§E11.2条件付き確率と Bayes の公式

最終更新

新しい情報を得た後の確率は、その情報を表す事象の内部で確率測度を正規化することによって定まる。本記事では、正の確率をもつ事象に限って条件付き確率を定義する。この定義から、同時に起こる事象の確率を分解する乗法公式、場合分けを合成する全確率の公式、および原因と結果の向きを入れ替える Bayes の公式を導く。

1 条件付き確率

確率空間(Ω,F,P)(\Omega,\mathcal F,P)を固定する。事象B∈FB\in\mathcal FがP(B)>0P(B)>0を満たすとき、BBが起こったという情報の下では、AAとBBが同時に起こる確率をP(B)P(B)で正規化する。

定義 1.1.A,B∈FA,B\in\mathcal FとP(B)>0P(B)>0に対して、BBの下でのAAの条件付き確率 (conditional probability ofAAgivenBB) を

P(A∣B)=P(A∩B)P(B)P(A\mid B)=\frac{P(A\cap B)}{P(B)}

と定める。

条件P(B)>0P(B)>0は除くことができない。P(B)=0P(B)=0の場合には右辺が定義されず、上の比だけからBBの内部の確率を指定することもできない。

命題 1.2.B∈FB\in\mathcal FとP(B)>0P(B)>0を固定する。このとき、集合関数

PB(A)=P(A∣B)(A∈F)P_B(A)=P(A\mid B)\qquad(A\in\mathcal F)

は(Ω,F)(\Omega,\mathcal F)上の確率測度である。また、PB(B)=1P_B(B)=1である。

証明.PB(∅)=0P_B(\emptyset)=0であり、

PB(Ω)=P(B)P(B)=1P_B(\Omega)=\frac{P(B)}{P(B)}=1

である。A1,A2,…∈FA_1,A_2,\ldots\in\mathcal Fが二つずつ交わらないならば、A1∩B,A2∩B,…A_1\cap B,A_2\cap B,\ldotsも二つずつ交わらない。PPの可算加法性から

PB(⋃n=1∞An)=P((⋃nAn)∩B)P(B)=∑n=1∞P(An∩B)P(B)=∑n=1∞PB(An)\begin{aligned} P_B\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) &=\frac{P\left((\bigcup_nA_n)\cap B\right)}{P(B)}\\ &=\frac{\sum_{n=1}^{\infty}P(A_n\cap B)}{P(B)} =\sum_{n=1}^{\infty}P_B(A_n) \end{aligned}

を得る。すべての項が非負であるため、定数1/P(B)1/P(B)を非負級数の外へ出す操作は正当である。最後にPB(B)=P(B∩B)/P(B)=1P_B(B)=P(B\cap B)/P(B)=1である。▨

2 乗法公式

条件付き確率の定義を分母について解くと、共通部分の確率を二段階に分ける公式が得られる。

定理 2.1 (乗法公式).A,B∈FA,B\in\mathcal Fとする。

  1. P(B)>0P(B)>0ならば、 P(A∩B)=P(A∣B)P(B)P(A\cap B)=P(A\mid B)P(B) が成り立つ。
  2. A1,…,An∈FA_1,\ldots,A_n\in\mathcal FについてP(A1∩⋯∩Ak−1)>0P(A_1\cap\cdots\cap A_{k-1})>0が2≤k≤n2\leq k\leq nで成り立つならば、 P(A1∩⋯∩An)=P(A1)∏k=2nP(Ak∣A1∩⋯∩Ak−1)P(A_1\cap\cdots\cap A_n) =P(A_1)\prod_{k=2}^{n}P\bigl(A_k\mid A_1\cap\cdots\cap A_{k-1}\bigr) が成り立つ。

証明.(1)を示す。定義 1.1の等式にP(B)P(B)を掛けると得られる。(2)を示す。nnについての帰納法で示す。n=2n=2は(1)である。n−1n-1個の場合を仮定すると、(1)をA=AnA=A_n、B=A1∩⋯∩An−1B=A_1\cap\cdots\cap A_{n-1}に適用して

P(A1∩⋯∩An)=P(An∣A1∩⋯∩An−1)P(A1∩⋯∩An−1)P(A_1\cap\cdots\cap A_n) =P\bigl(A_n\mid A_1\cap\cdots\cap A_{n-1}\bigr) P(A_1\cap\cdots\cap A_{n-1})

を得る。第二因子へ帰納法の仮定を代入すれば主張の積になる。▨

例 2.2 (三回の非復元抽出). 赤玉が33個、白玉が22個入った袋から、玉を戻さずに三回取り出す。第kk回に赤玉を引く事象をRkR_kとする。三回とも赤玉である確率は乗法公式により

P(R1∩R2∩R3)=35⋅24⋅13=110P(R_1\cap R_2\cap R_3) =\frac35\cdot\frac24\cdot\frac13=\frac1{10}

である。順序を区別して数えると、全事象が5⋅4⋅3=605\cdot4\cdot3=60通り、赤玉だけを並べる事象が3⋅2⋅1=63\cdot2\cdot1=6通りであり、6/60=1/106/60=1/10と一致する。

