1 独立集合公理
定義 1.1. 有限集合EとI⊆2Eの組M=(E,I)がマトロイド (matroid) であるとは、次の三条件を満たすことをいう。
- (I1)∅∈I。
- (I2)A∈IかつB⊆AならばB∈I。
- (I3)A,B∈Iかつ∣A∣<∣B∣ならば、x∈B∖Aが存在してA∪{x}∈Iとなる。
Iの元を独立集合 (independent set)、Eの部分集合でIに属さないものを従属集合 (dependent set) という。EをMの台集合 (ground set) という。条件条件 (b)を遺伝性、条件条件 (c)を増大公理という。
条件条件 (c)が主張するのは、濃度の小さい独立集合には、濃度の大きい独立集合の元をひとつ付け加えて独立性を保つ余地が必ず残るということである。付け加える元をB∖Aの中から取ることが要点であり、Eの任意の元から取ってよいという主張ではない。
2 基底
定義 2.1. マトロイドM=(E,I)において、包含に関して極大な独立集合を 基底 (basis) という。すなわちB∈Iが基底であるとは、B⊊AかつA∈Iを満たすAが存在しないことをいう。基底の全体をBと書く。
極大と最大は別の条件である。極大は包含に関する条件であり、最大は濃度に関する条件である。マトロイドではこの二つが一致するが、それは公理定義 1.1 条件 (c)から導かれる定理であって、定義から明らかなことではない。以下ではまず、任意の独立集合が基底へ延長されることを示す。
命題 2.2.M=(E,I)をマトロイドとする。任意のA∈Iに対し、A⊆Bを満たす基底Bが存在する。とくにB=∅である。
証明.F={I∈I: A⊆I}と置く。A∈FであるからF=∅であり、Eが有限集合であるからFも有限集合である。したがってFの元の濃度の集合は空でない有限な非負整数の集合であり、最大値をとる元B∈Fが存在する。
Bが基底であることを示す。B⊊IかつI∈Iを満たすIが存在したとする。A⊆B⊆IであるからI∈Fであり、∣I∣>∣B∣となってBの最大性に反する。ゆえにそのようなIは存在せず、Bは包含に関して極大な独立集合、すなわち基底である。
最後に、定義 1.1 条件 (a)より∅∈Iであるから、A=∅に対して上の議論を適用すると基底が存在する。▨
命題 2.3. マトロイドのすべての基底は同じ濃度をもつ。
証明.B1,B2を基底とし、∣B1∣<∣B2∣と仮定する。B1,B2∈Iであるから定義 1.1 条件 (c)を適用すると、x∈B2∖B1が存在してB1∪{x}∈Iとなる。x∈/B1であるからB1⊊B1∪{x}であり、B1が包含に関して極大であることに反する。
ゆえに∣B1∣<∣B2∣は成り立たない。B1とB2の役割を入れ替えると∣B2∣<∣B1∣も成り立たない。したがって∣B1∣=∣B2∣である。▨
系 2.4. マトロイドM=(E,I)の基底の共通の濃度をbと書く。A∈Iが∣A∣=bを満たすならば、Aは基底である。また、任意のA∈Iに対し∣A∣≤bが成り立つ。
証明.A∈Iとする。命題 2.2よりA⊆Bを満たす基底Bが存在し、命題 2.3より∣B∣=bである。したがって∣A∣≤∣B∣=bである。
さらに∣A∣=bならばA⊆Bかつ∣A∣=∣B∣であり、両者は有限集合であるからA=Bとなる。ゆえにAは基底である。▨
3 基底公理
基底の族だけを見たときに、それがマトロイドから来ていることを保証する条件を書き下す。
定義 3.1. 有限集合EとB⊆2Eの組が基底公理系 (basis axiom system) を満たすとは、次の二条件を満たすことをいう。
- (B1)B=∅。
- (B2)B1,B2∈Bとx∈B1∖B2に対し、y∈B2∖B1が存在して(B1∖{x})∪{y}∈Bとなる。
証明.定義 3.1 条件 (a)を示す。命題 2.2よりB=∅である。
定義 3.1 条件 (b)を示す。B1,B2∈Bとし、x∈B1∖B2とする。基底の共通の濃度をbと書く。B1∖{x}⊆B1∈Iであるから定義 1.1 条件 (b)よりB1∖{x}∈Iであり、x∈B1より∣B1∖{x}∣=b−1<b=∣B2∣である。
