§E14.5十分統計量

最終更新

成功確率が零と一の間にある未知の値である Bernoulli 分布から独立同分布標本を得ると、観測結果は零と一からなる列として記録される。しかし、成功回数を固定した後では、同じ個数の成功を含む各列の条件付き確率は等しく、未知の成功確率に依存しない。母数についての情報を保ったまま、標本の並びを成功回数へ縮約することができる。

十分統計量は、統計量を与えた下で標本に残る確率的変動が母数に依存しないという性質を、条件付き期待値によって定式化する。支配されたモデルでは、この性質を密度の因子分解から判定することができ、一径数指数型分布族では標本和が代表的な十分統計量となる。十分性は、尤度が運ぶ母数依存性をどの統計量へ集約することができるかを明らかにする最も基本的な概念の一つであり、後続の推定量の改善を支える。

本記事では、十分統計量と最小十分統計量の基本的な性質を扱う。

1 十分性

定義 1.1 (十分統計量).(X,A)(\mathcal X,\mathcal A)上の確率測度の非空な族(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}と、可測写像T:(X,A)→(Y,B)T:(\mathcal X,\mathcal A)\to(\mathcal Y,\mathcal B)を考える。任意の有界実数値A\mathcal A可測関数uuに対して、有界実数値B\mathcal B可測関数aua_uが存在し、すべてのθ∈Θ\theta\in\Thetaについて

au(T)=Eθ[u∣σ(T)]Pθ-ほとんど確実にa_u(T)=E_\theta[u\mid\sigma(T)]\qquad P_\theta\text{-ほとんど確実に}

が成り立つとき、TTは族(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}に対して 十分 (sufficient statistic) であるという。関数aua_uは母数θ\thetaに依存しない。等式の例外となる零集合は、各uuと各θ\thetaに対して許される。

補題 1.2.T:(X,A)→(Y,B)T:(\mathcal X,\mathcal A)\to(\mathcal Y,\mathcal B)を可測写像とする。実数値関数ZZがσ(T)\sigma(T)可測であるならば、B\mathcal B可測関数g:Y→Rg:\mathcal Y\to\Rが存在してZ=g∘TZ=g\circ Tを満たす。Z:X→[0,∞]Z:\mathcal X\to[0,\infty]がσ(T)\sigma(T)可測である場合にも、B\mathcal B可測関数g:Y→[0,∞]g:\mathcal Y\to[0,\infty]による同じ表示が成り立つ。

証明. 演習とする(問題 6.2)。▨

例 1.3.n≥2n\geq2とし、X1,…,XnX_1,\ldots,X_nを成功確率p∈(0,1)p\in(0,1)の Bernoulli 分布からの独立同分布標本とする。T=∑i=1nXiT=\sum_{i=1}^nX_iと置くと、TTはppに対して十分である。

実際、x∈{0,1}nx\in\{0,1\}^nとs=∑ixis=\sum_i x_iに対してPp(X=x)=ps(1−p)n−sP_p(X=x)=p^s(1-p)^{n-s}である。和がssとなる列は(ns)\binom ns個であるから、Pp(T=s)=(ns)ps(1−p)n−s>0P_p(T=s)=\binom ns p^s(1-p)^{n-s}>0であり、

Pp(X=x∣T=s)=1(ns)(∑ixi=s)P_p(X=x\mid T=s)=\frac1{\binom ns}\qquad\left(\sum_i x_i=s\right)

となる。有界関数u:{0,1}n→Ru:\{0,1\}^n\to\Rに対して

au(s)=1(ns)∑x: ∑ixi=su(x)(s=0,…,n)a_u(s)=\frac1{\binom ns}\sum_{x:\,\sum_i x_i=s}u(x) \qquad(s=0,\ldots,n)

と置けば、aua_uはppに依存しない。各事象{T=s}\{T=s\}上でau(T)a_u(T)とuuの積分が一致するので、au(T)a_u(T)はすべてのppについてEp[u∣σ(T)]E_p[u\mid\sigma(T)]である。

2 共通の基準測度と測度変更

補題 2.1.(X,A)(\mathcal X,\mathcal A)上の確率測度の非空な族(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}が、シグマ有限測度μ\muに支配されているとする。母数の列(θk)k∈N≥1(\theta_k)_{k\in\NN}が存在し、任意の正の実数列(wk)k∈N≥1(w_k)_{k\in\NN}で∑kwk=1\sum_kw_k=1を満たすものに対して、確率測度

Q=∑k=1∞wkPθkQ=\sum_{k=1}^{\infty}w_kP_{\theta_k}

はすべてのPθP_\thetaを支配する。さらに、B∈AB\in\mathcal Aに対して、Q(B)=0Q(B)=0であることと、すべてのθ∈Θ\theta\in\ThetaについてPθ(B)=0P_\theta(B)=0であることは同値である。

証明.X\mathcal Xの可測分割(Em)m∈N≥1(E_m)_{m\in\NN}を、各μ(Em)\mu(E_m)が有限となるように取る。

ρ=∑m=1∞2−m1+μ(Em)1Em\rho=\sum_{m=1}^{\infty}\frac{2^{-m}}{1+\mu(E_m)}\mathbf1_{E_m}

と置けば、ρ\rhoは至る所で正であり、0<∫ρ dμ≤10<\int\rho\,d\mu\leq1である。積分が正であるのは、μ\muが確率測度を支配するため零測度でないことによる。密度ρ/∫ρ dμ\rho/\int\rho\,d\muをもつ確率測度ν\nuは、μ\muと同じ零集合をもつ。

