§B3.8指数関数の微分

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「ネイピア数」は、指数関数の差の商がax⋅ah−1ha^{x}\cdot\dfrac{a^{h}-1}{h}の形に整理されることを示し、hhを00に近づけたときのah−1h\dfrac{a^{h}-1}{h}の極限が11になる底としてeeを定めました。本記事は、この定め方からexe^{x}の導関数を求め、続いて一般の底a>0a>0についての導関数を求めます。

得られる結果は二つです。第一に、exe^{x}の導関数はexe^{x}自身に等しく、y=exy=e^{x}はy′=yy'=yとy(0)=1y(0)=1をともに満たします。第二に、一般の底a>0a>0については、aaをeeの累乗ece^{c}として表すと、axa^{x}の導関数がc axc\,a^{x}になります。

導関数の定義は「多項式の微分と接線・増減・極値」が、合成関数の微分法と積の微分法は「積・商・合成関数の微分」が扱います。本記事は、これらを指数関数へ適用します。

1 exe^{x}の導関数

定理 1.1 (exe^{x}の導関数). すべての実数xxについて、関数f(x)=exf(x)=e^{x}は微分可能であり

(ex)′=ex\left(e^{x}\right)' = e^{x}

が成り立つ。

証明.§B3.7 定理 1.1を底eeに適用すると、00でない実数hhについて

ex+h−exh=ex⋅eh−1h\frac{e^{x+h}-e^{x}}{h} = e^{x}\cdot\frac{e^{h}-1}{h}

です。§B3.7 定義 2.3により、hhを00に近づけたときのeh−1h\dfrac{e^{h}-1}{h}の極限は11です。よって§B3.7 定理 1.1の後半により、ffはすべての実数xxで微分可能であり、f′(x)=1⋅ex=exf'(x) = 1\cdot e^{x} = e^{x}です。▨

eeは、この結論が成り立つように定めた底です。導関数を求めた結果として(ex)′=ex\left(e^{x}\right)'=e^{x}が偶然に現れたのではなく、極限が11になる底を選んだことが、この等式の根拠そのものです。

定理 1.2 (exe^{x}が満たす二つの条件). 関数y=exy=e^{x}は、すべての実数xxについてy′=yy'=yを満たし、かつy(0)=1y(0)=1を満たす。

証明.y′=yy'=yは定理 1.1です。y(0)=e0=1y(0)=e^{0}=1は§B3.3 定理 4.2の 1 によります。▨

注意 1.3 (この二つの条件を満たす関数).定理 1.2は、exe^{x}がy′=yy'=yとy(0)=1y(0)=1をともに満たすことを述べている。逆に、この二つをともに満たす関数がexe^{x}のほかに無いことも成り立つ。本記事はこの逆向きの主張を証明せず、以後の根拠にも用いない。証明は、同じ単元の「諸外国における指数関数の取り扱い」が§B3.12 定理 10.1として与える。そこでは、区間の全体で導関数が00である関数がその区間で定数になることを認めて用いる。導関数についての条件と初期条件から関数を決定する一般の扱いは「常微分方程式」が与える。

例 1.4 (exe^{x}を含む式の微分).

(e3x)′=3e3x,(x ex)′=(1+x)ex,(e−x2)′=−2x e−x2\left(e^{3x}\right)' = 3e^{3x}, \qquad \left(x\,e^{x}\right)' = (1+x)e^{x}, \qquad \left(e^{-x^{2}}\right)' = -2x\,e^{-x^{2}}

である。一つ目と三つ目は§B2.10 定理 4.1による。一つ目では内側の関数をg(x)=3xg(x)=3x、外側の関数をf(u)=euf(u)=e^{u}としてf′(g(x))g′(x)=e3x⋅3f'(g(x))g'(x) = e^{3x}\cdot3を得る。三つ目ではg(x)=−x2g(x)=-x^{2}としてe−x2⋅(−2x)e^{-x^{2}}\cdot(-2x)を得る。二つ目は§B2.10 定理 2.1により1⋅ex+x⋅ex=(1+x)ex1\cdot e^{x} + x\cdot e^{x} = (1+x)e^{x}である。

例 1.5 (y=exy=e^{x}の接線). 点(0,1)(0,1)におけるy=exy=e^{x}の接線を求める。定理 1.1により接線の傾きはe0=1e^{0}=1であり、接点は(0,1)(0,1)であるから、接線の方程式はy=1+1⋅(x−0)y = 1 + 1\cdot(x-0)、すなわちy=x+1y=x+1である。

