のときbij=aij/(1−λ)≥0b_{ij}=a_{ij}/(1-\lambda)\ge0である。行和については、命題 1.3によりPσP_\sigmaの第ii行の和が11であるから

∑j=1nbij=11−λ(∑j=1naij−λ∑j=1n(Pσ)ij)=1−λ1−λ=1\sum_{j=1}^{n}b_{ij}=\frac{1}{1-\lambda}\Bigl(\sum_{j=1}^{n}a_{ij}-\lambda\sum_{j=1}^{n}(P_\sigma)_{ij}\Bigr)=\frac{1-\lambda}{1-\lambda}=1

となる。列和についても、PσP_\sigmaの各列の和が11であるから同じ計算により∑ibij=1\sum_{i}b_{ij}=1となる。よってBBは二重確率行列である。

次にp(B)<p(A)p(B)<p(A)を示す。bij>0b_{ij}>0ならばaij−λ(Pσ)ij>0a_{ij}-\lambda(P_\sigma)_{ij}>0であり、(Pσ)ij≥0(P_\sigma)_{ij}\ge0かつλ>0\lambda>0であるからaij>0a_{ij}>0である。よってBBの正の成分の位置はAAの正の成分の位置に含まれる。さらに、最小値を与える添字i0i_0、すなわちai0σ(i0)=λa_{i_0\sigma(i_0)}=\lambdaを満たすi0i_0をとると、bi0σ(i0)=0b_{i_0\sigma(i_0)}=0である一方ai0σ(i0)=λ>0a_{i_0\sigma(i_0)}=\lambda>0である。よってp(B)≤p(A)−1p(B)\le p(A)-1である。

帰納法の仮定をBBへ適用すると、置換τ1,…,τl\tau_1,\dots,\tau_lと正の実数μ1,…,μl\mu_1,\dots,\mu_lが存在して

B=∑k=1lμkPτk,∑k=1lμk=1B=\sum_{k=1}^{l}\mu_kP_{\tau_k}, \qquad \sum_{k=1}^{l}\mu_k=1

が成り立つ。bijb_{ij}の定め方から、すべてのiiとjjについてaij=λ (Pσ)ij+(1−λ)bija_{ij}=\lambda\,(P_\sigma)_{ij}+(1-\lambda)b_{ij}が成り立つので、§D3.1 定義 2.1と§D3.1 定義 1.1の行列の相等によりA=λPσ+(1−λ)BA=\lambda P_\sigma+(1-\lambda)Bである。この右辺へBBの表示を代入し、§D3.1 命題 2.3の実数倍についての法則によって係数をまとめると

A=λPσ+∑k=1l(1−λ)μkPτkA=\lambda P_\sigma+\sum_{k=1}^{l}(1-\lambda)\mu_kP_{\tau_k}

となる。λ>0\lambda>0かつ(1−λ)μk>0(1-\lambda)\mu_k>0であり、係数の総和は

λ+∑k=1l(1−λ)μk=λ+(1−λ)∑k=1lμk=λ+(1−λ)=1\lambda+\sum_{k=1}^{l}(1-\lambda)\mu_k=\lambda+(1-\lambda)\sum_{k=1}^{l}\mu_k=\lambda+(1-\lambda)=1

である。よってm=l+1m=l+1として主張の形の表示が得られる。▨

注意 3.4 (表示は一意ではない).定理 3.3は表示の存在を主張するのみであり、一意性を主張しない。取り出す置換の選び方に応じて異なる表示が得られる。また、同じ置換が二度現れる表示が得られた場合には、その二項の係数を足し合わせて一つの項にまとめることができる。まとめた後も各係数は正であり、係数の総和は変わらず11である。

4 線形割当問題

系 4.1.C=(cij)C=(c_{ij})を成分が実数であるnn次正方行列とし、

γ=min⁡σ ∑i=1nciσ(i)\gamma=\min_{\sigma}\ \sum_{i=1}^{n}c_{i\sigma(i)}

と置く。ここで最小は置換σ\sigmaの全体をわたる。このとき、任意のnn次二重確率行列A=(aij)A=(a_{ij})に対し

∑i=1n∑j=1ncijaij ≥ γ\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}c_{ij}a_{ij}\ \ge\ \gamma

が成り立ち、γ\gammaを与える置換σ∗\sigma^{*}の置換行列A=Pσ∗A=P_{\sigma^{*}}で等号が成り立つ。したがって、二重確率行列の全体における∑i,jcijaij\sum_{i,j}c_{ij}a_{ij}の最小値は存在してγ\gammaに等しく、置換行列で達成される。

証明. 置換の個数はn!n!個で有限であるからγ\gammaは定まり、γ\gammaを与える置換σ∗\sigma^{*}が存在する。任意の置換σ\sigmaについて、定義 1.2により

∑i=1n∑j=1ncij(Pσ)ij=∑i=1nciσ(i)\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}c_{ij}(P_\sigma)_{ij}=\sum_{i=1}^{n}c_{i\sigma(i)}

