1 不等式そのもの
定理 1.1 (ベルヌーイの不等式).hをh>−1を満たす実数とし、nを正の整数とする。このとき
(1+h)n≥1+nhが成り立つ。
証明. この不等式の完全な証明は§B1.6 定理 3.1にあり、「数学的帰納法」が与えます。ここでは、以後の計算で条件がどこに効くかを見るために、nについての帰納法の筋だけを振り返ります。
出発点のn=1では、左辺は1+h、右辺は1+1⋅h=1+hで一致します。正の整数kについて(1+h)k≥1+khを仮定すると、条件h>−1から1+h>0ですから、両辺に1+hを掛けても不等号の向きは変わらず
(1+h)k+1≥(1+kh)(1+h)=1+(k+1)h+kh2≥1+(k+1)hを得ます。最後の不等号はkh2≥0によります。各段の詳細と、帰納法の原理を適用する段は§B1.6 定理 3.1の証明にあります。□
例 1.4 (指数を含む発散の評価).r>1とする。h=r−1と置くとh>0>−1であるから、定理 1.1により、すべての正の整数nについて
rn=(1+h)n≥1+n(r−1)である。右辺はnを限りなく大きくすると限りなく大きくなるので、rnも限りなく大きくなる。公比が1より大きい等比数列が正の無限大に発散することは、この評価から従う。
2 累乗根についての評価
定理 1.1のhに、1以上の数aから作ったNa−1を代入すると、aのN乗根を上から押さえる不等式が得られます。
定理 2.1 (N乗根と1との差の評価).a≥1とし、Nを正の整数とする。このとき
0≤a1/N−1≤Na−1が成り立つ。
証明. 左の不等式を示します。a=1のときは11/N=1です。a>1のときは、§B3.1 定理 4.2の 1 を二つの指数0とN1に適用してa1/N>a0=1です。いずれの場合もa1/N≥1、すなわちa1/N−1≥0です。
右の不等式を示します。h=Na−1と置きます。a≥1ですからh≥0>−1であり、定理 1.1をn=Nに適用することができて
(1+h)N≥1+Nh=1+(a−1)=aです。一方、§B3.1 定理 4.1の 2 により(a1/N)N=a(1/N)⋅N=aです。したがって(a1/N)N≤(1+h)Nです。ここでa1/N>1+hであると仮定すると、1+h>0とa1/N>0から§B3.1 定理 2.1の 1 により(a1/N)N>(1+h)Nとなって矛盾します。よってa1/N≤1+h、すなわち
a1/N−1≤Na−1です。▨
例 2.2 (2の10乗根の評価).a=2、N=10とすると、定理 2.1により
0≤21/10−1≤102−1=0.1であり、1≤21/10≤1.1が分かる。N=1000とすれば1≤21/1000≤1.001である。21/10の実際の値は1.0717…であり、この評価が与える上限1.1との差は大きい。本単元の以後の記事で用いるのは、右辺がNを大きくすると0に近づくという性質だけであり、その用途にはこの評価で足りる。