1 四色定理
前の記事の§E13.21 定理 3.1は、有限単純平面的グラフの彩色数が5以下であることを与えた。色の個数をもう一つ減らした次の主張も正しい。
定理 1.1 (四色定理). すべての単純平面的グラフは4-彩色可能である。
本記事はこの定理を証明しない。以下では、知られている証明がどのように組み立てられているかを述べる。以降の記述は、本記事の他の主張の根拠には用いない。
証明は、4色で塗り分けることができない単純平面的グラフのうち、頂点の個数が最小のものを考えて矛盾を導く形をとる。
定義 1.2. 四色定理が偽であると仮定する。すなわち、4-彩色可能でない有限単純平面的グラフが存在すると仮定する。そのようなグラフの頂点の個数の全体は自然数の空でない部分集合であるから、自然数の整列性により最小元をもつ。頂点の個数がこの最小元に等しく4-彩色可能でない有限単純平面的グラフを一つ選び、最小反例 (minimal counterexample) という。定義により、最小反例より頂点の個数が少ない有限単純平面的グラフはすべて4-彩色可能である。
最小反例については、平面埋め込みのすべての面の境界が長さ3の閉路であるとしてよいことが知られている。本記事はこの還元を証明せず、参考文献に挙げた Robertson、Sanders、Seymour、Thomas の論文へ委ねる。同論文は、最小反例をより強い連結性をもつ三角形分割へ還元する手順を与えている。素朴には、境界の長さが4以上の面の内部に弦を描き加えれば辺を増やすことができる。しかし、その二頂点が面の外ですでに隣接している場合には弦を加えると多重辺が生じるので、単純性は無条件には保たれない。標準的な扱いはこの場合を別に処理する。この還元の委譲は、注意 3.2が挙げる位相的な前提とも、配置の全一覧と可約性検査という計算による検証とも別の項目である。以下では対象を次のグラフに限る。
定義 1.3. 頂点の個数が3以上の連結な単純平面グラフGが平面三角形分割 (plane triangulation) であるとは、固定した平面埋め込みにおけるすべての面の境界が長さ3の閉路であることをいう。
2 配置、不可避性、可約性
証明の第一段階は、最小反例のどこかに、あらかじめ用意した有限個の配置のいずれかが現れることを示すことである。第二段階は、用意した各配置が最小反例には現れないことを示すことである。二つを合わせると矛盾が生じる。用語を定める。
定義 2.1. 有限単純グラフHと写像d:V(H)→Z≥0との組K=(H,d)を配置 (configuration) という。この定義は母体となるグラフを伴わない。dは、Hの各頂点が母体のグラフでもつべき次数の指定であり、Hにおける次数ではない。
平面三角形分割Gが配置K=(H,d)を含む (contain) とは、頂点部分集合S⊆V(G)と、Sが誘導する部分グラフG[S]からHへの同型写像φであって、すべてのu∈Sに対しdegG(u)=d(φ(u))を満たすものが存在することをいう。ここでdegG(u)はG[S]における次数ではなく、母体Gにおける次数である。GがKを含むとき、KがGに現れる (appear) ともいう。
定義 2.3.Gを平面三角形分割の集まりとする。配置の有限族KがGについて不可避 (unavoidable) であるとは、Gに属する任意のグラフがKのいずれかの配置を含むことをいう。
定義 2.4. 配置Kが可約 (reducible) であるとは、Kを含み4-彩色可能でない任意の平面三角形分割Gに対し、Gより頂点の個数が少なく4-彩色可能でない有限単純平面的グラフを構成することができることをいう。
可約性が最小反例に対して何を与えるかを、定義から取り出しておく。
命題 2.5. 四色定理が偽であると仮定し、最小反例G0が平面三角形分割であるとする。Kを可約な配置とすると、G0はKを含まない。
証明.G0がKを含むと仮定する。G0はKを含む4-彩色可能でない平面三角形分割であるから、定義 2.4により、G0より頂点の個数が少なく4-彩色可能でない有限単純平面的グラフG1が存在する。一方定義 1.2により、最小反例より頂点の個数が少ない有限単純平面的グラフはすべて4-彩色可能である。これはG1の取り方に反する。よってG0はKを含まない。▨
3 放電法
不可避性を示す道具が放電法である。各頂点へ量を配り、規則に従って頂点のあいだで量をやり取りする。出発点になるのは次の等式である。
命題 3.1.Gを平面三角形分割とすると
v∈V∑(6−degG(v))=12が成り立つ。
