1 標準モデルの完全理論
定義 1.1.LA={0,S,+,×}とし、標準モデルをNとする。
Th(N)={σ∈Sent(LA)∣N⊨σ}をNの完全理論 (complete theory) という。
ここで「完全」は、各LA文σについてσと¬σの一方がTh(N)に属することを意味する。公理集合を計算して列挙することができるという意味ではない。
<は§E16.15 定義 1.1で定めた略記x<y⟺∃z(y=x+Sz)とする。LAに新しい定数記号cを加えた言語をLA(c)と書く。
定理 1.2. 標準モデルNと初等同値であり、PAを満たすLA構造Mで、どの標準自然数nに対してもnMと異なる要素をもつものが存在する。したがってMはNと同型ではない。
証明.LA(c)理論
T∗=Th(N)∪{n<c∣n∈N}を考える。ここでTh(N)の各文は、新しい定数cを含まないLA(c)文とみなす。
T∗の任意の有限部分集合T0を取る。T0に現れる不等式n<cの添字は有限個なので、それらすべてより大きい標準自然数Nを選ぶことができる。NをLA(c)構造へ展開し、cの値をNと解釈する。T0∩Th(N)の各文は定義によりNで真であり、cの解釈に依存しない。また、T0に現れる各n<cについてn<Nなので、その不等式もこの展開で真である。したがってT∗の各有限部分集合は充足可能である。
§E16.13 定理 1.1により、T∗を満たすLA(c)構造M∗が存在する。MをM∗のLAへの還元とし、a=cM∗とおく。M∗⊨Th(N)なので、任意のLA文σについて
N⊨σ⟹M⊨σ.逆にN⊨σなら¬σ∈Th(N)なのでM⊨¬σ、したがってM⊨σである。よってすべてのLA文σについて
M⊨σ⟺N⊨σ,すなわちM≡Nである。
§E16.15 定理 3.2によりPAの各公理τはNで真である。したがってτ∈Th(N)であり、M⊨τである。すべての公理について同じことが成り立つのでM⊨PAである。
さらに各標準自然数nについてM∗⊨n<cである。N⊨∀x∀y(x<y→x=y)なので、このLA文はTh(N)に属し、Mで真である。したがってnM=aである。aはどの標準数詞の値とも異なる。
もしf:M→Nが同型写像ならば、f(a)=nを満たす標準自然数n∈Nが存在する。fは定数0と関数Sを保つため、f(nM)=nである。fの単射性からa=nMとなり、直前の結論に反する。よってMはNと同型ではない。▨
2 標準と非標準の境界
定義 2.1.M⊨PAとする。要素a∈Mに対して、a=nMを満たす標準自然数n∈Nが存在するとき、aを標準要素 (standard element) という。どの標準自然数nに対してもa=nMとなる要素を非標準要素 (nonstandard element) という。
この定義における標準自然数n∈Nに関する存在量化はメタ言語に属する。モデルMの内部に、標準要素だけを一括して指定する述語を導入したわけではない。
命題 2.2.M⊨Th(N)とする。Mの非標準要素全体には、Mの<に関する最小要素がない。
証明.aを非標準要素とする。特にa=0Mである。
(Q3) はTh(N)に属するので、あるb∈Mが存在してa=SM(b)となる。bが標準要素ならば、b=nMを満たす標準自然数n∈Nが存在し、a=SM(nM)=n+1Mとなる。これはaの非標準性に反する。よってbも非標準要素である。
N⊨∀x(x<Sx)なので、このLA文はTh(N)に属し、Mで真である。特にM⊨b<SM(b)であり、a=SM(b)なのでb<aである。任意の非標準要素aより小さい非標準要素bが存在するため、非標準部分に最小要素はない。▨
注意 2.3 (コンパクト性が与えるもの). 構成したモデルMはPAのモデルであるだけでなく、Nと同じLA文をすべて満たす。一方、MがNの部分構造を文字どおり含むこと、Mの濃度が可算であること、または非標準要素の集合がMの内部で定義可能であることは、このコンパクト性の適用だけからは従わない。
例 2.4 (有限部分では上界を逃れられる).{0<c,1<c,…,100<c}は、標準構造でcを101と解釈すれば満たされる。同じ方法で、不等式を有限個だけ選んだ部分集合は常に標準構造の展開で満たされる。すべての標準数詞に対する要求を一つの標準自然数で満たすことはできないが、コンパクト性は別のモデルで同時充足を実現する。
3 演習
問題 3.1.
- T∗の有限部分集合を満たす際に、Th(N)の文の個数を気にしなくてよい理由を説明せよ。
- M∗⊨Th(N)からM≡Nの逆向きの含意を導く際に、完全理論であることをどのように用いたか。
- 構成したMがPAを満たす理由を、PAの公理スキーマを含めて説明せよ。
- 非標準要素全体に最小要素がないことを証明せよ。
解答 (確認問題の解答).
- 選んだ有限部分集合に含まれるTh(N)の文はすべて、定義により同じ標準構造Nで真である。cの解釈を変えても、これらの文はcを含まない。
- N⊨σの場合にN⊨¬σであり、¬σ∈Th(N)となることを用いた。したがってM⊨¬σである。
- N⊨PAなので、七公理と帰納法公理スキーマの各一階文はすべてTh(N)に属する。Mはその全体を満たす。
- 非標準要素aは零でないため (Q3) によりa=Sbと書くことができる。bが標準ならaも標準になるのでbは非標準であり、N⊨∀x(x<Sx)の初等移送からb<aである。
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