§E14.4尤度

最終更新

成功を一回観測した Bernoulli 模型では、成功確率が0.80.8である場合の密度は、成功確率が0.20.2である場合の密度の四倍になる。この比較は観測結果と二つの母数の関係を表すが、それぞれの密度の値そのものは基準測度の取り方に依存する。したがって、観測後の母数比較では、密度の絶対的な大きさと、確率モデルが実際に定める相対的な情報とを区別しなければならない。

観測値における密度を母数の関数とみなしたものが尤度であり、二つの母数に対する尤度の比が相対的な適合を数量化する。尤度へ母数に依存しない正因子を掛けても、この比と最大点は保存される。尤度は支配された統計モデルをデータの側から読み直すための最も基本的な道具の一つであり、十分統計量、推定法および仮説検定へ進む出発点となる。

本記事では、尤度の定義と、比例変更および再パラメータ化に対する基本性質を扱う。

1 尤度と対数尤度

定義 1.1.(X,A)(\mathcal X,\mathcal A)を標本空間、Θ\Thetaを空でない母数集合とし、(Pθ)θ∈Θ(P_\theta)_{\theta\in\Theta}をX\mathcal X上の確率測度族とする。シグマ有限測度μ\muがすべてのPθP_\thetaを支配すると仮定し、各θ∈Θ\theta\in\Thetaについて有限値非負可測な密度

pθ=dPθdμp_\theta=\frac{dP_\theta}{d\mu}

の一つの版を選ぶ。観測値x∈Xx\in\mathcal Xを固定したとき、関数

Lx:Θ⟶[0,∞),Lx(θ)=pθ(x)L_x:\Theta\longrightarrow[0,\infty),\qquad L_x(\theta)=p_\theta(x)

を 尤度関数 (likelihood function) という。また、log⁡0=−∞\log0=-\inftyと定めて

ℓx:Θ⟶[−∞,∞),ℓx(θ)=log⁡Lx(θ)\ell_x:\Theta\longrightarrow[-\infty,\infty),\qquad \ell_x(\theta)=\log L_x(\theta)

とおき、ℓx\ell_xを 対数尤度 (log-likelihood) という。

注意 1.2. 密度pθp_\thetaはμ\mu-概同値を除いてしか定まらないため、支配された確率測度族だけから各観測点における尤度関数が一意に定まるとは限らない。尤度を点ごとに用いるときは、統計モデルを表示する密度族の版も固定する必要がある。離散モデルの確率質量関数や、通常の連続モデルで明示される密度の式は、そのような版を与える。

注意 1.3. 各θ∈Θ\theta\in\Thetaを固定すると、pθp_\thetaは観測値xxの関数であり、∫Xpθ dμ=1\int_{\mathcal X}p_\theta\,d\mu=1を満たす。これに対して、観測値xxを固定した尤度LxL_xは母数θ\thetaの関数である。母数空間に測度を指定しておらず、LxL_xを母数について積分または総和して11になる理由もないため、尤度関数は母数の確率分布ではない。

注意 1.4. 観測値がx=(x1,…,xn)x=(x_1,\ldots,x_n)であり、選択した同時密度が

pθ(x1,…,xn)=∏i=1npi,θ(xi)p_\theta(x_1,\ldots,x_n)=\prod_{i=1}^n p_{i,\theta}(x_i)

と分解されるならば、尤度と対数尤度は

Lx(θ)=∏i=1npi,θ(xi),ℓx(θ)=∑i=1nlog⁡pi,θ(xi)L_x(\theta)=\prod_{i=1}^n p_{i,\theta}(x_i),\qquad \ell_x(\theta)=\sum_{i=1}^n\log p_{i,\theta}(x_i)

となる。独立同分布標本では、すべての因子が同じ一観測の密度から得られる。

命題 1.5. 観測値x∈Xx\in\mathcal Xを固定し、LxL_xとL~x\widetilde L_xをΘ\Theta上の二つの尤度関数とする。c(x)∈(0,∞)c(x)\in(0,\infty)が母数に依存せず、すべてのθ∈Θ\theta\in\Thetaについて

L~x(θ)=c(x)Lx(θ)\widetilde L_x(\theta)=c(x)L_x(\theta)

を満たすと仮定する。このとき、LxL_xとL~x\widetilde L_xの零点集合は一致し、拡張実数値の対数尤度は

ℓ~x(θ)=ℓx(θ)+log⁡c(x)\widetilde\ell_x(\theta)=\ell_x(\theta)+\log c(x)

を満たす。また、Lx(ϑ)>0L_x(\vartheta)>0である任意のθ,ϑ∈Θ\theta,\vartheta\in\Thetaに対して

L~x(θ)L~x(ϑ)=Lx(θ)Lx(ϑ)\frac{\widetilde L_x(\theta)}{\widetilde L_x(\vartheta)} =\frac{L_x(\theta)}{L_x(\vartheta)}

