§B3.2ベルヌーイの不等式

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ベルヌーイの不等式は、−1-1より大きい実数hhについて、(1+h)n(1+h)^{n}をnnの一次式1+nh1+nhで下から押さえる不等式です。この不等式の証明を与えるのは「数学的帰納法」であり、同記事の§B1.6 定理 3.1が、等号が成り立つ場合まで含めて完全な証明を置いています。本記事は、その不等式を復習して応用する側に立ちます。すなわち、帰納法の筋を短く振り返ったうえで、11以上の数aaのNN乗根と11との差を押さえる評価を導きます。この評価は本記事が完全に証明します。

この評価は「実数乗」が用います。指数を有理数から実数へ広げるとき、指数を少し動かしたときに有理数乗がどれだけ変わるかを押さえる必要があり、その計算がここで導く評価に帰着します。

1 不等式そのもの

定理 1.1 (ベルヌーイの不等式).hhをh>−1h > -1を満たす実数とし、nnを正の整数とする。このとき

(1+h)n≥1+nh(1+h)^{n} \ge 1 + nh

が成り立つ。

証明. この不等式の完全な証明は§B1.6 定理 3.1にあり、「数学的帰納法」が与えます。ここでは、以後の計算で条件がどこに効くかを見るために、nnについての帰納法の筋だけを振り返ります。

出発点のn=1n=1では、左辺は1+h1+h、右辺は1+1⋅h=1+h1+1\cdot h=1+hで一致します。正の整数kkについて(1+h)k≥1+kh(1+h)^{k} \ge 1+khを仮定すると、条件h>−1h>-1から1+h>01+h>0ですから、両辺に1+h1+hを掛けても不等号の向きは変わらず

(1+h)k+1≥(1+kh)(1+h)=1+(k+1)h+kh2≥1+(k+1)h(1+h)^{k+1} \ge (1+kh)(1+h) = 1 + (k+1)h + kh^{2} \ge 1+(k+1)h

を得ます。最後の不等号はkh2≥0kh^{2}\ge0によります。各段の詳細と、帰納法の原理を適用する段は§B1.6 定理 3.1の証明にあります。□

注意 1.2 (等号が成り立つ場合). 等号が成り立つのがn=1n=1の場合とh=0h=0の場合に限ることは、§B1.6 定理 3.1が主張に含めて証明している。本記事は、その事実を次の形で用いる。

本記事が定理 1.1を用いる場面では、等号が成り立つかどうかを問わない。定理 2.1はa1/N−1≤a−1Na^{1/N}-1 \le \dfrac{a-1}{N}という≤\leの形の評価であり、a=1a=1のときは両辺が00で等号になる。例 1.4も、右辺が限りなく大きくなることだけを用いる。本単元が必要とするのは不等号の向きであって、等号が成り立つ条件ではない。

注意 1.3 (h>−1h>-1という条件と、本記事でのhhの範囲). 条件h>−1h>-1が要る理由と、この条件を落とすと主張そのものが偽になる例(h=−4h=-4、n=3n=3)は、§B1.6 注意 3.2にある。上で振り返った筋のなかで、両辺に1+h1+hを掛ける段がその条件を用いる箇所である。

本記事が定理 1.1を用いるのは二つの場面であり、いずれもhhは00以上である。定理 2.1の証明ではh=a−1Nh=\dfrac{a-1}{N}と置き、a≥1a\ge1とN≥1N\ge1からh≥0h\ge0である。例 1.4ではh=r−1h=r-1と置き、r>1r>1からh>0h>0である。したがって、本記事のどちらの適用でも条件h>−1h>-1は自動的に満たされる。−1<h<0-1<h<0の場合に不等式がどう読めるかは、本記事の末尾で確かめる。

例 1.4 (指数を含む発散の評価).r>1r>1とする。h=r−1h = r-1と置くとh>0>−1h>0>-1であるから、定理 1.1により、すべての正の整数nnについて

rn=(1+h)n≥1+n(r−1)r^{n} = (1+h)^{n} \ge 1 + n(r-1)

である。右辺はnnを限りなく大きくすると限りなく大きくなるので、rnr^{n}も限りなく大きくなる。公比が11より大きい等比数列が正の無限大に発散することは、この評価から従う。

2 累乗根についての評価

定理 1.1のhhに、11以上の数aaから作ったa−1N\dfrac{a-1}{N}を代入すると、aaのNN乗根を上から押さえる不等式が得られます。

定理 2.1 (NN乗根と11との差の評価).a≥1a \ge 1とし、NNを正の整数とする。このとき

0≤a1/N−1≤a−1N0 \le a^{1/N} - 1 \le \frac{a-1}{N}

が成り立つ。

証明. 左の不等式を示します。a=1a=1のときは11/N=11^{1/N}=1です。a>1a>1のときは、§B3.1 定理 4.2の 1 を二つの指数00と1N\dfrac1Nに適用してa1/N>a0=1a^{1/N} > a^{0} = 1です。いずれの場合もa1/N≥1a^{1/N} \ge 1、すなわちa1/N−1≥0a^{1/N}-1 \ge 0です。

右の不等式を示します。h=a−1Nh = \dfrac{a-1}{N}と置きます。a≥1a\ge1ですからh≥0>−1h \ge 0 > -1であり、定理 1.1をn=Nn=Nに適用することができて

(1+h)N≥1+Nh=1+(a−1)=a(1+h)^{N} \ge 1 + Nh = 1 + (a-1) = a

です。一方、§B3.1 定理 4.1の 2 により(a1/N)N=a(1/N)⋅N=a\left(a^{1/N}\right)^{N} = a^{(1/N)\cdot N} = aです。したがって(a1/N)N≤(1+h)N\left(a^{1/N}\right)^{N} \le (1+h)^{N}です。ここでa1/N>1+ha^{1/N} > 1+hであると仮定すると、1+h>01+h>0とa1/N>0a^{1/N}>0から§B3.1 定理 2.1の 1 により(a1/N)N>(1+h)N\left(a^{1/N}\right)^{N} > (1+h)^{N}となって矛盾します。よってa1/N≤1+ha^{1/N} \le 1+h、すなわち

a1/N−1≤a−1Na^{1/N} - 1 \le \frac{a-1}{N}

です。▨

例 2.2 (22の1010乗根の評価).a=2a=2、N=10N=10とすると、定理 2.1により

0≤21/10−1≤2−110=0.10 \le 2^{1/10} - 1 \le \frac{2-1}{10} = 0.1

であり、1≤21/10≤1.11 \le 2^{1/10} \le 1.1が分かる。N=1000N=1000とすれば1≤21/1000≤1.0011 \le 2^{1/1000} \le 1.001である。21/102^{1/10}の実際の値は1.0717…1.0717\dotsであり、この評価が与える上限1.11.1との差は大きい。本単元の以後の記事で用いるのは、右辺がNNを大きくすると00に近づくという性質だけであり、その用途にはこの評価で足りる。

注意 2.3 (NNを大きくしたときのa1/Na^{1/N}).a≥1a\ge1を固定する。定理 2.1の右辺a−1N\dfrac{a-1}{N}は、NNを限りなく大きくすると00に近づく。a1/N−1a^{1/N}-1は00以上でこの値以下であるから、「不等式評価とはさみうちの原理の運用」のはさみうちの原理(§B1.11 定理 1.1)により、NNを限りなく大きくしたときにa1/Na^{1/N}は11に収束する。

0<a<10<a<1の場合は、1a>1\dfrac1a > 1に定理 2.1を適用したうえで逆数を取ることになる。この向きの直し方は「実数乗」が扱う。

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