§B4.15数学と社会生活

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数学と社会生活では、現実の問いをどのように計算可能な形へ移し、得られた数値をどこまで信頼すればよいでしょうか。本記事では現実の対象から選んだ変数とその関係を表す数量モデルを最初の数学的対象とします。料金モデルの損益分岐点と感度を計算し、結果を現実の量へ戻して妥当性と限界を評価する手順を示します。

1 モデルを作る手順

定義 1.1 (数量モデル). 現実の対象から選んだ変数の間の関係を、仮定のもとで式、表または確率分布によって表したものを数量モデルという。数量モデルから得た結論は、置いた仮定と入力値の範囲内で解釈する。

モデルを作り、結果を評価するときは、次の順序で進めます。

  1. 解く問いを定めます。
  2. 変数と単位を定めます。
  3. 無視する要因を挙げ、仮定を定めます。
  4. 変数の関係を式や表で表します。
  5. 費用などの評価基準を定めます。
  6. 定めた入力値について計算します。
  7. 計算結果を現実の量へ戻して解釈します。
  8. 係数や入力値を変え、結論の感度を調べます。
  9. 仮定と入力範囲から、モデルで結論することができない事項を確認します。

2 料金プランを比較する

動画サービスの二つの仮想的な料金プランを、月の料金だけで比較します。プランAは月額1200円に加えて一回の視聴ごとに80円、プランBは月額料金がなく一回ごとに300円とします。割引、税、通信費、視聴内容の価値の違いは無視します。

例 2.1 (損益分岐点の計算). 一か月の視聴回数をxx回とし、x∈Z≥0x\in\mathbb Z_{\geq0}とする。一か月の料金を円単位で

A(x)=1200+80x,B(x)=300xA(x)=1200+80x,\qquad B(x)=300x

とする。プランAがプランBより高くない条件は

1200+80x≤300x1200+80x\le300x

である。この不等式はx≥1200/220=60/11≈5.45x\geq1200/220=60/11\approx5.45と同値である。xxは非負整数なので、月6回以上ならばプランAが安く、月5回以下ならばプランBが安い。

計算結果は予測する視聴回数に依存します。視聴回数が不確かならば、一つの値だけでなく範囲を調べます。

例 2.2 (感度分析).x∈Z≥0x\in\mathbb Z_{\geq0}とする。プランAの月額料金だけを1500円へ変えると、1500+80x≤300x1500+80x\leq300xはx≥1500/220=75/11≈6.82x\geq1500/220=75/11\approx6.82と同値である。したがって、プランAが安くなる範囲は月7回以上へ変わる。

次に、プランAの一回当たり料金だけを80円から120円へ変えると、1200+120x≤300x1200+120x\leq300xはx≥1200/(300−120)=20/3≈6.67x\geq1200/(300-120)=20/3\approx6.67と同値である。この場合も、プランAが安くなる範囲は月7回以上である。係数を一つ変えるだけでも、月6回の利用者について料金だけに基づく選択が変わる。

注意 2.3 (モデルの限界). このモデルは料金だけを評価基準とする。利用可能な作品、解約条件、視聴時間、通信量などを評価する場合には、追加の変数と基準が必要になる。視聴回数の予測が偏っていれば、料金式の計算が正しくても、料金に基づく選択が実際の利用に適するとは限らない。

3 他の題材へ移す

料金以外の題材でも、変数、関係式、評価基準、限界を区別します。次の表は各題材の最小限のモデルです。

題材 変数 関係式 評価基準 主な限界
人口 時点ttの人口PtP_t、出生数BtB_t、死亡数DtD_t、純移動数MtM_t Pt+1=Pt+Bt−Dt+MtP_{t+1}=P_t+B_t-D_t+M_t 次の時点の人口や増減 出生数、死亡数、移動数は予測値であり、年齢構成を表していません。
待ち時間 単位時間の到着数AtA_t、処理数CtC_t、待ち人数QtQ_t Qt+1=max⁡{0,Qt+At−Ct}Q_{t+1}=\max\{0,Q_t+A_t-C_t\} 待ち人数が増え続けないこと 到着と処理の時間変動や、個々の待ち時間を表していません。
ネットワーク 頂点、辺ee、辺の重みwew_e、経路pp L(p)=∑e∈pweL(p)=\sum_{e\in p}w_e 経路の重みの和を小さくすること 混雑による重みの変化や、モデルに含めなかった経路を表していません。

例 3.1 (調査結果に基づく意思決定). 全校生徒を母集団とし、ある校則案への賛否を無作為に抽出したn=100n=100人へ尋ねる。標本の生徒iiが賛成ならXi=1X_i=1、反対ならXi=0X_i=0とし、標本比率を

p^=1n∑i=1nXi\widehat p=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^nX_i

とする。「標本比率が0.600.60以上ならば試行する」を判断基準とする。賛成が64人ならばp^=64/100=0.64\widehat p=64/100=0.64なので、この基準では試行する。閾値を0.650.65へ変えると同じ結果でも試行しないため、結論は判断基準に依存する。また、昼休みに教室にいる生徒だけへ尋ねる便宜抽出では、回答数が100人でも全校生徒に対する代表性を保証しない。無作為抽出でも標本比率には標本誤差があるため、この計算だけから母集団の賛成割合を確定することはできない。

いずれの題材でも、問いに必要な要因を選んでモデルを作るのであり、現実のすべての要因を一つの式へ入れたと主張することはできません。

4 演習

問題 4.1. 月額900円と一回150円のプランCを加え、プランA、B、Cのうち最も安くなる視聴回数の範囲を求めよ。

解答.

x∈Z≥0x\in\mathbb Z_{\geq0}とし、C(x)=900+150xC(x)=900+150xとする。C(x)<B(x)C(x)<B(x)はx>6x>6、C(x)<A(x)C(x)<A(x)はx<30/7x<30/7と同値であり、二つを同時に満たすxxは存在しない。三つの料金を比較すると、月0回から5回まではプランB、月6回以上はプランAが最も安い。したがって、プランCが最も安くなる非負整数の視聴回数はない。▨

問題 4.2. 月の視聴回数が4回から9回まで変わるとき、各回数についてプランAとBの料金を表にし、料金だけに基づく選択が変わる境界を確認せよ。

解答.

各料金は次の表のとおりである。

視聴回数(回) 4 5 6 7 8 9
プランAの料金(円) 1520 1600 1680 1760 1840 1920
プランBの料金(円) 1200 1500 1800 2100 2400 2700

月5回まではプランB、月6回からはプランAが安いので、境界は月5回と月6回の間にある。▨

問題 4.3. 料金モデルが無視した要因を一つ選び、その要因を変数へ加える方法と、結論することができる範囲の変化を述べよ。

解答.

一回当たりの通信費を考える。両プランで同じ通信費cc円が一回ごとにかかるなら、料金式はAc(x)=1200+(80+c)xA_c(x)=1200+(80+c)x、Bc(x)=(300+c)xB_c(x)=(300+c)xとなる。両辺に共通するcxcxが比較で消えるため、料金だけに基づく境界は変わらない。一方、プランごとの通信量が異なるなら、通信費をcAxc_AxとcBxc_Bxのように別々に見積もる必要があり、料金比較の結論はその見積もりの範囲内に限られる。▨