1 極形式:大きさと偏角で表す
零でない複素数z=0を、原点からの距離r=∣z∣>0と、実軸から測った角θ=argzで表したものが極形式です。z=0には偏角が定まらないので、極形式の議論から除外します。
z=r(cosθ+isinθ)
これは極座標そのもので、三角関数を前提とします。下の図でr,θを動かしてください。∣z∣が大きさ、argzが偏角です。
2 掛け算は回転と拡大
2つの複素数を極形式で掛けると、z1z2=r1r2(cos(θ1+θ2)+isin(θ1+θ2))となります(θ1,θ2はラジアンで測る)。実際に展開してi2=−1を使うと、括弧内が加法定理でちょうどcos(θ1+θ2),sin(θ1+θ2)にまとまるからです。つまり掛け算は「大きさの積・偏角の和」。とくにi(r=1,θ=π/2)を掛けると大きさそのままでπ/2回転。複素数の掛け算=回転と拡大、という見方が図形問題を一変させます。
3 ド・モアブルの定理と n 乗根
この積の規則をn回繰り返すと、ド・モアブルの定理が得られます。z=r(cosθ+isinθ) ⇒ zn=rn(cosnθ+isinnθ)(n は正の整数)偏角がそのままn倍になる、という強力な公式です。これを使うと 1のn乗根、すなわちzn=1の解が求まります。答えはzk=cosn2πk+isinn2πk(n∈N>0, k=0,1,…,n−1)のn個で、単位円周上にn2πずつ等間隔に並びます(zn=1なら∣z∣=1で偏角はnθ=2πk、余りで区別してn個)。
閑話休題:18歳のガウスと正17角形zn=1の解が単位円をn等分する——つまり 1 のn乗根は正n角形の頂点です。ここで古代ギリシャ以来の問題が複素数平面に合流します。「定規とコンパスだけで、どの正多角形が作図できるか」。正三角形と正五角形は古代から作図できましたが、その先の素数、正7角形も正11角形も正13角形も誰にも作図できず、2000 年間、素数の正多角形はこの2つで打ち止めだと思われていました。
1796 年の朝、18歳のガウスが目覚めてすぐ、正17角形が作図できることに気づきます。鍵は作図の代数化でした。定規とコンパスでできる操作は、座標でいえば四則と平方根の繰り返し。だから正17角形が作図できるかは「cos172πが平方根の入れ子だけで書けるか」という式の問題になり、17−1=16=24という都合のよい素因数分解のおかげで、17個の頂点をうまく組にまとめて
2次方程式を4回解くだけで届く——幾何の未解決問題が、1 の 17 乗根の対称性の計算に落ちたのです。この発見でガウスは数学者になることを決意し、生涯の誇りとして墓石に正17角形を刻むよう望んだと伝えられます(石工に「それはただの円にしか見えません」と断られ、故郷の記念碑には代わりに
17芒星が刻まれました)。どの正n角形が作図できるかの完全な答えは、n乗根たちの入れ替えの構造を調べるガロア理論(代数学II)で確定します。単位円上のn個の点は、その入口です。