定義 1.1 条件 (c)を独立集合の対(B1∖{x},B2)へ適用すると、y∈B2∖(B1∖{x})が存在して(B1∖{x})∪{y}∈Iとなる。x∈/B2であるからy=xであり、したがってy∈/B1、すなわちy∈B2∖B1である。
y∈/B1∖{x}であるから∣(B1∖{x})∪{y}∣=(b−1)+1=bである。系 2.4より(B1∖{x})∪{y}は基底である。▨
4 二つの公理系の同値性
基底公理系だけを仮定した段階では、Bの元が同じ濃度をもつことすら明らかではない。まずそれを定義 3.1 条件 (a)と定義 3.1 条件 (b)だけから導く。
証明.∣B1∣>∣B2∣を満たす対(B1,B2)∈B×Bが存在したとする。Bは有限集合であるから、そのような対のうち∣B1∖B2∣が最小のものを一つ取り、あらためて(B1,B2)と書く。
∣B1∣>∣B2∣よりB1∖B2=∅であるから、x∈B1∖B2を取ることができる。定義 3.1 条件 (b)よりy∈B2∖B1が存在してB3=(B1∖{x})∪{y}∈Bとなる。
y∈/B1であるから∣B3∣=∣B1∣−1+1=∣B1∣>∣B2∣である。またy∈B2であるからB3∖B2=((B1∖{x})∪{y})∖B2=(B1∖B2)∖{x}であり、x∈B1∖B2より∣B3∖B2∣=∣B1∖B2∣−1である。したがって対(B3,B2)は∣B3∣>∣B2∣を満たし、かつ∣B3∖B2∣<∣B1∖B2∣となって、(B1,B2)の最小性に反する。
ゆえに∣B1∣>∣B2∣を満たす対は存在せず、Bのすべての元は同じ濃度をもつ。▨
次の補題は、Bの元に含まれる集合を、あらかじめ指定したBの元へ近づけることができることを述べる。同値性の証明の中心となる道具である。
補題 4.2. 有限集合EとB⊆2Eが定義 3.1 条件 (a)と定義 3.1 条件 (b)を満たすとし、I={A⊆E: ∃B∈B, A⊆B}と置く。A∈IとB∈Bに対し、A⊆B′⊆A∪Bを満たすB′∈Bが存在する。
証明.G={B′∈B: A⊆B′}と置く。A∈IであるからG=∅である。Gは有限集合であるから、∣B′∖B∣を最小にするB′∈Gを一つ取ることができる。
B′⊆A∪Bを示す。x∈B′∖(A∪B)が存在したとする。とくにx∈B′∖Bである。定義 3.1 条件 (b)をB′,B∈Bとx∈B′∖Bへ適用すると、y∈B∖B′が存在してB′′=(B′∖{x})∪{y}∈Bとなる。
x∈/AであるからA⊆B′∖{x}⊆B′′であり、B′′∈Gである。さらにy∈BであるからB′′∖B=((B′∖{x})∪{y})∖B=(B′∖B)∖{x}であり、x∈B′∖Bより∣B′′∖B∣=∣B′∖B∣−1となってB′の最小性に反する。
ゆえにB′∖(A∪B)=∅、すなわちB′⊆A∪Bである。A⊆B′はB′∈Gによる。▨
4.1 証明方針
示すべきことは二つの向きである。一方の向きでは、定義 3.1 条件 (a)と定義 3.1 条件 (b)を満たすBからI={A: ∃B∈B, A⊆B}を作り、これが定義 1.1 条件 (a)、定義 1.1 条件 (b)、定義 1.1 条件 (c)を満たし、しかもその基底全体がもとのBに一致することを示す。他方の向きでは、マトロイドの基底全体に同じ操作を施すともとの独立集合族が戻ることを示す。
三条件のうち難所は定義 1.1 条件 (c)だけである。∣A1∣<∣A2∣を満たすA1,A2∈Iに対して、A2を含むB2∈Bをまず取る。次に補題 4.2をA1とB2へ適用して、A1⊆B1⊆A1∪B2を満たすB1∈Bを得る。このB1はA1の外側ではB2の元しか含まないので、B1とB2の濃度が等しいことと合わせて、B1がA2∖A1の元を少なくとも一つ含むことを濃度の勘定だけで結論することができる。その元をxとすればA1∪{x}⊆B1となり、A1∪{x}∈Iが従う。濃度の勘定を実行する箇所が、増大公理を得るための本質的な一手である。
