1 構造と割当て
定義 1.1.Σ=((Fn)n<ω,(Rn)n<ω)を一階シグネチャとする。Σ-構造 (Sigma-structure)Mは、次のデータからなる。
- 非空集合M。集合MをMの 台集合 (domain) という。
- 各f∈Fnに対する関数fM:Mn→M。特にc∈F0は元cM∈Mとして解釈する。
- 各R∈Rnに対する関係RM⊆Mn。
論理記号=は常にM上の同一性として解釈する。
定義 1.2.Mを台集合Mの構造とする。写像s:Var→Mを変数割当て (variable assignment) という。x∈Var、a∈Mに対して、更新 (assignment update)s[x↦a]を
s[x↦a](y)={as(y)y=x,y=xによって定める。
例 1.3 (整数加法群の構造). 群のシグネチャに対し、台集合をZ、eM=0、iM(a)=−a、mM(a,b)=a+bと置くと構造を得る。構文上の項m(x,i(y))の値は割当てsの下でs(x)−s(y)である。
2 項の解釈
定義 2.1.Σ-構造Mと割当てs:Var→Mに対し、項tの値 (interpretation of a term)[[t]]sM∈Mを
[[x]]sM[[c]]sM[[f(t1,…,tn)]]sM=s(x),=cM,=fM([[t1]]sM,…,[[tn]]sM)によって構造再帰的に定める。
命題 2.2.Σ-構造Mと割当てs:Var→Mを任意に取る。定義 2.1の再帰式を満たす写像
TermΣ(Var)→Mが一意に存在する。
証明.§E16.5 定理 3.1の項に対する構造再帰において、変数xへs(x)、定数cへcM、関数記号f∈Fnへ演算fM:Mn→Mを割り当てる。定理の存在と一意性が求める主張を与える。▨
補題 2.3.MをΣ-構造、tをΣ-項、s,r:Var→Mを割当てとする。すべてのx∈Var(t)についてs(x)=r(x)なら
[[t]]sM=[[t]]rMである。
証明.tに関する構造帰納法を用いる。t=xの場合は仮定から従う。定数の場合は両辺がcMである。t=f(t1,…,tn)の場合、Var(ti)⊆Var(t)であるから、帰納法の仮定により各引数の値が一致する。同じ関数fMを適用すれば項全体の値も一致する。▨
3 Tarski の充足関係
定義 3.1.Σ-構造M、割当てs:Var→M、論理式φに対する関係M,s⊨φ (Tarski satisfaction relation) を次の再帰で定める。
M,s⊨t=uM,s⊨R(t1,…,tn)M,s⊨¬φM,s⊨φ→ψM,s⊨∀xφ⟺[[t]]sM=[[u]]sM,⟺([[t1]]sM,…,[[tn]]sM)∈RM,⟺M,s⊨φ,⟺M,s⊨φ または M,s⊨ψ,⟺すべての a∈M について M,s[x↦a]⊨φ.
命題 3.2.Σ-構造Mを任意に取る。定義 3.1の各節を満たす関係は、すべての割当てとすべてのΣ-論理式について一意に定まる。
証明. 割当て全体の集合をS=MVarとし、再帰の値域を関数集合Y=2Sとする。各原子論理式θには、s∈Sをその原子の真理値へ写す関数を割り当てる。A,B∈Yとx∈Varに対して
N(A)(s)I(A,B)(s)Qx(A)(s)=1−A(s),={01A(s)=1 かつ B(s)=0,それ以外,=1⟺すべての a∈M について A(s[x↦a])=1と定める。論理式上の構造再帰定理をこれらの演算へ適用すると、各論理式φに関数Aφ∈Yが一意に対応する。M,s⊨φをAφ(s)=1と定めれば、表示された充足節をすべて満たす。
同じ節を満たす二つの関係が一致することは、論理式の構造帰納法により、原子、否定、含意、全称量化の順に従う。量化の場合には、すべての更新s[x↦a]に直下の論理式に対する帰納法の仮定を適用する。▨
命題 3.3.Σ-構造M、割当てs、論理式φ,ψ、変数xについて次が成り立つ。
M,s⊨φ∧ψM,s⊨φ∨ψM,s⊨∃xφ⟺M,s⊨φ かつ M,s⊨ψ,⟺M,s⊨φ または M,s⊨ψ,⟺M,s[x↦a]⊨φ を満たす a∈M が存在する.
