§B3.7ネイピア数

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「指数関数」は、a>0a>0、a≠1a\ne1に対する指数関数f(x)=axf(x)=a^{x}の狭義単調性と値域を調べました。本記事は、この関数を「多項式の微分と接線・増減・極値」が定めた導関数の定義に従って微分します。

差の商を書き下すと、指数法則によってaxa^{x}を括り出すことができ、残るのはhhを00に近づけたときのah−1h\dfrac{a^{h}-1}{h}の極限だけです。この極限はxxによらず、底aaだけで決まります。本記事は、この極限が11になる底がただ一つ存在することを認めて、その底をeeと定めます。そのうえで、数列(1+1n)n\left(1+\dfrac1n\right)^{n}の極限が、このeeに一致することを証明します。

定める順序に注意を要します。本記事は(1+1n)n\left(1+\dfrac1n\right)^{n}の収束からeeを定めるのではありません。eeを導関数に現れる極限から定めたうえで、この数列の極限がeeに等しいことを定理として示します。

1 指数関数を微分すると何が現れるか

導関数の定義に従って差の商を作り、指数法則で整理します。

定理 1.1 (指数関数の差の商).a>0a>0とし、f(x)=axf(x)=a^{x}とする。00でない実数hhとすべての実数xxについて

f(x+h)−f(x)h=ax⋅ah−1h\frac{f(x+h)-f(x)}{h} = a^{x}\cdot\frac{a^{h}-1}{h}

が成り立つ。したがって、極限

L(a)=lim⁡h→0ah−1hL(a) = \lim_{h\to0}\frac{a^{h}-1}{h}

が存在するならば、ffはすべての実数xxで微分可能であり、f′(x)=L(a) axf'(x) = L(a)\,a^{x}である。

証明.§B3.3 定理 6.1の 2 によりax+h=axaha^{x+h} = a^{x}a^{h}です。したがって

f(x+h)−f(x)h=axah−axh=ax⋅ah−1h\frac{f(x+h)-f(x)}{h} = \frac{a^{x}a^{h}-a^{x}}{h} = a^{x}\cdot\frac{a^{h}-1}{h}

です。右辺の因数axa^{x}はhhによりません。よって、hhを00に近づけたときにah−1h\dfrac{a^{h}-1}{h}がL(a)L(a)に近づくならば、極限の積の規則により差の商はaxL(a)a^{x}L(a)に近づきます。これがf′(x)=L(a) axf'(x) = L(a)\,a^{x}という主張です。▨

定理 1.1が述べているのは、指数関数の微分が、xxを含まない一つの極限L(a)L(a)に帰着するということです。L(a)L(a)の値は底aaだけで決まります。そこで、L(a)L(a)がどのような値を取るかを、いくつかの底について数値で見ます。

例 1.2 (小さいhhに対する差の商の値).a=2a=2とa=3a=3について、ah−1h\dfrac{a^{h}-1}{h}の値を小数第5位まで求めると次のようになる。

h0.10.010.0012h−1h0.717730.695560.693393h−1h1.161231.104671.09922\begin{array}{c|ccc} h & 0.1 & 0.01 & 0.001 \\ \hline \dfrac{2^{h}-1}{h} & 0.71773 & 0.69556 & 0.69339 \\ \dfrac{3^{h}-1}{h} & 1.16123 & 1.10467 & 1.09922 \end{array}

2h−1h\dfrac{2^{h}-1}{h}の値は11より小さい範囲に、3h−1h\dfrac{3^{h}-1}{h}の値は11より大きい範囲に並んでいる。この数値は、極限が存在するならばL(2)<1<L(3)L(2)<1<L(3)であり、L(a)=1L(a)=1となる底aaが22と33の間にあるという予想を与える。ただし、これは有限個のhhについての計算であって、極限が存在することの証明にも、L(a)=1L(a)=1となる底が存在することの証明にもならない。

2 底eeを定める

定理 2.1 (極限が11になる底). 等式

lim⁡h→0ah−1h=1\lim_{h\to0}\frac{a^{h}-1}{h} = 1

を満たす正の数aaが、ただ一つ存在する。

証明. この存在と一意性の証明は、「初等関数の厳密な定義」へ委ねます。同記事は、任意のa>0a>0について差商の極限が存在してlog⁡a\log aに等しいことを§D1.24 定理 5.1で証明し、その値が11となる底がa=exp⁡1a=\exp1だけであることを§D1.24 系 5.2で証明しています。したがって、本定理の存在と一意性がともに従います。▨

注意 2.2 (本記事が認めて用いること). 本記事は定理 2.1を証明せず、認めて用いる。証明では、まずどの正の数aaについて極限L(a)L(a)が存在するかを決め、そのうえでL(a)=1L(a)=1となるaaを取り出す必要がある。この議論は「初等関数の厳密な定義」が扱う。同記事は、指数関数を実数全体で収束するべき級数として定義し直し、項ごとの微分によって導関数を求めたうえで、その関数が本記事のaxa^{x}の連続な延長と一致することを示す。L(a)=1L(a)=1となる底の存在と一意性は、その結果から従う。