定理 4.3. 有限集合Eについて次が成り立つ。
- B⊆2Eが (B1) と (B2) を満たすとし、I={A⊆E: ∃B∈B, A⊆B}と置く。このとき(E,I)はマトロイドであり、その基底全体はBに一致する。
- M=(E,I)をマトロイドとし、Bをその基底全体とする。このとき{A⊆E: ∃B∈B, A⊆B}=Iが成り立つ。
したがって、IからBを作る対応とBからIを作る対応は互いに逆であり、独立集合公理系と基底公理系は同じ対象を定める。
証明. (1)の定義 1.1 条件 (a).定義 3.1 条件 (a)よりB∈Bを取ることができ、∅⊆Bであるから∅∈Iである。
(1)の定義 1.1 条件 (b).A∈IとしA′⊆Aとする。A⊆Bを満たすB∈Bを取るとA′⊆A⊆BであるからA′∈Iである。
(1)の定義 1.1 条件 (c).A1,A2∈Iとし∣A1∣<∣A2∣とする。A2⊆B2を満たすB2∈Bを取る。補題 4.2をA1とB2へ適用すると、A1⊆B1⊆A1∪B2を満たすB1∈Bが存在する。補題 4.1より∣B1∣=∣B2∣であり、この共通の値をbと書く。
B1∩(A2∖A1)=∅を示す。B1∩(A2∖A1)=∅と仮定する。B1⊆A1∪B2であるからB1∖A1⊆B2∖A1=(A2∖A1)∪(B2∖(A1∪A2))であり、仮定よりB1∖A1はA2∖A1と交わらないからB1∖A1⊆B2∖(A1∪A2)である。ゆえに∣B1∖A1∣≤B2∖(A1∪A2)≤∣B2∖A2∣.A1⊆B1かつA2⊆B2であるから∣B1∖A1∣=b−∣A1∣かつ∣B2∖A2∣=b−∣A2∣であり、上の不等式はb−∣A1∣≤b−∣A2∣、すなわち∣A2∣≤∣A1∣を与える。これは∣A1∣<∣A2∣に反する。
ゆえにx∈B1∩(A2∖A1)が存在する。A1⊆B1かつx∈B1であるからA1∪{x}⊆B1であり、Iの定義よりA1∪{x}∈Iである。x∈A2∖A1であるから定義 1.1 条件 (c)が成り立つ。
(1)の基底の一致. まずB∈Bが(E,I)の基底であることを示す。B∈Iである。B⊆AかつA∈Iとすると、A⊆B′を満たすB′∈Bが存在し、B⊆A⊆B′となる。補題 4.1より∣B∣=∣B′∣であり、有限集合であるからB=A=B′である。ゆえにBは包含に関して極大であり、基底である。
逆にAを(E,I)の基底とする。A∈IであるからA⊆Bを満たすB∈Bが存在し、いま示したとおりB∈Iである。Aの極大性よりA=B∈Bである。以上より(E,I)の基底全体はBに一致する。
(2)を示す。J={A⊆E: ∃B∈B, A⊆B}と置く。A∈JならばA⊆BかつB∈B⊆Iであるから、定義 1.1 条件 (b)よりA∈Iである。逆にA∈Iならば命題 2.2よりA⊆Bを満たす基底Bが存在するのでA∈Jである。ゆえにJ=Iである。
互いに逆であること.(2)は、マトロイドから基底族を作り、基底族から独立集合族を作ると、もとの独立集合族に戻ることを述べている。(1)は、定義 3.1 条件 (a)と定義 3.1 条件 (b)を満たす族から独立集合族を作り、その基底族を取ると、もとの族に戻ることを述べている。したがって二つの対応は互いに逆であり、二つの公理系は同じ対象を定める。▨
5 標準例その一 — 一様マトロイド
証明.定義 1.1 条件 (a)を示す。∣∅∣=0≤kである。
定義 1.1 条件 (b)を示す。B⊆Aならば∣B∣≤∣A∣≤kである。
定義 1.1 条件 (c)を示す。A,B∈Iかつ∣A∣<∣B∣とする。∣B∣≤kより∣A∣≤k−1である。∣A∣<∣B∣よりB∖A=∅であるからx∈B∖Aを取ることができ、∣A∪{x}∣=∣A∣+1≤kであるからA∪{x}∈Iである。
基底.∣A∣=kならば、A⊊A′かつA′∈Iを満たすA′は∣A′∣≥k+1となって存在しないからAは基底である。逆に∣A∣<kならば、∣E∣=n≥k>∣A∣よりx∈E∖Aが存在し、∣A∪{x}∣≤kであるからAは極大でない。ゆえに基底はk元部分集合に限る。▨
