1 理論とモデル
定義 1.1.Σを一階シグネチャとする。集合
T⊆Sent(Σ)を Σ-理論 (Sigma-theory) という。Σ-構造MがTのモデル (model) であるとは、すべてのσ∈TについてM⊨σが成り立つことをいう。この関係をM⊨Tと書き、モデル類を
Mod(T)={M:M は Σ-構造であり M⊨T}と書く。
定義 1.2.Σ-理論Tが充足可能 (satisfiable theory) であるとは、Mod(T)=∅であることをいう。Σ-文σに対して
T⊨σとは、すべてのM∈Mod(T)についてM⊨σが成り立つことをいう。
定義 1.4.Σ-理論Tが完全 (complete theory) であるとは、任意のΣ-文σについて
T⊨σまたはT⊨¬σが成り立つことをいう。
例 1.7 (一つの構造の完全理論).Σ-構造Mに対して
Th(M)={σ∈Sent(Σ):M⊨σ}と置く。M自身がモデルであるためTh(M)は充足可能である。任意の文σについて、M⊨σまたはM⊨¬σのちょうど一方が成り立つ。前者ならσ∈Th(M)であり、Th(M)のすべてのモデルが公理σを満たす。後者なら同じ理由でTh(M)⊨¬σである。したがってTh(M)は完全である。
2 構造の同型
定義 2.1.M,Nを同じシグネチャΣの構造とし、台集合をそれぞれM,Nとする。全単射h:M→Nが同型 (isomorphism of structures) であるとは、次を満たすことをいう。
- 各f∈Fnとa1,…,an∈Mについて
h(fM(a1,…,an))=fN(h(a1),…,h(an)).
- 各R∈Rnとa1,…,an∈Mについて
(a1,…,an)∈RM⟺(h(a1),…,h(an))∈RN.
0項関数の場合、条件 (a)はh(cM)=cNを意味する。
補題 2.2.h:M≅NをΣ-構造の同型、s:Var→Mを割当て、tをΣ-項とする。このとき
h([[t]]sM)=[[t]]h∘sNである。
証明.tに関する構造帰納法を用いる。t=xの場合、両辺はh(s(x))である。t=cの場合は同型の定数保存条件から従う。t=f(t1,…,tn)の場合、帰納法の仮定と同型の関数保存条件により
h([[t]]sM)=h(fM([[t1]]sM,…,[[tn]]sM))=fN(h([[t1]]sM),…,h([[tn]]sM))=fN([[t1]]h∘sN,…,[[tn]]h∘sN)=[[t]]h∘sNとなる。▨
定理 2.3.h:M≅NをΣ-構造の同型、s:Var→Mを割当て、φをΣ-論理式とする。このとき
M,s⊨φ⟺N,h∘s⊨φである。
証明.φに関する構造帰納法を用いる。φがt=uなら、補題 2.2とhの単射性により
[[t]]sM=[[u]]sM⟺[[t]]h∘sN=[[u]]h∘sNである。φ=R(t1,…,tn)なら、項評価の移送と同型の関係保存条件から同値を得る。否定と含意の場合は、充足関係の対応する節と帰納法の仮定から従う。
φ=∀xψとする。任意のa∈Mについて
h∘(s[x↦a])=(h∘s)[x↦h(a)]である。帰納法の仮定により
M,s[x↦a]⊨ψ⟺N,(h∘s)[x↦h(a)]⊨ψ.hは全射でもあるから、aがM全体を動くとh(a)はN全体を動く。両辺をそれぞれすべてのa∈Mとすべてのb∈Nについて量化し、全称量化の充足節を適用すると
M,s⊨∀xψ⟺N,h∘s⊨∀xψを得る。▨
系 2.4.h:M≅Nを同型とする。任意のΣ-文σについて
M⊨σ⟺N⊨σである。したがって、任意のΣ-理論Tについて
M⊨T⟺N⊨Tである。
証明. 文の真偽は割当てに依存しない。任意の割当てs:Var→Mに定理 2.3を適用すれば文に関する同値を得る。理論に関する同値は、各σ∈Tへ文の同値を適用して全称量化すれば従う。▨
3 群の公理化
定義 3.1. 群のシグネチャ (language of groups)Σgrpは定数e、単項関数i、二項関数mをもつ。m(x,y)をx⋅y、i(x)をx−1と略記する。
定義 3.2. Tgrp (theory of groups) を次の三つの文からなる理論とする。
∀x∀y∀z((x⋅y)⋅z=x⋅(y⋅z)),∀x(e⋅x=x∧x⋅e=x),∀x(x−1⋅x=e∧x⋅x−1=e).
