1 証明可能な等号による商
Lを集合サイズの有限項言語、T⊆Sent(L)を構文的に無矛盾な理論とする。§E16.11 定理 6.1によって得られる拡大言語と理論をLH,THと書く。LHの閉項全体をCTerm(LH)と書く。
定義 1.1 (証明可能な等号).t,u∈CTerm(LH)に対して
t∼THu⟺TH⊢t=uと定める。この関係を 証明可能等号関係 (provable-equality relation) という。文脈から明らかな場合は添字を省いてt∼uと書き、tの同値類を[t]と書く。
定理 1.2. 関係∼はCTerm(LH)上の同値関係である。さらに、任意の非負整数nについて次が成り立つ。
- fがn項関数記号であり、すべてのi<nについてti∼uiなら、
f(t1,…,tn)∼f(u1,…,un).
- Rがn項関係記号であり、すべてのi<nについてti∼uiなら、
TH⊢R(t1,…,tn)↔R(u1,…,un).
特に、R(t1,…,tn)とR(u1,…,un)の一方がTHから導出可能であることと、他方がTHから導出可能であることは同値である。
n=0の場合には、二つの引数列はともに空であり、同じ零項記号の解釈を比較する。
証明. 等号公理の反射律からTH⊢t=tなので、t∼tである。§E16.10 補題 4.1により、t∼uならu∼tであり、t∼uかつu∼vならt∼vである。したがって∼は同値関係である。
fをn項関数記号とし、各ti∼uiを仮定する。定義によりTH⊢ti=uiである。有限個の等式を命題論理の派生則によって連言にまとめ、関数合同公理
(t1=u1∧⋯∧tn=un)→f(t1,…,tn)=f(u1,…,un)へ modus ponens を適用すると、TH⊢f(tˉ)=f(uˉ)を得る。n=0では前件が空の連言であり、結論は同じ零項関数記号が表す閉項の反射的等式である。
Rをn項関係記号とする。同じ連言と関係合同公理から
TH⊢R(t1,…,tn)↔R(u1,…,un)を得る。双条件の二方向と modus ponens により、一方が導出可能なら他方も導出可能である。n=0では公理は同じ零項関係Rと自身の双条件を述べるので、同じ結論が成り立つ。以上はすべての有限nに対する個別の公理スキーマに基づいており、二項演算だけの商降下には依存しない。▨
2 項モデル
定義 2.1.THの項モデル (term model)MTHを次のように定める。
∣MTH∣=CTerm(LH)/∼.n項関数記号fとn項関係記号Rの解釈を
fMTH([t1],…,[tn])RMTH=[f(t1,…,tn)],={([t1],…,[tn]):TH⊢R(t1,…,tn)}によって定める。論理的等号は、商集合上の同一性として解釈する。
定理 1.2により、関数の値と関係の真理値は代表元の選択に依存しない。
Henkin 構成では少なくとも一つの新定数が加わるため閉項が存在し、項モデルの台集合は空でない。より具体的には、一自由変数論理式x=xに対する証人定数が閉項を与える。
補題 2.2.τを、各変数xへ閉項τ(x)を割り当てる写像とし、sτ(x)=[τ(x)]とおく。任意のLH項rについて
[[r]]sτMTH=[r[τ]]が成り立つ。r[τ]は、rに実際に現れる有限個の変数だけを対応する閉項へ同時代入した閉項である。
証明.rの構造に関する帰納法を用いる。r=xなら、左辺は定義によりsτ(x)=[τ(x)]であり、右辺と一致する。rが定数記号なら、両辺はその定数の同値類である。
r=f(r1,…,rn)とする。帰納法の仮定と項モデルの関数解釈により
[[f(r1,…,rn)]]sτMTH=fMTH([r1[τ]],…,[rn[τ]])=[f(r1[τ],…,rn[τ])]=[r[τ]].n=0の場合も第2行が零項関数の定義そのものである。▨