6 標準例その二 — グラフ的マトロイド
定義 6.1.G=(V,E)を有限単純無向グラフとする。F⊆Eに対し、Vを頂点集合としFを辺集合とする部分グラフを(V,F)と書く。I={F⊆E: (V,F) が閉路をもたない}と置いたとき、(E,I)をGのグラフ的マトロイド (graphic matroid) といいM(G)と書く。Iの元は§D2.7 定義 3.1の意味で(V,F)が森になる辺集合にほかならない。
補題 6.2.G=(V,E)を有限単純無向グラフとし、F⊆Eに対して(V,F)が閉路をもたないとする。(V,F)の連結成分の個数をc(F)と書くと∣F∣=∣V∣−c(F)が成り立つ。
証明.(V,F)の連結成分をH1,…,Hc(F)とし、Hiの頂点数をni、辺数をmiと書く。各Hiは連結であり、(V,F)の部分グラフであるから閉路をもたない。ゆえに§D2.7 定義 3.1よりHiは木であり、§D2.7 定理 3.6の定理 4.3 (1)から定理 4.3 (2)への含意によりmi=ni−1である。
§D2.7 定義 2.3より、連結成分は到達可能性の同値類が定める部分グラフであり、Fの各辺の両端点は互いに到達可能であるからちょうど一つの連結成分に属する。また各頂点もちょうど一つの連結成分に属する。したがって∣F∣=∑i=1c(F)miかつ∣V∣=∑i=1c(F)niであり、∣F∣=∑i=1c(F)(ni−1)=∣V∣−c(F)が成り立つ。▨
命題 6.3.定義 6.1のM(G)=(E,I)はマトロイドである。Gが連結ならば、その基底はGの全域木の辺集合の全体であり、共通の濃度は∣V∣−1である。
証明.定義 1.1 条件 (a)を示す。(V,∅)は辺をもたないから閉路をもたない。
定義 1.1 条件 (b)を示す。F′⊆Fとし(V,F)が閉路をもたないとする。(V,F′)の閉路はF′⊆Fより(V,F)の閉路でもあるから、(V,F′)は閉路をもたない。
定義 1.1 条件 (c)を示す。F1,F2∈Iとし∣F1∣<∣F2∣とする。補題 6.2より∣V∣−c(F1)<∣V∣−c(F2)、すなわちc(F1)>c(F2)である。
F2∖F1の辺のうち、両端点が(V,F1)の相異なる連結成分に属するものが存在することを示す。存在しないと仮定する。F1∩F2の辺については、両端点が(V,F1)の同一の連結成分に属することが§D2.7 定義 2.3から従う。ゆえに仮定のもとでは、F2のすべての辺について両端点が(V,F1)の同一の連結成分に属する。(V,F2)においてuからvへの歩道が存在するとき、その歩道の各辺の両端点は(V,F1)の同一の連結成分に属するから、歩道に沿って順に見ることによりuとvは(V,F1)の同一の連結成分に属する。したがって(V,F2)の各連結成分の頂点集合は(V,F1)のある連結成分の頂点集合に含まれる。この対応によって(V,F2)の連結成分から(V,F1)の連結成分への写像φが定まる。(V,F1)の連結成分Hを任意に取り、Hの頂点uを一つ取ると、uを含む(V,F2)の連結成分H′が存在し、φ(H′)はuを含む(V,F1)の連結成分であるからφ(H′)=Hである。ゆえにφは全射であり、c(F2)≥c(F1)となる。これはc(F1)>c(F2)に反する。
ゆえにe={u,v}∈F2∖F1であって、uとvが(V,F1)の相異なる連結成分に属するものが存在する。(V,F1∪{e})が閉路をもたないことを示す。閉路Cが存在したとする。(V,F1)は閉路をもたないからCは辺eを用いる。Cからeを取り除くとuからvへの(V,F1)における歩道が残り、uとvが(V,F1)の同一の連結成分に属することになって矛盾する。ゆえにF1∪{e}∈Iであり、e∈F2∖F1であるから定義 1.1 条件 (c)が成り立つ。
