§E16.26直観主義論理

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直観主義論理では、命題AAの証明を構成するために必要な情報を推論規則へ反映する。特に、A∨BA\lor Bを導くには左右のどちらかの証明を与え、A→BA\to Bを導くにはAAの証明を入力としてBBの証明を作る必要がある。本記事では自然演繹体系を固定し、情報が単調に増える Kripke モデルを定義する。続いて、自然演繹で導出可能な論理式がすべての Kripke モデルで妥当であることを証明する。

1 論理式と自然演繹

命題変数の集合をPPとする。論理式は

A::=p∣⊥∣A∧A∣A∨A∣A→A(p∈P)A ::= p\mid\bot\mid A\land A\mid A\lor A\mid A\to A \qquad(p\in P)

によって帰納的に生成する。否定は¬A:=A→⊥\neg A:=A\to\botと定義する。前提集合Γ\Gammaは論理式の有限集合とする。

定義 1.1. 判断Γ⊢IA\Gamma\vdash_I Aを、次の規則から生成される有限導出木の存在として定める。

A∈ΓΓ⊢IA(Ax)Γ⊢IAΓ⊢IBΓ⊢IA∧B(∧I)\frac{A\in\Gamma}{\Gamma\vdash_I A}(\mathrm{Ax}) \qquad \frac{\Gamma\vdash_I A\qquad\Gamma\vdash_I B} {\Gamma\vdash_I A\land B}(\land I)Γ⊢IA∧BΓ⊢IA(∧E1)Γ⊢IA∧BΓ⊢IB(∧E2)\frac{\Gamma\vdash_I A\land B}{\Gamma\vdash_I A}(\land E_1) \qquad \frac{\Gamma\vdash_I A\land B}{\Gamma\vdash_I B}(\land E_2)Γ⊢IAΓ⊢IA∨B(∨I1)Γ⊢IBΓ⊢IA∨B(∨I2)\frac{\Gamma\vdash_I A}{\Gamma\vdash_I A\lor B}(\lor I_1) \qquad \frac{\Gamma\vdash_I B}{\Gamma\vdash_I A\lor B}(\lor I_2)Γ⊢IA∨BΓ∪{A}⊢ICΓ∪{B}⊢ICΓ⊢IC(∨E)\frac{\Gamma\vdash_I A\lor B\qquad \Gamma\cup\{A\}\vdash_I C\qquad \Gamma\cup\{B\}\vdash_I C} {\Gamma\vdash_I C}(\lor E)Γ∪{A}⊢IBΓ⊢IA→B(→I)Γ⊢IA→BΓ⊢IAΓ⊢IB(→E)\frac{\Gamma\cup\{A\}\vdash_I B}{\Gamma\vdash_I A\to B}(\to I) \qquad \frac{\Gamma\vdash_I A\to B\qquad\Gamma\vdash_I A} {\Gamma\vdash_I B}(\to E)Γ⊢I⊥Γ⊢IA(⊥E)\frac{\Gamma\vdash_I\bot}{\Gamma\vdash_I A}(\bot E)

含意導入では、表示した前提AAを解除する。排中律A∨¬AA\lor\neg A、二重否定除去¬¬A→A\neg\neg A\to A、および背理法は規則として加えない。

前提を増やしても既存の導出木はそのまま用いることができる。

補題 1.2.Γ⊢IA\Gamma\vdash_I AかつΓ⊆Δ\Gamma\subseteq\DeltaならばΔ⊢IA\Delta\vdash_I Aである。

証明.Γ⊢IA\Gamma\vdash_I Aの導出木に関して帰納法を用いる。公理の場合、A∈Γ⊆ΔA\in\Gamma\subseteq\DeltaなのでΔ⊢IA\Delta\vdash_I Aである。各導入規則と除去規則では、すべての直前の判断へ帰納法の仮定を適用し、同じ規則を再び適用する。含意導入ではΓ∪{B}⊆Δ∪{B}\Gamma\cup\{B\}\subseteq\Delta\cup\{B\}を用いる。選言除去の二つの枝でも同じ包含を用いる。従って全規則について結論が保たれる。▨

例 1.3 (連言の交換).A∧B⊢IB∧AA\land B\vdash_I B\land Aを導出する。前提A∧BA\land Bへ(∧E2)(\land E_2)と(∧E1)(\land E_1)を適用して、それぞれBBとAAを得る。二つの導出へ(∧I)(\land I)を適用するとB∧AB\land Aを得る。この導出は排中律を用いない。

2 Kripke モデル

Kripke 意味論では、世界を情報状態とみなし、w≤vw\le vを「vvがww以上の情報をもつ」と解釈する。原子命題が一度成立した後で不成立へ戻らないことを、付値の上方閉性として課す。

定義 2.1. 直観主義命題論理の Kripke モデル (Kripke model) は三つ組

K=(W,≤,V)\mathcal K=(W,\le,V)

