§A2.19円分多項式

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正の整数nnに対して、1のnn乗根を複素数平面に並べます。n≥3n\ge3のとき、これらは正nn角形の頂点になります。xn−1x^n-1を因数分解して円分多項式をつくり、根の配置と多項式の形を結び付けます。

1 原始nn乗根

正の整数nnに対し、1のnn乗根は

ζnk=cos⁡2πkn+isin⁡2πkn(k=0,1,…,n−1)\zeta_n^k=\cos\frac{2\pi k}{n}+i\sin\frac{2\pi k}{n} \qquad (k=0,1,\ldots,n-1)

のnn個です。n≥3n\ge3のとき、これらは複素数平面の単位円を等分し、正nn角形の頂点になります。

定義 1.1 (原始nn乗根). 1のnn乗根zzに対し、zm=1z^m=1となる最小の正の整数mmがnnであるとき、zzを 原始nn乗根 (primitive nth root of unity) という。

k=0,1,…,n−1k=0,1,\ldots,n-1に対して、ζnk\zeta_n^kが原始nn乗根であることとgcd⁡(k,n)=1\gcd(k,n)=1であることは同値である。

証明.z=ζnkz=\zeta_n^kとし、正の整数mmをとる。zm=1z^m=1であることは

kmn∈Z,\frac{km}{n}\in\mathbb Z,

すなわちn∣kmn\mid kmであることと同値である。g=gcd⁡(k,n)g=\gcd(k,n)、k=gk′k=gk'、n=gn′n=gn'と書くとgcd⁡(k′,n′)=1\gcd(k',n')=1であるから、n∣kmn\mid kmであることはn′∣mn'\mid mであることと同値である。したがって、zm=1z^m=1となる最小の正の整数は

n′=ngcd⁡(k,n)n'=\frac{n}{\gcd(k,n)}

である。この最小の整数がnnに等しいこととgcd⁡(k,n)=1\gcd(k,n)=1であることは同値である。▨

定義 1.2 (円分多項式). 正の整数nnに対し、原始nn乗根すべてを一度ずつ用いて

Φn(x)=∏z は原始 n 乗根(x−z)\Phi_n(x)=\prod_{\substack{z\text{ は原始 }n\text{ 乗根}}}(x-z)

と定め、Φn(x)\Phi_n(x)を第nn円分多項式 (cyclotomic polynomial) という。

1≤k≤n1\le k\le nのうちgcd⁡(k,n)=1\gcd(k,n)=1となる整数の個数をφ(n)\varphi(n)と書く。原始nn乗根の個数はφ(n)\varphi(n)であるから、Φn(x)\Phi_n(x)は次数φ(n)\varphi(n)のモニック多項式である。

2 円分因子分解と整数係数

定理 2.1. すべての正の整数nnに対して

xn−1=∏d∣nΦd(x)x^n-1=\prod_{d\mid n}\Phi_d(x)

が成り立つ。また、すべてのnnに対してΦn(x)\Phi_n(x)の係数は整数である。

証明.xn−1x^n-1の根zzを一つとり、zm=1z^m=1となる最小の正の整数をddとする。zn=1z^n=1であるから、nnをddで割ってn=qd+rn=qd+r、0≤r<d0\le r<dと書くと、

1=zn=(zd)qzr=zr1=z^n=(z^d)^qz^r=z^r

となる。ddの最小性からr=0r=0であり、d∣nd\mid nである。さらに、zzは原始dd乗根である。

反対に、d∣nd\mid nであるとき、原始dd乗根zzはzn=(zd)n/d=1z^n=(z^d)^{n/d}=1を満たす。したがって、xn−1x^n-1の各根は、その根が初めて1へ戻る指数ddによって、d∣nd\mid nを満たす原始dd乗根の組へ重複なく分類される。xn−1x^n-1は相異なるnn個の根をもち、両辺はこれらの根から作るモニックな一次式の積であるから、

xn−1=∏d∣nΦd(x)x^n-1=\prod_{d\mid n}\Phi_d(x)