各θ\thetaについて§E9.15 定理 3.3により密度pθ=dPθ/dμp_\theta=dP_\theta/d\muを選び、Aθ={pθ>0}A_\theta=\{p_\theta>0\}と置く。有限集合F⊆ΘF\subseteq\Thetaに対するν(⋃θ∈FAθ)\nu(\bigcup_{\theta\in F}A_\theta)の上限をaaとする。各PθP_\thetaは確率測度であるからν(Aθ)>0\nu(A_\theta)>0であり、0<a≤10<a\leq1である。各n∈N≥1n\in\NNに対して有限集合Fn⊆ΘF_n\subseteq\Thetaを

ν(⋃θ∈FnAθ)>a−1n\nu\left(\bigcup_{\theta\in F_n}A_\theta\right)>a-\frac1n

となるように選び、A=⋃n⋃θ∈FnAθA=\bigcup_n\bigcup_{\theta\in F_n}A_\thetaと置く。有限和集合の増加列に測度の下からの連続性を適用すると、ν(A)=a\nu(A)=aである。

θ∈Θ\theta\in\Thetaを固定し、ν(Aθ∖A)>0\nu(A_\theta\setminus A)>0と仮定する。このときν(A∪Aθ)>a\nu(A\cup A_\theta)>aである。一方、各nnについて

ν(Aθ∪⋃j=1n⋃γ∈FjAγ)≤a\nu\left(A_\theta\cup\bigcup_{j=1}^n\bigcup_{\gamma\in F_j}A_\gamma\right)\leq a

であり、増加極限を取るとν(A∪Aθ)≤a\nu(A\cup A_\theta)\leq aとなる。この二つの不等式は両立しないので、ν(Aθ∖A)=0\nu(A_\theta\setminus A)=0である。したがってμ(Aθ∖A)=0\mu(A_\theta\setminus A)=0でもある。

⋃nFn\bigcup_nF_nは空でない高々可算集合であるから、重複を許して列(θk)k∈N≥1(\theta_k)_{k\in\NN}として並べる。正の重みwkw_kの和を1とすると、単調収束定理§E9.7 定理 1.1によりQ=∑kwkPθkQ=\sum_kw_kP_{\theta_k}は確率測度であり、μ\muに関する密度は

q=∑k=1∞wkpθkq=\sum_{k=1}^{\infty}w_kp_{\theta_k}

である。q>0q>0となる集合はAAに一致する。Q(B)=0Q(B)=0ならばμ(B∩A)=0\mu(B\cap A)=0であり、各θ\thetaについてμ(Aθ∖A)=0\mu(A_\theta\setminus A)=0であるからPθ(B)=0P_\theta(B)=0となる。ゆえにPθ≪QP_\theta\ll Qである。逆に、すべてのθ\thetaでPθ(B)=0P_\theta(B)=0ならば、混合の定義からQ(B)=0Q(B)=0である。▨

補題 2.2.(X,A,Q)(\mathcal X,\mathcal A,Q)を確率空間とし、非負可測関数wwがEQw=1E_Qw=1を満たすとする。P(B)=∫Bw dQP(B)=\int_Bw\,dQによって確率測度PPを定める。G⊆A\mathcal G\subseteq\mathcal Aを部分シグマ加法族とし、Y∈L1(P)Y\in L^1(P)とする。

v=EQ[w∣G],z=EQ[wY∣G]v=E_Q[w\mid\mathcal G],\qquad z=E_Q[wY\mid\mathcal G]

の有限値可測版を、v≥0v\geq0となるように選ぶと、

EP[Y∣G]={z/v,v>0,0,v=0P-ほとんど確実にE_P[Y\mid\mathcal G] =\begin{cases} z/v,&v>0,\\ 0,&v=0 \end{cases} \qquad P\text{-ほとんど確実に}

が成り立つ。特に、{v=0}\{v=0\}はPPの零集合である。

証明. 密度変更の積分公式§E9.15 命題 4.3によりEQ[w∣Y∣]=EP∣Y∣<∞E_Q[w|Y|]=E_P|Y|<\inftyである。したがって§E11.11 定理 1.2によりv,zv,zが存在し、vvは正値性によって非負に選ぶことができる。任意のB∈GB\in\mathcal Gに対して

P(B)=∫Bw dQ=∫Bv dQP(B)=\int_Bw\,dQ=\int_Bv\,dQ

である。指示関数から単関数を経て単調収束定理を適用すると、任意の非負G\mathcal G可測関数ffに対して

∫f dP=∫fv dQ\int f\,dP=\int fv\,dQ

となる。D={v=0}D=\{v=0\}と置けばP(D)=0P(D)=0である。

a=EQ[w∣Y∣∣G]a=E_Q[w|Y|\mid\mathcal G]と置くと、条件付き期待値の絶対値評価§E11.11 命題 2.1 (5)より∣z∣≤a|z|\leq aがQQ-ほとんど確実に成り立つ。∫Dw dQ=P(D)=0\int_Dw\,dQ=P(D)=0であるから、w=0w=0がDD上でQQ-ほとんど確実に成り立つ。したがって∫Da dQ=∫Dw∣Y∣ dQ=0\int_Da\,dQ=\int_Dw|Y|\,dQ=0であり、z=0z=0もDD上でQQ-ほとんど確実に成り立つ。m=z/vm=z/vをDD上で0と定めると、mmはG\mathcal G可測であり、

∫∣m∣ dP=∫{v>0}∣z∣ dQ≤EQa=EP∣Y∣<∞\int|m|\,dP=\int_{\{v>0\}}|z|\,dQ\leq E_Qa=E_P|Y|<\infty

となる。さらに、任意のB∈GB\in\mathcal Gに対して

∫Bm dP=∫Bmv dQ=∫Bz dQ=∫BwY dQ=∫BY dP\int_Bm\,dP=\int_Bmv\,dQ=\int_Bz\,dQ =\int_BwY\,dQ=\int_BY\,dP

