1 4元数の積とノルム
定義 1.1 (4元数). 実数a,b,c,dを用いて
q=a+bi+cj+dkと表される数を4元数という。4元数の加法は係数ごとに定め、積は実数との分配法則および次の乗法表によって定める。
| 積 |
i |
j |
k |
| i |
−1 |
k |
−j |
| j |
−k |
−1 |
i |
| k |
j |
−i |
−1 |
したがってi2=j2=k2=ijk=−1である。とくにij=kであるがji=−kであるから、4元数の積では順序を交換することができない。
q=a+bi+cj+dkの共役とノルムを
qˉ=a−bi−cj−dk,∣q∣=a2+b2+c2+d2と定める。また、純虚4元数xi+yj+zkをベクトルx=(x,y,z)∈R3と同一視し、qを(a,x)とも書く。x=(x1,x2,x3)とy=(y1,y2,y3)に対して、この後の計算で用いる内積と外積は
x⋅y=x1y1+x2y2+x3y3,x×y=(x2y3−x3y2, x3y1−x1y3, x1y2−x2y1)である。
定理 1.2.p=(a,x)とq=(b,y)を4元数とすると、積は
(a,x)(b,y)=(ab−x⋅y, ay+bx+x×y)で与えられ、結合律を満たす。また、
pq=qˉpˉ,∣pq∣=∣p∣∣q∣,∣q∣2=qqˉ=qˉqが成り立つ。q=0ならば
q−1=∣q∣2qˉである。
証明.x=(x1,x2,x3)、y=(y1,y2,y3)とする。乗法表に従って係数を集めると、
pq=ab−x1y1−x2y2−x3y3+(ay1+bx1+x2y3−x3y2)i+(ay2+bx2+x3y1−x1y3)j+(ay3+bx3+x1y2−x2y1)kとなる。各係数を内積と外積の座標式で読み直すと、主張した積の式を得る。
座標式を展開すると、任意のx,y,z∈R3に対して
(x×y)⋅z=x⋅(y×z),(x×y)×z=y(x⋅z)−x(y⋅z),x×(y×z)=y(x⋅z)−z(x⋅y)が成り立つ。(a,x)(b,y)と(b,y)(c,z)に積の式を適用すると、二通りの括弧のスカラー部はともに
abc−cx⋅y−ay⋅z−bx⋅z−(x×y)⋅zとなり、ベクトル部はともに
abz+acy+bcx+c(x×y)+a(y×z)+b(x×z)−(x⋅y)z+(x⋅z)y−(y⋅z)xとなる。したがって4元数の積は結合律を満たす。
pˉ=(a,−x)、qˉ=(b,−y)を積の式へ代入すると、
pq=(ab−x⋅y,−ay−bx−x×y)=qˉpˉを得る。また、
qqˉ=qˉq=(b2+y⋅y,0)=∣q∣2である。結合律と共役の式により
∣pq∣2=pqpq=pqqˉpˉ=∣q∣2ppˉ=∣p∣2∣q∣2となる。両辺の非負の平方根を取ると∣pq∣=∣p∣∣q∣を得る。q=0ならば∣q∣2>0であり、
q∣q∣2qˉ=1,∣q∣2qˉq=1であるから、逆元の式が成り立つ。▨
2 単位4元数による回転
定理 2.1.n∈R3を単位ベクトル、θ∈[0,π]とし、
q=cos2θ+nsin2θとおく。このとき∣q∣=1であり、任意のv∈R3に対して
qvq−1=cosθv+(1−cosθ)(n⋅v)n+sinθ(n×v)が成り立つ。右辺は軸n、角θの回転である。共役の計算では半角の正弦と余弦が二度ずつ掛け合わされ、cosθ、sinθ、1−cosθが生じるため、qには回転角の半角が現れる。
証明.c=cos(θ/2)、s=sin(θ/2)とおく。定理 1.2により∣q∣2=c2+s2=1であり、q−1=(c,−sn)である。純虚4元数vに積の式を二度適用すると、
qv=(−sn⋅v, cv+sn×v)となる。これにq−1を右から掛けた積のスカラー部は
−csn⋅v+csv⋅n+s2(n×v)⋅n=0である。ベクトル部は
=s2(n⋅v)n+c2v+csn×v−csv×n−s2(n×v)×n(c2−s2)v+2s2(n⋅v)n+2cs(n×v)となる。ここではv×n=−n×vと
