§A3.7背理法

最終更新

直接には手がかりの無い主張でも、否定を仮定すると具体的な式が手に入ることがあります。それを利用する証明の方法を定めます。

定義 1 (背理法). 証明したい主張を否定して仮定し、その仮定と既知の事実とから矛盾を導くことによって、もとの主張が正しいと結論する証明の方法を背理法という。

否定を仮定すると矛盾が出るのだから否定は誤りであり、したがってもとの主張が正しい、という筋道です。

1 手順は決まっている

主張PPを証明するとき、次の順に進めます。

  1. PPの否定¬P\lnot Pを仮定します。「もしPPでないとすると」と書き出し、¬P\lnot Pが具体的に何を主張しているのかを、式や条件の形で書き下します。
  2. その仮定と、すでに示されている事実とから推論を進めます。
  3. 矛盾に到達します。矛盾とは、ある命題QQについてQQと¬Q\lnot Qの両方が導かれること、または1=01 = 0のように偽であることが分かっている命題が導かれることです。
  4. 矛盾がどの仮定から出たのかを明示します。証明の中で用いた仮定は、もとの主張の前提と、手順1で置いた¬P\lnot Pの二つです。前提は正しいものとして与えられているので、誤っているのは¬P\lnot Pのほうです。
  5. ¬P\lnot Pが誤りであると結論し、PPが正しいとします。

手順1と手順4を省略しないことが重要です。手順1で否定を正確に書き下すことができなければ、その後の推論は別の主張についての議論になってしまいます。手順4を書かなければ、読み手は、導かれた矛盾がどの仮定を否定する根拠になるのかを判断することができません。

2 例:2\sqrt{2}は無理数である

定理 2.1 (2\sqrt{2}の無理性).2\sqrt{2}は無理数である。

直接示そうとすると、無理数であることは「有理数として表すことができない」という否定的な主張なので、手がかりを取り出すことが困難です。否定を仮定すると、逆に手がかりが増えます。

証明 (背理法による). 否定は「2\sqrt{2}は有理数である」です。これを仮定すると、2\sqrt{2}は整数の比として表すことができ、約分し切った形をとって2=mn\sqrt{2} = \dfrac{m}{n}(mm、nnは整数、n≠0n \ne 0、mmとnnは互いに素)と書くことができます。両辺を2乗して分母を払うと

m2=2n2m^2 = 2n^2

を得ます。左辺は偶数なのでm2m^2は偶数であり、「m2m^2が偶数ならばmmは偶数である」(「逆・裏・対偶」で対偶によって示しました)からmmは偶数です。そこでm=2m′m = 2m'と書くと4m′2=2n24m'^2 = 2n^2、すなわちn2=2m′2n^2 = 2m'^2となり、同じ理由でnnも偶数です。mmとnnがともに偶数であることは、mmとnnが互いに素であるという仮定と矛盾します。

この矛盾は、もとの前提ではなく、手順1で置いた仮定「2\sqrt{2}は有理数である」から出ています。したがってこの仮定は誤りであり、2\sqrt{2}は無理数です。▨

否定を仮定したことによって「mn\dfrac{m}{n}と書くことができる」という具体的な式が手に入り、以降は整数の計算として進めることができました。背理法は、直接には手がかりのない主張について、計算することができる形の仮定を作り出す方法です。

3 対偶による証明との違い

「p⇒qp \Rightarrow q」を示すのに、対偶¬q⇒¬p\lnot q \Rightarrow \lnot pを示すのが対偶による証明です。背理法では、ppと¬q\lnot qの両方を仮定して矛盾を導きます。

二つの方法は近い関係にありますが、何を仮定として置くかが異なります。対偶による証明では、仮定は¬q\lnot qの一つだけであり、そこから¬p\lnot pを導くという到達点がはじめから決まっています。背理法では、仮定はppと¬q\lnot qの二つあり、どこで矛盾が出るかは決まっていません。使うことができる仮定が多いぶん、到達点が定まっていないという違いです。

到達点が決まっているほうが議論を組み立てやすいので、p⇒qp \Rightarrow qの形の主張については、まず対偶による証明を検討します。2\sqrt{2}が無理数であることのように、そもそもp⇒qp \Rightarrow qの形をしていない主張では、背理法を用います。