3 全確率の公式

場合分けに用いる事象が標本空間を重なりなく覆うとき、各場合の条件付き確率を、その場合が起こる確率で重み付けして足す。

定義 3.1. 有限列C1,…,CN∈FC_1,\ldots,C_N\in\mathcal F、または可算列C1,C2,…∈FC_1,C_2,\ldots\in\mathcal FがΩ\Omegaの可測分割 (measurable partition) であるとは、各CnC_nが空でなく、二つずつ交わらず、⋃nCn=Ω\bigcup_nC_n=\Omegaが成り立つことをいう。本記事ではさらにP(Cn)>0P(C_n)>0をすべてのnnについて仮定する。

定理 3.2 (全確率の公式).(Cn)(C_n)を定義 3.1の有限または可算な可測分割とする。このとき、任意のA∈FA\in\mathcal Fに対して

P(A)=∑nP(A∣Cn)P(Cn)P(A)=\sum_n P(A\mid C_n)P(C_n)

が成り立つ。有限分割では右辺は有限和であり、可算分割では非負級数である。

証明.A=A∩Ω=⋃n(A∩Cn)A=A\cap\Omega=\bigcup_n(A\cap C_n)であり、A∩CnA\cap C_nは二つずつ交わらない。有限加法性または可算加法性と定理 2.1により

P(A)=∑nP(A∩Cn)=∑nP(A∣Cn)P(Cn)P(A)=\sum_nP(A\cap C_n)=\sum_nP(A\mid C_n)P(C_n)

を得る。可算分割の場合、各項は非負であり、部分和はP(A)P(A)以下で増加する。したがって、右辺は部分和の上限として収束し、その値は可算加法性が与えるP(A)P(A)に等しい。▨

4 Bayes の公式

全確率の公式を分母に用いると、観測AAの下で各場合CjC_jが起こった確率を、逆向きの条件付き確率から計算することができる。

定理 4.1 (Bayes の公式).(Cn)(C_n)を定義 3.1の有限または可算な可測分割とし、A∈FA\in\mathcal FがP(A)>0P(A)>0を満たすとする。このとき、任意の添字jjに対して

P(Cj∣A)=P(A∣Cj)P(Cj)∑nP(A∣Cn)P(Cn)P(C_j\mid A) =\frac{P(A\mid C_j)P(C_j)}{\sum_nP(A\mid C_n)P(C_n)}

が成り立つ。分母の級数は収束し、その値は正である。

証明. 乗法公式から

P(Cj∣A)=P(Cj∩A)P(A)=P(A∣Cj)P(Cj)P(A)P(C_j\mid A)=\frac{P(C_j\cap A)}{P(A)} =\frac{P(A\mid C_j)P(C_j)}{P(A)}

である。定理 3.2により、分母P(A)P(A)は表示された有限和または非負級数に等しい。仮定P(A)>0P(A)>0から分母は正である。▨

例 4.2 (検査結果から原因の確率を更新する). ある状態をもつ事象をDDとし、P(D)=1/100P(D)=1/100とする。検査が陽性となる事象をTTとし、P(T∣D)=9/10P(T\mid D)=9/10、P(T∣Ω∖D)=1/20P(T\mid\Omega\setminus D)=1/20とする。D,Ω∖DD,\Omega\setminus Dは可測分割なので、

P(T)=9101100+12099100=1172000P(T)=\frac9{10}\frac1{100}+\frac1{20}\frac{99}{100} =\frac{117}{2000}

である。したがって、Bayes の公式から

P(D∣T)=(9/10)(1/100)117/2000=213P(D\mid T)=\frac{(9/10)(1/100)}{117/2000}=\frac2{13}

を得る。陽性という結果だけで事前確率1/1001/100を無視してはならないことが、分母の全確率に現れている。

5 演習

問題 5.1.

  1. P(A)>0P(A)>0、P(B)>0P(B)>0とする。P(A∣B)=P(A)P(A\mid B)=P(A)とP(B∣A)=P(B)P(B\mid A)=P(B)が同値であることを、乗法公式だけを用いて証明せよ。
  2. (Cn)n≥1(C_n)_{n\geq1}を各P(Cn)>0P(C_n)>0を満たす可測分割とする。A∈FA\in\mathcal Fに対してP(A∣Cn)=cP(A\mid C_n)=cがすべてのnnで成り立つならば、P(A)=cP(A)=cであることを証明せよ。
  3. 例 4.2で偽陽性率だけを1/1001/100に変更したとき、P(D∣T)P(D\mid T)を既約分数で求めよ。全確率の分母も計算すること。

6 本記事の境界と次の課題

本記事の条件付き確率は、正の確率をもつ一つの事象による条件付けである。零確率の事象による条件付けを比として定義することはできず、条件付き期待値、確率核、および正則条件付き分布には別の構成が必要である。確率変数による条件付けは、条件となる確率変数が生成する部分シグマ加法族に関して可測な可積分確率変数として、本単元の「条件付き期待値」で Radon–Nikodym の定理から構成する。

参考文献

  1. Achim Klenke, Probability Theory, 3rd ed., Universitext, Springer, 2020.条件付き確率、全確率の公式、および Bayes の公式の定式化を参考にした。
  2. David Williams, Probability with Martingales, Cambridge University Press, 1991.可算分割に沿う条件付けと非負級数の扱いを参考にした。

前提記事