であり、次を満たす。

  1. WWは空でない集合であり、≤\leはWW上の半順序である。
  2. V(p)⊆WV(p)\subseteq Wは各命題変数ppに対応する上方閉集合である。すなわち、w∈V(p)w\in V(p)かつw≤vw\le vならばv∈V(p)v\in V(p)である。

強制関係w⊩Aw\Vdash Aを論理式の構造に関して次のように定める。

w⊩p  ⟺  w∈V(p),w⊮⊥は常に成り立つ,w⊩A∧B  ⟺  w⊩A かつ w⊩B,w⊩A∨B  ⟺  w⊩A または w⊩B,w⊩A→B  ⟺  ∀v≥w (v⊩A⇒v⊩B).\begin{aligned} w\Vdash p&\iff w\in V(p),\\ w\nVdash\bot&\quad\text{は常に成り立つ},\\ w\Vdash A\land B&\iff w\Vdash A\ \text{かつ}\ w\Vdash B,\\ w\Vdash A\lor B&\iff w\Vdash A\ \text{または}\ w\Vdash B,\\ w\Vdash A\to B&\iff \forall v\ge w\,(v\Vdash A\Rightarrow v\Vdash B). \end{aligned}

w⊩Γw\Vdash\Gammaは、すべてのA∈ΓA\in\Gammaについてw⊩Aw\Vdash Aが成り立つことを表す。

含意の定義は現在の世界だけでなく、すべての将来の世界を量化する。特に、

w⊩¬A⟺∀v≥w v⊮Aw\Vdash\neg A \quad\Longleftrightarrow\quad \forall v\ge w\,v\nVdash A

である。

補題 2.2. 任意の Kripke モデルK\mathcal K、世界w,v∈Ww,v\in W、および論理式AAについて、

w≤v かつ w⊩A⟹v⊩Aw\le v\ \text{かつ}\ w\Vdash A \quad\Longrightarrow\quad v\Vdash A

である。

証明.AAの構造に関して帰納法を用いる。原子命題の場合はV(p)V(p)の上方閉性から従う。⊥\botの場合は前件が成立しない。連言と選言の場合は、それぞれの直下の論理式へ帰納法の仮定を適用する。

A=B→CA=B\to Cとし、w⊩B→Cw\Vdash B\to Cかつw≤vw\le vと仮定する。v≤uv\le uかつu⊩Bu\Vdash Bを満たす任意のuuを取る。推移性からw≤uw\le uであるため、w⊩B→Cw\Vdash B\to Cの定義によりu⊩Cu\Vdash Cとなる。従って、含意の定義からv⊩B→Cv\Vdash B\to Cである。すべての構文形について持続性を示した。▨

定義 2.3.Γ⊨KA\Gamma\models_K Aとは、任意の Kripke モデルK\mathcal Kと任意の世界wwについて、w⊩Γw\Vdash\Gammaならばw⊩Aw\Vdash Aであることをいう。∅⊨KA\varnothing\models_K Aを⊨KA\models_K Aと略記する。

3 自然演繹の健全性

定理 3.1 (Kripke 意味論に関する健全性). 任意の有限前提集合Γ\Gammaと論理式AAについて、

Γ⊢IA⟹Γ⊨KA\Gamma\vdash_I A \quad\Longrightarrow\quad \Gamma\models_K A

である。

証明方針は、自然演繹の最後の規則に関する帰納法である。含意導入では将来世界へ移った後も前提が持続することを用いる。選言除去では、強制された選言の左右を場合分けし、対応する枝の帰納法の仮定を用いる。

証明.Γ⊢IA\Gamma\vdash_I Aの導出を一つ固定し、その導出木に関して帰納法を用いる。Kripke モデルK\mathcal Kとw⊩Γw\Vdash\Gammaを任意に取る。

(Ax)(\mathrm{Ax})の場合、A∈ΓA\in\Gammaなのでw⊩Aw\Vdash Aである。

(∧I)(\land I)の場合、帰納法の仮定からw⊩Aw\Vdash Aかつw⊩Bw\Vdash Bであり、強制の定義からw⊩A∧Bw\Vdash A\land Bである。(∧E1)(\land E_1)と(∧E2)(\land E_2)の場合は、w⊩A∧Bw\Vdash A\land Bの定義から対応する成分を得る。

(∨I1)(\lor I_1)と(∨I2)(\lor I_2)の場合は、帰納法の仮定から得た一方の選言肢を用いてw⊩A∨Bw\Vdash A\lor Bを得る。

(∨E)(\lor E)の場合、最初の帰納法の仮定からw⊩A∨Bw\Vdash A\lor Bである。強制の定義により、w⊩Aw\Vdash Aまたはw⊩Bw\Vdash Bである。前者ではw⊩Γ∪{A}w\Vdash\Gamma\cup\{A\}なので、第2の枝に対する帰納法の仮定からw⊩Cw\Vdash Cを得る。後者では、第3の枝に対する帰納法の仮定から同じ結論を得る。二つの場合が選言の定義を尽くすためw⊩Cw\Vdash Cである。