定義 2.3 (ネイピア数).定理 2.1が存在と一意性を保証する底、すなわち

lim⁡h→0eh−1h=1\lim_{h\to0}\frac{e^{h}-1}{h} = 1

を満たすただ一つの正の数をeeと書き、ネイピア数という。その値はべき級数で定めたexp⁡1\exp1と一致する。

注意 2.4 (eeが11より大きいこと).定理 2.1が定める底は11より大きい。実際、0<a<10<a<1とすると、§B3.3 定理 6.1の 5 により、h>0h>0のときah<a0=1a^{h}<a^{0}=1であるからah−1h<0\dfrac{a^{h}-1}{h}<0であり、h<0h<0のときah>1a^{h}>1であるから、分子が正、分母が負で、やはりah−1h<0\dfrac{a^{h}-1}{h}<0である。よって極限が存在してもその値は00以下であり、11にはならない。a=1a=1のときは、どのhhについても1h−1h=0\dfrac{1^{h}-1}{h}=0であるから、極限は00である。以上によりe>1e>1である。

定理 1.1と定義 2.3を合わせると、exe^{x}の導関数がexe^{x}自身に等しいことが従います。この計算と、一般の底a>0a>0についての導関数は「指数関数の微分」が扱います。

3 (1+1n)n\left(1+\dfrac1n\right)^{n}の極限

eeを数列(1+1n)n\left(1+\dfrac1n\right)^{n}の極限として定義する流儀があります。その極限値が、本記事が定めたeeと一致することを示します。

定理 3.1 ((1+1n)n\left(1+\frac1n\right)^{n}の極限).

lim⁡n→∞(1+1n)n=e\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac1n\right)^{n} = e

が成り立つ。

証明.e>1e>1です(注意 2.4)。したがって§B3.4 定理 4.1の 3 を底eeに適用すると、正の数yyに対してes=ye^{s}=yを満たす実数ssがただ一つ定まります。各正の整数nnについて、etn=1+1ne^{t_{n}} = 1+\dfrac1nを満たす実数tnt_{n}を取ります。

はじめにtnt_{n}が00に収束することを示します。1+1n>1=e01+\dfrac1n > 1 = e^{0}ですから、§B3.4 定理 4.1の 1 によりtn>0t_{n}>0です。正の整数NNを任意に取ると、e>1e>1よりe1/N>1e^{1/N}>1ですからe1/N−1>0e^{1/N}-1>0です。1n0<e1/N−1\dfrac{1}{n_{0}} < e^{1/N}-1を満たす正の整数n0n_{0}を取ると、n≥n0n \ge n_{0}を満たす番号nnについて1+1n<e1/N1+\dfrac1n < e^{1/N}であり、§B3.4 定理 4.1の 1 によりtn<1Nt_{n} < \dfrac1Nです。すなわち、どの正の整数NNについても、ある番号から先では0<tn<1N0<t_{n}<\dfrac1Nが成り立ちます。よってtnt_{n}は00に収束します。

次にn tnn\,t_{n}が11に収束することを示します。etn−1=1ne^{t_{n}}-1 = \dfrac1nですから

etn−1tn=1n tn\frac{e^{t_{n}}-1}{t_{n}} = \frac{1}{n\,t_{n}}

です。{tn}\{t_{n}\}は00でない値をとって00に収束するので、定義 2.3により左辺は11に収束します。1≠01\ne0ですから、極限の商の規則によりn tnn\,t_{n}は11に収束します。

最後に、§B3.3 定理 6.1の 4 により

(1+1n)n=(etn)n=en tn\left(1+\frac1n\right)^{n} = \left(e^{t_{n}}\right)^{n} = e^{n\,t_{n}}

です。実数の列{n tn}\{n\,t_{n}\}は11に収束するので、§B3.3 定理 5.1の 2 を底eeに適用すると、en tne^{n\,t_{n}}はe1=ee^{1}=eに収束します。

この証明では、関数の極限を、00でない値をとって00に収束する数列に沿った極限へ読み替える手続きを認めて用いました。この読み替えをε\varepsilon-δ\delta論法として精密に述べることは「ε-論法と基礎解析」が扱います。□

指数を整数に限らず実数まで広げても、同じ極限が得られます。

定理 3.2 (変数を実数に広げた極限).

lim⁡t→0(1+t)1t=e,lim⁡x→∞(1+1x)x=e,lim⁡x→−∞(1+1x)x=e\lim_{t\to0}(1+t)^{\frac1t} = e, \qquad \lim_{x\to\infty}\left(1+\frac1x\right)^{x} = e, \qquad \lim_{x\to-\infty}\left(1+\frac1x\right)^{x} = e

