§C5.7競技数学:凸性による不等式

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競技数学の凸性による不等式では、区間上の関数が凸であることを用いて、複数の変数を含む評価を一つの原理から導きます。そのためには、関数が定義された区間と凸性の条件を確かめ、等号が成り立つ条件を各不等式で追跡する必要があります。本記事では、弦の傾きによる判定から導く基本的な不等式を説明します。

1 凸関数の定義

区間II上の関数ffのグラフから、二点(a,f(a))(a,f(a))と(b,f(b))(b,f(b))を取り、その二点を結ぶ線分を考えます。この線分を弦といいます。弦の上の点は、0≤t≤10\le t\le1を満たす実数ttによって

(ta+(1−t)b, tf(a)+(1−t)f(b))\bigl(ta+(1-t)b,\ tf(a)+(1-t)f(b)\bigr)

と書くことができます。第1成分はaaとbbの間を動き、第2成分がその点における弦の高さです。同じ第1成分に対するグラフの高さはf(ta+(1−t)b)f(ta+(1-t)b)です。この二つの高さを比べたものが、次の定義です。

定義 1.1 (下に凸な関数). 区間II上で定義された実数値関数ffが 下に凸 であるとは、IIのどの二点a,ba,bと、0≤t≤10\le t\le1を満たすどの実数ttについても

f(ta+(1−t)b)≤tf(a)+(1−t)f(b)f\bigl(ta+(1-t)b\bigr)\le tf(a)+(1-t)f(b)

が成り立つことをいう。すなわち、グラフ上のどの二点を結ぶ弦も、その二点の間ではグラフより下に来ないことをいう。

定義 1.2 (狭義に下に凸な関数). 区間II上で定義された実数値関数ffが 狭義に下に凸 であるとは、IIの相異なるどの二点a,ba,bと、0<t<10<t<1を満たすどの実数ttについても

f(ta+(1−t)b)<tf(a)+(1−t)f(b)f\bigl(ta+(1-t)b\bigr)<tf(a)+(1-t)f(b)

が成り立つことをいう。

定義の言い方には、落とすことのできない部分が二つあります。

注意 1.3 (定義が等号を許すこと). 定義は「弦がグラフより下に来ない」であって「弦がグラフより上を通る」ではない。一次関数f(x)=px+qf(x)=px+qについては、どのa,b,ta,b,tについてもf(ta+(1−t)b)=tf(a)+(1−t)f(b)f(ta+(1-t)b)=tf(a)+(1-t)f(b)が成り立つので、一次関数は下に凸である。「上を通る」と述べると等号が除かれ、一次関数が下に凸でなくなる。また、等号が成り立つ条件を、下に凸であることと狭義に下に凸であることとで書き分けることができなくなる。

注意 1.4 (「その二点の間では」という限定). 限定を落とすことはできない。f(x)=x2f(x)=x^{2}についてa=0a=0、b=1b=1と取ると、弦を含む直線はy=xy=xである。区間[0,1][0,1]ではx2≤xx^{2}\le xが成り立つが、x=2x=2では直線の高さが22、グラフの高さが44であり、直線はグラフより下に来る。したがって、弦とグラフの上下関係は二点の間についての主張である。

−f-fが下に凸であるとき、ffは上に凸であるといいます。上に凸な関数については、本記事に現れる不等号の向きがすべて反対になります。

2 凸であることをどのように確かめるか

定義には、aa、bb、ttという三つの量が現れます。ttを含まない形で判定することができれば、具体的な関数について確かめる作業が短くなります。次の定理は、ttを消し、三点の弦の傾きの比較に置き換えたものです。

定理 2.1 (弦の傾きによる判定). 区間II上の実数値関数ffについて、次の二つは同値である。

  1. ffはII上で下に凸である。
  2. IIのどの三点a<b<ca<b<cについても f(b)−f(a)b−a≤f(c)−f(b)c−b\frac{f(b)-f(a)}{b-a}\le\frac{f(c)-f(b)}{c-b} が成り立つ。

また、2 の不等号をつねに狭義のものに置き換えた条件は、ffがII上で狭義に下に凸であることと同値である。

証明. 1 から 2 を導く。a<b<ca<b<cをIIの点とし、t=c−bc−at=\dfrac{c-b}{c-a}とおく。0<t<10<t<1であり、1−t=b−ac−a1-t=\dfrac{b-a}{c-a}、b=ta+(1−t)cb=ta+(1-t)cである。下に凸であることから

f(b)≤tf(a)+(1−t)f(c)f(b)\le tf(a)+(1-t)f(c)