証明. 頂点の個数をn、辺の本数をm、面の個数をfと書く。各面の境界は長さ3の閉路であるから、面の境界に現れる辺を延べで数えると3fである。一方、各辺はちょうど二つの面の境界に一度ずつ現れる。実際、ある辺が同じ面の境界に二度現れると仮定すると、その面の境界を一周する歩道は同じ辺を二度通るので、長さ3の閉路にはならない。したがって3f=2m、すなわちf=32mである。
Euler の公式(§D2.12 定理 3.2)によりn−m+f=2であるから、fを代入してn−m+32m=2、すなわちn−31m=2、m=3n−6を得る。握手補題(§D2.7 定理 1.2)により∑v∈VdegG(v)=2m=6n−12であるから
v∈V∑(6−degG(v))=6n−v∈V∑degG(v)=6n−(6n−12)=12である。▨
この証明の■が何を意味するかを、はっきりさせておく。
等式を小さな具体例で検算する。正多面体のうち、面がすべて三角形であるものは正四面体、正八面体、正二十面体の三つであり、いずれも定義 1.3の意味の平面三角形分割を与える。
例 3.3 (正多面体による電荷の総和の検算). 面がすべて三角形である三つの正多面体について、命題 3.1の両辺を数える。頂点の個数をn、辺の本数をm、面の個数をfと書く。
- 正四面体。n=4、m=6、f=4であり、すべての頂点の次数は3である。n−m+f=4−6+4=2、3f=12=2m、m=6=3n−6がいずれも成り立つ。電荷の総和は4⋅(6−3)=12である。
- 正八面体。n=6、m=12、f=8であり、すべての頂点の次数は4である。n−m+f=6−12+8=2、3f=24=2m、m=12=3n−6がいずれも成り立つ。電荷の総和は6⋅(6−4)=12である。
- 正二十面体。n=12、m=30、f=20であり、すべての頂点の次数は5である。n−m+f=12−30+20=2、3f=60=2m、m=30=3n−6がいずれも成り立つ。電荷の総和は12⋅(6−5)=12である。
三例とも総和は12であり、次数の分布が異なっても総和が変わらないことを読み取ることができる。正二十面体はすべての頂点の次数が5であるから命題 3.4の仮定を満たし、実際にどの辺も次数5の頂点どうしを結んでいる。
各頂点vへ6−degG(v)という量を配る。この量をvの電荷という。電荷の総和は12であり、とくに正である。あらかじめ定めた規則に従って頂点のあいだで電荷をやり取りしても、総和は変わらない。総和が正である以上、やり取りののちにも電荷が正である頂点が残る。規則を注意深く選ぶと、「電荷が正である頂点が残るならば、その近くには一覧の配置のいずれかが現れる」という形の主張を導くことができる。これが、一覧が不可避であることの示し方である。
規則の形を具体的に見るために、簡単な一例を完全に証明する。次の命題は、四色定理の証明で用いる規則そのものではないが、電荷の配り方、規則、および次数ごとの評価という三つの部品がどのように組み合わさるかを示している。
命題 3.4.Gを平面三角形分割とし、Gのすべての頂点の次数が5以上であるとする。このとき、次数が5である頂点uと、次数が7以下である頂点wであって、uwがGの辺であるものが存在する。
証明. 結論を否定する。すなわち、uwがGの辺でありdegG(u)=5であるならばdegG(w)≥8が成り立つ、と仮定する。言い換えると、次数が5である任意の頂点について、そのすべての隣接頂点の次数が8以上である。
各頂点vへ電荷μ(v)=6−degG(v)を与える。命題 3.1により∑v∈Vμ(v)=12である。次の放電規則に従って電荷を移す。
次数が5である各頂点は、自分に接続する各辺に沿って、その辺のもう一方の端点へ電荷51を送る。
移動後の電荷をμ∗(v)と書く。各回の移動は一方の頂点から他方の頂点へ同じ量を移すだけであるから、総和は変わらず∑v∈Vμ∗(v)=12である。
次数ごとにμ∗(v)を評価する。
degG(v)=5の場合.vは5本の辺に沿って合計5⋅51=1の電荷を送る。仮定によりvの隣接頂点の次数はすべて8以上であるから、vは次数5の隣接頂点をもたず、電荷を受け取らない。よってμ∗(v)=(6−5)−1=0である。
degG(v)∈{6,7}の場合.vの次数は5ではないので、vは電荷を送らない。vが次数5の頂点uと隣接すると仮定すると、uの隣接頂点であるvの次数が8未満となり、仮定に反する。よってvは電荷を受け取らず、μ∗(v)=6−degG(v)≤0である。
degG(v)=d≥8の場合.vは電荷を送らない。vが受け取る電荷は、vに接続する各辺について高々51であるから、合計で高々5dである。したがって
μ∗(v)≤(6−d)+5d=6−54d≤6−532=−52<0である。