が成り立つ。ここで(1+t)1t(1+t)^{\frac1t}はt>−1t>-1かつt≠0t\ne0の範囲で定義され、(1+1x)x\left(1+\dfrac1x\right)^{x}については、1+1x>01+\dfrac1x>0が成り立つ∣x∣>1|x|>1の範囲で考える。

証明. はじめの等式を示します。t>−1t>-1かつt≠0t\ne0とすると1+t>01+t>0かつ1+t≠11+t\ne1ですから、§B3.4 定理 4.1の 3 により、es=1+te^{s}=1+tを満たす実数ssがただ一つ定まり、s≠0s\ne0です。逆に、00でない実数ssに対してt=es−1t=e^{s}-1と置けば、t>−1t>-1かつt≠0t\ne0です。したがって、ttにssを対応させる規則は、t>−1t>-1かつt≠0t\ne0を満たす実数の全体と、00でない実数の全体との間の一対一の対応です。

この対応のもとで、ttを00に近づけることとssを00に近づけることが対応します。実際、正の整数NNに対してδ=min⁡(e1/N−1, 1−e−1/N)\delta = \min\left(e^{1/N}-1,\ 1-e^{-1/N}\right)と置くとδ>0\delta>0であり、∣t∣<δ|t|<\deltaのときe−1/N<1+t<e1/Ne^{-1/N} < 1+t < e^{1/N}ですから、§B3.4 定理 4.1の 1 により−1N<s<1N-\dfrac1N < s < \dfrac1Nです。

§B3.3 定理 6.1の 4 により(1+t)1t=(es)1t=es/t(1+t)^{\frac1t} = \left(e^{s}\right)^{\frac1t} = e^{s/t}です。またt=es−1t=e^{s}-1ですから

st=ses−1\frac{s}{t} = \frac{s}{e^{s}-1}

であり、定義 2.3により、ssを00に近づけるとes−1s\dfrac{e^{s}-1}{s}は11に近づきます。1≠01\ne0ですから、その逆数であるst\dfrac{s}{t}は11に近づきます。§B3.4 定理 3.1を底eeに適用すると、es/te^{s/t}はe1=ee^{1}=eに近づきます。よってlim⁡t→0(1+t)1t=e\lim_{t\to0}(1+t)^{\frac1t} = eです。

残りの二つを示します。∣x∣>1|x|>1のときt=1xt=\dfrac1xと置くと∣t∣<1|t|<1かつt≠0t\ne0であり、(1+1x)x=(1+t)1t\left(1+\dfrac1x\right)^{x} = (1+t)^{\frac1t}です。xxを限りなく大きくするとttは正の値をとって00に近づき、xxを負の側で絶対値が限りなく大きくなるように動かすとttは負の値をとって00に近づきます。どちらの場合も、いま示した等式により(1+t)1t(1+t)^{\frac1t}はeeに近づきます。

この証明では、変数を取り替えて極限を計算する手続きを認めて用いました。この手続きをε\varepsilon-δ\delta論法として精密に述べることは「ε-論法と基礎解析」が扱います。□

注意 3.3 (底が11に近づくことだけからは決まらない).(1+1x)x\left(1+\dfrac1x\right)^{x}の極限を、底1+1x1+\dfrac1xが11に近づくことだけから11と結論することはできない。底が11に近づき、指数が限りなく大きくなる形では、極限は式ごとに異なる。実際、§B3.3 定理 6.1の 4 により

(1+1x)2x={(1+1x)x}2\left(1+\frac1x\right)^{2x} = \left\{\left(1+\frac1x\right)^{x}\right\}^{2}

であり、定理 3.2と極限の積の規則により、xxを限りなく大きくしたときのこの式の極限はe2e^{2}である。したがって、底が11に近づき指数が限りなく大きくなるという条件だけからは極限の値が定まらず、この形の式については極限を式ごとに調べる必要がある。

注意 3.4 (二つの定め方の関係).eeを(1+1n)n\left(1+\dfrac1n\right)^{n}の極限として定義し、そこからlim⁡h→0eh−1h=1\lim_{h\to0}\dfrac{e^{h}-1}{h}=1を導く順序を採る本も多い。本記事はその逆の順序を採り、lim⁡h→0ah−1h=1\lim_{h\to0}\dfrac{a^{h}-1}{h}=1を満たす底としてeeを定め、定理 3.1を定理として示した。どちらの順序でも、定まる数は同じである。

なお、数列(1+1n)n\left(1+\dfrac1n\right)^{n}が収束すること自体は「基本極限(sin x / x)」でも取り上げている。本記事の定理 3.1は、その極限値が、微分に現れる極限から定めたeeに等しいことを述べている。

前提記事