同じ有限集合の要素を異なる方法で数えると、得られた二つの式は等しくなります。各方法について、重複と数え落ちがないことを確認します。
1 指定要素つき部分集合
定理 1.1 (指定要素つき部分集合の恒等式). 正の整数について、
が成り立ちます。
証明.元集合の部分集合と、に属する指定要素の組を数えます。ごとに数えると左辺です。一方、を通りから選び、残りの個をに入れるかどうか選ぶと通りです。どちらも同じ組を重複なく数えるので等式が成り立ちます。▨
2 格子経路
定理 2.1 (Pascal の恒等式).を正の整数とすると、
が成り立ちます。
証明. 原点から右へ回、上へ回進む最短格子経路を数えます。全回の移動から右へ進む位置を選ぶと左辺です。最後の一歩が右ならば、その前までに右へ回進むので本です。最後の一歩が上ならば、その前までに右へ回進むので本です。二つの場合は排反で全経路を尽くします。▨
3 グラフの次数
定義 3.1 (有限単純無向グラフと次数). 有限集合の二要素部分集合を辺とし、その有限集合をとした組を有限単純無向グラフといいます。の要素を頂点といいます。頂点を含む辺の個数をの次数といい、と書きます。この定義では、一つの頂点だけを端点とするループと、同じ二頂点を結ぶ複数の辺はありません。
定理 3.2 (握手補題).を有限単純無向グラフとします。このとき、
が成り立ちます。
証明. 頂点と、その頂点に接続する辺の組を数えます。頂点ごとに数えると左辺です。各辺には端点が二つあるので、辺ごとに数えるとです。ループをもたない無向グラフを扱っているため、各辺の端点は二つです。▨
例 3.3 (奇数次数の頂点). 握手補題の右辺は偶数です。したがって奇数次数の頂点の個数は偶数です。奇数の和が偶数になるには、項数が偶数でなければならないためです。
4 演習
- 元集合の部分集合と、に含まれない指定要素の組を二通りに数え、
を証明します。 2. 原点からへ進む最短格子経路を、最後の一歩で分類して Pascal の恒等式を数値で確認します。 3. 7頂点の単純無向グラフで次数がになることが不可能である理由を説明します。
1ではを先に選び、残りの個からを選ぶと通りです。2ではです。3では次数の総和が19で奇数ですが、握手補題によれば次数の総和は辺数の2倍なので偶数です。したがって、この次数列をもつ単純無向グラフは存在しません。