が成り立つ。両辺からf(a)f(a)を引くとf(b)−f(a)≤(1−t)(f(c)−f(a))f(b)-f(a)\le(1-t)\bigl(f(c)-f(a)\bigr)となり、正の数b−a=(1−t)(c−a)b-a=(1-t)(c-a)で割ると

f(b)−f(a)b−a≤f(c)−f(a)c−a\frac{f(b)-f(a)}{b-a}\le\frac{f(c)-f(a)}{c-a}

を得る。また、両辺からf(c)f(c)を引くとf(b)−f(c)≤t(f(a)−f(c))f(b)-f(c)\le t\bigl(f(a)-f(c)\bigr)となり、両辺に−1-1を掛けて正の数c−b=t(c−a)c-b=t(c-a)で割ると

f(c)−f(b)c−b≥f(c)−f(a)c−a\frac{f(c)-f(b)}{c-b}\ge\frac{f(c)-f(a)}{c-a}

を得る。二つを合わせると 2 が従う。

2 から 1 を導く。IIの二点と0≤t≤10\le t\le1を取る。二点が一致する場合と、t=0t=0またはt=1t=1の場合は、定義の両辺が一致するので成り立つ。以下、二点が相異なり0<t<10<t<1であるとする。定義の式は、二点を入れ替えると同時にttを1−t1-tへ取り替えることで移り合うので、二点のうち小さいほうをaa、大きいほうをccと置いてよいものとする。b=ta+(1−t)cb=ta+(1-t)cとおくとa<b<ca<b<cであり、b−a=(1−t)(c−a)b-a=(1-t)(c-a)、c−b=t(c−a)c-b=t(c-a)である。 2 の両辺へ正の数t(1−t)(c−a)t(1-t)(c-a)を掛けると

t(f(b)−f(a))≤(1−t)(f(c)−f(b))t\bigl(f(b)-f(a)\bigr)\le(1-t)\bigl(f(c)-f(b)\bigr)

となり、整理するとf(b)≤tf(a)+(1−t)f(c)f(b)\le tf(a)+(1-t)f(c)を得る。これが 1 である。

狭義の場合も、上の二つの計算で不等号をすべて狭義のものに置き換えれば、同じように従う。▨

この証明の前半では、外側の二点を結ぶ弦の傾きf(c)−f(a)c−a\dfrac{f(c)-f(a)}{c-a}が、左側の弦の傾きと右側の弦の傾きの間に来ることも示されました。この事実は、支持直線の傾きを探すときに用います。

判定条件を使って、本記事で繰り返し用いる二つの関数を調べます。

例 2.2 (べき乗と逆数が狭義に下に凸であること).nnを22以上の整数とすると、f(x)=xnf(x)=x^{n}は区間[0,∞)[0,\infty)上で狭義に下に凸である。またg(x)=1xg(x)=\dfrac{1}{x}は区間(0,∞)(0,\infty)上で狭義に下に凸である。

証明. f(x)=xnf(x)=x^{n}について。0≤a<b0\le a<bに対して、因数分解

bn−an=(b−a)(an−1+an−2b+⋯+abn−2+bn−1)b^{n}-a^{n}=(b-a)\bigl(a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots+ab^{n-2}+b^{n-1}\bigr)

から、弦の傾きはS(a,b)=an−1+an−2b+⋯+bn−1S(a,b)=a^{n-1}+a^{n-2}b+\cdots+b^{n-1}である。0≤a<b<c0\le a<b<cとすると、S(a,b)S(a,b)の各項aibja^{i}b^{j}(i+j=n−1i+j=n-1)とS(b,c)S(b,c)の対応する項bicjb^{i}c^{j}について、0≤a<b0\le a<bからai≤bia^{i}\le b^{i}、0<b<c0<b<cからbj≤cjb^{j}\le c^{j}が成り立つのでaibj≤bicja^{i}b^{j}\le b^{i}c^{j}である。さらにi=0i=0の項はbn−1b^{n-1}とcn−1c^{n-1}であり、0<b<c0<b<cとn−1≥1n-1\ge1からbn−1<cn−1b^{n-1}<c^{n-1}である。よってS(a,b)<S(b,c)S(a,b)<S(b,c)となり、定理 2.1の狭義の条件が成り立つ。

g(x)=1/xg(x)=1/xについて。0<a<b0<a<bに対して弦の傾きは

1b−1ab−a=a−bab(b−a)=−1ab\frac{\frac1b-\frac1a}{b-a}=\frac{a-b}{ab(b-a)}=-\frac{1}{ab}