3 真理補題
論理式φと閉項割当てτに対し、φ[τ]はFV(φ)に属する有限個の変数をτの閉項へ捕獲を避けて同時代入した文を表す。
補題 3.1. 任意のLH論理式φと閉項割当てτについて、
MTH,sτ⊨φ⟺TH⊢φ[τ]が成り立つ。
同値な有限変数表示として、FV(φ)⊆{x1,…,xn}とし、s(xi)=[ti]とすれば、
MTH,s⊨φ⟺TH⊢φ[x1:=t1,…,xn:=tn]である。
証明の方針は、論理式の構造に関する帰納法である。全称量化子の逆向きでは、全閉項による例を証明することができることから全称文を導く必要がある。全称文を証明することができないと仮定すると、その否定の存在文に Henkin 証人を与えることができ、全閉項による例と矛盾する。
証明.φの構造に関する帰納法を用いる。
φがr=uなら、補題 2.2と商集合の等号から
MTH,sτ⊨r=u⟺[r[τ]]=[u[τ]]⟺r[τ]∼u[τ]⟺TH⊢r[τ]=u[τ]を得る。φ=R(r1,…,rn)の場合も、項評価補題と関係の定義から
MTH,sτ⊨R(rˉ)⟺TH⊢R(rˉ[τ])を得る。n=0も同じ定義に含まれる。
φ=¬ψとする。帰納法の仮定と極大無矛盾性により
MTH,sτ⊨¬ψ⟺MTH,sτ⊨ψ⟺TH⊬ψ[τ]⟺TH⊢¬ψ[τ].最後の同値は§E16.11 補題 5.3 (1)と§E16.11 補題 5.3 (2)による。
φ=ψ→χとする。含意の意味と二つの帰納法の仮定により、左辺が真であることはTH⊬ψ[τ]またはTH⊢χ[τ]と同値である。§E16.11 補題 5.3 (1)と§E16.11 補題 5.3 (3)により、同じ条件はTH⊢ψ[τ]→χ[τ]と同値である。
φ=∀xψとする。束縛変数を必要ならアルファ変換し、xがτで代入する閉項に現れないようにする。x以外の自由変数をτで置き換えた論理式をθ(x)と書く。まずTH⊢∀xθ(x)とする。任意の閉項tについて全称具体化の公理 (Q1) からTH⊢θ(t)である。帰納法の仮定により、MTH,sτ[x↦[t]]⊨ψである。項モデルの各要素に対して、その要素を同値類として表す閉項tが存在するので、MTH,sτ⊨∀xψを得る。
逆にMTH,sτ⊨∀xψとする。任意の閉項tについて帰納法の仮定からTH⊢θ(t)である。TH⊬∀xθ(x)と仮定する。極大無矛盾性によりTH⊢¬∀xθ(x)であり、量化子の否定に関する派生同値からTH⊢∃x¬θ(x)を得る。
Henkin 性により、Henkin 定数cが存在して
TH⊢∃x¬θ(x)→¬θ(c)となる。modus ponens によりTH⊢¬θ(c)となるが、全閉項の場合からTH⊢θ(c)でもある。θ(c)とその否定の二つの導出はTHの無矛盾性に反する。したがってTH⊢∀xθ(x)である。
存在量化子は∃xψ:=¬∀x¬ψと定義されるため、以上の帰納法にすでに含まれる。証人の対応を直接確認すると、TH⊢∃xθ(x)なら Henkin 性により、TH⊢θ(c)を満たす閉項cが存在する。帰納法の仮定から[c]が意味論的な証人になる。逆に意味論的な証人[t]が存在すれば、帰納法の仮定からTH⊢θ(t)であり、存在量化子導入の派生則からTH⊢∃xθ(x)となる。
以上で原始結合子のすべての場合を処理した。有限変数表示では、s(xi)=[ti]となる閉項割当てτを選び、残りの変数へ一つの固定閉項を割り当てる。§E16.6 定理 4.1により、sとsτのFV(φ)外での違いは真理値を変えない。▨
4 モデル存在定理
定理 4.1.Lを集合サイズの有限項言語、T⊆Sent(L)を構文的に無矛盾な理論とする。このときTはモデルMをもつ。さらに
∣M∣≤κ(L,T):=max(ℵ0,∣L∣,∣T∣)とすることができる。