同じく、点(1,e)(1,e)における接線の傾きはe1=ee^{1}=eであり、接線の方程式はy=e+e(x−1)=exy = e + e(x-1) = exである。この接線は原点を通る。

2 一般の底の指数関数の導関数

一般の底a>0a>0については、aaをeeの累乗として書き直してから微分します。そのように書き直すことができる根拠は、exe^{x}の値域が正の数全体であり、かつ単射であることです。

定理 2.1 (正の数をeeの累乗として表す).a>0a>0とする。ec=ae^{c}=aを満たす実数ccが、ただ一つ存在する。

証明.e>1e>1です(§B3.7 注意 2.4)。したがって§B3.4 定理 4.1の 3 を底eeに適用すると、正の数aaに対してec=ae^{c}=aを満たす実数ccがただ一つ存在します。▨

公式 2.2 (一般の底の指数関数の導関数).a>0a>0とし、ccを定理 2.1が定める実数、すなわちec=ae^{c}=aを満たすただ一つの実数とする。このとき、すべての実数xxについてaxa^{x}は微分可能であり

(ax)′=c ax\left(a^{x}\right)' = c\,a^{x}

が成り立つ。

証明.§B3.3 定理 6.1の 4 により

ax=(ec)x=ecxa^{x} = \left(e^{c}\right)^{x} = e^{cx}

です。内側の関数をg(x)=cxg(x)=cx、外側の関数をf(u)=euf(u)=e^{u}とすると、ggはすべての実数で微分可能でg′(x)=cg'(x)=cであり、ffは定理 1.1によりすべての実数で微分可能でf′(u)=euf'(u)=e^{u}です。§B2.10 定理 4.1により

(ax)′=(ecx)′=ecx⋅c=c ax\left(a^{x}\right)' = \left(e^{cx}\right)' = e^{cx}\cdot c = c\,a^{x}

です。▨

注意 2.3 (ccが定める対応と、a=ea=eの場合の確かめ).公式 2.2のccは、aaから定まる数である。aaにccを対応させる規則は、定理 2.1により正の数全体で定まっており、これが「対数関数」で定める対数のうち、底をeeとするものにあたる。その対数を自然対数と呼び、log⁡a\log aと書くことは「自然対数」が定める。本記事はlog⁡\logの記号をまだ定義していないので、以下でもccと書く。

a=ea=eの場合を確かめる。e1=ee^{1}=eであるからc=1c=1であり、公式 2.2は(ex)′=ex\left(e^{x}\right)' = e^{x}となって定理 1.1に一致する。a=1a=1の場合はe0=1e^{0}=1からc=0c=0であり、(1x)′=0\left(1^{x}\right)'=0となる。これは1x1^{x}が定数関数11であること(§B3.3 定理 6.1の 5)と一致する。

例 2.4 (一般の底の場合の計算).c2c_{2}をec2=2e^{c_{2}}=2を満たす実数とすると、公式 2.2により(2x)′=c2 2x\left(2^{x}\right)' = c_{2}\,2^{x}である。c2c_{2}の値は0.6931⋯0.6931\cdotsであり、これは§B3.7 例 1.2の表で2h−1h\dfrac{2^{h}-1}{h}の値が近づいていた数である。実際、§B3.7 定理 1.1により(2x)′\left(2^{x}\right)'のx=0x=0での値はlim⁡h→02h−1h\lim_{h\to0}\dfrac{2^{h}-1}{h}であり、いま求めた式にx=0x=0を代入した値はc2c_{2}である。

c3c_{3}をec3=3e^{c_{3}}=3を満たす実数とすると、§B3.3 定理 6.1の 4 により9x=(32)x=(3x)29^{x} = \left(3^{2}\right)^{x} = \left(3^{x}\right)^{2}であり、9=e2c39 = e^{2c_{3}}であるから、公式 2.2により(9x)′=2c3 9x\left(9^{x}\right)' = 2c_{3}\,9^{x}である。

注意 2.5 (指数関数の増減).a>0a>0、a≠1a\ne1とし、ccをec=ae^{c}=aを満たす実数とする。ax>0a^{x}>0であるから、公式 2.2により導関数の符号はccの符号と一致する。a>1a>1のときはec>1=e0e^{c} > 1 = e^{0}と§B3.4 定理 4.1の 1 によりc>0c>0であり、導関数は正であるからaxa^{x}は狭義単調増加である。0<a<10<a<1のときは同じ理由でc<0c<0であり、axa^{x}は狭義単調減少である。導関数の符号から関数の増減を判定することは「多項式の微分と接線・増減・極値」が扱う。この結論は§B3.4 定理 4.1の 1 と一致しており、狭義単調性を導関数から確かめ直したものになっている。