である。0<a<b<c0<a<b<cとするとab<bcab<bcなので1ab>1bc\dfrac{1}{ab}>\dfrac{1}{bc}、すなわち−1ab<−1bc-\dfrac{1}{ab}<-\dfrac{1}{bc}である。よって狭義の条件が成り立つ。▨

注意 2.3 (二階導関数による判定). 二階導関数の符号によってグラフの凹凸を判定する方法は、「高次導関数と曲線の凹凸」が扱う。本記事の定義、イェンセンの不等式、接線による評価、べき平均の不等式の証明は、いずれも二階導関数を用いない。二階導関数は、具体的な関数が下に凸であることを確かめる場面で用いることができる補助であって、本記事の主張の前提ではない。

3 イェンセンの不等式

定義は二点についての主張です。これをnn点へ広げたものがイェンセンの不等式であり、本記事で導く不等式の中心になります。重みwiw_{i}をすべて1/n1/nと取れば、「平均を先に取ってから関数へ入れた値は、関数へ入れてから平均を取った値以下である」という形になります。

定理 3.1 (イェンセンの不等式).ffを区間II上で下に凸な関数とする。IIの点x1,…,xnx_{1},\dots,x_{n}と、w1+⋯+wn=1w_{1}+\cdots+w_{n}=1を満たす00以上の実数w1,…,wnw_{1},\dots,w_{n}について

f(∑i=1nwixi)≤∑i=1nwif(xi)f\left(\sum_{i=1}^{n}w_{i}x_{i}\right)\le\sum_{i=1}^{n}w_{i}f(x_{i})

が成り立つ。さらにffがII上で狭義に下に凸であり、すべてのwiw_{i}が正であるとき、等号が成り立つのはx1=⋯=xnx_{1}=\cdots=x_{n}の場合に限る。

証明. はじめに、左辺が定義されることを確かめる。xix_{i}の最小値をmm、最大値をMMとするとm≤∑iwixi≤Mm\le\sum_{i}w_{i}x_{i}\le Mであり、mmとMMはIIの点でIIは区間なので、∑iwixi\sum_{i}w_{i}x_{i}はIIに属する。

nnについての帰納法で示す。n=1n=1のときは両辺が一致する。n=2n=2のときはw1=tw_{1}=tとおけば下に凸であることの定義そのものであり、狭義の場合の等号の条件も定義 1.2のとおりである。

nn個の場合に成り立つとして、n+1n+1個の場合を示す。wn+1=1w_{n+1}=1のときは他のwiw_{i}がすべて00なので両辺が一致する。wn+1<1w_{n+1}<1とし、s=w1+⋯+wn=1−wn+1>0s=w_{1}+\cdots+w_{n}=1-w_{n+1}>0、vi=wisv_{i}=\dfrac{w_{i}}{s}(i=1,…,ni=1,\dots,n)とおくと、vi≥0v_{i}\ge0でv1+⋯+vn=1v_{1}+\cdots+v_{n}=1である。y=∑i=1nvixiy=\sum_{i=1}^{n}v_{i}x_{i}は、上と同じ理由でIIに属する。

∑i=1n+1wixi=sy+wn+1xn+1\sum_{i=1}^{n+1}w_{i}x_{i}=sy+w_{n+1}x_{n+1}

であり、s+wn+1=1s+w_{n+1}=1なので、下に凸であることから

f(∑i=1n+1wixi)≤sf(y)+wn+1f(xn+1)f\left(\sum_{i=1}^{n+1}w_{i}x_{i}\right)\le sf(y)+w_{n+1}f(x_{n+1})

が成り立つ。帰納法の仮定からf(y)≤∑i=1nvif(xi)f(y)\le\sum_{i=1}^{n}v_{i}f(x_{i})であり、両辺へ正の数ssを掛けてwn+1f(xn+1)w_{n+1}f(x_{n+1})を加えると

sf(y)+wn+1f(xn+1)≤∑i=1n+1wif(xi)sf(y)+w_{n+1}f(x_{n+1})\le\sum_{i=1}^{n+1}w_{i}f(x_{i})