である。条件付き期待値の定義と一意性により結論を得る。▨

3 Fisher–Neyman の因子分解定理

定理 3.1 (Fisher–Neyman の因子分解定理).(X,A)(\mathcal X,\mathcal A)上の確率測度の非空な族(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}がシグマ有限測度μ\muに支配されているとし、有限値非負可測な密度pθ=dPθ/dμp_\theta=dP_\theta/d\muを選ぶ。T:(X,A)→(Y,B)T:(\mathcal X,\mathcal A)\to(\mathcal Y,\mathcal B)を可測写像とする。族内の可算個の確率測度の正重み混合Q=∑kwkPθkQ=\sum_kw_kP_{\theta_k}がすべてのPθP_\thetaを支配するとき、次の条件は同値である。

  1. TTは(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}に対して十分である。
  2. 各θ∈Θ\theta\in\Thetaについて、密度dPθ/dQdP_\theta/dQはσ(T)\sigma(T)可測な版をもつ。
  3. 有限値非負A\mathcal A可測関数hhと、各θ∈Θ\theta\in\Thetaに対する有限値非負B\mathcal B可測関数gθg_\thetaが存在し、 pθ(x)=gθ(T(x))h(x)μ-ほとんど至る所でp_\theta(x)=g_\theta(T(x))h(x)\qquad\mu\text{-ほとんど至る所で} が成り立つ。関数hhはθ\thetaに依存しない。

この同値性は、全族を支配する任意の可算正重み混合QQについて成立する。

証明.G=σ(T)\mathcal G=\sigma(T)と置き、q=dQ/dμq=dQ/d\muの有限値非負版を選ぶ。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。θ∈Θ\theta\in\Thetaを固定し、q>0q>0ではrθ=pθ/qr_\theta=p_\theta/q、q=0q=0ではrθ=0r_\theta=0と置く。Pθ≪QP_\theta\ll Qによりpθ=0p_\theta=0が{q=0}\{q=0\}上でμ\mu-ほとんど至る所成立するため、rθr_\thetaはdPθ/dQdP_\theta/dQの版である。zθ=EQ[rθ∣G]z_\theta=E_Q[r_\theta\mid\mathcal G]の非負有限値版を取ると、EQzθ=EQrθ=1E_Qz_\theta=E_Qr_\theta=1である。

有界実可測関数uuに対し、十分性による共通関数aua_uを取る。任意のB∈GB\in\mathcal Gについて、混合の積分を計算すると

∫Bau(T) dQ=∑kwk∫Bau(T) dPθk=∑kwk∫Bu dPθk=∫Bu dQ\int_Ba_u(T)\,dQ =\sum_kw_k\int_Ba_u(T)\,dP_{\theta_k} =\sum_kw_k\int_Bu\,dP_{\theta_k} =\int_Bu\,dQ

となる。各級数はu,auu,a_uの有界性により絶対収束する。よってau(T)a_u(T)はEQ[u∣G]E_Q[u\mid\mathcal G]の版でもある。可測因子の取り出し§E11.11 定理 2.3により

EQ[urθ]=Eθu=Eθ[au(T)]=EQ[rθau(T)]=EQ[zθau(T)]=EQ[zθu]\begin{aligned} E_Q[ur_\theta] &=E_\theta u =E_\theta[a_u(T)] =E_Q[r_\theta a_u(T)]\\ &=E_Q[z_\theta a_u(T)] =E_Q[z_\theta u] \end{aligned}

を得る。最後の等式には、uuが有界でzθ∈L1(Q)z_\theta\in L^1(Q)であることからuzθ∈L1(Q)uz_\theta\in L^1(Q)を用いた。u=1{rθ>zθ}u=\mathbf1_{\{r_\theta>z_\theta\}}を代入すると、非負関数(rθ−zθ)1{rθ>zθ}(r_\theta-z_\theta)\mathbf1_{\{r_\theta>z_\theta\}}の積分が0となる。逆の不等号の集合にも同じ計算を適用し、rθ=zθr_\theta=z_\thetaがQQ-ほとんど確実に成り立つことを得る。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。有界実可測関数uuに対し、EQ[u∣G]E_Q[u\mid\mathcal G]の有限値G\mathcal G可測版を取る。補題 1.2によりau(T)a_u(T)と表示し、aua_uを[−sup⁡∣u∣,sup⁡∣u∣][-\sup|u|,\sup|u|]へ切断すれば、有界な版を得る。各θ\thetaについてdPθ/dQdP_\theta/dQの非負有限値G\mathcal G可測版rθr_\thetaを取る。§E11.11 定理 2.3 (2)により

EQ[rθu∣G]=rθau(T),EQ[rθ∣G]=rθE_Q[r_\theta u\mid\mathcal G]=r_\theta a_u(T),\qquad E_Q[r_\theta\mid\mathcal G]=r_\theta

である。測度変更の補題補題 2.2により、rθ>0r_\theta>0上でEθ[u∣G]=au(T)E_\theta[u\mid\mathcal G]=a_u(T)となる。{rθ=0}\{r_\theta=0\}はPθP_\thetaの零集合であるから、同じaua_uがすべてのθ\thetaに対する条件付き期待値を与える。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。各θ\thetaについて、dPθ/dQdP_\theta/dQの非負有限値G\mathcal G可測版を補題 1.2によりgθ(T)g_\theta(T)と表示する。得られたgθg_\thetaを非負部分で置き換えても表示は変わらない。h=qh=qと置けば、密度変更の積分公式§E9.15 命題 4.3と密度の一意性§E9.15 定理 4.1からpθ=gθ(T)hp_\theta=g_\theta(T)hがμ\mu-ほとんど至る所で成り立つ。