が成り立つ。σ=σ∗\sigma=\sigma^{*}ととると、この式の左辺はγ\gammaに等しい。命題 1.3によりPσ∗P_{\sigma^{*}}は二重確率行列であるから、等号を与える二重確率行列が存在する。

任意の二重確率行列AAをとる。定理 3.3により、置換σ1,…,σm\sigma_1,\dots,\sigma_mと正の実数λ1,…,λm\lambda_1,\dots,\lambda_mが存在してA=∑kλkPσkA=\sum_k\lambda_kP_{\sigma_k}かつ∑kλk=1\sum_k\lambda_k=1である。各成分についてaij=∑kλk(Pσk)ija_{ij}=\sum_k\lambda_k(P_{\sigma_k})_{ij}であるから、和の順序を入れ替えて

∑i,jcijaij=∑k=1mλk∑i,jcij(Pσk)ij=∑k=1mλk∑i=1nciσk(i)\sum_{i,j}c_{ij}a_{ij} =\sum_{k=1}^{m}\lambda_k\sum_{i,j}c_{ij}(P_{\sigma_k})_{ij} =\sum_{k=1}^{m}\lambda_k\sum_{i=1}^{n}c_{i\sigma_k(i)}

となる。ここで和はすべて有限和であるから、順序の入れ替えは加法の結合法則と交換法則による。各kkについて∑iciσk(i)≥γ\sum_i c_{i\sigma_k(i)}\ge\gammaであり、λk>0\lambda_k>0であるから

∑i,jcijaij ≥ ∑k=1mλkγ=γ∑k=1mλk=γ\sum_{i,j}c_{ij}a_{ij}\ \ge\ \sum_{k=1}^{m}\lambda_k\gamma=\gamma\sum_{k=1}^{m}\lambda_k=\gamma

を得る。▨

5 検算例

例 5.1 (3 次の二重確率行列の分解と割当の最適値).

A=(1/21/2001/21/21/201/2)A=\begin{pmatrix} 1/2 & 1/2 & 0\\ 0 & 1/2 & 1/2\\ 1/2 & 0 & 1/2 \end{pmatrix}

と置く。行の和は順に1/2+1/2+0=11/2+1/2+0=1、0+1/2+1/2=10+1/2+1/2=1、1/2+0+1/2=11/2+0+1/2=1である。列の和は順に1/2+0+1/2=11/2+0+1/2=1、1/2+1/2+0=11/2+1/2+0=1、0+1/2+1/2=10+1/2+1/2=1である。成分はすべて非負であるからAAは二重確率行列であり、正の成分の個数はp(A)=6p(A)=6である。

Hall の条件の確認。正成分の二部グラフGAG_Aの辺はx1y1x_1y_1、x1y2x_1y_2、x2y2x_2y_2、x2y3x_2y_3、x3y1x_3y_1、x3y3x_3y_3である。一元集合の近傍はいずれも二元であり、∣N(S)∣≥∣S∣\lvert N(S)\rvert\ge\lvert S\rvertが成り立つ。二元集合については、N({x1,x2})={y1,y2,y3}N(\{x_1,x_2\})=\{y_1,y_2,y_3\}、N({x1,x3})={y1,y2,y3}N(\{x_1,x_3\})=\{y_1,y_2,y_3\}、N({x2,x3})={y1,y2,y3}N(\{x_2,x_3\})=\{y_1,y_2,y_3\}であり、いずれも三元である。三元集合についてはN(X)={y1,y2,y3}N(X)=\{y_1,y_2,y_3\}である。よって Hall の条件が成り立つ。

置換の取り出しと分解。恒等置換σ=id\sigma=\mathrm{id}についてa11=a22=a33=1/2>0a_{11}=a_{22}=a_{33}=1/2>0であるから、σ\sigmaは補題 2.3の条件を満たす。λ=min⁡{1/2,1/2,1/2}=1/2\lambda=\min\{1/2,1/2,1/2\}=1/2である。恒等置換の置換行列は、§D3.1 定義 3.6の単位行列にほかならない。33次の単位行列をIIと書くとPid=IP_{\mathrm{id}}=Iであり、

B=A−12I1−12=2(01/20001/21/200)=(010001100)B=\frac{A-\tfrac12 I}{1-\tfrac12} =2\begin{pmatrix} 0 & 1/2 & 0\\ 0 & 0 & 1/2\\ 1/2 & 0 & 0 \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} 0 & 1 & 0\\ 0 & 0 & 1\\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix}

となる。BBの正の成分の個数は33であり、p(A)=6p(A)=6より真に小さい。BBはτ(1)=2\tau(1)=2、τ(2)=3\tau(2)=3、τ(3)=1\tau(3)=1で定まる置換τ\tauの置換行列PτP_\tauである。よって