となる。二つをつないで主張の不等式を得る。

等号を調べる。ffが狭義に下に凸で、すべてのwiw_{i}が正であるとする。n+1n+1個の場合に等号が成り立つとすると、上の二つの不等式がいずれも等号でなければならない。第一の不等式は、s>0s>0とwn+1>0w_{n+1}>0を重みとする二点についての評価なので、狭義に下に凸であることからy=xn+1y=x_{n+1}が従う。第二の不等式が等号であることと帰納法の仮定からx1=⋯=xnx_{1}=\cdots=x_{n}が従い、このときy=x1y=x_{1}である。よってx1=⋯=xn+1x_{1}=\cdots=x_{n+1}である。逆に、すべてのxix_{i}が等しければ両辺は一致する。▨

注意 3.2 (等号の条件は狭義であることに依ること). 下に凸ではあるが狭義に下に凸ではない関数では、xix_{i}がすべて等しくない場合にも等号が成り立つことがある。一次関数では、どのようなxix_{i}とwiw_{i}に対しても両辺が一致する。したがって、等号が成り立つ条件を述べるときは、用いた関数が狭義に下に凸であるかどうかを確かめなければならない。

適用の例を挙げます。次の不等式は、不等式の発展的手法 が分数の形のコーシー・シュワルツの不等式による証明を演習として求めている不等式を、制約a+b+c=1a+b+c=1の形で書いたものです。

例 3.3 (逆数の和の下からの評価). 正の実数a,b,ca,b,cがa+b+c=1a+b+c=1を満たすとき

1a+1b+1c≥9\frac{1}{a}+\frac{1}{b}+\frac{1}{c}\ge9

が成り立ち、等号はa=b=c=13a=b=c=\dfrac13の場合に限る。

証明.g(x)=1xg(x)=\dfrac1xは(0,∞)(0,\infty)上で狭義に下に凸である(例 2.2)。x1=ax_{1}=a、x2=bx_{2}=b、x3=cx_{3}=c、w1=w2=w3=13w_{1}=w_{2}=w_{3}=\dfrac13として定理 3.1を適用すると

g(a+b+c3)≤13(1a+1b+1c)g\left(\frac{a+b+c}{3}\right)\le\frac13\left(\frac1a+\frac1b+\frac1c\right)

である。a+b+c=1a+b+c=1から左辺はg(13)=3g\left(\dfrac13\right)=3なので、1a+1b+1c≥9\dfrac1a+\dfrac1b+\dfrac1c\ge9を得る。重みはすべて正でggは狭義に下に凸なので、等号はa=b=ca=b=cの場合に限り、a+b+c=1a+b+c=1と合わせてa=b=c=13a=b=c=\dfrac13である。▨

同じ不等式に対して、コーシー・シュワルツの不等式による証明と凸性による証明のどちらを選ぶかは、項数と重みの一般性で決まります。項数が増えても、また重みが等しくない場合にも、凸性による議論は関数を取り替えるだけで同じ形のまま使うことができます。

4 接線による評価

イェンセンの不等式は、∑wif(xi)\sum w_{i}f(x_{i})をf(∑wixi)f\left(\sum w_{i}x_{i}\right)で下から評価します。制約がx1+⋯+xnx_{1}+\cdots+x_{n}の値として与えられている問題では、この形がそのまま働きます。しかし、扱う関数が変数の動く範囲全体では下に凸でないことがあります。そのような場合にも使うことができるのが、次の評価です。等号が成り立つ点の見当を先につけ、その点でグラフに接する直線とグラフの上下関係を各項について確かめ、最後に足し合わせます。

定理 4.1 (支持直線による評価).IIを区間、ffをII上の実数値関数、ppをIIの点、mmを実数とし、すべてのx∈Ix\in Iについて

f(x)≥f(p)+m(x−p)f(x)\ge f(p)+m(x-p)

が成り立つとする。このとき、IIの点x1,…,xnx_{1},\dots,x_{n}がx1+⋯+xn=npx_{1}+\cdots+x_{n}=npを満たすならば

f(x1)+⋯+f(xn)≥nf(p)f(x_{1})+\cdots+f(x_{n})\ge nf(p)

