1 指示確率変数
定義 1.1 (指示確率変数). 有限標本空間上の事象Aに対して、
1A(ω)={10(ω∈A),(ω∈/A)で定める確率変数をAの指示確率変数といいます。
定理 1.2 (指示確率変数の期待値). 有限標本空間上の事象Aについて、
E[1A]=P(A)が成り立ちます。
証明.1Aは確率P(A)で1を、確率1−P(A)で0をとるので、
E[1A]=1⋅P(A)+0⋅(1−P(A))=P(A)です。▨
有限個の事象について、起こった事象の個数の期待値を求めます。
定理 1.3 (期待個数の公式).A1,…,Anを同じ有限標本空間上の事象とし、起こった事象の個数を
N=i=1∑n1Aiとします。このとき、事象間の独立性を仮定せずに
E[N]=i=1∑nP(Ai)が成り立ちます。
証明. 期待値の線形性と指示確率変数の期待値から、
E[N]=i=1∑nE[1Ai]=i=1∑nP(Ai)を得ます。▨
線形性そのものの証明は「確率変数の期待値・分散」が与えています。本記事では有限個の指示確率変数への分解を扱います。
例 1.4 (無作為な順列の固定点).n≥2とし、n人へn通の手紙を無作為に一通ずつ配ります。人iが自分宛ての手紙を受け取る事象をAiとすると、P(Ai)=1/nです。自分宛てを受け取る人数Nの期待値は
E[N]=i=1∑nn1=1です。各事象は独立ではありませんが、期待値の計算には影響しません。
定理 1.5 (正の期待値からの存在). 有限標本空間上の非負整数値確率変数XがE[X]>0を満たすならば、X(ω)≥1を満たす結果ωが存在します。
証明. すべての結果でX=0ならばE[X]=0です。したがってE[X]>0ならば、少なくとも一つの結果でX≥1です。▨
2 演習
- 公平な硬貨を10回投げたとき、表の回数の期待値を指示確率変数で求めます。
- 無作為な順列の固定点の事象が独立でないことを確かめても、期待値が1である計算が変わらない理由を説明します。
- 非負整数値という仮定を外した場合、E[X]>0からX≥1の結果の存在が従わない例を作ります。
1では各回の表の指示確率変数を足し、期待値は10⋅(1/2)=5回です。2では期待値の線形性が独立性を仮定しないため、各固定点の確率1/nだけで和の期待値を計算することができます。3では、常にX=1/2である確率変数が反例です。