1 条件付き確率
確率空間(Ω,F,P)を固定する。事象B∈FがP(B)>0を満たすとき、Bが起こったという情報の下では、AとBが同時に起こる確率をP(B)で正規化する。
定義 1.1.A,B∈FとP(B)>0に対して、Bの下でのAの条件付き確率 (conditional probability ofAgivenB) を
P(A∣B)=P(B)P(A∩B)と定める。
条件P(B)>0は除くことができない。P(B)=0の場合には右辺が定義されず、上の比だけからBの内部の確率を指定することもできない。
命題 1.2.B∈FとP(B)>0を固定する。このとき、集合関数
PB(A)=P(A∣B)(A∈F)は(Ω,F)上の確率測度である。また、PB(B)=1である。
証明.PB(∅)=0であり、
PB(Ω)=P(B)P(B)=1である。A1,A2,…∈Fが二つずつ交わらないならば、A1∩B,A2∩B,…も二つずつ交わらない。Pの可算加法性から
PB(n=1⋃∞An)=P(B)P((⋃nAn)∩B)=P(B)∑n=1∞P(An∩B)=n=1∑∞PB(An)を得る。すべての項が非負であるため、定数1/P(B)を非負級数の外へ出す操作は正当である。最後にPB(B)=P(B∩B)/P(B)=1である。▨
2 乗法公式
条件付き確率の定義を分母について解くと、共通部分の確率を二段階に分ける公式が得られる。
証明.(1)を示す。定義 1.1の等式にP(B)を掛けると得られる。(2)を示す。nについての帰納法で示す。n=2は(1)である。n−1個の場合を仮定すると、(1)をA=An、B=A1∩⋯∩An−1に適用して
P(A1∩⋯∩An)=P(An∣A1∩⋯∩An−1)P(A1∩⋯∩An−1)を得る。第二因子へ帰納法の仮定を代入すれば主張の積になる。▨
例 2.2 (三回の非復元抽出). 赤玉が3個、白玉が2個入った袋から、玉を戻さずに三回取り出す。第k回に赤玉を引く事象をRkとする。三回とも赤玉である確率は乗法公式により
P(R1∩R2∩R3)=53⋅42⋅31=101である。順序を区別して数えると、全事象が5⋅4⋅3=60通り、赤玉だけを並べる事象が3⋅2⋅1=6通りであり、6/60=1/10と一致する。
3 全確率の公式
場合分けに用いる事象が標本空間を重なりなく覆うとき、各場合の条件付き確率を、その場合が起こる確率で重み付けして足す。
定義 3.1. 有限列C1,…,CN∈F、または可算列C1,C2,…∈FがΩの可測分割 (measurable partition) であるとは、各Cnが空でなく、二つずつ交わらず、⋃nCn=Ωが成り立つことをいう。本記事ではさらにP(Cn)>0をすべてのnについて仮定する。
証明.A=A∩Ω=⋃n(A∩Cn)であり、A∩Cnは二つずつ交わらない。有限加法性または可算加法性と定理 2.1により
P(A)=n∑P(A∩Cn)=n∑P(A∣Cn)P(Cn)を得る。可算分割の場合、各項は非負であり、部分和はP(A)以下で増加する。したがって、右辺は部分和の上限として収束し、その値は可算加法性が与えるP(A)に等しい。▨
4 Bayes の公式
全確率の公式を分母に用いると、観測Aの下で各場合Cjが起こった確率を、逆向きの条件付き確率から計算することができる。
証明. 乗法公式から
P(Cj∣A)=P(A)P(Cj∩A)=P(A)P(A∣Cj)P(Cj)である。定理 3.2により、分母P(A)は表示された有限和または非負級数に等しい。仮定P(A)>0から分母は正である。▨
例 4.2 (検査結果から原因の確率を更新する). ある状態をもつ事象をDとし、P(D)=1/100とする。検査が陽性となる事象をTとし、P(T∣D)=9/10、P(T∣Ω∖D)=1/20とする。D,Ω∖Dは可測分割なので、
P(T)=1091001+20110099=2000117である。したがって、Bayes の公式から
P(D∣T)=117/2000(9/10)(1/100)=132を得る。陽性という結果だけで事前確率1/100を無視してはならないことが、分母の全確率に現れている。
5 演習
問題 5.1.
- P(A)>0、P(B)>0とする。P(A∣B)=P(A)とP(B∣A)=P(B)が同値であることを、乗法公式だけを用いて証明せよ。
- (Cn)n≥1を各P(Cn)>0を満たす可測分割とする。A∈Fに対してP(A∣Cn)=cがすべてのnで成り立つならば、P(A)=cであることを証明せよ。
- 例 4.2で偽陽性率だけを1/100に変更したとき、P(D∣T)を既約分数で求めよ。全確率の分母も計算すること。
6 本記事の境界と次の課題
本記事の条件付き確率は、正の確率をもつ一つの事象による条件付けである。零確率の事象による条件付けを比として定義することはできず、条件付き期待値、確率核、および正則条件付き分布には別の構成が必要である。確率変数による条件付けは、条件となる確率変数が生成する部分シグマ加法族に関して可測な可積分確率変数として、本単元の「条件付き期待値」で Radon–Nikodym の定理から構成する。