証明.∧と∨の定義を¬,→まで展開し、充足関係の否定と含意の節を適用すれば最初の二式を得る。存在量化について、
M,s⊨¬∀x¬φであることは、すべてのa∈MについてM,s[x↦a]⊨φである、という主張の否定と同値である。古典的な量化の否定により、M,s[x↦a]⊨φを満たすa∈Mが存在することと同値になる。▨
例 3.5 (量化式の評価). 整数加法群の構造Mでは
M,s⊨∀xm(x,e)=xがすべての割当てsについて成り立つ。実際、任意のa∈Zについてa+0=aである。一方、M,s⊨∃xm(x,x)=eも成り立つが、証人は0に限られる。
4 充足の局所性
定理 4.1.MをΣ-構造、φをΣ-論理式、s,r:Var→Mを割当てとする。すべてのx∈FV(φ)についてs(x)=r(x)なら
M,s⊨φ⟺M,r⊨φである。
証明.φに関する構造帰納法を用いる。等号原子と関係原子の場合、各項に現れる変数はFV(φ)に含まれる。補題 2.3により各項の値が一致するので、原子の真偽も一致する。
否定の場合は直下の論理式に対する帰納法の仮定から従う。含意の場合は二つの直下の論理式に対する帰納法の仮定と含意の充足節から従う。
φ=∀xψとする。sとrはFV(ψ)∖{x}上で一致する。任意のa∈Mについて、s[x↦a]とr[x↦a]はFV(ψ)上で一致する。帰納法の仮定により
M,s[x↦a]⊨ψ⟺M,r[x↦a]⊨ψである。すべてのa∈Mを量化し、全称量化の充足節を適用すれば主張を得る。▨
系 4.2.σ∈Sent(Σ)、MをΣ-構造とする。任意の二つの割当てs,rについて
M,s⊨σ⟺M,r⊨σである。
証明.FV(σ)=∅であるから、定理 4.1の割当て一致条件は空虚に成り立つ。▨
5 α同値と充足
補題 5.1.∀xφから捕獲回避的に∀zrenx↦z(φ)を得たとする。任意のΣ-構造Mと割当てsについて
M,s⊨∀xφ⟺M,s⊨∀zrenx↦z(φ)である。
証明. 改名の対象である外側の束縛を有効とする印を一つ置く。構文木を下るとき、内側の∀xに入った箇所では外側の印を無効にし、それ以外では印を保つ。renx↦zは、印が有効な位置にあるxだけをzへ変える操作である。捕獲回避条件は、印が有効なxの出現が内側の∀zの作用域に無いことと、z∈/FV(φ)を含む。
印付きの項と論理式について、任意の割当てrと任意のa∈Mに対して
M,r[x↦a]⊨φ⟺M,r[z↦a]⊨renx↦z(φ)(*)を、項と論理式について同時に構造帰納的に示す。項が変数の場合、印が有効なxは左でa、改名後のzは右でaを与える。ほかの変数は両割当てで同じ値をもつ。特にzの改名対象外の出現は、捕獲回避条件により有効な領域には存在しない。定数と関数適用では項評価の再帰式と各引数への帰納法の仮定を用いる。原子論理式では各項の値の一致を用い、否定と含意では充足節と直下の論理式への帰納法の仮定を用いる。
内側の量化式∀yηでは、次の三場合を別々に扱う。
- y=xの場合、内側の束縛が外側のxを遮蔽するため、その本体では印を無効にし、改名を停止する。任意のb∈Mについて
(r[x↦a])[x↦b]=r[x↦b]
である。右側でも量化評価はxをbへ上書きする。両割当てに残り得る差はzの値だけであるが、z∈/FV(φ)なので定理 4.1によりηの真偽を変えない。従ってこの量化式の両評価は一致する。この場合が∀x∀xR(x)の内側で改名を停止する shadowing を処理する。
- y=zの場合、捕獲回避条件により、この∀zの作用域には印が有効なxの出現がない。従って当該部分式は改名されない。量化評価でzをbへ上書きした後に残る両割当ての差はxだけであり、印が有効な自由なxは本体に無い。再び局所性により真偽が一致する。もし作用域に改名対象のxがあれば、xをzへ変えた出現がこの量化子に捕獲されるため、そもそも生成的改名の仮定を満たさない。