(3)⇒\Rightarrow(2)を示す。

b(y)=∑kwkgθk(y)b(y)=\sum_kw_kg_{\theta_k}(y)

と置くと、bbは[0,∞][0,\infty]値のB\mathcal B可測関数である。可算個の密度の等式の例外零集合を除けば、

q(x)=h(x)b(T(x))q(x)=h(x)b(T(x))

となる。ただし0⋅∞=00\cdot\infty=0とする。qqは確率密度であるから、0<q<∞0<q<\inftyはQQ-ほとんど確実に成り立つ。この集合上では0<h<∞0<h<\inftyかつ0<b(T)<∞0<b(T)<\inftyである。各θ\thetaに対して

cθ(y)={gθ(y)/b(y),0<b(y)<∞,0,それ以外c_\theta(y)=\begin{cases} g_\theta(y)/b(y),&0<b(y)<\infty,\\ 0,&\text{それ以外} \end{cases}

と定めると、cθc_\thetaは有限値非負可測関数であり、dPθ/dQ=cθ(T)dP_\theta/dQ=c_\theta(T)がQQ-ほとんど確実に成り立つ。▨

注意 3.2. 可算な標本空間では、数え上げ測度を支配測度に取ると因子分解の等式は各標本点で成り立つ。 Euclid 空間の密度モデルでは、等式は各母数について Lebesgue 測度に関してほとんど至る所での等式である。連続分布の統計量についてPθ(T=t)=0P_\theta(T=t)=0となる場合にも、因子分解定理は条件付き期待値の積分等式によって十分性を与える。

命題 3.3.(X,A)(\mathcal X,\mathcal A)上の非空な確率測度族(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}がシグマ有限測度に支配され、T:(X,A)→(Y,B)T:(\mathcal X,\mathcal A)\to(\mathcal Y,\mathcal B)が十分であるとする。実数値可測関数uuがすべてのθ∈Θ\theta\in\ThetaについてEθ∣u∣<∞E_\theta|u|<\inftyを満たすならば、有限値B\mathcal B可測関数aua_uが存在し、すべてのθ∈Θ\theta\in\Thetaについて

au(T)=Eθ[u∣σ(T)]Pθ-ほとんど確実にa_u(T)=E_\theta[u\mid\sigma(T)]\qquad P_\theta\text{-ほとんど確実に}

が成り立つ。

証明.補題 2.1の母数列(θk)k∈N≥1(\theta_k)_{k\in\NN}を取り、

bk=2−k1+Eθk∣u∣,c=∑k=1∞bk,wk=bkcb_k=\frac{2^{-k}}{1+E_{\theta_k}|u|},\qquad c=\sum_{k=1}^{\infty}b_k,\qquad w_k=\frac{b_k}{c}

と置く。0<c≤10<c\leq1であり、wk>0w_k>0、∑kwk=1\sum_kw_k=1である。Q=∑kwkPθkQ=\sum_kw_kP_{\theta_k}は全族を支配し、

EQ∣u∣=∑kwkEθk∣u∣≤1c<∞E_Q|u|=\sum_kw_kE_{\theta_k}|u|\leq\frac1c<\infty

を満たす。G=σ(T)\mathcal G=\sigma(T)と置き、EQ[u∣G]E_Q[u\mid\mathcal G]の有限値可測版を補題 1.2によりau(T)a_u(T)と表示する。

各θ\thetaに対し、定理 3.1 (2)によりrθ=dPθ/dQr_\theta=dP_\theta/dQの有限値非負G\mathcal G可測版を取る。u∈L1(Q)u\in L^1(Q)であり、EQ[∣rθu∣]=Eθ∣u∣<∞E_Q[|r_\theta u|]=E_\theta|u|<\inftyである。したがって§E11.11 定理 2.3 (2)により、rθau(T)r_\theta a_u(T)はQQ可積分であり、

EQ[rθu∣G]=rθau(T)E_Q[r_\theta u\mid\mathcal G]=r_\theta a_u(T)

となる。ゆえにau(T)∈L1(Pθ)a_u(T)\in L^1(P_\theta)であり、任意のB∈GB\in\mathcal Gに対して

∫Bau(T) dPθ=∫Brθau(T) dQ=∫Brθu dQ=∫Bu dPθ\int_Ba_u(T)\,dP_\theta =\int_Br_\theta a_u(T)\,dQ =\int_Br_\theta u\,dQ =\int_Bu\,dP_\theta

である。同じ関数aua_uが、すべてのθ\thetaについて条件付き期待値の定義を満たす。▨

4 一径数指数型分布族

定義 4.1 (一径数指数型分布族).(X,A,μ)(\mathcal X,\mathcal A,\mu)をシグマ有限測度空間、t:X→Rt:\mathcal X\to\Rを可測関数、h:X→[0,∞)h:\mathcal X\to[0,\infty)を可測関数とし、μ({h>0})>0\mu(\{h>0\})>0とする。

Z(η)=∫Xeηt(x)h(x) dμ(x),H={η∈R:0<Z(η)<∞}Z(\eta)=\int_{\mathcal X}e^{\eta t(x)}h(x)\,d\mu(x),\qquad H=\{\eta\in\R:0<Z(\eta)<\infty\}

と置き、H≠∅H\ne\varnothingとする。A(η)=log⁡Z(η)A(\eta)=\log Z(\eta)と定める。非空な集合J⊆HJ\subseteq Hに対して、密度

pη(x)=h(x)exp⁡{ηt(x)−A(η)},η∈Jp_\eta(x)=h(x)\exp\{\eta t(x)-A(\eta)\},\qquad\eta\in J

