1 より強い主張を証明する
証明するのは、次の主張です。
x4+y4=z2を満たす正整数x,y,zは存在しない。
求めたいのはx4+y4=z4の非存在ですが、こちらはz4=(z2)2なので、上の主張でzをz2に置き換えたものにすぎません。したがって上を示せば、n=4の場合が従います。
一見遠回りに見えますが、これは降下法では定石です。主張を強くした方が、降下の途中で作った解が再び同じ主張の反例になりやすくなります。 右辺を4乗に固定してしまうと、降下の途中で現れる「2乗」の形が主張の枠に収まらず、議論が続きません。
2 準備:原始ピタゴラス数の一般形
証明の中で二度使うので、先に用意します。
a2+b2=c2を満たす正整数でgcd(a,b)=1、bが偶数のものは、m>n>0、gcd(m,n)=1、mとnの偶奇が異なる整数m,nを使ってa=m2−n2、b=2mn、c=m2+n2と書ける。
導出はこうです。gcd(a,b)=1なのでaとbが両方偶数になることはなく、両方奇数だとc2=a2+b2≡1+1=2(mod4)となって平方数になりません。よってちょうど一方が偶数で、仮定によりそれがbです。するとaとcは奇数です。
b2=c2−a2=(c−a)(c+a)で、c−aとc+aはともに偶数なので、
(2b)2=2c−a⋅2c+a
と書けます。ここで2c−aと2c+aは互いに素です。共通の素因数pがあれば、和cと差aの両方をpが割り、gcd(a,c)=1に反するからです。互いに素な二つの正整数の積が平方数なら、それぞれが平方数です(素因数分解の一意性から、各素因数の指数が片方にまとめて現れるため)。そこで
2c+a=m2,2c−a=n2
とおけば、a=m2−n2、c=m2+n2、b2=4m2n2よりb=2mnが出ます。gcd(m,n)=1はgcd(2c+a,2c−a)=1から従い、aが奇数であることからm,nの偶奇は異なります。
3 証明:x4+y4=z2に解はない
解があると仮定します。解の集合が空でないなら、その中でzが最小のものを選べます。この(x,y,z)から、より小さいzをもつ解を作って矛盾させます。
第1段:xとyは互いに素としてよい。 素数pがxとyの両方を割るとするとp4∣z2、したがってp2∣zです。すると(px,py,p2z)も同じ方程式の正整数解で、p2z<zです。zの最小性に反するので、gcd(x,y)=1です。
第2段:一度目の一般形を当てる。(x2)2+(y2)2=z2と読めば、これはgcd(x2,y2)=1を満たすピタゴラス数です。準備の導出で見たとおり、このときx2とy2のちょうど一方が偶数であり、したがってxとyのちょうど一方が偶数です。必要なら入れ替えてyを偶数、xを奇数とします。準備の一般形により、
x2=m2−n2,y2=2mn,z=m2+n2
と書けます(m>n>0、gcd(m,n)=1、偶奇は異なる)。
第3段:mが奇数、nが偶数であること。x2=m2−n2でxは奇数なのでx2≡1(mod4)です。もしmが偶数でnが奇数ならm2−n2≡0−1≡3(mod4)となって合いません。よってmが奇数、nが偶数です。
第4段:二度目の一般形を当てる。 第2段の式を移項すると
x2+n2=m2
で、これもピタゴラス数です。gcd(x,n)=1が成り立ちます(共通の素因数はm2を割るのでmを割り、gcd(m,n)=1に反します)。nが偶数なので、準備の一般形をそのまま使えて、
x=a2−b2,n=2ab,m=a2+b2
と書けます(a>b>0、gcd(a,b)=1、偶奇は異なる)。
第5段:三つの因子が平方数になること。y2=2mn=2m⋅2ab=4abmなので、
(2y)2=a⋅b⋅m
です。ここでa、b、mはどの二つも互いに素です。gcd(a,b)=1は上で得ており、aとm=a2+b2の共通素因数はb2を割るのでgcd(a,b)=1に反し、bとmも同様です。互いに素な因子の積が平方数なので、それぞれが平方数です。
a=p2,b=q2,m=r2
第6段:降下。m=a2+b2に代入すると
r2=p4+q4
となり、(p,q,r)は最初の方程式の正整数解です。ところが
r≤r2=m≤m2<m2+n2=z
なのでr<zです。zの最小性に矛盾します。
したがってx4+y4=z2に正整数解はありません。x4+y4=z4に解があれば(x,y,z2)がその解になってしまうので、x4+y4=z4にも正整数解はありません。
4 何が効いていたか
降下法の記事で挙げた三要素が、そのまま現れています。
- 反例の集合が空でないという仮定 — 解があるとした第1段の出発点。
- 最小の反例を選ぶこと —zを最小に取る。正の整数全体の空でない部分集合には最小元が存在するという整列性を使っています。
- 同じ問題の解を、より小さく作ること — 第6段で得た(p,q,r)は、同じ方程式の解であり、かつr<z。
この二つ目と三つ目が両方そろって初めて降下です。第5段でa、b、mが平方数だと分かっただけでは、新しい「解」が得られただけで、小さくなっている保証がありません。r≤r2=m<zという評価が、降下を成立させています。
6 演習
- 第4段のgcd(x,n)=1を、本文の方針に沿って詳しく確かめよ。
- 第5段の「bとmが互いに素」を確かめよ。
- x4+y4=z2の非存在から、x4+y4=z4の非存在が従う手順を書け。また、この議論がn=8,12,16,…にも使えることを説明せよ。
- 準備の一般形で「mとnの偶奇が異なる」という条件を落とすと、どの結論が崩れるか答えよ。
閑話休題:余白と、その後の350年 フェルマーがこの主張を書き残したのは、ディオファントスの『算術』の余白でした。「私はこの命題の真に驚くべき証明を見つけたが、余白が狭すぎて書けない」という有名な書き込みです。ただし、フェルマー自身が完全な証明を書き残したのはn=4の場合だけで、それがこの記事で扱った無限降下法による議論です。一般のnについて彼が何を持っていたのかは分かっていません。
n=4が片づくと、nが4の倍数の場合はすべて従います。またnが3以上の奇素数pを約数にもつ場合はpの場合に帰着するので、残るのは奇素数pに対するxp+yp=zpだけになります。オイラーがn=3、ディリクレとルジャンドルがn=5、ラメがn=7と個別に落としていきましたが、素数は無限にあるので個別撃破では終わりません。
決着したのは1995年、アンドリュー・ワイルズによる証明です。使われたのは楕円曲線と保型形式を結ぶ谷山・志村予想(の必要な部分)であり、この記事で使った初等的な道具とはまったく別の世界の話になっています。n=4が高校の範囲で読み切れるのは、むしろ例外的な幸運だと考えてください。