§A3.6逆・裏・対偶

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条件文からは、機械的な書き換えによって三つの命題を作ることができます。名前を定めます。

定義 1 (逆・裏・対偶). 命題p⇒qp \Rightarrow qに対して、次の三つを定める。

逆q⇒p(前件と後件を入れ替える)裏¬p⇒¬q(両方を否定する)対偶¬q⇒¬p(入れ替えたうえで否定する)\begin{array}{ll} \text{逆} & q \Rightarrow p \quad(\text{前件と後件を入れ替える}) \\ \text{裏} & \lnot p \Rightarrow \lnot q \quad(\text{両方を否定する}) \\ \text{対偶} & \lnot q \Rightarrow \lnot p \quad(\text{入れ替えたうえで否定する}) \\ \end{array}

1 対偶は、もとの命題と真偽が一致する

この項目でもっとも重要な事実を先に述べます。

定理 1.1 (対偶の同値性). 任意の命題pp、qqについて(p⇒q)≡(¬q⇒¬p)(p \Rightarrow q) \equiv (\lnot q \Rightarrow \lnot p)が成り立つ。

真理値表で確かめます。

pp qq p⇒qp \Rightarrow q ¬q\lnot q ¬p\lnot p ¬q⇒¬p\lnot q \Rightarrow \lnot p
T T T F F T
T F F T F F
F T T F T T
F F T T T T

証明. 上の表の第3列と第6列は、4行すべてで一致します。ppとqqの真偽の組み合わせを尽くしているので、二つは同値です。▨

真理集合の言葉でも同じことが見えます。p⇒qp \Rightarrow qはP⊂QP \subset Qにあたり、対偶¬q⇒¬p\lnot q \Rightarrow \lnot pはQ‾⊂P‾\overline{Q} \subset \overline{P}にあたります。PPのどの要素もQQに属することと、QQに属さないどの要素もPPに属さないことは、同じ包含関係を二つの側から述べたものです。

2 対偶による証明を選ぶ判断

もとの命題と対偶は真偽が一致するので、もとの命題を示す代わりに、対偶を示してもかまいません。どちらを示すかは、仮定から手がかりを取り出しやすいほうを選びます。

定理 2.1 (平方が偶数ならもとの数も偶数). 整数nnについて、n2n^2が偶数ならばnnは偶数である。

直接示そうとすると、仮定はn2=2kn^2 = 2kとなる整数kkが存在することです。ここからnnそのものについての情報を取り出すには、素因数分解の性質など、別の道具が必要になります。対偶を取ると、仮定から具体的な形を書き下すことができます。

証明 (対偶による). 対偶は「nnが奇数ならばn2n^2は奇数である」です。nnが奇数であればn=2m+1n = 2m + 1(mmは整数)と書くことができ、

n2=(2m+1)2=4m2+4m+1=2(2m2+2m)+1n^2 = (2m+1)^2 = 4m^2 + 4m + 1 = 2(2m^2 + 2m) + 1

よりn2n^2は奇数です。定理 1.1により、もとの命題も示されました。▨

判断の基準は、結論を否定したほうが、仮定として書き下せる情報が増えるかどうかです。この例では、「nnは偶数である」という結論を否定して「nnは奇数である」と仮定に回すと、n=2m+1n = 2m+1という具体的な形が手に入ります。もとの形では、n2n^2が偶数であるという情報からnnの形を書き下すことができません。整数の偶奇、有理数と無理数の区別、不等式の向きのように、否定したほうが具体的な形を書きやすい条件が結論にあるときは、対偶による証明が有効です。

3 逆と裏は、もとの命題と真偽が一致するとは限らない

一方、逆と裏は、もとの命題と真偽が一致するとは限りません。

実数xxについての命題「x=2⇒x2=4x = 2 \Rightarrow x^2 = 4」は真です。

  • 逆「x2=4⇒x=2x^2 = 4 \Rightarrow x = 2」は偽です。x=−2x = -2が反例になります。
  • 裏「x≠2⇒x2≠4x \ne 2 \Rightarrow x^2 \ne 4」も偽です。同じくx=−2x = -2が反例になります。