で定まる確率測度族を、一径数の 指数型分布族 (exponential family) という。η\etaを 自然母数 (natural parameter)、HHを自然母数空間、AAを 対数分配関数 (log-partition function) という。統計量ttは 自然十分統計量 (natural sufficient statistic) と呼ばれる。母数θ\thetaを用いて表示する場合には、η=η(θ)∈J\eta=\eta(\theta)\in Jとしてpθ=hexp⁡{η(θ)t−A(η(θ))}p_\theta=h\exp\{\eta(\theta)t-A(\eta(\theta))\}と書く。

命題 4.2.μ\muに関する密度pη=hexp⁡{ηt−A(η)}p_\eta=h\exp\{\eta t-A(\eta)\}、η∈J\eta\in Jをもつ一径数指数型分布族(Pη)η∈J(P_\eta)_{\eta\in J}とn∈N≥1n\in\NNに対して、積モデル(Pη⊗n)η∈J(P_\eta^{\otimes n})_{\eta\in J}を考える。標本和

Tn(x1,…,xn)=∑i=1nt(xi)T_n(x_1,\ldots,x_n)=\sum_{i=1}^nt(x_i)

は十分である。さらに、R\R上のシグマ有限測度

νn(B)=∫Xn1{Tn(x)∈B}∏i=1nh(xi) dμ⊗n(x)(B∈B(R))\nu_n(B)=\int_{\mathcal X^n}\mathbf1_{\{T_n(x)\in B\}}\prod_{i=1}^nh(x_i)\,d\mu^{\otimes n}(x) \qquad(B\in\mathcal B(\R))

に関して、TnT_nの分布の密度はexp⁡{ηs−nA(η)}\exp\{\eta s-nA(\eta)\}である。

証明. 積測度の存在と一意性§E9.10 定理 5.1を反復してμ⊗n\mu^{\otimes n}とPη⊗nP_\eta^{\otimes n}を取る。非負可測関数∏ipη(xi)\prod_i p_\eta(x_i)を密度とする測度は、Tonelli の定理§E9.11 定理 2.3により、任意の可測長方形B1×⋯×BnB_1\times\cdots\times B_nに対して値∏iPη(Bi)\prod_iP_\eta(B_i)をもつ。積測度の一意性を反復すると、この測度はPη⊗nP_\eta^{\otimes n}である。したがって積モデルの密度は

∏i=1npη(xi)=(∏i=1nh(xi))exp⁡{ηTn(x)−nA(η)}\prod_{i=1}^np_\eta(x_i) =\left(\prod_{i=1}^nh(x_i)\right)\exp\{\eta T_n(x)-nA(\eta)\}

となる。定理 3.1によりTnT_nは十分である。

νn\nu_nは測度(∏ih) dμ⊗n(\prod_i h)\,d\mu^{\otimes n}のTnT_nによる像測度である。その定義の積分等式を指示関数から単関数を経て非負可測関数へ単調収束で拡張すると、

Pη⊗n(Tn∈B)=∫Beηs−nA(η) dνn(s)P_\eta^{\otimes n}(T_n\in B) =\int_B e^{\eta s-nA(\eta)}\,d\nu_n(s)

を得る。η0∈J\eta_0\in Jを一つ固定すると、各m∈N≥1m\in\NNについて

νn([−m,m])≤e∣η0∣m∫Reη0s dνn(s)=e∣η0∣m+nA(η0)<∞\nu_n([-m,m]) \leq e^{|\eta_0|m}\int_{\R}e^{\eta_0s}\,d\nu_n(s) =e^{|\eta_0|m+nA(\eta_0)}<\infty

である。よってνn\nu_nはシグマ有限である。▨

例 4.3.n∈N≥1n\in\NNとし、X1,…,XnX_1,\ldots,X_nを母数λ>0\lambda>0の Poisson 分布からの独立同分布標本とする。一標本の数え上げ測度に関する密度は

pλ(x)=λxe−λx!=1x!exp⁡{(log⁡λ)x−λ},x∈N≥0p_\lambda(x)=\frac{\lambda^xe^{-\lambda}}{x!} =\frac1{x!}\exp\{(\log\lambda)x-\lambda\},\qquad x\in\N

である。したがってη=log⁡λ\eta=\log\lambda、t(x)=xt(x)=x、h(x)=1/x!h(x)=1/x!、A(η)=eηA(\eta)=e^\etaとした一径数指数型分布族である。標本全体の密度は

pλ(n)(x1,…,xn)=e−nλλ∑ixi∏ixi!p_\lambda^{(n)}(x_1,\ldots,x_n) =\frac{e^{-n\lambda}\lambda^{\sum_i x_i}}{\prod_i x_i!}

であるから、命題 4.2によりS=∑iXiS=\sum_iX_iは十分である。SSとS/nS/nは互いに可測な関数として回収されるため、σ(S)=σ(S/n)\sigma(S)=\sigma(S/n)である。SSの共通条件付き平均au(S)a_u(S)をau(n(S/n))a_u(n(S/n))と書けば、標本平均S/nS/nも十分であることが分かる。

5 最小十分統計量

定義 5.1 (最小十分統計量).(X,A)(\mathcal X,\mathcal A)上の非空な確率測度族(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}に対して、実ベクトル値統計量T:X→RdT:\mathcal X\to\R^d、d∈N≥1d\in\NNが十分であるとする。任意の可測空間(Y,B)(\mathcal Y,\mathcal B)と任意の十分統計量S:(X,A)→(Y,B)S:(\mathcal X,\mathcal A)\to(\mathcal Y,\mathcal B)に対して、可測写像F:Y→RdF:\mathcal Y\to\R^dが存在し、すべてのθ∈Θ\theta\in\Thetaについて