が成り立つ。等号が成り立つのは、すべてのiiについてf(xi)=f(p)+m(xi−p)f(x_{i})=f(p)+m(x_{i}-p)が成り立つ場合に限る。

証明. 各iiについてf(xi)≥f(p)+m(xi−p)f(x_{i})\ge f(p)+m(x_{i}-p)が成り立つので、iiについて加えると

∑i=1nf(xi)≥nf(p)+m(∑i=1nxi−np)=nf(p)\sum_{i=1}^{n}f(x_{i})\ge nf(p)+m\left(\sum_{i=1}^{n}x_{i}-np\right)=nf(p)

である。最後の等式は∑ixi=np\sum_{i}x_{i}=npから従う。

等号について考える。di=f(xi)−f(p)−m(xi−p)d_{i}=f(x_{i})-f(p)-m(x_{i}-p)とおくと、仮定からdi≥0d_{i}\ge0であり、上の計算は∑if(xi)−nf(p)=∑idi\sum_{i}f(x_{i})-nf(p)=\sum_{i}d_{i}を与える。00以上の数の和が00になるのは、すべての項が00の場合に限る。▨

この定理はffが下に凸であることを仮定していません。仮定しているのは、点ppにおいてグラフの下に来る直線が一本あることだけです。この直線を支持直線といいます。

傾きmmは、次の順序で探します。まず、等号を成り立たせたい点ppを決めます。多くの問題では、制約条件のもとで変数がすべて等しくなる点です。次に、f(x)−f(p)f(x)-f(p)が因数x−px-pを持つように変形し、残った因子のx=px=pにおける値をmmと取ります。ffが下に凸である場合には、定理 2.1によりppより左側の弦の傾きはすべて右側の弦の傾き以下なので、mmはその間の値になります。

例 4.2 (下に凸でない関数への適用). 正の実数a,b,ca,b,cがa+b+c=3a+b+c=3を満たすとき

1a2+1+1b2+1+1c2+1≥32\frac{1}{a^{2}+1}+\frac{1}{b^{2}+1}+\frac{1}{c^{2}+1}\ge\frac32

が成り立ち、等号はa=b=c=1a=b=c=1の場合に限る。

f(t)=1t2+1f(t)=\dfrac{1}{t^{2}+1}とおき、区間を(0,∞)(0,\infty)とします。制約a+b+c=3a+b+c=3のもとで三つの変数が等しくなる点はt=1t=1なので、p=1p=1と取ります。f(1)=12f(1)=\dfrac12です。傾きを決めるためにf(t)−12f(t)-\dfrac12を変形すると

f(t)−12=2−(t2+1)2(t2+1)=1−t22(t2+1)=(t−1)⋅−(t+1)2(t2+1)f(t)-\frac12=\frac{2-(t^{2}+1)}{2(t^{2}+1)}=\frac{1-t^{2}}{2(t^{2}+1)}=(t-1)\cdot\frac{-(t+1)}{2(t^{2}+1)}

となり、残った因子のt=1t=1における値は−12-\dfrac12です。そこでm=−12m=-\dfrac12と取ります。

証明. すべてのt>0t>0について

f(t)−12+12(t−1)=(t−1)(−(t+1)2(t2+1)+12)=(t−1)⋅t2−t2(t2+1)=t(t−1)22(t2+1)≥0f(t)-\frac12+\frac12(t-1)=(t-1)\left(\frac{-(t+1)}{2(t^{2}+1)}+\frac12\right) =(t-1)\cdot\frac{t^{2}-t}{2(t^{2}+1)}=\frac{t(t-1)^{2}}{2(t^{2}+1)}\ge0

が成り立つ。よって

f(t)≥12−12(t−1)(t>0)f(t)\ge\frac12-\frac12(t-1)\qquad(t>0)