が成り立つ。さらに、任意のθ,ϑ∈Θ\theta,\vartheta\in\Thetaに対して

Lx(θ)≤Lx(ϑ)⟺L~x(θ)≤L~x(ϑ)L_x(\theta)\leq L_x(\vartheta) \quad\Longleftrightarrow\quad \widetilde L_x(\theta)\leq\widetilde L_x(\vartheta)

である。したがって二つの尤度関数の最大化集合は一致する。

証明.c(x)>0c(x)>0であるから、L~x(θ)=0\widetilde L_x(\theta)=0とLx(θ)=0L_x(\theta)=0は同値である。Lx(θ)>0L_x(\theta)>0のときは積の対数を取ると

ℓ~x(θ)=log⁡c(x)+ℓx(θ)\widetilde\ell_x(\theta)=\log c(x)+\ell_x(\theta)

を得る。Lx(θ)=0L_x(\theta)=0のときは両辺が−∞-\inftyであるため、同じ等式が拡張実数上で成り立つ。さらにLx(ϑ)>0L_x(\vartheta)>0ならばL~x(ϑ)>0\widetilde L_x(\vartheta)>0であり、

L~x(θ)L~x(ϑ)=c(x)Lx(θ)c(x)Lx(ϑ)=Lx(θ)Lx(ϑ)\frac{\widetilde L_x(\theta)}{\widetilde L_x(\vartheta)} =\frac{c(x)L_x(\theta)}{c(x)L_x(\vartheta)} =\frac{L_x(\theta)}{L_x(\vartheta)}

となる。正数c(x)c(x)の乗法は大小関係を保存するため、最後の同値と最大化集合の一致も従う。▨

2 尤度比

命題 2.1. 観測値x∈Xx\in\mathcal Xを固定する。θ,ϑ∈Θ\theta,\vartheta\in\ThetaがLx(ϑ)>0L_x(\vartheta)>0を満たすとき、

Rx(θ,ϑ)=Lx(θ)Lx(ϑ)R_x(\theta,\vartheta)=\frac{L_x(\theta)}{L_x(\vartheta)}

と書く。この尤度比は次の性質を満たす。

  1. Lx(θ)>0L_x(\theta)>0ならば、Rx(θ,θ)=1R_x(\theta,\theta)=1である。
  2. Lx(θ)>0L_x(\theta)>0かつLx(ϑ)>0L_x(\vartheta)>0ならば、Rx(θ,ϑ)=Rx(ϑ,θ)−1R_x(\theta,\vartheta)=R_x(\vartheta,\theta)^{-1}である。
  3. Lx(ϑ)>0L_x(\vartheta)>0かつLx(ψ)>0L_x(\psi)>0ならば、Rx(θ,ψ)=Rx(θ,ϑ)Rx(ϑ,ψ)R_x(\theta,\psi)=R_x(\theta,\vartheta)R_x(\vartheta,\psi)である。

証明. 尤度比の定義を代入し、各仮定によって正である分母を約分すると、(1)、(2)、(3)の三式を得る。▨

例 2.2.X={0,1}\mathcal X=\{0,1\}、Θ=(0,1)\Theta=(0,1)とし、Pθ({1})=θP_\theta(\{1\})=\theta、Pθ({0})=1−θP_\theta(\{0\})=1-\thetaとする。X\mathcal X上の計数測度μ\muに関する密度は

pθ(0)=1−θ,pθ(1)=θp_\theta(0)=1-\theta,\qquad p_\theta(1)=\theta

である。観測値がx=1x=1ならばL1(θ)=θL_1(\theta)=\thetaであり、任意のθ,ϑ∈(0,1)\theta,\vartheta\in(0,1)に対して

R1(θ,ϑ)=θϑR_1(\theta,\vartheta)=\frac{\theta}{\vartheta}

となる。

ν({0})=1\nu(\{0\})=1、ν({1})=2\nu(\{1\})=2と定めた測度ν\nuも各PθP_\thetaを支配する。ν\nuに関する密度をqθq_\thetaとすると、qθ(0)=1−θq_\theta(0)=1-\theta、qθ(1)=θ/2q_\theta(1)=\theta/2である。したがって観測値x=1x=1における尤度はL~1(θ)=L1(θ)/2\widetilde L_1(\theta)=L_1(\theta)/2に変わるが、任意のθ,ϑ∈(0,1)\theta,\vartheta\in(0,1)について

L~1(θ)L~1(ϑ)=θϑ\frac{\widetilde L_1(\theta)}{\widetilde L_1(\vartheta)} =\frac{\theta}{\vartheta}

であり、尤度比は変わらない。

例 2.3.X=(0,∞)\mathcal X=(0,\infty)、Θ=(0,∞)\Theta=(0,\infty)とし、PθP_\thetaを区間(0,θ)(0,\theta)上の一様分布とする。Lebesgue 測度に関する密度の一つの版を

pθ(y)=1θ1{0<y<θ}p_\theta(y)=\frac1\theta\mathbf1_{\{0<y<\theta\}}

と定める。観測値x>0x>0を固定すると、尤度と対数尤度は

Lx(θ)=1θ1{x<θ},ℓx(θ)={−log⁡θ,x<θ,−∞,0<θ≤xL_x(\theta)=\frac1\theta\mathbf1_{\{x<\theta\}},\qquad \ell_x(\theta)= \begin{cases} -\log\theta,&x<\theta,\\ -\infty,&0<\theta\leq x \end{cases}