T=F(S)Pθ-ほとんど確実にT=F(S)\qquad P_\theta\text{-ほとんど確実に}

が成り立つとき、TTを 最小十分統計量 (minimal sufficient statistic) という。写像FFは母数θ\thetaに依存しない。

命題 5.2.(X,A)(\mathcal X,\mathcal A)上の非空な確率測度族(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}がシグマ有限測度に支配されているとする。QQを、全族を支配する族内の確率測度の可算正重み混合とし、T:X→RdT:\mathcal X\to\R^dを十分統計量とする。有限または可算な非空添字集合II、母数の族(γj)j∈I(\gamma_j)_{j\in I}、および積 Borel 構造に関する可測写像F:[0,∞)I→RdF:[0,\infty)^I\to\R^dが存在して、有限値非負密度rj=dPγj/dQr_j=dP_{\gamma_j}/dQのある版について

T=F((rj)j∈I)Q-ほとんど確実にT=F((r_j)_{j\in I})\qquad Q\text{-ほとんど確実に}

が成り立つならば、TTは最小十分である。また、全族を支配する族内の一つの確率測度Pθ0P_{\theta_0}がある場合には、Q=Pθ0Q=P_{\theta_0}として同じ判定が成り立つ。

証明. 任意の十分統計量S:(X,A)→(Y,B)S:(\mathcal X,\mathcal A)\to(\mathcal Y,\mathcal B)を取る。定理 3.1 (2)により、各j∈Ij\in Iのrjr_jはσ(S)\sigma(S)可測な有限値非負版をもつ。補題 1.2により、その版をaj(S)a_j(S)と表示し、aja_jを非負部分で置き換える。IIは高々可算であるから、QQの一つの零集合を除けば、すべてのj∈Ij\in Iについてrj=aj(S)r_j=a_j(S)が同時に成り立つ。各成分aja_jは可測であり、積シグマ加法族は座標の逆像で生成されるから、a:Y→[0,∞)Ia:\mathcal Y\to[0,\infty)^I、a(y)=(aj(y))j∈Ia(y)=(a_j(y))_{j\in I}は可測である。したがってF∘aF\circ aは可測であり、T=(F∘a)(S)T=(F\circ a)(S)がQQ-ほとんど確実に成り立つ。全PθP_\thetaがQQに支配されるので、同じ等式がすべてのθ\thetaについてPθP_\theta-ほとんど確実に成り立つ。よってTTは最小十分である。

Pθ0P_{\theta_0}が全族を支配する場合は、母数列をすべてθ0\theta_0とした可算正重み混合がPθ0P_{\theta_0}に等しいため、前段を適用することができる。▨

系 5.3. 一径数指数型分布族pη=hexp⁡{ηt−A(η)}p_\eta=h\exp\{\eta t-A(\eta)\}の自然母数の集合JJが、相異なる二点η0,η1\eta_0,\eta_1を含むとする。任意のn∈N≥1n\in\NNに対して、Tn=∑i=1nt(Xi)T_n=\sum_{i=1}^nt(X_i)は積モデル(Pη⊗n)η∈J(P_\eta^{\otimes n})_{\eta\in J}の最小十分統計量である。

証明.命題 4.2によりTnT_nは十分である。各Pη⊗nP_\eta^{\otimes n}の密度が正である集合は、母数によらず{x:∏ih(xi)>0}\{x:\prod_i h(x_i)>0\}である。したがってPη0⊗nP_{\eta_0}^{\otimes n}はすべてのPη⊗nP_\eta^{\otimes n}を支配する。この集合上では

log⁡dPη1⊗ndPη0⊗n=(η1−η0)Tn−n{A(η1)−A(η0)}\log\frac{dP_{\eta_1}^{\otimes n}}{dP_{\eta_0}^{\otimes n}} =(\eta_1-\eta_0)T_n-n\{A(\eta_1)-A(\eta_0)\}

であるから、

Tn=log⁡(dPη1⊗n/dPη0⊗n)+n{A(η1)−A(η0)}η1−η0Pη0⊗n-ほとんど確実にT_n=\frac{\log(dP_{\eta_1}^{\otimes n}/dP_{\eta_0}^{\otimes n})+n\{A(\eta_1)-A(\eta_0)\}}{\eta_1-\eta_0} \qquad P_{\eta_0}^{\otimes n}\text{-ほとんど確実に}

となる。右辺を密度比が0となる点では0と定めれば、密度比の可測関数である。命題 5.2によりTnT_nは最小十分である。▨

例 5.4.σ2>0\sigma^2>0を固定し、X1,…,XnX_1,\ldots,X_nをN(m,σ2)N(m,\sigma^2)からの独立同分布標本とする。母数はm∈Rm\in\Rである。一標本の Lebesgue 密度は

pm(x)=12πσ2e−x2/(2σ2)exp⁡{mσ2x−m22σ2}p_m(x)=\frac1{\sqrt{2\pi\sigma^2}}e^{-x^2/(2\sigma^2)} \exp\left\{\frac{m}{\sigma^2}x-\frac{m^2}{2\sigma^2}\right\}

である。したがってt(x)=xt(x)=x、η=m/σ2\eta=m/\sigma^2、A(η)=σ2η2/2A(\eta)=\sigma^2\eta^2/2とした一径数指数型分布族であり、η\etaはR\R全体を動く。系 5.3により∑iXi\sum_iX_iは最小十分である。標本平均X‾=n−1∑iXi\overline X=n^{-1}\sum_iX_iも最小十分である。実際、和と平均は互いに可測な関数として回収され、生成するシグマ加法族も等しいので、十分性と最小十分性の両定義を満たす。

例 5.5.例 1.3の Bernoulli 標本では、数え上げ測度に対し

pp(x)=exp⁡{xlog⁡p1−p+log⁡(1−p)},x∈{0,1}p_p(x)=\exp\left\{x\log\frac p{1-p}+\log(1-p)\right\},\qquad x\in\{0,1\}