閑話休題:無理数がもたらした最初の衝撃2\sqrt2が無理数であるというこの背理法の証明は、数学史上もっとも古い衝撃の一つでした。古代ギリシャのピタゴラス学派は、万物は整数の比によって表すことができると考えていましたが、正方形の対角線と一辺の比(2\sqrt2)がどのような整数比によっても表すことができないことが、この証明によって明らかになります。伝説では、この事実を学派の外へ漏らしたヒッパソスが、海に投げ込まれて命を落としたと伝えられています。

背理法は、PPと¬P\lnot Pのどちらか一方は必ず正しいという排中律と深く結び付いています。存在を示す証明には、条件を満たす実物を一つ作って見せるものと、存在だけを保証するものがあります。たとえば、無理数aa、bbでaba^bが有理数になる組が存在します。22\sqrt2^{\sqrt2}を考え、22\sqrt2^{\sqrt2}が有理数であればa=b=2a=b=\sqrt2とすれば済みます。無理数であればa=22a=\sqrt2^{\sqrt2}、b=2b=\sqrt2とすると

(22)2=22=2\left(\sqrt2^{\sqrt2}\right)^{\sqrt2}=\sqrt2^2=2

で有理数です。どちらの場合にも組は存在するのに、どちらが本当であるかは言い当てていません。排中律を認めない立場は、こうした「作らずに、あるとだけ言う」証明を疑い、実際に構成することを求めます。この線引きは、数学の土台を問う場面で再び現れます。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

次の主張を背理法で証明する。(1) 何を仮定するか(主張の否定)、(2) その仮定からどんな矛盾が導かれるか、を書け。

次の主張を背理法で示すとき、何を仮定し、どんな矛盾が導かれるかを書け。

解法の型手順は固定: 示したい主張 P の否定 ¬P\neg P を仮定する →\to 計算を進める →\to 矛盾(Q かつ ¬Q\neg Q)に到達する →\to¬P\neg P が誤りなので P が正しい

  1. 例題 1

    素数は無限に存在する\text{素数は無限に存在する}
  2. 例題 2

    a が 0 でない有理数、b が無理数ならば ab は無理数であるa \ \text{が 0 でない有理数、} b \ \text{が無理数ならば } ab \ \text{は無理数である}
  3. 例題 3

    合成数 n は n 以下の素因数をもつ\text{合成数 } n \ \text{は } \sqrt{n} \ \text{以下の素因数をもつ}
  4. 例題 4

    n2 が 3 の倍数ならば n は 3 の倍数である(n は整数)n^2 \ \text{が 3 の倍数ならば } n \ \text{は 3 の倍数である} \quad (n \ \text{は整数})
  5. 例題 5

    n+1 個のものを n 個の箱に入れると、2 個以上入る箱がある(鳩の巣原理)n + 1 \ \text{個のものを } n \ \text{個の箱に入れると、2 個以上入る箱がある(鳩の巣原理)}
  6. 例題 6

    2+3 は無理数である(6 が無理数であることは既知とする)\sqrt{2} + \sqrt{3} \ \text{は無理数である(} \sqrt{6} \ \text{が無理数であることは既知とする)}
  7. 例題 7

    a が有理数、b が無理数ならば a+b は無理数であるa \ \text{が有理数、} b \ \text{が無理数ならば } a + b \ \text{は無理数である}
  8. 例題 8

    a+b≥2 ならば a≥1 または b≥1(a,b は実数)a + b \ge 2 \ \text{ならば } a \ge 1 \ \text{または } b \ge 1 \quad (a, b \ \text{は実数})
  9. 例題 9

    2 は無理数である\sqrt{2} \ \text{は無理数である}
  10. 例題 10

    n2 が偶数ならば n は偶数である(n は整数)n^2 \ \text{が偶数ならば } n \ \text{は偶数である} \quad (n \ \text{は整数})

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

次の主張を背理法で証明する。(1) 何を仮定するか(主張の否定)、(2) その仮定からどんな矛盾が導かれるか、を書け。

演習を読み込み中…

前提記事