となる。0<θ<x0<\theta<xでは観測値xxが区間(0,θ)(0,\theta)の外にあり、θ=x\theta=xでは選択した密度版が端点で零となる。いずれの場合にも、尤度は零であり、対数尤度は−∞-\inftyである。

例 2.4. 母数集合をΘ={0,1}\Theta=\{0,1\}とし、ある観測値xxにおいてLx(0)=Lx(1)=1L_x(0)=L_x(1)=1とする。正因子a(0)=1a(0)=1、a(1)=2a(1)=2を掛けた関数L~x(θ)=a(θ)Lx(θ)\widetilde L_x(\theta)=a(\theta)L_x(\theta)は

Rx(1,0)=1,L~x(1)L~x(0)=2R_x(1,0)=1,\qquad \frac{\widetilde L_x(1)}{\widetilde L_x(0)}=2

を満たす。したがって、命題 1.5で尤度比が保存されるためには、正因子が母数に依存しないという仮定が必要である。

3 再パラメータ化

命題 3.1.HHを集合とし、g:Θ→Hg:\Theta\to Hを全単射とする。η=g(θ)\eta=g(\theta)によって同じ確率測度族をQη=Pg−1(η)Q_\eta=P_{g^{-1}(\eta)}と添字付け直し、その密度をqη=pg−1(η)q_\eta=p_{g^{-1}(\eta)}と定める。観測値x∈Xx\in\mathcal Xに対する再パラメータ化後の尤度と対数尤度は

Lx(g)=Lx∘g−1,ℓx(g)=ℓx∘g−1L_x^{(g)}=L_x\circ g^{-1},\qquad \ell_x^{(g)}=\ell_x\circ g^{-1}

を満たす。また、Lx(ϑ)>0L_x(\vartheta)>0ならば

Lx(g)(g(θ))Lx(g)(g(ϑ))=Rx(θ,ϑ)\frac{L_x^{(g)}(g(\theta))}{L_x^{(g)}(g(\vartheta))} =R_x(\theta,\vartheta)

である。

証明. 任意のη∈H\eta\in Hに対して、再パラメータ化後の密度の定義から

Lx(g)(η)=qη(x)=pg−1(η)(x)=Lx(g−1(η))L_x^{(g)}(\eta)=q_\eta(x)=p_{g^{-1}(\eta)}(x)=L_x(g^{-1}(\eta))

である。両辺の対数を取ると、Lx(g−1(η))=0L_x(g^{-1}(\eta))=0の場合もlog⁡0=−∞\log0=-\inftyの規約により、ℓx(g)(η)=ℓx(g−1(η))\ell_x^{(g)}(\eta)=\ell_x(g^{-1}(\eta))を得る。η=g(θ)\eta=g(\theta)とg(ϑ)g(\vartheta)を代入すると、尤度比の等式が従う。▨

注意 3.2. 再パラメータ化は母数の添字を付け直す操作であるため、尤度はg−1g^{-1}との合成によって変換され、Jacobian 因子は現れない。Jacobian 因子が現れるのは、確率変数である観測値を変換し、観測空間上の密度を別の基準測度に関して書き直す場合である。

4 尤度原理

注意 4.1 (尤度原理と頻度論との緊張). 尤度原理は、二つの実験で実現した観測に対応する尤度関数が母数に依らない正因子を除いて一致するならば、その二つの観測は母数について同じ証拠を与えるとする原理である。

成功確率p∈(0,1)p\in(0,1)の Bernoulli 試行を考える。試行回数をnnに固定し、成功回数rrを観測する実験の尤度は

(nr)pr(1−p)n−r\binom nr p^r(1-p)^{n-r}

である。これに対して、rr回目の成功が得られた時点で試行を止め、停止時刻nnを観測する実験の尤度は

(n−1r−1)pr(1−p)n−r\binom{n-1}{r-1}p^r(1-p)^{n-r}

である。1≤r≤n1\leq r\leq nならば二つの尤度の比はn/rn/rであり、ppに依存しない。したがって尤度原理は二つの観測を同じ証拠として扱う。

一方、頻度論的な検定の第一種過誤、pp値および信頼集合の被覆確率は、実現しなかった結果も含む標本分布を用いて定義される。試行回数を固定する実験と成功回数を固定する実験では標本分布が異なるため、これらの頻度論的評価は比例する尤度だけからは定まらない。

参考文献

  1. Erich L. Lehmann and George Casella, Theory of Point Estimation, 2nd ed., Springer Texts in Statistics, Springer, 1998.支配された統計モデルにおける尤度と尤度比の標準的な定式化を参考にした。
  2. George Casella and Roger L. Berger, Statistical Inference, 2nd ed., CRC Press, Boca Raton, 2024, originally published 2002.尤度原理と停止則の異なる実験の比較を参考にした。

前提記事