§A1.3多項式の加減乗除と展開公式

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多項式(整式)とは、係数を実数、指数を非負整数として、3x2−2x+53x^2 - 2x + 5のように数と不定元の積(単項式)を有限個足し合わせた形式的な式のことです。 各単項式の文字部分の次数のうち最大のものを、その多項式の次数と呼びます。

ここではxxを不定元、係数をR\mathbb RとするR[x]\mathbb R[x]を基本の範囲とします。零多項式はすべての係数が00の多項式で、次数は通常定めない(または−∞-\inftyとする)とします。

多項式の計算は、この後のすべての単元で毎日使う「手の速さ」です。理屈は少なく、量が効きます。

1 加減:同類項をまとめる

文字の部分が同じ項(同類項)だけが足し引きできます。係数を足すだけです。

(3x2−2x+5)+(x2+4x−1)=4x2+2x+4(3x^2 - 2x + 5) + (x^2 + 4x - 1) = 4x^2 + 2x + 4

引き算では、後ろの多項式の全部の符号を反転してから足します。ここの符号ミスが非常に多いので、引く式には必ずカッコをつけて展開する癖をつけてください。

2 乗法:分配して、同類項をまとめる

各項を互いに掛け合わせて(分配法則)、最後に同類項をまとめます。次の展開公式は暗記して、見た瞬間に書けるようにします。

  • (a+b)2=a2+2ab+b2(a + b)^2 = a^2 + 2ab + b^2
  • (a−b)2=a2−2ab+b2(a - b)^2 = a^2 - 2ab + b^2
  • (a+b)(a−b)=a2−b2(a + b)(a - b) = a^2 - b^2
  • (x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+ab(x + a)(x + b) = x^2 + (a+b)x + ab
  • (a+b)3=a3+3a2b+3ab2+b3(a + b)^3 = a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3

これらは因数分解の「答えの形」でもあります。展開を速くしておくと、逆向きの因数分解も速くなります。

3 除法:割り算は次数を下げる方向に

零多項式でない多項式を多項式で割ると、商と余りが出ます。数の筆算と同じで、割られる式の最高次の項から順に消していき、余りの次数が割る式より小さくなったら終わりです。

x2+5x+3=(x+2)(x+3)−3⇒商 x+3, 余り −3x^2 + 5x + 3 = (x + 2)(x + 3) - 3 \quad\Rightarrow\quad \text{商 } x+3,\ \text{余り } -3

(除法・剰余の定理・因数定理は、発展レベルでさらに詳しく扱います。ここでは筆算の手順に慣れるのが目標です。)

閑話休題:掛け算の筆算は、最速ではなかった 多項式の掛け算と、大きな数の掛け算は、実は同じ計算です。237=2x2+3x+7237 = 2x^2 + 3x + 7(x=10x = 10)と思えば、数の筆算は多項式の展開そのもの。さて、nn桁 ×nn桁の筆算では、1桁どうしの掛け算を約n2n^2回やります。1960年、ソ連の大数学者コルモゴロフは「n2n^2回より本質的に速くはできないだろう」と予想をセミナーで語りました。ところがその席にいた23歳の学生カラツバが、1週間で反例を持ってきます。(ax+b)(cx+d)(a x + b)(c x + d)の展開にはac,ad,bc,bdac, ad, bc, bdの4つの積が要りそうですが、実はacac、bdbd、(a+b)(c+d)(a+b)(c+d)の3回で足ります——真ん中の係数はad+bc=(a+b)(c+d)−ac−bdad + bc = (a+b)(c+d) - ac - bdと、掛け算せずに引き算で出せるからです。桁を半分に割ってこれを再帰的に繰り返すと、掛け算の回数がn2n^2からおよそn1.58n^{1.58}に落ちます。

この「たった1回の節約」が突破口になり、その後フーリエ変換を使った高速乗算が開発され、 2019年にはついに理論限界と信じられるnlog⁡nn \log n級の方法に到達しました。暗号(数百桁の整数の演算)や円周率の兆桁計算は、この系譜のアルゴリズムなしには動きません。いま練習している展開・筆算の中に、20世紀後半まで誰も気づかなかった無駄が隠れていた——「当たり前の計算」ほど、疑うと深いのです。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

実数係数の式として、次の式を展開せよ。

解法の型展開公式に当てはめる(因数分解の「答えの形」)

  1. (1)(x−3)(x−6)(x-3)(x-6)
  2. (2)(x+4)(x−4)(x+4)(x-4)
  3. (3)(x+3)(x−3)(x+3)(x-3)
  4. (4)(x−6)2(x-6)^{2}
  5. (5)(2x+5)2(2x+5)^{2}

解法の型分配法則で各項を掛け、同類項をまとめる

  1. (1)(x−2)3(x-2)^{3}
  2. (2)(x+1)3(x+1)^{3}
  3. (3)(3x−4)(x+5)(3x-4)(x+5)
  4. (4)(x−4)(4x−1)(x-4)(4x-1)
  5. (5)(3x+1)(4x+3)(3x+1)(4x+3)

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

実数係数の式として、次の式を展開せよ。

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