である。η=log⁡(p/(1−p))\eta=\log(p/(1-p))と置けばA(η)=log⁡(1+eη)A(\eta)=\log(1+e^\eta)、t(x)=xt(x)=xであり、自然母数はR\R全体を動く。したがって系 5.3により標本和は最小十分である。

例 5.6.n∈N≥1n\in\NNとし、X1,…,XnX_1,\ldots,X_nをθ>0\theta>0を母数とする一様分布Unif⁡(0,θ)\operatorname{Unif}(0,\theta)からの独立同分布標本とする。標本空間を(0,∞)n(0,\infty)^nとすると、標本の Lebesgue 密度は

pθ(x)=θ−n1{M(x)<θ},M(x)=max⁡ixip_\theta(x)=\theta^{-n}\mathbf1_{\{M(x)<\theta\}},\qquad M(x)=\max_i x_i

である。定理 3.1によりMMは十分である。

正の有理数を(aj)j∈N≥1(a_j)_{j\in\NN}と並べ、Q=∑j2−jPaj⊗nQ=\sum_j2^{-j}P_{a_j}^{\otimes n}と置く。その密度

q(x)=∑j2−jaj−n1{M(x)<aj}q(x)=\sum_j2^{-j}a_j^{-n}\mathbf1_{\{M(x)<a_j\}}

は、すべてのx∈(0,∞)nx\in(0,\infty)^nに対して0<q(x)≤M(x)−n<∞0<q(x)\leq M(x)^{-n}<\inftyを満たす。よってQQは全族を支配し、rj=paj/qr_j=p_{a_j}/qは

rj(x)>0⟺M(x)<ajr_j(x)>0\quad\Longleftrightarrow\quad M(x)<a_j

を満たす。正の有理数の稠密性から

M(x)=inf⁡{aj:rj(x)>0}M(x)=\inf\{a_j:r_j(x)>0\}

である。この下限を与える写像L:[0,∞)N≥1→[0,∞]L:[0,\infty)^{\NN}\to[0,\infty]は、空集合の下限を∞\inftyとすれば、任意のc>0c>0に対して

{L<c}=⋃j: aj<c{z:zj>0}\{L<c\}=\bigcup_{j:\,a_j<c}\{z:z_j>0\}

を満たすため可測である。L=∞L=\inftyの点で0へ補正して得た有限値可測写像をFFとすると、M=F((rj)j)M=F((r_j)_j)である。命題 5.2によりMMは最小十分である。この族では、一つのPθ0⊗nP_{\theta_0}^{\otimes n}が全族を支配することはない。θ>θ0\theta>\theta_0ならばPθ⊗n(M>θ0)>0P_\theta^{\otimes n}(M>\theta_0)>0である一方、Pθ0⊗n(M>θ0)=0P_{\theta_0}^{\otimes n}(M>\theta_0)=0だからである。

命題 5.7.μ\muに関する一径数指数型分布族pη=hexp⁡{ηt−A(η)}p_\eta=h\exp\{\eta t-A(\eta)\}の自然母数空間をHHとし、η∈H\eta\in H全体に族を定める。任意のη∈int⁡(H)\eta\in\tpint{H}と任意のk∈N≥0k\in\Nに対してEη∣t∣k<∞E_\eta|t|^k<\inftyである。有界実数値可測関数b:X→Rb:\mathcal X\to\Rに対して

Fb(η)=∫Xb(x)eηt(x)h(x) dμ(x)F_b(\eta)=\int_{\mathcal X}b(x)e^{\eta t(x)}h(x)\,d\mu(x)

と置くと、FbF_bはint⁡(H)\tpint{H}で微分可能であり、

Fb′(η)=∫Xb(x)t(x)eηt(x)h(x) dμ(x)F_b'(\eta)=\int_{\mathcal X}b(x)t(x)e^{\eta t(x)}h(x)\,d\mu(x)

が成り立つ。特に、A′(η)=EηtA'(\eta)=E_\eta tである。

証明.η0∈int⁡(H)\eta_0\in\tpint{H}を固定し、η0−2ε,η0+2ε∈H\eta_0-2\varepsilon,\eta_0+2\varepsilon\in Hとなるε>0\varepsilon>0を取る。各k∈N≥0k\in\Nに対し、ある定数Ck,ε<∞C_{k,\varepsilon}<\inftyが存在して、s∈Rs\in\Rについて

∣s∣k≤Ck,εeε∣s∣|s|^k\leq C_{k,\varepsilon}e^{\varepsilon|s|}

が成り立つ。実際、r≥0r\geq0に対するrke−εrr^ke^{-\varepsilon r}は、k=0k=0なら1以下であり、k≥1k\geq1なら微分によりr=k/εr=k/\varepsilonで最大となる。したがって∣η−η0∣≤ε|\eta-\eta_0|\leq\varepsilonならば

∣t∣keηth≤Ck,ε(e(η0−2ε)t+e(η0+2ε)t)h|t|^ke^{\eta t}h \leq C_{k,\varepsilon}\left(e^{(\eta_0-2\varepsilon)t}+e^{(\eta_0+2\varepsilon)t}\right)h

であり、右辺は可積分である。η=η0\eta=\eta_0としてZ(η0)Z(\eta_0)で割ると、Eη0∣t∣k<∞E_{\eta_0}|t|^k<\inftyを得る。

0<∣a∣<ε0<|a|<\varepsilonに対し、実指数関数の平均値の定理から

∣e(η0+a)t−eη0ta∣≤∣t∣eη0t+ε∣t∣\left|\frac{e^{(\eta_0+a)t}-e^{\eta_0t}}a\right| \leq |t|e^{\eta_0t+\varepsilon|t|}