を得る。

nnに関する帰納法でΦn(x)\Phi_n(x)の係数が整数であることを示す。n=1n=1ではΦ1(x)=x−1\Phi_1(x)=x-1である。n>1n>1とし、すべての正の整数d<nd<nについてΦd(x)\Phi_d(x)の係数が整数であると仮定する。nnの真の約数はnnより小さいので、

Fn(x)=∏d∣nd<nΦd(x)F_n(x)=\prod_{\substack{d\mid n\\d<n}}\Phi_d(x)

は整数係数のモニック多項式である。

xn−1x^n-1をモニックなFn(x)F_n(x)で筆算すると、整数係数の多項式Q(x),R(x)Q(x),R(x)が存在して

xn−1=Fn(x)Q(x)+R(x),deg⁡R<deg⁡Fnx^n-1=F_n(x)Q(x)+R(x),\qquad \deg R<\deg F_n

となる。一方、すでに示した因数分解により、複素数係数の多項式として

xn−1=Fn(x)Φn(x)x^n-1=F_n(x)\Phi_n(x)

である。多項式の商と余りは一意であるから、R(x)=0R(x)=0かつQ(x)=Φn(x)Q(x)=\Phi_n(x)となる。Q(x)Q(x)は整数係数なので、Φn(x)\Phi_n(x)も整数係数である。帰納法により、すべての正の整数nnについて結論を得る。▨

3 n=1n=1から1212までの計算

例 3.1. 因数分解の式から

Φn(x)=xn−1∏d∣nd<nΦd(x)\Phi_n(x)=\frac{x^n-1}{\displaystyle\prod_{\substack{d\mid n\\d<n}}\Phi_d(x)}

として順に計算すると、次の表を得る。

nn Φn(x)\Phi_n(x) nn Φn(x)\Phi_n(x)
11 x−1x-1 77 x6+x5+x4+x3+x2+x+1x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1
22 x+1x+1 88 x4+1x^4+1
33 x2+x+1x^2+x+1 99 x6+x3+1x^6+x^3+1
44 x2+1x^2+1 1010 x4−x3+x2−x+1x^4-x^3+x^2-x+1
55 x4+x3+x2+x+1x^4+x^3+x^2+x+1 1111 x10+x9+x8+x7+x6+x5+x4+x3+x2+x+1x^{10}+x^9+x^8+x^7+x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1
66 x2−x+1x^2-x+1 1212 x4−x2+1x^4-x^2+1

例えばn=12n=12の真の約数は1,2,3,4,61,2,3,4,6であるから、

Φ12(x)=x12−1Φ1(x)Φ2(x)Φ3(x)Φ4(x)Φ6(x)=x4−x2+1\Phi_{12}(x)= \frac{x^{12}-1}{\Phi_1(x)\Phi_2(x)\Phi_3(x)\Phi_4(x)\Phi_6(x)} =x^4-x^2+1

となる。

4 正17角形との関係

例 4.1 (1の17乗根). 1の17乗根は単位円を17等分するので、正17角形の頂点になる。17は素数であるから、1以外の1の17乗根はすべて原始17乗根であり、

Φ17(x)=x17−1x−1=x16+x15+⋯+x+1\Phi_{17}(x)=\frac{x^{17}-1}{x-1} =x^{16}+x^{15}+\cdots+x+1

は1以外の16頂点に対応する。

本記事の内容は現行の高等学校の学習指導要領には含まれず、本単元の修了条件にも含めません。ガウスは、正17角形が定規とコンパスで作図可能であることを示しました。deg⁡Φ17=16=24\deg\Phi_{17}=16=2^4は二次拡大を重ねる構造と整合しますが、この等式だけでは作図可能性の証明にはなりません。円分多項式の既約性、体の拡大次数、作図可能性の判定は、後続の「環・体・ガロア理論」で扱います。