1 三つの場面に同じ形で現れる
論理演算、集合演算、量化子について、否定を内側へ移す規則を並べます。
| 場面 |
否定・補集合を外へ出した形 |
内側へ移した形 |
| 論理演算 |
¬(P∧Q) |
¬P∨¬Q |
| 論理演算 |
¬(P∨Q) |
¬P∧¬Q |
| 集合演算 |
A∩B |
A∪B |
| 集合演算 |
A∪B |
A∩B |
| 量化子 |
¬∀xP(x) |
∃x¬P(x) |
| 量化子 |
¬∃xP(x) |
∀x¬P(x) |
どの行でも、否定を内側へ移すと、∧と∨、∩と∪、∀と∃がそれぞれ入れ替わります。論理演算の二つの行は§A3.2 定理 2.1、集合演算の二つの行は§A3.3 公式 5.1、量化子の二つの行は§A3.8 定理 2.1で示した規則です。
集合演算の行は、条件と真理集合の対応によって論理演算の行から得られます。範囲がn≥1個の要素からなる有限集合{a1,…,an}である場合、∀xP(x)はP(a1)∧⋯∧P(an)であり、∃xP(x)はP(a1)∨⋯∨P(an)です。このため、量化子の規則も論理演算の規則と同じ形になります。範囲が無限集合である場合には、量化された命題を有限個の論理演算へ展開することはできません。その場合にも、次に示す意味によって量化子の規則が成り立ちます。
なお、添字の集合で表される一般の族に対する集合演算(⋂i∈IAiなど)には、本記事では立ち入りません。「集合論入門」が扱います。
2 量化子についての規則
定理 2.1 (量化子のド・モルガン則).Xを対象の範囲とし、P(x)をX上の述語とする。このとき
¬∀x∈XP(x)≡∃x∈X¬P(x),¬∃x∈XP(x)≡∀x∈X¬P(x)が成り立つ。
証明.∀x∈XP(x)が偽であることは、P(x)が偽となるx∈Xが少なくとも一つ存在することと同値である。したがって、¬∀x∈XP(x)は∃x∈X¬P(x)と同値である。
∃x∈XP(x)が偽であることは、すべてのx∈XについてP(x)が偽であることと同値である。したがって、¬∃x∈XP(x)は∀x∈X¬P(x)と同値である。▨
3 入れ子になった量化子の否定は、外側から順に処理する
量化子が入れ子になった命題では、最も外側の量化子から順に定理 2.1を適用します。否定記号が一つの量化子を通るたびに量化子の種類が替わり、最後に内側の述語が否定されます。
¬∀x∃yP(x,y)≡∃x¬∃yP(x,y)≡∃x∀y¬P(x,y).
第1の同値変形では最も外側の∀xだけが∃xに替わり、否定記号が∃yの直前へ移ります。第2の同値変形では∃yが∀yに替わり、否定記号がP(x,y)の直前へ移ります。量化子の位置は交換しないため、変数の順序はx,yのままです。∃x∀yを∀y∃xと書き換えると、元の命題の否定とは異なる主張になります。
4 例:連続であることの否定を作る
例 4.1.f:R→Rとa∈Rを取る。fが点aで連続であることは
∀ε>0 ∃δ>0 ∀x∈R(∣x−a∣<δ⇒∣f(x)−f(a)∣<ε)と書き表される。三つの量化子に定理 2.1を外側から順に適用すると、否定は
∃ε>0 ∀δ>0 ∃x∈R¬(∣x−a∣<δ⇒∣f(x)−f(a)∣<ε)となる。条件文の否定¬(A⇒B)≡A∧¬Bと、∣f(x)−f(a)∣<εの否定を用いると、これは
∃ε>0 ∀δ>0 ∃x∈R(∣x−a∣<δ∧∣f(x)−f(a)∣≥ε)と同値である。
この例では、∀∃∀が∃∀∃に替わり、量化子の順序は保たれています。量化子をすべて処理したあとに、条件文と不等号の否定を計算しています。