である。この式へ∣b∣h|b|hを掛けた関数は、上のk=1k=1の評価とbbの有界性により、一つの可積分関数で支配される。差商は各xxでb(x)t(x)eη0t(x)h(x)b(x)t(x)e^{\eta_0t(x)}h(x)へ収束するので、優収束定理§E9.7 定理 3.2により

Fb′(η0)=∫bteη0th dμF_b'(\eta_0)=\int bte^{\eta_0t}h\,d\mu

となる。b=1b=1とすればZ′(η0)=∫teη0th dμZ'(\eta_0)=\int te^{\eta_0t}h\,d\muであり、Z(η0)>0Z(\eta_0)>0から

A′(η0)=Z′(η0)Z(η0)=Eη0tA'(\eta_0)=\frac{Z'(\eta_0)}{Z(\eta_0)}=E_{\eta_0}t

を得る。▨

注意 5.8. 尤度比を用いて標本点を同値類に分けたとき、同値類上に関数を定めることと、その関数が可測であることは別の条件である。命題 5.2は、可算個の尤度比から統計量を回収する写像の可測性を仮定している。一般の支配されたモデルにおける最小十分統計量の存在と、尤度比による同値類の可測性は後の単元で扱う。

十分性によって得られる共通の条件付き平均を不偏推定に用いるときには、統計量の関数の一意性が問題となる。すべての母数で可積分な任意の可測関数g(T)g(T)について、すべてのθ\thetaでEθg(T)=0E_\theta g(T)=0ならば、すべてのθ\thetaでg(T)=0g(T)=0がPθP_\theta-ほとんど確実に成り立つという性質を、完備性という。自然母数の集合が開区間を含む一径数指数型分布族の完備性と、不偏推定の一意性への適用は「完備性と Lehmann–Scheffé の定理」で扱う。

6 演習

問題 6.1.n≥2n\geq2とし、X1,…,XnX_1,\ldots,X_nを成功確率p∈(0,1)p\in(0,1)の Bernoulli 分布からの独立同分布標本とする。統計量X1X_1がこの標本分布族に対して十分でないことを、u=X2u=X_2に対する共通の条件付き期待値が存在しないことから示せ。

解答.

§E11.11 命題 3.3をX2X_2とσ(X1)\sigma(X_1)に適用すると、各p∈(0,1)p\in(0,1)について

Ep[X2∣σ(X1)]=EpX2=pE_p[X_2\mid\sigma(X_1)]=E_pX_2=p

がPpP_p-ほとんど確実に成り立つ。X1X_1が十分であると仮定すると、十分性の定義により、ppに依存しない関数a:{0,1}→Ra:\{0,1\}\to\Rが存在して

a(X1)=pPp-ほとんど確実にa(X_1)=p\qquad P_p\text{-ほとんど確実に}

がすべてのp∈(0,1)p\in(0,1)について成り立つ。ところがPp(X1=0)=1−p>0P_p(X_1=0)=1-p>0かつPp(X1=1)=p>0P_p(X_1=1)=p>0であるから、この等式はa(0)=a(1)=pa(0)=a(1)=pを意味する。相異なるp,q∈(0,1)p,q\in(0,1)に対して同じ関数aaがa(0)=pa(0)=pとa(0)=qa(0)=qを満たすことはない。したがって、X1X_1は十分でない。▨

問題 6.2.補題 1.2の証明を完成させよ。

解答.

{T−1(B):B∈B}\{T^{-1}(B):B\in\mathcal B\}は、逆像が補集合と可算和を保つことからシグマ加法族であり、σ(T)\sigma(T)に等しい。非負拡張実数値のZZに対し、§E9.5 定理 5.3により、σ(T)\sigma(T)可測な非負単関数列ZnZ_nをZn↑ZZ_n\uparrow Zとなるように取る。各nnについて、ZnZ_nの値をcn,1,…,cn,knc_{n,1},\ldots,c_{n,k_n}とすると、あるBn,j∈BB_{n,j}\in\mathcal Bが存在して

{Zn=cn,j}=T−1(Bn,j)\{Z_n=c_{n,j}\}=T^{-1}(B_{n,j})

となる。gn=∑j=1kncn,j1Bn,jg_n=\sum_{j=1}^{k_n}c_{n,j}\mathbf1_{B_{n,j}}と置けば、gng_nは非負B\mathcal B可測関数であり、gn(T)=Zng_n(T)=Z_nである。g=lim sup⁡ngng=\limsup_ng_nは[0,∞][0,\infty]値のB\mathcal B可測関数であり、

g(T(x))=lim sup⁡ngn(T(x))=lim⁡nZn(x)=Z(x)g(T(x))=\limsup_ng_n(T(x))=\lim_nZ_n(x)=Z(x)

がすべてのx∈Xx\in\mathcal Xで成り立つ。

ZZが有限値非負ならば、g=∞g=\inftyとなる点でggを0に置き換える。この変更は可測性を保ち、g(T(x))=Z(x)<∞g(T(x))=Z(x)<\inftyであるため合成の値を変えない。実数値ZZについては有限値非負のZ+,Z−Z^+,Z^-にそれぞれ適用し、Z+=g+(T)Z^+=g_+(T)、Z−=g−(T)Z^-=g_-(T)を得る。有限値可測関数g=g+−g−g=g_+-g_-が求める表示を与える。▨

参考文献

  1. Will Fithian, Sufficiency (Statistics 210A reader).因子分解による十分性の特徴づけと最小十分性の具体例を参考にした。
  2. Will Fithian, Exponential Families (Statistics 210A lecture notes), 2023.自然母数空間と対数分配関数の微分の定式化を参考にした。

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