基底.Gが連結であるとする。Fが基底であることとc(F)=1であることが同値であることを示す。c(F)≥2ならばGが連結であるから、相異なる二つの連結成分の頂点を結ぶ辺e∈E∖Fが存在し、上と同じ議論でF∪{e}∈IとなってFは極大でない。逆にc(F)=1ならば補題 6.2より∣F∣=∣V∣−1であり、F⊊F′かつF′∈Iを満たすF′があれば∣F′∣≥∣V∣となって補題 6.2の等式∣F′∣=∣V∣−c(F′)≤∣V∣−1に反する。
c(F)=1かつ(V,F)が閉路をもたないことは、(V,F)が木であること、すなわちFがGの全域木の辺集合であることにほかならない。このとき∣F∣=∣V∣−1である。▨
7 追加例 — 線形マトロイド
線形マトロイドは、独立集合公理がベクトル空間の一次独立性から来ていることを示す例である。本節は一次独立と基底の言葉を用いるので、線形代数を未修の読者は読み飛ばしても以降の記事に支障はない。
定義 7.1.Kを体、WをK上のベクトル空間、Eを有限集合とし、各i∈Eにベクトルvi∈Wを対応させる族(vi)i∈Eを与える。I={A⊆E: (vi)i∈A が一次独立}と置いたとき、(E,I)を族(vi)i∈Eが定める線形マトロイド (linear matroid) という。ここで一次独立は§D3.8 定義 1.1の意味である。相異なる添字に同じベクトルが対応することを許し、零ベクトルが対応することも許す。空の族は一次独立であると約束する。
命題 7.2.定義 7.1の(E,I)はマトロイドである。
証明.定義 1.1 条件 (a)を示す。 空の族は一次独立であるから∅∈Iである。
定義 1.1 条件 (b)を示す。A∈IかつB⊆Aとする。∑i∈Bcivi=0とし、i∈A∖Bに対しci=0と定めると∑i∈Acivi=0となる。A∈Iよりci=0がすべてのi∈Aについて成り立ち、とくにi∈Bについて成り立つ。ゆえにB∈Iである。
定義 1.1 条件 (c)を示す。A,B∈Iかつ∣A∣<∣B∣とする。U=span{vi: i∈A}と置く。UはWの部分空間であり、∣A∣個のベクトル(vi)i∈Aによって生成される。
すべてのj∈Bについてvj∈Uであると仮定する。このとき(vj)j∈BはUに属する一次独立な∣B∣個のベクトルの族であり、Uは∣A∣個のベクトルで生成されるから、§D3.8 補題 3.1を生成系(vi)i∈Aと一次独立な族(vj)j∈Bへ適用して∣B∣≤∣A∣を得る。これは∣A∣<∣B∣に反する。
ゆえにj∈Bであってvj∈/Uを満たすものが存在する。i∈Aに対してはvi∈Uであるからj∈/A、すなわちj∈B∖Aである。A∪{j}∈Iを示す。∑i∈Acivi+cjvj=0とする。cj=0とするとvj=−cj−1∑i∈Acivi∈Uとなってvj∈/Uに反する。ゆえにcj=0であり、∑i∈Acivi=0からA∈Iよりci=0がすべてのi∈Aについて成り立つ。したがってA∪{j}∈Iである。▨
8 具体例
例 8.1 (三種類の標準例における公理の検算). 一様マトロイドU2,4.E={1,2,3,4}とする。独立集合は濃度2以下の部分集合であるから、その個数は1+4+6=11である。基底は6個の二元部分集合である。定義 3.1 条件 (b)をB1={1,2}、B2={3,4}、x=1について確かめる。B1∖{x}={2}であり、y=3とすると(B1∖{x})∪{y}={2,3}は二元部分集合であるから基底である。y=4としても{2,4}は基底である。
三角形のグラフ的マトロイド. 頂点1,2,3と辺a={1,2}、b={2,3}、c={1,3}からなるグラフGを取る。Gの唯一の閉路は三辺すべてを用いるから、閉路を含まない辺集合は濃度2以下の部分集合の全体である。ゆえにM(G)=U2,3であり、基底は3個の二元集合である。命題 6.3の主張どおり、基底の濃度は∣V∣−1=2である。
K4のグラフ的マトロイド. 頂点1,2,3,4と六本の辺a={1,2}、b={1,3}、c={1,4}、d={2,3}、e={2,4}、f={3,4}からなる完全グラフを取る。基底の濃度は∣V∣−1=3である。三元部分集合は(36)=20個ある。そのうち閉路になるものは三角形に対応する{a,b,d}、{a,c,e}、{b,c,f}、{d,e,f}の4個である。三元部分集合が閉路を含むのは、それ自身が三角形の辺集合であるとき、かつそのときに限る。したがって基底の個数は20−4=16である。