であり、等号はt=1t=1の場合に限る。a+b+c=3a+b+c=3なので、定理 4.1をp=1p=1、m=−12m=-\dfrac12、n=3n=3として適用すると

f(a)+f(b)+f(c)≥3f(1)=32f(a)+f(b)+f(c)\ge3f(1)=\frac32

を得る。等号はa=b=c=1a=b=c=1の場合に限る。▨

注意 4.3 (この関数は下に凸ではないこと). 上のf(t)=1t2+1f(t)=\dfrac{1}{t^{2}+1}は(0,∞)(0,\infty)上で下に凸ではない。三点a=14a=\dfrac14、b=12b=\dfrac12、c=1c=1について弦の傾きを比べると

f(b)−f(a)b−a=−4885,f(c)−f(b)c−b=−35=−5185\frac{f(b)-f(a)}{b-a}=-\frac{48}{85},\qquad \frac{f(c)-f(b)}{c-b}=-\frac{3}{5}=-\frac{51}{85}

であり、定理 2.1の条件−4885≤−5185-\dfrac{48}{85}\le-\dfrac{51}{85}は成り立たない。それでも支持直線による評価を使うことができるのは、この評価が凸性ではなく、点ppにおける一本の直線との上下関係だけを用いるからである。

5 べき平均の不等式

相加平均、相乗平均、調和平均、二乗平均は、いずれも次の形の平均の特別な場合です。

定義 5.1 (べき平均).x1,…,xnx_{1},\dots,x_{n}を正の実数とする。00でない有理数rrに対して

Mr=(x1r+⋯+xnrn)1/rM_{r}=\left(\frac{x_{1}^{r}+\cdots+x_{n}^{r}}{n}\right)^{1/r}

と定め、r=0r=0に対してはM0=x1x2⋯xnnM_{0}=\sqrt[n]{x_{1}x_{2}\cdots x_{n}}と定める。これらを べき平均 という。

M1M_{1}は相加平均、M0M_{0}は相乗平均、M−1M_{-1}は調和平均、M2M_{2}は二乗平均です。べき平均の不等式は、これらが指数の順に並ぶことを述べます。証明の道具として、まず相加平均と相乗平均の関係を、重みが等しくない場合へ広げます。

定理 5.2 (有理数の重みに対する相加平均と相乗平均の関係).a1,…,ama_{1},\dots,a_{m}を正の実数とし、w1,…,wmw_{1},\dots,w_{m}をw1+⋯+wm=1w_{1}+\cdots+w_{m}=1を満たす正の有理数とする。このとき

a1w1a2w2⋯amwm≤w1a1+w2a2+⋯+wmama_{1}^{w_{1}}a_{2}^{w_{2}}\cdots a_{m}^{w_{m}}\le w_{1}a_{1}+w_{2}a_{2}+\cdots+w_{m}a_{m}

が成り立ち、等号はa1=⋯=ama_{1}=\cdots=a_{m}の場合に限る。

証明.wiw_{i}の分母の公倍数をNNと取り、wi=kiNw_{i}=\dfrac{k_{i}}{N}(kik_{i}は正の整数)と書く。k1+⋯+km=Nk_{1}+\cdots+k_{m}=Nである。aia_{i}をkik_{i}個ずつ並べたNN個の正の実数へ、不等式の発展的手法 が証明したNN変数の相加平均と相乗平均の関係を適用すると

k1a1+⋯+kmamN≥a1k1⋯amkmN\frac{k_{1}a_{1}+\cdots+k_{m}a_{m}}{N}\ge\sqrt[N]{a_{1}^{k_{1}}\cdots a_{m}^{k_{m}}}

が成り立つ。左辺は∑iwiai\sum_{i}w_{i}a_{i}であり、右辺は∏iaiki/N=∏iaiwi\prod_{i}a_{i}^{k_{i}/N}=\prod_{i}a_{i}^{w_{i}}である。等号はNN個の数がすべて等しい場合に限り、それはa1=⋯=ama_{1}=\cdots=a_{m}と同値である。▨

次に、べき乗関数が下に凸であることを示します。ここでも二階導関数を用いず、いま示した重みつきの関係から支持直線を作り、支持直線から凸性を導きます。

定理 5.3 (べき乗関数の支持直線と凸性).β\betaを11より大きい有理数とし、f(x)=xβf(x)=x^{\beta}を区間(0,∞)(0,\infty)上で考える。このとき、(0,∞)(0,\infty)のどの点ppについても、すべてのx>0x>0で

xβ≥pβ+βpβ−1(x−p)x^{\beta}\ge p^{\beta}+\beta p^{\beta-1}(x-p)