命題 3.3.Σgrp-構造GがTgrpのモデルであることと、台集合Gが演算mG、単位元eG、逆元写像iGによって群をなすことは同値である。
証明.G⊨Tgrpなら、第一文の充足は結合律、第二文の充足はeGが両側単位元であること、第三文の充足はiG(a)が各a∈Gの両側逆元であることを、それぞれすべての台集合の元について述べる。したがってGは群である。
逆にGが指定された演算で群なら、群の結合律、単位元律、逆元律を任意のa,b,c∈Gへ適用すると三つの文の Tarski 充足条件が成り立つ。よってG⊨Tgrpである。▨
例 3.4 (群理論は完全ではない). 可換性を表す文
σab=∀x∀y(x⋅y=y⋅x)を考える。整数加法群はTgrp∪{σab}のモデルである。三次対称群S3はTgrpのモデルであるが、例えば(12)(23)=(23)(12)なのでσabを満たさない。したがってTgrp⊨σabかつTgrp⊨¬σabであり、群理論は完全ではない。
4 線型順序の公理化
定義 4.1. 二項関係記号<だけをもつシグネチャで、Tlo (theory of strict linear orders) を次の文からなる理論とする。
∀x¬(x<x),∀x∀y∀z((x<y∧y<z)→x<z),∀x∀y(x<y∨x=y∨y<x).
命題 4.2.<を二項関係として解釈する構造AがTloのモデルであることと、<Aが台集合上の狭義線型順序であることは同値である。特に(Z,<)はTloのモデルである。
証明. 三つの文は順に非反射性、推移性、任意の二元の比較可能性を述べる。これらは狭義線型順序の公理である。逆向きも定義を Tarski の充足節へ展開すれば直ちに従う。整数の通常の大小関係はn<nを満たさず、m<n<n′ならm<n′を満たし、任意の整数m,nについてm<n,m=n,n<mのいずれかを満たす。したがって(Z,<)⊨Tloである。▨
5 算術の公理化
定義 5.1. 算術のシグネチャ (language of arithmetic)Σarは定数0、単項関数S、二項関数+と⋅をもつ。
定義 5.2. Robinson 算術Q (Robinson arithmetic Q) を次の七つの文からなるΣar-理論とする。
∀x¬(Sx=0),∀x∀y(Sx=Sy→x=y),∀x(¬(x=0)→∃yx=Sy),∀x(x+0=x),∀x∀y(x+Sy=S(x+y)),∀x(x⋅0=0),∀x∀y(x⋅Sy=(x⋅y)+x).
命題 5.3.N上で0,S,+,⋅をそれぞれ零、S(n)=n+1、通常の加法、通常の乗法として解釈した構造NはQのモデルである。
証明. 任意のm,n∈Nを取る。S(n)=n+1は0でなく、m+1=n+1ならm=nである。n=0なら自然数の離散性によりn=m+1=S(m)を満たすm∈Nが存在する。加法についてn+0=nとn+(m+1)=(n+m)+1が成り立つ。乗法についてn⋅0=0とn⋅(m+1)=n⋅m+nが成り立つ。各等式と存在主張は対応する七文の充足条件そのものであるから、N⊨Qである。▨
注意 5.4 (標準モデルと公理からの一意性).N⊨Qであることは、QのすべてのモデルがNと同型であることを意味しない。公理を満たす具体的な構造が存在することと、公理が同型を除いて構造を一意に特徴付けることは別の主張である。
6 演習
問題 6.1.
- 充足不能な理論が上の定義では完全となる理由と、充足可能性を必要とする定理では充足可能性を別の仮定として置く理由を、意味論的帰結の定義から説明せよ。
- 同型不変性の量化の場合に、hの単射性だけでなく全射性が必要となる理由を述べよ。
- 群理論が完全でないことを示す二つのモデルと一つの文を挙げよ。
- N⊨Qと「QのモデルはNだけである」との相違を述べよ。
解答 (確認問題の解答).
- モデルが存在しないと、すべてのモデルについての条件は空虚に成り立ち、任意の文σについてT⊨σとT⊨¬σが同時に成り立つ。したがってTは定義上完全である。しかし、完全性だけではモデルの存在を保証しないため、モデルを用いる定理では充足可能性を別の仮定として置かなければならない。
- ∀xはNのすべての元を調べる。各b∈Nをh(a)と書くために全射性が必要である。
- 整数加法群と三次対称群を取り、可換性の文∀x∀y(x⋅y=y⋅x)を用いる。
- 前者は七つの公理が標準モデルで真であるという主張である。後者は全モデルの同型型を一意にするという、前者より強い主張である。
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理論は文の集合、モデルは文を同時に満たす構造、完全な理論はすべての文を意味論的に決定する理論である。同型不変性は、一階文が構造の要素名ではなく構造そのものの性質を述べることを保証する。