3 多項式による下からの評価

(ex)′=ex\left(e^{x}\right)' = e^{x}という性質は、exe^{x}の大きさを多項式で下から押さえることにも使えます。同じ操作を繰り返すたびに評価が一段ずつ精しくなる形になります。

定理 3.1 (exe^{x}の多項式による下からの評価).nnを非負整数とする。x≥0x \ge 0を満たすすべての実数xxについて

ex  ≥  ∑k=0nxkk!  =  1+x+x22!+⋯+xnn!e^{x} \;\ge\; \sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!} \;=\; 1 + x + \frac{x^{2}}{2!} + \cdots + \frac{x^{n}}{n!}

が成り立つ。

証明.gn(x)=ex−∑k=0nxkk!g_{n}(x) = e^{x} - \displaystyle\sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!}とおき、x≥0x \ge 0でgn(x)≥0g_{n}(x) \ge 0であることをnnについての数学的帰納法で示します。

n=0n = 0のとき。g0(x)=ex−1g_{0}(x) = e^{x} - 1です。定理 1.1によりg0′(x)=ex>0g_{0}'(x) = e^{x} > 0ですからg0g_{0}は狭義単調増加であり、g0(0)=e0−1=0g_{0}(0) = e^{0} - 1 = 0です。よってx≥0x \ge 0でg0(x)≥0g_{0}(x) \ge 0です。

n=mn = mのときに成り立つと仮定して、n=m+1n = m+1のときを示します。(xkk!)′=xk−1(k−1)!\left(\dfrac{x^{k}}{k!}\right)' = \dfrac{x^{k-1}}{(k-1)!}(k≥1k \ge 1)ですから、定理 1.1とあわせて

gm+1′(x)=ex−∑k=1m+1xk−1(k−1)!=ex−∑k=0mxkk!=gm(x)g_{m+1}'(x) = e^{x} - \sum_{k=1}^{m+1}\frac{x^{k-1}}{(k-1)!} = e^{x} - \sum_{k=0}^{m}\frac{x^{k}}{k!} = g_{m}(x)

です。帰納法の仮定によりx≥0x \ge 0でgm(x)≥0g_{m}(x) \ge 0ですから、gm+1g_{m+1}はx≥0x \ge 0で広義単調増加です。またgm+1(0)=1−1=0g_{m+1}(0) = 1 - 1 = 0です。よってx≥0x \ge 0でgm+1(x)≥gm+1(0)=0g_{m+1}(x) \ge g_{m+1}(0) = 0となります。▨

注意 3.2 (この評価から読み取ることができること).n=1n = 1とするとex≥1+xe^{x} \ge 1 + x(x≥0x \ge 0)である。これは接線y=1+xy = 1 + xがグラフの下側にあることを述べている。

P(x)P(x)を次数ddの多項式とすると、ある定数C>0C>0が存在し、x≥1x\ge1で∣P(x)∣≤Cxd|P(x)|\le Cx^dとなる。上の定理をn=d+1n=d+1として用いると

ex≥xd+1(d+1)!.e^x\ge\frac{x^{d+1}}{(d+1)!}.

したがってx>max⁡{1,C(d+1)!}x>\max\{1,C(d+1)!\}ならばex>Cxd≥∣P(x)∣e^x>Cx^d\ge|P(x)|である。すなわち、各多項式PPを固定すると、十分大きいxxについてex>∣P(x)∣e^x>|P(x)|となる。これは、すべてのx≥0x\ge0で指数関数が任意の多項式より大きいという主張ではない。たとえばx=0x=0では、定数多項式P(x)=2P(x)=2に対してe0=1<2e^0=1<2である。

x=1x = 1とするとe≥∑k=0n1k!e \ge \displaystyle\sum_{k=0}^{n}\dfrac{1}{k!}である。「基本極限(sin x / x)」は(1+1n)n≤∑k=0n1k!<3\left(1+\dfrac1n\right)^{n} \le \displaystyle\sum_{k=0}^{n}\dfrac{1}{k!} < 3という上からの評価を用いている。したがって、有限和Sn=∑k=0n1k!S_n=\displaystyle\sum_{k=0}^{n}\dfrac1{k!}について

(1+1n)n≤Sn≤e\left(1+\frac1n\right)^n\le S_n\le e

である。SnS_nは数列(1+1n)n\left(1+\dfrac1n\right)^nの上側にあり、eeの下側にあるのであって、eeを上下から挟む二つの列ではない。級数の和がeeに等しいことは「初等関数の厳密な定義」の§D1.24 定義 1.1と§D1.24 定理 3.8から従う。

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