が成り立ち、等号はx=px=pの場合に限る。とくにffは(0,∞)(0,\infty)上で狭義に下に凸である。

証明. 第1段:p=1p=1の場合。u>0u>0とする。β>1\beta>1なので1β\dfrac1\betaと1−1β1-\dfrac1\betaはいずれも正の有理数であり、和は11である。二つの正の実数uβu^{\beta}と11へ定理 5.2を適用すると

(uβ)1/β⋅11−1/β≤1βuβ+(1−1β),すなわちu≤uββ+1−1β\bigl(u^{\beta}\bigr)^{1/\beta}\cdot1^{1-1/\beta}\le\frac{1}{\beta}u^{\beta}+\left(1-\frac1\beta\right), \qquad\text{すなわち}\qquad u\le\frac{u^{\beta}}{\beta}+1-\frac1\beta

である。両辺へ正の数β\betaを掛けて整理すると

uβ≥1+β(u−1)u^{\beta}\ge1+\beta(u-1)

を得る。等号はuβ=1u^{\beta}=1、すなわちu=1u=1の場合に限る。

第2段:一般のpp。u=xpu=\dfrac{x}{p}とおいて第1段の不等式の両辺へ正の数pβp^{\beta}を掛けると

xβ≥pβ+βpβ−1(x−p)x^{\beta}\ge p^{\beta}+\beta p^{\beta-1}(x-p)

となり、等号はx=px=pの場合に限る。

第3段:凸性。(0,∞)(0,\infty)の相異なる二点a,ba,bと0<t<10<t<1を取り、x0=ta+(1−t)bx_{0}=ta+(1-t)b、m=βx0β−1m=\beta x_{0}^{\beta-1}とおく。x0x_{0}はaaとbbの間にあるのでa≠x0a\ne x_{0}かつb≠x0b\ne x_{0}であり、p=x0p=x_{0}とした第2段の不等式はaaとbbに対して狭義に成り立つ。よって

tf(a)+(1−t)f(b)>t(f(x0)+m(a−x0))+(1−t)(f(x0)+m(b−x0))=f(x0)tf(a)+(1-t)f(b)>t\bigl(f(x_{0})+m(a-x_{0})\bigr)+(1-t)\bigl(f(x_{0})+m(b-x_{0})\bigr)=f(x_{0})

である。最後の等式はta+(1−t)b=x0ta+(1-t)b=x_{0}から従う。したがってffは狭義に下に凸である。▨

定理 5.4 (べき平均の不等式).x1,…,xnx_{1},\dots,x_{n}を正の実数とし、r<sr<sを有理数とする。このとき

Mr≤MsM_{r}\le M_{s}

が成り立ち、等号はx1=⋯=xnx_{1}=\cdots=x_{n}の場合に限る。

証明.xix_{i}を固定し、指数を明示するためにMr(x)M_{r}(x)と書く。

第1段:0<r<s0<r<sの場合。β=sr\beta=\dfrac{s}{r}は11より大きい有理数なので、定理 5.3によりxβx^{\beta}は(0,∞)(0,\infty)上で狭義に下に凸である。yi=xir>0y_{i}=x_{i}^{r}>0と重みwi=1nw_{i}=\dfrac1nに対して定理 3.1を適用すると

(y1+⋯+ynn)β≤y1β+⋯+ynβn,すなわち(∑ixirn)s/r≤∑ixisn\left(\frac{y_{1}+\cdots+y_{n}}{n}\right)^{\beta}\le\frac{y_{1}^{\beta}+\cdots+y_{n}^{\beta}}{n}, \qquad\text{すなわち}\qquad \left(\frac{\sum_{i}x_{i}^{r}}{n}\right)^{s/r}\le\frac{\sum_{i}x_{i}^{s}}{n}

である。両辺は正であり、s>0s>0なので1s\dfrac1s乗を取っても不等号の向きは変わらない。よってMr(x)≤Ms(x)M_{r}(x)\le M_{s}(x)である。等号はy1=⋯=yny_{1}=\cdots=y_{n}の場合に限り、それはx1=⋯=xnx_{1}=\cdots=x_{n}と同値である。

第2段:r=0<sr=0<sの場合。ai=xisa_{i}=x_{i}^{s}、wi=1nw_{i}=\dfrac1nとして定理 5.2を適用すると

∏i=1n(xis)1/n≤1n∑i=1nxis=Ms(x)s\prod_{i=1}^{n}\bigl(x_{i}^{s}\bigr)^{1/n}\le\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}x_{i}^{s}=M_{s}(x)^{s}