逆と裏は互いに対偶の関係にあります。逆q⇒pq \Rightarrow pの対偶は¬p⇒¬q\lnot p \Rightarrow \lnot qで、これは裏そのものです。したがって、逆と裏の真偽は常に一致します。上の例で両方が偽になったのは偶然ではありません。

閑話休題:人間は対偶による判断を苦手とする 机の上にカードが4枚あります。表にはアルファベットが、裏には数字が書いてあり、いま見えている面は「A」「K」「4」「7」です。規則「母音のカードの裏は偶数である」が守られているかどうかを確かめるには、どのカードを裏返す必要があるでしょうか。19661966年にウェイソンが行ったこの実験で、正答率はおよそ10%10\%でした。多くの人は「A と 4」を選びます。正解は「A と 7」です。規則はp⇒qp \Rightarrow q(母音ならば偶数)なので、確かめるべきは前件を満たす A と、対偶の前件¬q\lnot qを満たす奇数の 7 です。「4」を裏返すのは逆(偶数ならば母音)を確かめる行為であって、規則はそれを主張していません。

興味深いのはここからです。同じ論理構造を「ビールを飲んでいるなら20歳以上である」という規則に置き換え、「ビール」「コーラ」「25歳」「16歳」の4人から選ばせると、ほとんどの人が正しく「ビールと16歳」を選びます。抽象的な記号では10%10\%しか正答することができない問題が、規則違反の監視という文脈では、ほぼ全員が正答することができるのです。人間の論理的な判断は一様ではなく、文脈に強く依存しています。逆と裏を機械的な書き換えとして訓練する本単元の方針は、この偏りに対する備えです。直感は文脈によって答えを変えますが、真理値表と対偶の規則は変えません。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

次の命題の逆・裏・対偶を書き、それぞれの真偽を判定せよ。

解法の型逆は q ⇒\Rightarrow p、裏は ¬p\neg p⇒\Rightarrow¬q\neg q、対偶は ¬q\neg q⇒\Rightarrow¬p\neg p。もとと対偶は真偽が一致し、逆と裏も互いに一致する

  1. 例題 1

    x=5⇒x2=25x = 5 \Rightarrow x^2 = 25
  2. 例題 2

    x>2⇒x2>4x > 2 \Rightarrow x^2 > 4
  3. 例題 3

    x2=9⇒x=3x^2 = 9 \Rightarrow x = 3
  4. 例題 4

    n は 10 の倍数⇒n は 5 の倍数n \ \text{は}\ 10 \ \text{の倍数} \Rightarrow n \ \text{は}\ 5 \ \text{の倍数}
  5. 例題 5

    n は 3 の倍数⇒n は 9 の倍数n \ \text{は}\ 3 \ \text{の倍数} \Rightarrow n \ \text{は}\ 9 \ \text{の倍数}
  6. 例題 6

    n は 9 の倍数⇒n は 3 の倍数n \ \text{は}\ 9 \ \text{の倍数} \Rightarrow n \ \text{は}\ 3 \ \text{の倍数}
  7. 例題 7

    x2=16⇒x=4x^2 = 16 \Rightarrow x = 4
  8. 例題 8

    x>4⇒x2>16x > 4 \Rightarrow x^2 > 16
  9. 例題 9

    x>5⇒x2>25x > 5 \Rightarrow x^2 > 25
  10. 例題 10

    n は 6 の倍数⇒n は 2 の倍数n \ \text{は}\ 6 \ \text{の倍数} \Rightarrow n \ \text{は}\ 2 \ \text{の倍数}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

次の命題の逆・裏・対偶を書き、それぞれの真偽を判定せよ。

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