線形マトロイド.K=Q、W=Q2とし、E={1,2,3,4}に対してv1=(1,0),v2=(0,1),v3=(1,1),v4=(0,0)と定める。v4は零ベクトルであるから{4}は従属である。{1}、{2}、{3}は独立である。二元集合については、v1,v2はc1(1,0)+c2(0,1)=(c1, c2)=(0,0)からc1=0かつc2=0が従うので一次独立であり、v1,v3についてはc1(1,0)+c3(1,1)=(c1+c3, c3)=(0,0)からc3=0、次いでc1=0が従うので一次独立、v2,v3についても同様にc2(0,1)+c3(1,1)=(c3, c2+c3)=(0,0)からc3=0、c2=0が従うので一次独立である。4を含む二元集合は零ベクトルを含むから従属である。三元集合はいずれもQ2の三本のベクトルからなるので、§D3.8 補題 3.1を生成系v1,v2へ適用すると従属である。ゆえに独立集合は∅、{1}、{2}、{3}、{1,2}、{1,3}、{2,3}の7個であり、基底は{1,2}、{1,3}、{2,3}の3個である。添字4はどの基底にも属さない。
9 演習
問題 9.1.
- 定理 3.2の証明において、定義 1.1 条件 (c)を適用する独立集合の対を(B1∖{x},B2)に取った。この対を(B1,B2)に取ることができない理由を、濃度の条件に即して述べよ。さらに、得られたyがxと異なることを保証する一手を書き下し、その一手を省くと結論が導けなくなる理由を述べよ。
- 補題 4.1の証明を、∣B1∖B2∣の最小性を用いる形ではなく、∣B1∖B2∣についての帰納法として設計し直せ。帰納法の基底段階に何を置くかを明示せよ。
- 補題 4.2の証明で、x∈B′∖(A∪B)を取りB′′を作った後、B′′∈Gを確かめる段がある。この段でx∈/Aをどこで用いたかを指摘せよ。xをB′∖Bから取り、Aの外にあることを要求しない設計にすると証明が破綻する理由を述べよ。
- 定理 4.3の定義 1.1 条件 (c)の証明のうち、濃度の勘定によってB1∩(A2∖A1)=∅を導く部分を、参照せずに再現せよ。∣B1∣=∣B2∣をどこで用いたかを明示せよ。
- 命題 6.3の定義 1.1 条件 (c)の証明では、(V,F2)の各連結成分が(V,F1)のある連結成分に含まれることからc(F2)≥c(F1)を導いた。この含意を、頂点集合の分割の細かさの言葉で書き直して証明せよ。
- U2,4において、定義 3.1 条件 (b)のyがB2∖B1のすべての元について条件を満たすとは限らない例を作ることができるかを検討せよ。作ることができない場合は、Uk,nでつねにすべてのyが条件を満たすことを証明せよ。
- 例 8.1のK4の例について、基底の個数16を、三元部分集合の総数から閉路を数え引く方法とは別に、全域木を直接数え上げる方法で確かめよ。
11 扱った範囲と次の記事
本記事は、有限台集合上の独立集合公理定義 1.1 条件 (a)–定義 1.1 条件 (c)を定め、基底を包含に関して極大な独立集合として定義し、基底が同じ濃度をもつことと、基底族が非対称な交換公理定義 3.1 条件 (a)定義 3.1 条件 (b)を満たすことを証明した。逆に定義 3.1 条件 (a)定義 3.1 条件 (b)を満たす族から独立集合族を復元することができ、二つの対応が互いに逆であることも証明した。標準例として一様マトロイドとグラフ的マトロイドが公理を満たすことを確かめ、追加例として線形マトロイドを扱った。表現可能性、独立性の判定に要する計算量、および無限台集合への拡張は扱っていない。次の記事では、極小な従属集合として回路を、独立部分集合の最大濃度として階数を定義し、回路消去公理と階数公理を導いて、それぞれから独立集合族を復元する。