(n×v)×n=v−(n⋅v)nを用いた。c2−s2=cosθ、2s2=1−cosθ、2cs=sinθを代入すると、主張した式を得る。
nに直交する単位ベクトルeを取り、f=n×eとおく。たとえばn12+n22>0のときはe=(−n2,n1,0)/n12+n22と取り、n1=n2=0のときはe=(1,0,0)と取ることができる。座標式からe,f,nは互いに直交する単位ベクトルであり、n×f=−eである。上の式が定める変換は、基底(e,f,n)に関して
cosθsinθ0−sinθcosθ0001で表される。この行列は転置行列との積が単位行列であり、行列式が1である。したがって§A2.17 定義 1.1により、この変換はSO(3)の元であり、軸nを固定してその直交平面を角θだけ回転する。▨
定理 2.2. 単位4元数qに対して
ρ(q)(v)=qvq−1とおく。単位4元数p,qに対して
ρ(pq)=ρ(p)∘ρ(q)が成り立つ。
証明. 単位4元数p,qと純虚4元数vを取る。定理 1.2により∣pq∣=1かつ(pq)−1=q−1p−1である。結合律を用いると、
ρ(pq)(v)=(pq)v(pq)−1=p(qvq−1)p−1=ρ(p)(ρ(q)(v))となる。▨
3 SU(2)とSO(3)
定理 3.1. 次の形の複素行列の集合をSU(2)と書く。
SU(2)={(α−βˉβαˉ):α,β∈C, ∣α∣2+∣β∣2=1}.対応
Φ(a+bi+cj+dk)=(a+bi−c+dic+dia−bi)は、単位4元数全体とSU(2)との一対一対応であり、任意の4元数p,qに対してΦ(pq)=Φ(p)Φ(q)を満たす。
証明.p=a+bi+cj+dkとおく。α=a+bi、β=c+diとすれば
∣α∣2+∣β∣2=a2+b2+c2+d2=∣p∣2である。したがって∣p∣=1ならばΦ(p)∈SU(2)である。逆に、SU(2)の行列のαとβの実部および虚部はa,b,c,dを一意に定め、その条件は∣p∣=1に等しい。よってΦは単位4元数全体とSU(2)との一対一対応である。
q=e+fi+gj+hkとおく。乗法表から
pq=A+Bi+Cj+Dkの各係数は
ABCD=ae−bf−cg−dh,=af+be+ch−dg,=ag+ce+df−bh,=ah+de+bg−cfとなる。一方、行列積の上段は
(a+bi)(e+fi)+(c+di)(−g+hi)=A+Bi,(a+bi)(g+hi)+(c+di)(e−fi)=C+Diであり、下段は−(C−Di)とA−Biになる。したがってΦ(p)Φ(q)=Φ(pq)である。▨
定理 3.2.定理 3.1によって単位4元数とSU(2)を対応させると、ρはSU(2)からSO(3)への全射を与える。その核は
kerρ={1,−1}であり、各R∈SO(3)に対応する単位4元数はちょうどqと−qの二つである。
証明.R∈SO(3)を取る。§A2.17 定理 3.1により、Rには単位ベクトルnを軸とする角θ∈[0,π]の表示がある。単位4元数
q=cos2θ+nsin2θを取ると、定理 2.1によりρ(q)は軸n、角θの回転であるから、ρ(q)=Rである。したがってρは全射である。
q=a+bi+cj+dkが単位4元数であり、ρ(q)が恒等回転であるとする。すべての純虚4元数vに対してqvq−1=vであるから、右からqを掛けるとqv=vqとなる。v=iとして両辺のj,k成分を比べるとc=d=0を得る。さらにv=jとしてk成分を比べるとb=0を得る。したがってq=aであり、単位条件からa=1またはa=−1である。逆に1と−1はすべての4元数と可換であり、恒等回転を与える。よってkerρ={1,−1}である。
p,qが同じ回転を与える単位4元数であるとする。定理 2.2により
ρ(q−1p)=ρ(q)−1∘ρ(p)は恒等回転であるから、q−1p=1またはq−1p=−1である。したがってp=qまたはp=−qである。実際、qと−qはともに同じ回転を与えるので、各回転の逆像はちょうど{q,−q}である。▨