証明.§E16.11 定理 6.1によりTを極大無矛盾な Henkin 理論THへ拡大し、定義 2.1の項モデルMTHを作る。σ∈THは文なので、真理補題で代入する自由変数は無い。§E16.11 補題 5.3の導出閉包と補題 3.1により
MTH⊨σ⟺TH⊢σ⟺σ∈THである。したがってMTH⊨THであり、特にMTH⊨Tである。厳密にはMTHは拡大言語の構造なので、元の言語Lへの還元をMとすればM⊨Tである。
§E16.11 系 2.2によりLHの閉項集合は高々κ(L,T)個である。項モデルの台集合はその商なので∣M∣=∣MTH∣≤κ(L,T)である。▨
系 4.2. 任意のL理論Tについて、Tが充足可能であることと、Tが構文的に無矛盾であることは同値である。
証明. モデルをもつ理論が無矛盾であることは健全性から従う。無矛盾な理論がモデルをもつことは定理 4.1で証明した。▨
5 強完全性定理
補題 5.1.T⊆Sent(L)とφ∈Sent(L)について、T⊬φならT∪{¬φ}は構文的に無矛盾である。
証明.T∪{¬φ}が矛盾すると仮定する。演繹定理によりT⊢¬φ→⊥である。古典命題論理では(¬φ→⊥)→φを導出することができるので、modus ponens によりT⊢φとなり、T⊬φという仮定に反する。▨
定理 5.2 (一階論理の強完全性定理). 集合サイズの有限項言語L、任意の理論T⊆Sent(L)、任意の文φ∈Sent(L)について
T⊨φ⟺T⊢φが成り立つ。
証明の方針は、健全性で右から左を示し、左から右は対偶を用いることである。T⊬φなら、T∪{¬φ}のモデルを構成し、T⊨φを否定する。
証明.T⊢φなら、一階 Hilbert 系の健全性によりT⊨φである。
逆向きの対偶を示す。T⊬φとする。補題 5.1によりT∪{¬φ}は構文的に無矛盾である。定理 4.1を適用すると、あるL構造Mが存在して
M⊨T∪{¬φ}となる。したがってM⊨TかつM⊨φであり、T⊨φである。対偶によりT⊨φならT⊢φである。▨
6 項モデルの具体的な読み方
例 6.1 (等しいと証明される定数の同一視).a,bを定数記号、fを一項関数記号とし、極大無矛盾な Henkin 理論THが
TH⊢a=b,TH⊢∀xf(x)=xを満たすとする。項モデルでは[a]=[b]である。また全称具体化の公理 (Q1) からTH⊢f(a)=aなので
fMTH([a])=[f(a)]=[a]である。項の文字列が異なっていても、理論が等しいと証明する項は同じモデル要素を表す。
7 演習
問題 7.1.
- ti∼uiからR(tˉ)とR(uˉ)の証明可能性が一致することを、関係合同公理から導け。
- 真理補題の全称量化子の場合に Henkin 性が必要になる向きを答えよ。
- T⊬φからT⊨φを導く構造を説明せよ。
- 完全性定理の証明で、言語が可算であるという仮定を用いていないことを確認せよ。
解答 (確認問題の解答).
- 各ti∼uiはTH⊢ti=uiを意味する。等式を連言にまとめて関係合同公理へ適用するとTH⊢R(tˉ)↔R(uˉ)を得る。双条件の二方向へ modus ponens を適用する。
- すべての閉項tについてTH⊢θ(t)であることからTH⊢∀xθ(x)を導く向きで必要になる。全称文を証明することができないと仮定したとき、∃x¬θ(x)の Henkin 証人が反例となる閉項を与える。
- 補題 5.1によりT∪{¬φ}は無矛盾である。モデル存在定理でそのモデルMを取れば、M⊨TかつM⊨φである。
- 集合サイズの構文対象を整列し、その濃度を§E16.11 補題 2.1で評価した。可算列挙ではなく選択公理と一般濃度評価を用いたため、可算性は仮定していない。
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