すべての頂点の次数が5以上であるから、以上の三つの場合がVを尽くす。いずれの場合もμ∗(v)≤0であるから∑v∈Vμ∗(v)≤0となり、∑v∈Vμ∗(v)=12に反する。よって仮定は誤りであり、次数が5である頂点であって、次数が7以下の隣接頂点をもつものが存在する。▨
命題 3.4を定義 2.3の言葉で読み直す。Gを、すべての頂点の次数が5以上である平面三角形分割の集まりとする。一辺のグラフK2の二頂点をu、wと書き、d(u)=5かつd(w)=jという次数の指定を与えた組をDjと置く。定義 2.1は母体を伴わない対として配置を定めているので、D5、D6、D7はそれだけで配置である。この三つを集めた族{D5,D6,D7}は、Gについて不可避である。配置の個数は3である。四色定理の証明で必要になる族は、これとは比べものにならない規模をもつ。
4 可約性の検査
第二段階は、一覧の各配置が定義 2.4の意味で可約であることを示すことである。可約性は、配置の境界に現れる頂点の色の並びを場合分けし、より小さいグラフの四色彩色から、もとのグラフの四色彩色を組み立てることができることを確かめる形で示す。Kempe 鎖に沿った色の入れ替え(§E13.21 補題 2.2)は、この組み立てでも用いられる。境界の色の並びは有限個であるから、各配置についての検査は有限回の計算で終わる。ただしその計算の量は大きく、人が手で追うことのできる規模ではない。本記事は個々の配置の検査を行わず、参考文献へ委ねる。
5 三段階が矛盾を導く仕組み
以上を組み合わせる。四色定理が偽であると仮定して最小反例をとり、平面三角形分割へ還元する。第一段階は、この最小反例が一覧のいずれかの配置を含むことを与える。第二段階は、一覧の各配置が可約であることを与え、命題 2.5により、最小反例はそのどれも含まないことを与える。二つは両立しないので、最小反例は存在しない。したがって4-彩色可能でない有限単純平面的グラフは存在せず、定理 1.1が従う。
四色定理と五色定理の違いは、この一覧の規模にある。Appel と Haken が1977年に発表した証明では、配置の一覧は千個を超える大きさをもち、各配置の可約性の確認は、境界の彩色を多数調べる有限の計算に帰着される。Robertson、Sanders、Seymour、Thomas が1997年に与えた証明では、配置の個数が633、電荷をやり取りする規則の個数が32まで減ったが、それでも人が手で追うことのできる規模ではなく、確認は計算機によって行われる。2008年には Gonthier が、証明全体を定理証明支援系 Coq の上で形式化したことを報告している。すなわち、四色定理については、計算機による検査を用いない証明は知られていない。
6 演習
問題 6.1.
- 命題 3.4の証明で、放電規則の送る量を51から61へ取り替えると、どの次数の場合の評価が成り立たなくなるかを求めよ。その場合のμ∗(v)の値を計算して示せ。
- 同じ命題の結論を「次数が5である頂点と次数が6以下である頂点を結ぶ辺が存在する」へ強めることを試みよ。同じ放電規則のもとで、次数が7の頂点についての評価がどこで止まるかを、μ∗(v)の上界を計算して述べよ。
- 命題 2.5の証明を、定義 1.2の最小性をどこで用いるかを明示して再現せよ。最小性を用いずに同じ結論を導くことができるかどうかを判定せよ。
- 不可避性と可約性のどちらか一方だけが示された場合に、四色定理の証明が完成しない理由を、定義 2.3と定義 2.4の主張の形に即して述べよ。
- 命題 3.1の証明で、面の境界が長さ3の閉路であるという仮定を落とし、各面の境界の長さが3以上であるとだけ仮定すると、等式が不等式へ変わることを確かめ、その不等式の向きを求めよ。
- 命題 3.4が与える不可避な配置族を、定義 2.1の形式で書き下せ。族に含まれる配置の個数を答えよ。
- 定義 2.1の「含む」の条件で、degG(u)=d(φ(u))をdegG[S](u)=d(φ(u))へ取り替えたとすると、放電法による議論のどこが成り立たなくなるかを述べよ。
8 扱った範囲と次の記事
本記事では、最小反例、配置、不可避性および可約性を定義し、三段階がどのように矛盾を導くかを説明した。本文で完全に証明したのは、平面三角形分割における電荷の総和が12であることと、放電規則の一例が与える不可避性の主張の二つである。ただしこの二つの完全性は、注意 3.2に挙げた二つの位相的な事実を認めたうえでのものである。四色定理そのもの、最小反例を平面三角形分割へ還元する手順、実際に用いる配置の全一覧、および各配置の可約性の検査は証明せず、参考文献へ委ねた。したがって定理 1.1は他の記事の根拠には用いない。次の記事では、平面グラフから離れ、有限次の二重確率行列が置換行列の凸結合として表されることを扱う。