同じ文字を用いた式でも、係数列として扱う多項式と、数を代入して値を得る関数とでは、等号が比較する対象が異なります。本記事は、不定元をもつ多項式・評価値・実数上の関数を区別し、実数係数多項式では係数の一致と対応する関数の値の一致が同値であることを証明します。
1 2つの文字は別の役割を持つ
定義 1.1 (形式的な多項式).を非負整数、を実数とする。式
を、係数列によって定まる実数係数多項式といい、を不定元という。二つの多項式が等しいとは、すべての次数で対応する係数が等しいことをいう。したがって、末尾に係数の項を書き加えても同じ多項式を表す。
公式 1.2 (実数での評価). 実数係数多項式
と実数に対して
と定める。は係数列で定まる多項式であり、は一つの実数である。
例 1.3 (同じ式表示が表す三つの対象). 多項式
は、係数列で定まる形式的な対象である。この多項式をで評価すると実数を得て、で評価すると実数を得る。
一方
と書いてを実数上の関数とすると、は入力される実数を表し、は各実数に実数を対応させる。は多項式、は評価によって得た実数、は実数を実数へ対応させる関数であり、三者の種類は異なる。
定理 1.4 (多項式の等号と対応する関数の等号).を実数係数多項式とし、対応する実数上の関数を
とする。このとき、であることと、すべての実数でであることは同値である。
証明.とする。対応する係数はすべて等しいので、任意の実数を各項へ代入するととなる。したがって、すべての実数でである。
逆に、すべての実数でとする。この仮定は、すべての実数でが成り立つことを意味する。§A1.9 定理 1.2によりとの対応する係数はすべて等しいので、である。▨
2 なぜ区別するのか
- 係数比較では、両辺を実数係数多項式として整理します。すべての実数で値が一致する場合には、§A1.9 定理 1.2を用いて係数の一致へ進みます。
- 整式の除法では、係数を用いて商と余りを求めます。このときのは特定の実数を表さない不定元です。
- 方程式では、等式を満たす実数を求めます。やで等式が成り立つことは、二つの多項式の係数が一致することを意味しません。