である。左辺は(∏ixi)s/n=M0(x)s\left(\prod_{i}x_{i}\right)^{s/n}=M_{0}(x)^{s}なので、M0(x)s≤Ms(x)sM_{0}(x)^{s}\le M_{s}(x)^{s}が成り立つ。両辺は正でs>0s>0なのでM0(x)≤Ms(x)M_{0}(x)\le M_{s}(x)である。等号はxisx_{i}^{s}がすべて等しい場合、すなわちx1=⋯=xnx_{1}=\cdots=x_{n}の場合に限る。

第3段:残りの場合。yi=1xiy_{i}=\dfrac{1}{x_{i}}とおくと、00でない有理数ρ\rhoについて

Mρ(y)=(1n∑ixi−ρ)1/ρ=1M−ρ(x)M_{\rho}(y)=\left(\frac{1}{n}\sum_{i}x_{i}^{-\rho}\right)^{1/\rho}=\frac{1}{M_{-\rho}(x)}

が成り立ち、M0(y)=1M0(x)M_{0}(y)=\dfrac{1}{M_{0}(x)}も成り立つ。

r<s≤0r<s\le0とすると0≤−s<−r0\le-s<-rなので、第1段または第2段をyyへ適用してM−s(y)≤M−r(y)M_{-s}(y)\le M_{-r}(y)、すなわち1Ms(x)≤1Mr(x)\dfrac{1}{M_{s}(x)}\le\dfrac{1}{M_{r}(x)}を得る。両辺は正なのでMr(x)≤Ms(x)M_{r}(x)\le M_{s}(x)である。

r<0<sr<0<sの場合は、いま示したことからMr(x)≤M0(x)M_{r}(x)\le M_{0}(x)であり、第2段からM0(x)≤Ms(x)M_{0}(x)\le M_{s}(x)なので、二つをつないでMr(x)≤Ms(x)M_{r}(x)\le M_{s}(x)を得る。

いずれの場合も、等号は第1段または第2段の等号に帰着し、x1=⋯=xnx_{1}=\cdots=x_{n}の場合に限る。▨

特別な場合として、調和平均、相乗平均、相加平均、二乗平均について

M−1≤M0≤M1≤M2M_{-1}\le M_{0}\le M_{1}\le M_{2}

が成り立ち、いずれの等号もx1=⋯=xnx_{1}=\cdots=x_{n}の場合に限ります。

注意 5.5 (指数を実数へ広げる場合).定理 5.4の証明は、rrとssが有理数であることを二か所で用いている。第1段でβ=s/r\beta=s/rが有理数であること、および定理 5.2の重みが有理数であることである。指数を実数まで広げた同じ主張も成り立つが、その証明には、有理数の指数について得た不等式を実数の指数へ延ばす操作が必要であり、本記事では扱わない。

7 演習

  1. f(x)=x2f(x)=x^{2}がR\mathbb{R}全体で狭義に下に凸であることを、定理 2.1によって示せ。
  2. 正の実数a,b,ca,b,cがa+b+c=1a+b+c=1を満たすときa1+a+b1+b+c1+c≤34\dfrac{a}{1+a}+\dfrac{b}{1+b}+\dfrac{c}{1+c}\le\dfrac34が成り立つことを示し、等号が成り立つ条件を述べよ。t1+t=1−11+t\dfrac{t}{1+t}=1-\dfrac{1}{1+t}と書き直し、例 2.2をx=1+tx=1+tについて用いると、11+t\dfrac{1}{1+t}がt>0t>0で狭義に下に凸であること、したがってt1+t\dfrac{t}{1+t}が上に凸であることが従う。
  3. 正の実数a,b,ca,b,cがa+b+c=3a+b+c=3を満たすときa2+b2+c2≥3a^{2}+b^{2}+c^{2}\ge3が成り立つことを、p=1p=1における支持直線を求めて示せ。
  4. 定理 5.4のM−1≤M1M_{-1}\le M_{1}をn=3n=3の場合に書き下し、等号が成り立つ条件を述べよ。
  5. 例 4.2で用いた不等式f(t)≥12−12(t−1)f(t)\ge\dfrac12-\dfrac12(t-1)が、ttの動く範囲を負の数まで広げると成り立たないことを、t=−1t=-1で確かめよ。

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