§E16.13コンパクト性定理

最終更新

形式的証明は有限列である。したがって、無限個の前提から一つの文を証明した場合でも、実際の証明が参照する前提は有限個である。強完全性定理は意味論的帰結と形式的導出を一致させるため、この構文上の有限性をモデルの存在に移すことができる。

コンパクト性定理が要求するのは、理論の各文が別々に充足可能であることではない。各有限部分理論について、そのすべての文を一つの構造が同時に満たすことが必要である。

1 充足可能性に関するコンパクト性

T0⊆finTT_0\subseteq_{\mathrm{fin}}Tは、T0T_0がTTの有限部分集合であることを表す。

定理 1.1 (一階論理のコンパクト性定理). 集合サイズの有限項言語LLと理論T⊆Sent⁡(L)T\subseteq\operatorname{Sent}(L)について、次は同値である。

  1. TTは充足可能である。
  2. すべての有限部分集合T0⊆finTT_0\subseteq_{\mathrm{fin}}Tは充足可能である。

証明の方針は、有限充足可能性からTTの構文的無矛盾性を示すことである。TTが矛盾を証明するなら、その有限証明で用いた有限個の前提だけでも矛盾を証明する。

証明.条件 (a)⇒\Rightarrow(b)を示す。TTが充足可能なら、そのモデルはすべてのT0⊆TT_0\subseteq Tを満たす。

条件 (b)⇒\Rightarrow(a)を示す。逆に、すべての有限部分集合T0⊆finTT_0\subseteq_{\mathrm{fin}}Tが充足可能であるとする。TTが構文的に矛盾すると仮定する。するとT⊢⊥T\vdash\botである。§E16.10 系 5.2により、ある有限部分集合T0⊆finTT_0\subseteq_{\mathrm{fin}}Tが存在してT0⊢⊥T_0\vdash\botとなる。一階 Hilbert 系の健全性からT0⊨⊥T_0\models\botである。⊥\botはどの構造でも偽なので、T0T_0は充足不可能であり、有限充足可能性の仮定に反する。

したがってTTは構文的に無矛盾である。§E16.12 定理 4.1によりTTはモデルをもち、充足可能である。▨

注意 1.2 (個別の充足可能性では足りない). 定数記号ccと一項関係記号PPをもつ言語で、P(c)P(c)と¬P(c)\neg P(c)はそれぞれ単独では充足可能である。しかし、二つを合わせた有限集合{P(c),¬P(c)}\{P(c),\neg P(c)\}は充足不可能である。したがって、各文の個別の充足可能性はコンパクト性定理の仮定ではない。

2 帰結に関するコンパクト性

定理 2.1.T⊆Sent⁡(L)T\subseteq\operatorname{Sent}(L)とφ∈Sent⁡(L)\varphi\in\operatorname{Sent}(L)について、T⊨φT\models\varphiなら、ある有限部分集合T0⊆finTT_0\subseteq_{\mathrm{fin}}Tが存在してT0⊨φT_0\models\varphiである。

証明.T⊨φT\models\varphiとする。強完全性定理によりT⊢φT\vdash\varphiである。§E16.10 系 5.2により、ある有限部分集合T0⊆finTT_0\subseteq_{\mathrm{fin}}Tが存在してT0⊢φT_0\vdash\varphiである。健全性によりT0⊨φT_0\models\varphiを得る。▨

命題 2.2.定理 1.1の充足可能性版と定理 2.1の帰結版は、健全性や完全性を改めて用いなくても互いに導くことができる。

証明. まず帰結版を仮定する。TTの各有限部分集合が充足可能であるにもかかわらずTTが充足不可能であるとする。充足不可能な理論は任意の文を意味論的に帰結するので、特にT⊨⊥T\models\botである。帰結版により、T0⊨⊥T_0\models\botを満たす有限集合T0⊆TT_0\subseteq Tが存在する。この帰結はT0T_0が充足不可能であることを意味し、有限部分集合に関する仮定に反する。したがって充足可能性版が従う。

逆に充足可能性版を仮定し、T⊨φT\models\varphiとする。T∪{¬φ}T\cup\{\neg\varphi\}は充足不可能である。充足可能性版の対偶により、充足不可能な有限部分集合S⊆T∪{¬φ}S\subseteq T\cup\{\neg\varphi\}が存在する。T0=S∩TT_0=S\cap Tとおく。T0T_0は有限である。¬φ∈S\neg\varphi\in Sなら、T0∪{¬φ}T_0\cup\{\neg\varphi\}が充足不可能なのでT0⊨φT_0\models\varphiである。¬φ∉S\neg\varphi\notin SならT0=ST_0=S自身が充足不可能であり、この場合も空虚にT0⊨φT_0\models\varphiである。したがって帰結版が従う。▨

3 無限モデルの存在

有限個の一階文だけでは、構造が指定した有限の大きさ以上であるという条件を有限個しか要求することができない。この性質を用いて、任意に大きい有限モデルから一つの無限モデルを構成する。

正の整数nnに対して、ηn\eta_nを

∃x0⋯∃xn−1⋀0≤i<j<nxi≠xj\exists x_0\cdots\exists x_{n-1} \bigwedge_{0\le i<j<n}x_i\ne x_j

とする。ηn\eta_nは台集合に相異なるnn個の要素が存在することを述べる。

定理 3.1.TTをLL理論とする。すべての正の整数nnについて、濃度がnn以上である有限モデルMn⊨TM_n\models Tが存在すると仮定する。このときTTは無限モデルをもつ。

証明.