- y=x,zの場合、割当て更新は
(r[x↦a])[y↦b]=(r[y↦b])[x↦a],(r[z↦a])[y↦b]=(r[y↦b])[z↦a]
と交換する。任意のb∈Mについて、基礎割当てをr[y↦b]として本体ηへの帰納法の仮定を適用する。すべてのbを量化すれば、全称量化の充足節から両評価の同値を得る。
以上で項、原子、否定、含意、および三つの量化子の場合を尽くしたため(∗)が成り立つ。
最後にr=sとする。全称量化の充足節により、補題の左辺はすべてのa∈Mについて(∗)の左辺が成り立つこと、右辺はすべてのa∈Mについて(∗)の右辺が成り立つことと同値である。ゆえに両辺は同値である。▨
定理 5.2.φ≡αψとする。任意のΣ-構造Mと割当てsについて
M,s⊨φ⟺M,s⊨ψである。
証明.α同値は捕獲回避的な一回の束縛変数改名を含む最小の合同同値関係である。一回の生成的改名では補題 5.1が主張を与える。反射律、対称律、推移律は充足の同値関係を保存する。否定、含意、全称量化の各合同規則も、それぞれの充足節により同値を保存する。したがってα同値の生成に関する帰納法により主張が従う。▨
6 真・充足可能・妥当・帰結
定義 6.1.MをΣ-構造、φを論理式、σを文、Γを論理式の集合とする。
- M⊨φ (satisfaction in a structure) とは、すべての割当てsについてM,s⊨φであることをいう。文σでは割当てに依存しないため、M,s⊨σと同値である。
- φが充足可能 (satisfiable) であるとは、M,s⊨φを満たすΣ-構造MとM上の割当てsが存在することをいう。
- φが妥当 (valid) であるとは、すべてのΣ-構造Mとすべての割当てsについてM,s⊨φであることをいい、⊨φと書く。
- Γ⊨φ (semantic consequence) とは、すべてのΣ-構造Mと割当てsについて、M,s⊨γがすべてのγ∈Γについて成り立つならM,s⊨φが成り立つことをいう。
例 6.2 (真と妥当の相違). 群のシグネチャにおける文∀xm(x,e)=xは、整数加法群では真である。しかし、eとmを任意に解釈したすべての構造で真とは限らないので、群公理を前提にしない一階論理の妥当式ではない。妥当性は特定の構造ではなく、同じシグネチャのすべての構造を量化する。
7 演習
問題 7.1.
- 台集合を非空とする条件が、∀xφと∃xφの意味にどのように影響するか述べよ。
- M,s⊨∀xR(x,y)の真偽がs(y)に依存してもs(x)に依存しない理由を証明せよ。
- ∀xR(x,z)のxをzに改名する操作が許されない理由を意味論から説明せよ。
解答 (確認問題の解答).
- 非空性により全称量化が空虚に真、存在量化が常に偽となる空領域固有の挙動を除外する。
- 自由変数集合は{y}である。充足の局所性によりy上で一致する割当ては同じ真偽を与える。量化の評価ではs[x↦a]がすべてのaを調べるため、もとのs(x)は用いない。
- 改名後の∀zR(z,z)では、もとの自由なzまで量化される。したがって割当てs(z)への依存が失われ、一般には真偽が変わる。
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一階意味論は、構造、割当て、有限構文木上の再帰という三つのデータを分離する。次稿では項を変数へ同時代入する操作を定め、代入後の構文評価と割当て更新が一致することを証明する。