一階述語論理の完全性定理と Gödel の不完全性定理は、同じ「完全性」という語を用いるが、量化する対象が異なる。完全性定理は、任意の理論から意味論的に帰結する各文が形式的にも導出されることを述べる。第一不完全性定理は、算術を十分に表現する無矛盾かつ計算可能に列挙することができる各理論について、その理論が文と否定のどちらも証明しない文の存在を述べる。第二不完全性定理は、同じ種類の理論のうち Peano 算術を含むものについて、その理論自身の無矛盾性を表す特定の文が証明されないことを述べる。本記事では三つの主張を量化記号の順序まで明示して比較し、それらが矛盾せず、むしろモデルの存在を介して正確に対応することを証明する。
1 二種類の完全性
定義 1.1. 固定した一階述語論理の証明体系が意味論的に完全 (semantically complete) であるとは、任意の理論と任意の文について
が成り立つことをいう。健全性と合わせると、とは同値になる。
一方、固定した理論が構文論的に完全 (syntactically complete) であるとは、の言語の任意の文について
が成り立つことをいう。
意味論的完全性は証明体系と意味論の対応に関する性質であり、構文論的完全性は一つの理論が各文を決定するか否かに関する性質である。「任意の理論」を量化する前者は、各が構文論的に完全であることを意味しない。
2 三つの定理の量化範囲
定理 2.1. 三つの定理は、次の形をもつ。
-
任意の集合サイズの有限項一階言語、任意の理論、任意の文について、
-
任意の無矛盾かつ計算可能に列挙することができる理論について、ある文が存在して、
-
任意の無矛盾かつ計算可能に列挙することができる理論について、標準証明述語に基づく無矛盾性文を
とすると、
が成り立つ。
証明. 第一の主張は§E16.12 定理 5.2が与える双条件である。言語や理論の計算可能性を仮定せず、が算術を含むことも要求しない。
第二の主張は§E16.23 定理 4.2の Rosser 文に関する結論である。理論の無矛盾性、計算可能列挙可能性、およびを仮定し、文の存在を結論する。
第三の主張は§E16.24 定理 10.1である。理論自身の標準証明述語によって定めた特定の文の非証明可能性を結論する。理論を量化する範囲は第二の主張より狭く、ではなくを仮定する。導出可能性条件 D2 と D3 の証明が対象理論の帰納法を用いるためである。▨
量化記号を略記すると、三つの主張の差は次のように表される。
| 定理 | 理論を量化する範囲 | 文の量化 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 意味論的完全性 | 任意の一階理論 | 任意の文 | |
| 第一不完全性 | 無矛盾かつ c.e. で | あるが存在 | かつ |
| 第二不完全性 | 無矛盾かつ c.e. で | 特定の |
第一行のは任意であるが、結論は「任意の文を証明するか、その否定を証明するか」ではない。結論は、のすべてのモデルで真になる文とから導出される文が一致するという主張である。
3 Rosser 文の両側にモデルが存在すること
不完全性定理が与える二つの非証明に強完全性を適用すると、Rosser 文を真にするモデルと偽にするモデルをそれぞれ得る。
定理 3.1.を無矛盾かつ計算可能に列挙することができる理論とし、とする。を
を満たす Rosser 文とする。このとき、構造とが存在して、
が成り立つ。特に、とはいずれも無矛盾である。
証明. まず、である。を仮定すると、§E16.12 定理 5.2からが得られ、非証明の仮定に反する。したがって、
である。意味論的帰結の定義により、のモデルでを満たすものが存在する。古典意味論ではは文なので、
である。ゆえに、である。
次に、である。同じ議論を文に適用すると、
を得る。したがって、のモデルでを満たすものが存在する。古典意味論によりなので、である。
モデルをもつ理論は、§E16.10 定理 6.1の健全性により無矛盾である。したがって、二つの拡大理論はいずれも無矛盾である。▨
二つのモデルは一般に同じモデルではない。はで真であり、で偽であるため、同一の古典構造が両方の役割を担うことはできない。このモデルの分岐こそが、もものすべてのモデルで真ではないことを表す。強完全性定理は、双方が意味論的帰結でないことを双方が証明不能であることに対応させるため、不完全性定理と矛盾しない。
4 第二不完全性が与えるモデル
第二不完全性定理にも、同じ意味論的な読み替えを一方向に適用することができる。
定理 4.1.を無矛盾かつ計算可能に列挙することができる理論とし、とする。このとき、ある構造が存在して、
が成り立つ。
証明. 第二不完全性定理により、である。もしならば、§E16.12 定理 5.2からが得られる。したがって、
である。意味論的帰結の定義から、のモデルでを満たすものが存在する。古典意味論によりなので、である。▨
外側のメタ理論でが無矛盾であるという仮定と、という結論は矛盾しない。はの標準証明述語を算術の内部で表した文であり、定理が得るを標準モデルと同一視する根拠はない。は、の内部で証明コードの条件を満たす要素をもつことがあり、その要素が外側の標準自然数に対応する有限証明コードであるとは限らない。
第二不完全性定理から直接得られる非証明はである。同じ仮定だけからまで結論することはできないため、本節はのモデルだけを主張する。 Rosser 文について両側のモデルを得た前節との違いは、上流の第一不完全性定理がとの二つを与える点にある。前節では二つの非証明の双方に強完全性定理を適用し、本節ではに強完全性定理を適用している。
理論を量化する範囲も前節と異なる。前節のはを含めばよいが、本節のはを含まなければならない。上流の第二不完全性定理が導出可能性条件を経由し、その証明が対象理論の帰納法を用いるからである。を含むがを含まない理論については、本記事はのモデルの存在を主張しない。
5 演習
問題 5.1.
- 一階述語論理の意味論的完全性が、任意の理論の構文論的完全性を意味しない理由を、二つの量化の形を用いて説明せよ。
- からのモデルを得る論証を述べよ。
- から得られるモデルが、メタ理論においてが無矛盾でないことを示さない理由を述べよ。
解答 (確認問題の解答).
- 意味論的完全性は、任意のとについてならばであるという条件である。構文論的完全性は、固定したの任意の文についてまたはであるという条件である。意味論的完全性は、またはのいずれかが必ず成り立つとは主張しない。
- ならば§E16.12 定理 5.2によりとなるため、からを得る。したがって、のモデルでが偽になるものが存在し、そのモデルはのモデルである。
- 得られるモデルは標準モデルであるとは限らない。モデルの内部で証明コードの条件を満たす要素が、外側の標準自然数による有限証明コードに対応するとは限らないため、はメタ理論での矛盾の証明が存在することを意味しない。
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