T∗=T∪{ηn∣1≤n<ω}T^*=T\cup\{\eta_n\mid 1\le n<\omega\}

とおく。T∗T^*の任意の有限部分集合SSを取る。SSに現れるηn\eta_nの添字の最大値をNNとする。SSにηn\eta_nが現れない場合はN=1N=1とする。仮定により、濃度がNN以上である有限モデルMN⊨TM_N\models Tが存在する。MNM_NはS∩TS\cap Tと、SSに現れるすべてのηn\eta_nを同時に満たす。したがってT∗T^*の各有限部分集合は充足可能である。

定理 1.1によりT∗T^*はモデルMMをもつ。MMはすべてのηn\eta_nを満たすため、任意の正の整数nnに対して相異なるnn個の要素をもつ。したがってMMは無限であり、M⊨TM\models Tである。▨

例 3.2 (有限線形順序から無限線形順序へ). 線形順序の公理からなる理論をTloT_{\mathrm{lo}}とする。各正の整数nnについてnn要素の線形順序が存在するので、定理 3.1によりTloT_{\mathrm{lo}}は無限モデルをもつ。この応用は無限線形順序を具体的に構成しないが、すべての有限下界を一つのモデルで同時に満たす。

4 有限構造全体は一階理論のモデル類ではない

定理 4.1.LLを集合サイズの有限項言語とする。LLの有限構造全体をモデル類としてもつ一階理論T⊆Sent⁡(L)T\subseteq\operatorname{Sent}(L)は存在しない。

証明. そのような理論TTが存在すると仮定する。

T∗=T∪{ηn∣1≤n<ω}T^*=T\cup\{\eta_n\mid 1\le n<\omega\}

とおく。T∗T^*の有限部分集合SSを任意に取る。SSに現れるηn\eta_nの添字より大きい正の整数NNを選ぶ。NN要素集合上にはLL構造を定めることができる。各定数記号には一つの要素を割り当て、正の項数の各関数記号は一つの固定要素を返す関数として解釈し、各関係記号は空関係として解釈すればよい。得られた構造は有限なので、仮定によりTTのすべての文を満たす。また、台集合がNN要素をもつため、SSに現れるすべてのηn\eta_nを満たす。したがってSSは充足可能である。

定理 1.1によりT∗T^*はモデルMMをもつ。MMはすべてのηn\eta_nを満たすので無限である。一方M⊨TM\models Tなので、TTのモデルはすべて有限であるという仮定に反する。したがって有限LL構造全体を一階理論のモデル類として指定することができない。▨

注意 4.2 (各有限濃度を一文で指定することとの違い). 固定した正の整数nnについて、台集合の濃度がちょうどnnであることは一つの一階文で表すことができる。相異なるnn個の要素の存在に加え、すべての要素がそのいずれかに等しいと述べればよい。不可能なのは、有限な濃度のどれかであるという無限選言を、一階理論のモデル類として一括して指定することである。

5 演習

問題 5.1.

  1. 各文が個別に充足可能であることと、各有限部分理論が充足可能であることの違いを例で説明せよ。
  2. T⊨φT\models\varphiの証明が実際に用いる前提を有限個へ減らす論証を書け。
  3. 定理 3.1で、TTの各有限部分だけでなくTT全体の大きい有限モデルを仮定した理由を説明せよ。
  4. 「無限構造全体」は一階理論のモデル類になることを示し、「有限構造全体」と比較せよ。
解答 (確認問題の解答).
  1. P(c)P(c)と¬P(c)\neg P(c)はそれぞれ単独では充足可能であるが、二文からなる有限集合は充足不可能である。
  2. 強完全性によりT⊢φT\vdash\varphiである。一つの導出は有限列なので、その中で前提として使うTTの文は有限個である。導出で用いた前提の集合をT0T_0とすればT0⊢φT_0\vdash\varphiであり、健全性からT0⊨φT_0\models\varphiとなる。
  3. 有限部分SSを満たすとき、S∩TS\cap Tと最大の濃度下界ηN\eta_Nを同時に満たす一つのモデルが必要である。TT全体の大きい有限モデルがあれば、この同時充足可能性が直ちに従う。
  4. 無限構造全体は文集合{ηn∣1≤n<ω}\{\eta_n\mid1\le n<\omega\}のモデル類である。各有限構造M\mathcal Mには、M⊭ηn\mathcal M\not\models\eta_nを満たす正整数nnが存在するため、その構造は除かれ、各無限構造はすべてを満たす。有限構造全体を指定しようとすると、コンパクト性がすべての有限下界を満たす無限モデルを生じさせる。

▨

参考文献

  1. Herbert B. Enderton, A Mathematical Introduction to Logic, 2nd ed., Academic Press, 2001.完全性定理からのコンパクト性定理と標準的な応用の扱いを参考にした。
  2. Wilfrid Hodges, A Shorter Model Theory, Cambridge University Press, 1997.コンパクト性の同値な定式化とモデル構成への応用の扱いを参考にした。

前提記事