(→I)(\to I)の場合、直前の導出はΓ∪{A}⊢IB\Gamma\cup\{A\}\vdash_I Bである。w≤vw\le vかつv⊩Av\Vdash Aを満たす任意のvvを取る。補題 2.2により、w⊩Γw\Vdash\Gammaからv⊩Γv\Vdash\Gammaが従う。従ってv⊩Γ∪{A}v\Vdash\Gamma\cup\{A\}であり、帰納法の仮定からv⊩Bv\Vdash Bを得る。vvは任意であるため、含意の定義からw⊩A→Bw\Vdash A\to Bである。

(→E)(\to E)の場合、帰納法の仮定からw⊩A→Bw\Vdash A\to Bかつw⊩Aw\Vdash Aである。含意の定義をv=wv=wに適用するとw⊩Bw\Vdash Bとなる。

(⊥E)(\bot E)の場合、帰納法の仮定はw⊩⊥w\Vdash\botを与えるが、⊥\botを強制する世界は存在しない。従って、この場合の前件w⊩Γw\Vdash\Gammaは成立せず、含意は空虚に成り立つ。

すべての自然演繹規則について、w⊩Γw\Vdash\Gammaから結論の強制を導いた。モデルと世界は任意であったためΓ⊨KA\Gamma\models_K Aである。▨

4 古典論理で妥当な式の反例

排中律p∨¬pp\lor\neg pは古典命題論理では、ppが真の場合と偽の場合の双方で真である。しかし、Kripke 世界では現在の情報がppも¬p\neg pも支持しない場合がある。

例 4.1 (排中律に対する Kripke 反例).W={w0,w1}W=\{w_0,w_1\}、w0<w1w_0<w_1とし、V(p)={w1}V(p)=\{w_1\}とする。V(p)V(p)は上方閉である。

w0⊮pw_0\nVdash pである。また、w1≥w0w_1\ge w_0かつw1⊩pw_1\Vdash pなので、否定の定義からw0⊮¬pw_0\nVdash\neg pである。従って

w0⊮p∨¬p.w_0\nVdash p\lor\neg p.

ゆえに\nmodelsKp∨¬p\nmodels_K p\lor\neg pである。定理 3.1の対偶により、⊬Ip∨¬p\nvdash_I p\lor\neg pとなる。

同じ二世界モデルは、二重否定除去にも反例を与える。

命題 4.2.

\nmodelsK¬¬p→p\nmodels_K\neg\neg p\to p

である。

証明. 上の二世界モデルを用いる。w0w_0以上の世界で¬p\neg pを強制する世界は存在しない。実際、w1⊩pw_1\Vdash pなのでw1⊮¬pw_1\nVdash\neg pであり、w0⊮¬pw_0\nVdash\neg pは前例で確認した。従ってw0⊩¬¬pw_0\Vdash\neg\neg pである。一方、w0⊮pw_0\nVdash pである。含意の定義でv=w0v=w_0を取ると、w0⊮¬¬p→pw_0\nVdash\neg\neg p\to pが従う。▨

古典論理の Hilbert 系は排中律と二重否定除去を導くが、直観主義自然演繹へ古典公理を移してはいない。Kripke 反例は、二つの体系の差が記号の違いではなく妥当な推論の違いであることを示す。

5 演習

問題 5.1. 次の問いに答えよ。

  1. w⊩A→Bw\Vdash A\to Bの定義で、wwだけでなくすべてのv≥wv\ge wを量化する理由を、強制の持続性と関連づけて説明せよ。
  2. 健全性の証明における(→I)(\to I)の場合で、補題 2.2をどの前提へ適用したか。
  3. 排中律の反例でw0⊮¬pw_0\nVdash\neg pとなる理由を述べよ。
解答 (確認問題の解答).

1では、将来の情報状態でAAの証拠が得られた場合にもBBの証拠を与える必要があり、この定義によって含意自身も上方へ持続することを述べる。2では、w⊩Γw\Vdash\Gammaをv⊩Γv\Vdash\Gammaへ移すために各前提へ持続性を用いる。3では、w0w_0の上にppを強制する世界w1w_1が存在し、否定の定義が要求する「上方のどの世界もppを強制しない」という条件が破れることを述べればよい。▨

6 境界と次の段階

本記事は自然演繹から Kripke 意味論への健全性を証明した。逆向きの完全性、Heyting 代数による意味論、および自然演繹の正規化は扱っていない。後続の記事は、本記事の含意導入と含意除去だけを単純型付きラムダ計算へ対応させる。

参考文献

  1. Dirk van Dalen, Logic and Structure, 5th ed., Universitext, Springer, 2013.
  2. A. S. Troelstra and H. Schwichtenberg, Basic Proof Theory, 2nd ed., Cambridge University Press, 2000.

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