A=12Pid+12PτA=\frac12 P_{\mathrm{id}}+\frac12 P_\tau

であり、係数はいずれも正でその和は11である。右辺を成分ごとに計算すると、第11行は(1/2, 1/2, 0)(1/2,\,1/2,\,0)、第22行は(0, 1/2, 1/2)(0,\,1/2,\,1/2)、第33行は(1/2, 0, 1/2)(1/2,\,0,\,1/2)となりAAに一致する。

割当の最適値。費用行列を

C=(123231312)C=\begin{pmatrix}1&2&3\\ 2&3&1\\ 3&1&2\end{pmatrix}

とする。六つの置換について総費用を数え上げる。恒等置換ではc11+c22+c33=1+3+2=6c_{11}+c_{22}+c_{33}=1+3+2=6、τ\tauではc12+c23+c31=2+1+3=6c_{12}+c_{23}+c_{31}=2+1+3=6、11と22を入れ替える置換ではc12+c21+c33=2+2+2=6c_{12}+c_{21}+c_{33}=2+2+2=6、11と33を入れ替える置換ではc13+c22+c31=3+3+3=9c_{13}+c_{22}+c_{31}=3+3+3=9、22と33を入れ替える置換ではc11+c23+c32=1+1+1=3c_{11}+c_{23}+c_{32}=1+1+1=3、残る置換1↦3, 2↦1, 3↦21\mapsto3,\ 2\mapsto1,\ 3\mapsto2ではc13+c21+c32=3+2+1=6c_{13}+c_{21}+c_{32}=3+2+1=6である。よってγ=3\gamma=3である。

上のAAについては

∑i,jcijaij=12(c11+c12+c22+c23+c31+c33)=12(1+2+3+1+3+2)=12⋅12=6\sum_{i,j}c_{ij}a_{ij}=\tfrac12(c_{11}+c_{12}+c_{22}+c_{23}+c_{31}+c_{33})=\tfrac12(1+2+3+1+3+2)=\tfrac12\cdot12=6

であり、分解A=12Pid+12PτA=\tfrac12P_{\mathrm{id}}+\tfrac12P_\tauから得られる12⋅6+12⋅6=6\tfrac12\cdot6+\tfrac12\cdot6=6と一致する。6≥3=γ6\ge3=\gammaであり、系 4.1の不等式と整合する。

6 演習

問題 6.1.

  1. 補題 2.2の証明で用いた二つの等号、すなわち行和による∣I∣\lvert I\rvertの表示と列和による∣J∣\lvert J\rvertの表示を、n=3n=3の具体的な二重確率行列と∣S∣=2\lvert S\rvert=2の場合について書き下し、不等号がどこで生じるかを確かめよ。
  2. 定理 3.3の証明でλ<1\lambda<1を示す段を省くと、その後の議論のどこが成り立たなくなるかを述べよ。
  3. 定理 3.3の証明で、λ\lambdaをmin⁡iaiσ(i)\min_i a_{i\sigma(i)}ではなく、より小さい正の数にとった場合を考える。BBが二重確率行列であることは保たれるが、証明のどの主張が成り立たなくなるかを指摘し、手続きが有限回で終わらない可能性を説明せよ。
  4. 命題 3.2の証明において、行和がすべて11であることと列和がすべて11であることを、それぞれどこで用いたかを指摘せよ。さらに、行和の条件だけを課した非負行列で、p(A)=np(A)=nを満たすが置換行列ではない例を挙げよ。
  5. 系 4.1の証明を、最小化ではなく最大化について書き直せ。すなわち、任意の二重確率行列AAについて∑i,jcijaij\sum_{i,j}c_{ij}a_{ij}が置換にわたる最大値以下であることを、同じ線形性の議論で示せ。

8 扱った範囲と次の記事

本記事は、有限次の二重確率行列の正成分が定める二部グラフが Hall の条件を満たすことを行和と列和の数え上げによって証明し、置換行列を逐次取り出す手続きが有限回で終わることを正成分の個数についての帰納法で示して、置換行列の凸結合表示を証明した。さらに、線形割当問題の最適値が置換行列で達成されることを、凸結合表示と目的関数の線形性から導いた。表示の一意性、二重確率行列全体が定める多面体の面の構造、および無限次への拡張は扱っていない。次の記事では、有限マトロイドの基底の補集合によって双対マトロイドを定義し、双対階数公式と回路および余回路の対応を証明する。

参考文献

  1. Richard A. Brualdi, Combinatorial Matrix Classes, Encyclopedia of Mathematics and its Applications 108, Cambridge University Press, Cambridge, 2006.二重確率行列の定義と、置換行列を逐次取り出す証明の構成を参考にした。
  2. Roger A. Horn and Charles R. Johnson, Matrix Analysis, 2nd ed., Cambridge University Press, Cambridge, 2013.Birkhoff の定理の主張と、凸結合表示の係数の扱いを参考にした。
  3. Alexander Schrijver, Combinatorial Optimization: Polyhedra and Efficiency, Algorithms and Combinatorics 24, vol. A, Springer, 2003.二重確率行列と二部グラフの完全マッチングの対応、および割当問題との関係を参考にした。

前提記事